この武闘派魔法使いに祝福を!   作:アスランLS

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この作品のお気に入り数が、早くも『バカとテストとスポンサー』を越えました。
多くの人に支持されて喜ばしい反面、割と適当に書いている方が評価されて少し複雑ですね……世の中そんなもんなんでしょうが。

……というか昨日と今日だけで200ぐらい増えたんですけど、いったい何事!?


パーティー結成!⑥

【sideカズマ】

 

「それじゃダクネス。手持ちも無くなっちゃったし、悪いけど臨時で稼ぎのいいダンジョン探索に参加してくるから、またね!」

 しばらく無言で顔を伏せて震えていたクリスだったが、今はすっかり立ち直って冒険仲間募集の掲示板に向かった。どうやら見た目以上に芯の強い子らしい。

……? クリスはパーティー組んでくれる人達を探しに行ったのに、ダクネスは自然と俺達のテーブルに座ったままだな。

「えっと、ダクネスは行かないのか?」

「……うむ。私はどこにでも有り余っている前衛職だからな。でも盗賊はダンジョン探索に必須な割に、地味だから成り手のあまり多くない職業だ。クリスの需要なら幾らでもある」

 なるほど、職業によって需要に差とかもあるんだな。

 ダクネスの言う通りすぐに臨時パーティが見つかり、数名の冒険者達と連れ立って入り口から出て行くクリス。

クリスは、出掛けにこちらに向かってひらひらと手を振って出て行った。

「もうすぐ夕方になりそうな時間帯なのに、クリス達はこれからダンジョン探索に向かうのか?」

「ダンジョンの探索は出来ることなら、朝一で突入するのが望ましいのです」

「日が暮れてくるとアンデットが活発化して面倒だからなー」

「ああやって前の日にダンジョンに出発して、朝までダンジョン前でキャンプするのです。ダンジョン前には、そういった冒険者を相手にしている商売すら成り立っていますしね」

「そうそう、足下見た価格でも結構良い売り上げになるんだよなー」

 紅魔族チビッ子コンビの説明に、俺はなるほどと頷いた。

「……それでカズマは、無事にスキルを覚えられたのですか?」

 めぐみんのその言葉に、俺はにやりと不敵に笑った。ちょうどいい、俺の新たな力を披露してやるとするか。

「ふふ、まあ見てろよ? 行くぜ、『スティール』っ!」

「ちょっ、おま-」

 俺は叫びながらめぐみんに右手を突き出すと、その手にはしっかりと黒い布が握られていた。

 

 ……またぱんつかよ!?

 

「……なんですか? レベルが上がってステータスが上がったから、冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか? ……あの、スースーするのでぱんつ返してください……」

「カズマ、アンタ……」

「オメーも学習しねーなー……」

「あ、あれっ!? お、おかしーな、こんなはずじゃ……。ランダムで何かを奪い取るってスキルのはずなのにっ!」

 慌ててめぐみんにぱんつを返し、みんちゃすによって鎮静化していた女性陣の視線がふたたび冷たい物になっていく中、ダクネスがテーブルをバンと叩いて立ち上がり、何故か爛々と目を輝かせて俺の前に立ち塞がった。

「こんな幼気(おさなげ)な少女の下着を、公衆の面前で剥ぎ取るなんて! 真の鬼畜だ、許せない! …………っ、是非とも……! 是非とも私を、このパーティーに入れて欲しい!」

