【sideみんちゃす】
「みんちゃす! 怒る気持ちはわかるが、今はベルディアの相手に集中してくれ!」
後ろからカズマがそんなことを言って釘を刺してくる。
「言われんでもわかってるっつーの……」
メインディッシュの前にあのボンクラ共を景気良く血祭りに上げてやりたい気持ちは山々だが、流石にそんなことをしている場合でないことぐらい理解している。
あいつらを私刑にかけるのは日を改めるとして、俺は『ちゅーれんぽーと』を構えベルディアとの距離を-
「待ってくれみんちゃす。ここは私に任せてくれないか?」
「……あー?」
詰めようとした俺を大剣を構えたララティーナが引き止める。……こいつさっきのを見てなかったのか? 。
「何度も同じこと言わせんなよ……思い上がってんじゃねーよ。オメーごときがどうこうできる相手だとでも-」
「…………頼む……!」
俺の言葉を遮り、頭を下げるララティーナ。……大方あの冒険者達をみすみす死なせてしまったことに、騎士であろうとするこいつは責任でも感じてるのだろう。
ホント志だけはいっちょ前だなコイツは……ったく、仕方ねーな。
「……見るに耐えないほど無様を晒しやがったら、俺はすぐに割り込むからな」
「……恩に着る」
『ちゅーれんぽーと』を納刀してカズマ達の所まで下がると、ララティーナはベルディアの前に立ち塞がった。
ベルディアは、アクアやめぐみんの予想外の力を目の当たりにし、恐らくララティーナにも何かあると警戒しているようで、二人は対峙したまま動かなくなった。
「よーしカズマ、アイツが時間を稼いでいる内に、あいつを倒す手順を簡潔に説明していくぞー」
「お、おい大丈夫なのかアイツ!?」
「そうですよ! さっきベルディアは鎧ごと冒険者を斬り裂いたのですよ!? いくらダクネスが硬いとはいえ……!」
めぐみんとカズマの不安気な様子を察したのか、ララティーナが振り向くことなく自信ありげに言い放つ。
「安心しろ皆。私は頑丈さではみんちゃすにも負けん。それにスキルは所持している武器や鎧にも効果があるんだ。ベルディアの剣は確かに良い物だろうが、それだけで金属鎧が紙を裂く様に斬れる訳が無いだろう?」
……え? 多分母ちゃんなら造作もなくできるぞ? しかもその辺で売ってる二束三文の武器で。
「先ほど斬られた冒険者を見る限り、ベルディアは強力な攻撃スキル持ちだ。私の防御スキルとどちらが上か、確かめてやる」
いやそれオメーに勝ち目
カズマも同じ考えだってようで、呆れたような声で苦言を呈する。
「止めとけよ。あいつ、攻撃だけじゃなく回避も凄かっただろ。あれだけの冒険者が斬りかかっても当たらなかったものを、不器用なお前が当てられる訳がないだろ」
カズマの言葉にララティーナは、じっとベルディアと対峙したまま。
「……聖騎士として、守る事を生業とする者として、どうしても譲れない物がある。やらせて欲しい」
……ふーん。まだ満点には程遠いが、騎士として及第点レベルだと認めてやっても良いかもな。
俺がそんなことを考えていると、ようやくララティーナが大剣を正眼に構え、ベルディアに向けて駆け出した。
「ほう、来るのか! ……相手が聖騎士とは、是非も無し!」
ベルディアもそれを迎え撃つ。
ララティーナが両手で握る大剣を警戒したのか、ベルディアは身を低く落とし回避の構えをとる。
そのベルディアに、ララティーナは全身ごと飛び込むようにその大剣を……
……ベルディアの足先数センチほど前の地面に叩きつけた。
「…………ファッ?」
ベルディアが、気の抜けた声を上げる。
そのまま呆然とララティーナを見ているが、他の冒険者達も「え?」という呟きが聞こえてきそうな表情でララティーナを眺めている。
……まあそうだよな。普段まるでできてねーことが、ここ一番で出来るようになるなんて都合が良い展開、そうそうあるわけねーよな。
つーかもう割り込んでもいいかな? 十分すぎるくらい無様な光景だけど割り込んでいいかな?
的を外したララティーナは諦めず一歩前への踏み出し、今度は大剣を横に払う。……堂々と格好つけておいて外したのは流石にアレだったのか、顔を真っ赤に染めながら。
今度はちゃんと当たる角度だったが大振り過ぎて軌道がバレバレ。ベルディアが身を更に低くし軽々と避けた。
「……なんたる期待外れだ。もういい」
ベルディアがつまらない者を相手にしたとでも言いたげな口調で、ララティーナの体を無造作に袈裟斬りした。
……ガッカリしてるようだが、そいつの本領を見くびったな。
「……さて、次こそは赤碧……の……、……は?」
確実に討ち取ったという自信があったのだろうが、その一太刀は金属を引っかく様な鈍い音を立て、鎧の表面を派手に引っ掻いただけに留まった。
「ああっ!? わ、私の新調した鎧がっ!?」
ララティーナは一旦ベルディアから距離を取ると、新品の鎧に出来た大きな傷を悲しげに見つめた後、親の仇を見る目でベルディアを睨みつける。
……しかし本当に硬いなアイツ。まだレベル一桁のくせに、俺どころかラムダよりも頑丈じゃねーか?
「な、何だ貴様は……? 俺の全力の剣を受けて、なぜ斬れない……!? その鎧が相当な業物なのか? ……いや、それにしても……。『赤碧の魔闘士』の無茶苦茶さは知っていたが、先ほどのアークプリーストといい、爆裂魔法を放つアークウィザードといい、お前らは……」
ベルディアが何やらブツブツ言っている間に、俺はカズマに作戦を伝える。
やがて全て伝え終えると俺は再び『ちゅーれんぽーと』を抜刀し、ベルディアのもとへと向かう。
「まだ耐えるか! 防御ならば『赤碧の魔闘士』にも負けないという自信、虚勢やハッタリではなかったようだな!」
ララティーナの硬さに興味を持ち、幾度となく斬撃を浴びせ続けていたベルディアの大剣を、俺は『ちゅーれんぽーと』で受け止めて割り込む。
「ぬぅっ……『赤碧の魔闘士』か……!」
「ここまでよく持ちこたえたな。あとは俺達に任せて下がってろ!」
「そういう訳にはいかん! クルセイダーは、背に誰かを庇っている状況では下がれない!」
ボロボロになりつつ(とは言っても重傷には程遠いが)も、ララティーナは断固として食い下がる。
相変わらず頭も堅いなこいつはー……。ベルディアの剣をどうにか受け止めつつ、俺がどうやって引き下がらせようか思案していると、
「それにだみんちゃすっ! ……こ、このデュラハンはやり手だぞっ! こやつ、先ほどから私の鎧を少しずつ削り取り……! 全裸に剥くのではなく中途半端に一部だけ鎧を残し、私をこの公衆の面前で、裸より扇情的な姿にして辱めようと……っ!」
「……ファっ!?」
…………あ‘’?
ララティーナのどうしようもない言葉に、手を止めドン引きするベルディア。
俺はその隙に後ろを向きいてララティーナの腹の辺りに手を置き、
「悪鬼羅刹掌!」
「っ!?」
そのまま掌底を押し込んだ。
悪鬼羅刹掌は衝撃を内部に送り込み浸透させる。オメーがどれだけ硬かろうがな、人体には鍛えようが無い部位があるんだよ。
「さっきまでの俺の感心を返せバカヤロー! 夜叉乾坤一擲!」
そして俺はダクネスを力任せに遠くにぶん投げる。……ちらりと見えた横顔が恍惚に染まっていたのは気のせいだと思いたい。
「……アレは無かったことにするぞ」
「う、うむ……。気を取り直して……行くぞ! 『赤碧の魔闘士』よ!」
そう言ってベルディアは怒濤の剣撃を繰り出してくるが
……ふむ、やはり思った通りだ。
「ば、バカな!? 俺の攻撃が、全ていなしているだと!?」
「あの変態ほど極端じゃねーが、どうやらテメーも似たタイプの剣士みてーだな」
「な、なんだと……!?」
「強靭な肉体に任せた剛の剣。確かにシンプルで強力だが、この手の剣士は大抵、振るう剣に柔軟さがまるで
何度も攻撃を喰らって覚えたり遠目で観察したりと苦労した甲斐あって、こいつの太刀筋はほぼ読みきった。俺の剣はリュウガや親分、母ちゃんに比べたらまだまだ粗いんだろうが、こんな力任せの直線的過ぎる剣に遅れを取るわけにはいかねーんだよ……俺がいったい誰に剣を教わったと思ってやがる!