「いらない」 

「帰れ」

「んんっ……!? 即断……っ!」

 俺とみんちゃすの即答に、ダクネスが頬を赤らめてブルッと身を震わせた。どうしよう、この女騎士も間違いなくダメなタイプだ。

 と、そんなダクネスにアクアとめぐみんが興味を持ったのか、

「ねえこの人だれ? 昨日言ってた、私とめぐみんがお風呂に言ってる間に面接に来たって人?」

「ちょっと、この方クルセイダーではないですか。断る理由なんて……ははーん、なるほど。カズマはともかく、みんちゃすはそういうことですか」

「あー? なんだよめぐみん? ムカつく顔しやがって、また大般若鬼哭爪を味わいてーのか?」

「味わいたくありませんよ、どんだけ喧嘩っ早いのですか!? ……この人、あなたのお母さんに随分と似ていますねぇ? だから色々と気まずいんでしょう?」

「……んー、まあそれもあるなー。これで戦闘力までそっくりだったら、俺だって大歓迎なんだけどよー……」

「いやそれは無茶振りでしょう……あんな人がゴロゴロいたら魔王軍なんて蔓延ってませんよ」

「いや俺だって、それは流石に高望みだってわかってるんだけどよー……」

 ダクネスを見ながら駄女神と爆裂狂が勝手な事を言ってくる。せっかく昨日は断ったのに……この二人には絶対に会わせたくなかったんだが……。

 みんちゃすも何か事情があるらしく、珍しく歯切れが悪いし……

 

 ……こうなったらビビらせて引き下がらせるか。

 

「……実はなダクネス。俺とアクアはこう見えて、ガチで魔王を倒したいと考えている」

「ふーん……駆け出し冒険者の内から目標が魔王討伐とは、大きく出たなー」

 天界に帰りたいアクアはともかく、この世界の世知辛さを痛感した今の俺には、もうそんな気はあまり無いのだが。そういうベリーハードなルートは、みんちゃすのようなチートキャラがいずれクリアしてくれるだろう。

 みんちゃすが興味深そうな、めぐみんがそんなこと聞いてないと言わんばかりの顔をしているが……この際好都合かもしれない。

「丁度いい機会だ、めぐみんとみんちゃすも聞いてくれ。俺とアクアは、どうあっても魔王を倒したい。しかし魔王打倒を目指すからには、俺たちの冒険は過酷な物になることに違いない! 魔王討伐を期待されてるらしいみんちゃすはともかくダクネス、女騎士のお前なんて魔王に捕まったりなんかしたら、それはもうとんでもなく酷い目に遭わされるぞ!」

「あ、バカ-」

「ああ、全くその通りだ! 昔から、魔王にエロい目に遭わされるのは女騎士の仕事と相場は決まっているからな! それだけでも行く価値がある!」

 みんちゃすの声を遮って、ダクネスは大きな声でそんなことを…………え? 

「えっ!? ……あれっ!?」

「えっ? ……なんだ? 私は何か、おかしなことを言ったか?」

「おおよその魂胆は読めたが、こいつの残念さを忘れてんじゃねーよこのバカズマ……」

 …………しくじった。みんちゃすの非難するような視線と容赦ない叱責が心にクる。定着しそうだからバカズマはやめてくれ。

 と、とりあえずこっちは後回しだ。

「めぐみんも聞いてくれ。相手は魔王……この世で最強の存在に喧嘩を売ろうってんだよ、俺達は。そんなパーティに無理して残る必要は……」

「あ、もうダメだ」

 みんちゃすが肩を竦めると同時に、めぐみんが椅子を蹴って立ち上がり、バサッとマントを(ひるがえ)す。

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者! 分を弁えず勝手に最強を名乗る魔王など、我が爆裂魔法で消し飛ばしてやりましょう!」

 ……そういやこいつ中二病だったぁぁあああ!? 自信満々なドヤ顔やめろ腹立つ! 

 ……ん? 分を弁えず? 

「分を弁えずってどういうことだよ? 魔王なんだから最強じゃねぇの?」

「んな訳ねーだろ、魔王より強い奴なんて割といるぞ。母ちゃんは多分魔王よりずっと強いし、父ちゃんに至っては魔王なんて歯牙にもかけない異次元の強さからなー」

「どうなってんだよお前の家族は!? ……だいたいそんな強いなら、なんで魔王を討伐しにいかないんだよ?」

「母ちゃんは俺が生まれる前には既に冒険者稼業を引退した身だし、それに引退してからも何かと忙しいらしく、魔王討伐なんてしてる暇は無さそうだしなー。……父ちゃんは一回魔王城にカチコミかけた際、魔王に土下座で命乞いされて興が冷めたって言ってたな」

「マジでどうなってんだよお前の父ちゃん!?」

 どんな世紀末家系だ!? ……そんな人達の間に生まれたなら、あの理不尽な強さにも納得だが。

 まあそれはともかく……痛い子二人がむしろやる気になってしまっあ……。

「ねぇ、カズマさん……私、カズマの話聞いてたら何だか腰が引けてきたんですけど。何かこう、もっと楽して魔王討伐できる方法とか無い?」

こいつホントに天界に帰りたいと思ってんのか……?