「ぬ、ぐぅっ……! 以前も言ったような気がするが貴様本当にアークウィザードか!? さっきから格闘だの剣だの……たまには真っ当に魔法で戦ったらどうだ!」
「そもそも真っ当なアークウィザードじゃねーんだよ悪かったな! 虎狼輪廻流、並びに『フレイム・ウエポン』!」
「ぬぅっ、またそれか……!?」
円の動きでベルディアの剣を受け流して隙を作り、間髪入れずに『ちゅーれんぽーと』に業火を纏わせ、
「火焔竜演舞!」
「ぐぁぁぁああああぁぁあああっ!!」
ベルディアの体に怒濤の斬撃を浴びせた。
射程は短いが斬撃として飛ばすよりも、直接斬りつけた方が当然破壊力は上だ。
ベルディアが大きく仰け反ったのを確認すると、俺は作戦通り横に避難する。……ありえねーほど打たれ強いこいつを滅するには、とりあえず弱点をついて弱らせるねーとな。
「ぐっ……ふっ、ふははははは! よもや魔王様の加護を受けたこの鎧をここまで損傷させられるとは! だが足りない! あと一歩足りないぞ『赤碧の魔闘士』よ! 貴様の切り札を持ってしても、魔王軍最硬のこの俺を討つには至らな……おい貴様、何故そんな所まで移動している?」
「んなもん巻き添え喰らいたくねーからだよ…………オメーら今だ、やれぇぇえええ!」
「「「『クリエイト・ウォーター』!」」」
俺の言葉を合図に後方でスタンバイしていた魔法使い達が、ベルディアに向けて一斉に水を放った。
【sideカズマ】
「『クリエイト・ウォーター』! 『クリエイト・ウォーター』! 『クリエイト・ウォーター』ッッッッ!」
「くぬっ! おおっ? っとっ!」
俺を筆頭にそこかしこの魔法使い達が、ベルディアに向かって水属性魔法を唱える。
ベルディアをが必死に避ける様から、『奴の弱点はおそらく、アンデッドの例に漏れず水だろう』というみんちゃすの言い分は正しかったらしい。
しかし……くそっ、全然攻撃が当たらない! 他の魔法使い達にも焦りが見え始める。
「ねえ、一体なんの騒ぎなの? なんで魔王の幹部と水遊びなんてやってるの? バカなの?」
こいつシバき回してやろうか。
必死で水魔法を唱える俺に、ベルディアに倒された冒険者達の体を何やらペタペタ触っていたアクアが、トコトコとこちらに歩きながら能天気に言ってきた。
「水だよ水! あいつは水が弱点なんだよ! お前、仮にも一応は水の女神なんだろうが! 水の一つも出せないのかよ!?」
「!? ……アンタそろそろ
「出せるならとっとと出せよ! 普段偉そうなくせに肝心なときはまるで役立たずの駄女神が!」
「役立たず!? 駄女神!? あんた見てなさいよ、女神の本気を見せてやるから!」
売り言葉に買い言葉。
俺の安い挑発にまんまと乗せられ、鼻息を荒くしながらアクアが一歩前に出た。……何やら霧のような物を漂わせながら。
…………え?
「この雑魚共め! 貴様らの出せる程度の水などこの俺には…………?」
ベルディアがふとアクアを見て動きを止める。流石は魔王軍幹部と言うべきか、何やらアクアから不穏な気配を感じ取ったのだろう。
というか周囲にいる魔法使い達も、やたらと不安気な様子でアクアを見ていた。
「……『サンダー・エッジ』」
みんちゃすはみんちゃすで、何やら右手から電撃らしきものを放出しだしていた。
アクアはそんな周囲の様子を気にも留めずぼそぼそと呟く。
「この世に在る我が眷属よ、水の女神アクアが命ず……」
アクアの周りに現れていた霧が、小さな水の玉になって辺りを漂う。その小さな水の玉一つ一つに、ギュッと魔力が凝縮されているのが感じ取れる。
…………もう嫌な予感しかしない。
めぐみんが爆裂させるときにも感じる、空気がビリビリと震える感覚……つまり爆裂魔法並にヤバそうな魔法が使われようとしているわけで……
その不穏な空気を気のせいではないと確信したベルディアは、躊躇する事も無く潔くアクアに背を向けて、素早く逃げようと……、
「逃がすかバカ。大般若鬼哭爪・雷轟」
「あばばばばば『赤碧の魔闘士』貴様ぁぁあああ!?」
したところを、みんちゃすの右手から伸びる雷の爪に捕縛されてしまった。
「まあ俺は逃げるけどな。『エア・ウォーク』」
「き、汚いぞ貴様!?」
「戦いに汚いもクソもあるかバカたれー」
みんちゃすが空に避難すると同時にアクアが両手を広げ、
「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!」
水を生み出す魔法を唱えた。
アクアの言った洪水クラスの水だって出せるというのは、どうやら本当だったらしい。
「ちょっ……! 、待っ…………!」
「ぎゃー! 水、水があああああー!」
ターゲットであるベルディアは勿論のこと、周囲にいた冒険者、離れていた俺やめぐみん、挙げ句の果てにアクア本人までもが……!
「あぶ……! ちょ、おぼ、溺れま……!」
「しっかり掴まってろめぐみん、流されるなよ!」
突如出現した大量の水に、いち早く空に逃れていたみんちゃす以外の全員が押し流された。そしてそのみんちゃすは自分が気絶させたダクネスを、溺れないように空へと回収していた。
激流は街の正門前に盛大な飛沫を上げ、そのまま街の中心部へと流れていく。
ようやく水が引いた頃には、地面にぐったりと倒れ込む冒険者達と……
「……なっ、何を考えているのだ貴様……。ば、馬鹿なのか? 大馬鹿なのか貴様は……!?」
同じくぐったりしていたベルディアが、得物の大剣を杖代わりに立ち上がった。
ベルディアの意見にはぜひとも同意したいところだが、今はそんな事を言っている場合でもない。
ベルディアがこちらへの意識を外している今が絶好のチャンスだ。そうとなればここはこっそりと-
「今がチャンスよ! この私の凄い活躍であいつが弱ってる、この絶好の機会に何とかなさいなカズマ! 早く行って。ほら、早く行って!」
こいつは後で公衆の面前で剥いてやろう。
そう心に決めると、俺はベルディアに片手を突き出した。
「スティールはレベル差があるから聞かないってみんちゃすに言われたが……弱った今のお前なら!」
「ほう、俺の武器でも奪おうというのか! 無駄だ、弱体化しようが駆け出し冒険者のスティールごとき、この俺には効かぬわ!」
俺と対峙したベルディアは再度自らの首を空高く投げ、両手で大剣を構えて精一杯の威厳を放つ。
流石は魔王軍の幹部。もう大分ダメージを与えた筈なのにこの気迫……こうして対峙するだけで足が震えてきそうになる。みんちゃすの奴、こんな化け物に真っ向から挑んでいたのかよ……。
そんな魔王の幹部に、
「『スティール』ッッッ!」
全魔力を込めたスティールを炸裂させた。硬くて冷たい手応えと共に、ずしりとした重さが両手に伝わる。
やったか? 、とフラグめいた事を考えてしまったのが良くなかったのか、
「「ああ…………」」
周囲の冒険者から落胆の声が上がった。
ベルディアを見ると、剣を両手で握り締めている。
や、やばいぃぃいいい!?
隙だらけの俺に向けて、ベルディアは凄まじい斬撃を……
…………放つ事は無く、そのままぽつんと突っ立っていた。
…………え?