「俺が目指すのは最強のみだから、ぶっちゃけ魔王なんて眼中に無かったけど……まあ魔王を名乗るからには今の俺よりも強いよなー……通過点にはもってこいだし、俺も力を貸してやるよ。……この面子だと、しばらくフォローとバックアップをメインにした方がいいけどなー」

 そんな中、間延びした能天気な声に反してやたらと頼りになるみんちゃす。流石の俺も最年少の子供にあまり負担をかけたくないが……ごめんね、ポンコツメンバーばかりで。

 

 と、その時。

 

『緊急クエスト! 緊急クエスト! 街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください! 繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』

 街中に大音量のアナウンスが響く。拡声器なんてこの世界にあるとは思えないし、魔法的な何かで声を大きくしてるのだろうか。

「おい、緊急クエストってなんだ? モンスターが街に襲撃に来たのか?」

 ちょっと不安気な俺とは対称的に、ダクネスとめぐみんはどことなくウキウキしている。一方みんちゃすはあまり興味なさそうだが。

 ダクネスが嬉々として言ってきた。

「……ん、多分キャベツの収穫だろう。もうそろそろ収穫の時期だしな」

 

 …………今なんて? 

 

「は? キャベツ? その、キャベツって名前のモンスターかなんか?」

 俺が呆然とそんな感想を告げると、何故かめぐみんとみんちゃすとダクネスが、可哀想な人でも見るかのような目で俺を見つめてきた。

「箱入り娘かオメーは。世間知らずにも程があるだろうよー……」

「キャベツとは、緑色の丸いやつです。食べられる物です」

「噛むとシャキシャキする歯ごたえの、美味しい野菜の事だ」

「そんな事は知ってるわ! じゃあ何か? 緊急クエストだの騒いで、冒険者に農家の手伝いさせようってのか、このギルドの連中は?」

 最近まで土木工事やってた俺が言うのもなんだが、俺はこの世界に農業しに転生した訳じゃない。

「あー……。カズマは知らないんでしょうけどね? ええっと、この世界のキャベツは…………」

 アクアが何だか申し訳無さそうに俺に言いかけ、それを遮る様にギルドの職員が施設内に居る冒険者に向かって大声で説明を始めた。

「皆さん、突然のお呼び出しすいません! もうすでに気付いている方もいるとは思いますが……キャベツです! 今年もキャベツの収穫時期がやってまいりました! 今年のキャベツは出来が良く、1玉につき1万エリスです! すでに街中の住民は家に避難して頂いております。では皆さん、できるだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに収めてください! くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をしない様お願い致します! なお人数が人数、額が額なので、報酬の支払いは後日まとめてとなります!」

 

 …………ハァ!?

 

 俺が内心で絶叫する中、冒険者ギルドの外で歓声が巻き起こる。そして街中を悠々と飛び回る緑色の物体の数々。

 呆然とその訳の分からない光景に立ち尽くしていると、いつの間にか隣に来ていたアクアが呟く。

「この世界のキャベツは飛ぶわ。味が濃縮してきて収穫の時期が近づくと、簡単に食われてたまるかとばかりに。街や草原を疾走する彼らは大陸を渡り海を越え、最後には人知れぬ秘境の奥で誰にも食べられず、ひっそりと息を引き取ると言われているわ。それならば、私達は彼らを一玉でも多く捕まえておいしく食べてあげようって事よ」

「……俺、もう馬小屋に帰って寝ててもいいかな」

「気持ちはわからんでもねーが、駆け出し冒険者にとっちゃ確実に儲かる美味しいクエストだぞ? 俺は今さら小銭稼いでもしゃーねーが……出来が良いっつってたし、お土産とかにもちょうど良さそうだな。適度に狩っとくかー」

 呆然と呟く俺を捨て置き、みんちゃすもスタスタと勇敢な冒険者達に混ざっていった。

 

 

 ……もう日本に帰りたい。

 


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