何が起こったのか分からずその場の皆が静まり返っていると、困った様な怯えているような小さな声がした。
「あ、あの……。…………首、返してもらえ
ませんかね…………?」
俺の両手の間で、ベルディアの頭がぼそりと呟いた。
……………………ちゃーんす☆
「おいお前ら、サッカーしよーぜ! サッカーってのはなあああぃ! 足だけでボールを扱う遊びだよおおおおん!」
俺は冒険者達の前に、ベルディアの頭を蹴り込んだ。
「なあああああ! ちょ、おいっ、や、やめっ!?」
蹴られて転がるベルディアの頭は、今まで焦れて待っていた冒険者達の格好のオモチャにされた。
「足だけかあ……こうかな?」
「ひゃはははは! これおもしれー!」
「おい、こっちこっち! こっちにもパース」
「やめっ!? ちょ、いだだだ、やめえっ!?」
ベルディアの頭が蹴られまくっている中、体の方は片手に剣を握ったまま前が見えずにうろたえている。
するとようやく目が覚めたらしいダクネスが、みんちゃすに肩を支えながらこちらへと歩いてきた。
「おいダクネス。さんざん痛め付けられた礼に、お前も一太刀食らわせとけよ」
「そーだな。こいつの鎧も俺が散々ボコったから、あと強いの一発くらいぶつければで壊れるだろ。……流石これならオメーでも外さねーだろうしな」
みんちゃすがベルディアの大剣を剥ぎ取りダクネスに渡すと、ベルディアの体の前にゆらりと立つ。
その間に俺はアクアにちょいちょいと手招きすると、羽衣の裾を絞るのを中断しばたばたとこちらに駆けて来る。そんな中ダクネスが大剣を大きく振り上げ、
「これはっ! お前に殺された、私が世話になったあいつらの分だ! まとめて、受け取れえっ!!」
大剣を思い切り振り下ろした。
「ぐはあっ!?」
遠くで蹴り転がされているベルディアの頭が、人ごみの中から呻いた。
不器用ながらもみんちゃすの次に怪力のダクネスの一撃は、黒い鎧に引導を渡した。……ん? 腰の辺りに張り付いてるのは……黒い十字架のタトゥー? アンデッドなのになんでこんな宗教アイテムを……まあいいか。
「おし、これで魔王の加護とやらは無くなった。アクア、後は頼んだぞ」
「任されたわ!」
ご自慢の鎧は砕け、体は水浸しで大幅に弱体化。流石にこの状態で女神の浄化は耐えきれないだろう。
そう俺が内心で勝利を確信したその時……
「ぐぬううう……! 奴の施しなんぞには頼りたくなかったが、背に腹は変えられん! 『堕天結界・免罪のロザリオ』!」
遠くでベルディアがそう叫ぶと張り付いていた例の黒い十字架が光ったかと思えば、ベルディアの体の下に魔方陣が展開され、ベルディアの体を黒い光が包み込んだ。
「今さら悪あがきしても無駄よ! 『セイクリッド・ターンアンデッド』!」
それに構わずアクアは浄化魔法を唱えたが、ベルディアの体に届くことなく打ち消された。
「う、嘘!? 私の浄化魔法が……か、完全に打ち消された!?」
想定外過ぎる出来事にアクアが狼狽える中、ベルディアの頭は勝ち誇ったように笑いだした。
「フハハハハ! その結界術式は俺と同じ魔王軍幹部の一人、ドクター・ペルセウスが開発し、ここに来る前に無理矢理押し付けられたものでな……この結界の前では、いかなる強力な神聖魔法だろうと無力だ。……本音を言えばあの変質者の助けなど借りたくはなかったが、こうなってはやむを得ん……ともかく、これで貴様達に俺を倒す手段はもう-」
「ところがどっこい、まだ一つ残っているんだよ。……」
ベルディアの台詞を遮り、みんちゃすがベルディアの体に近づく。俺やめぐみんやアクアやダクネス、街の冒険者達、そしてベルディアの視線が向けられる中、みんちゃすは右手を大きく開いて上に突き出した。
「『スタン・ウエポン』」
右手の親指に、雷のエレメントが発生する。
「『ウォーター・ウエポン』、『フレイム・ウエポン』」
人差し指に水、中指に炎のエレメントが……。
「『エアロ・ウエポン』、『グランド・ウエポン』」
薬指に風、小指に土のエレメントが発生し、そしてみんちゃすがその右手を握り締め拳を作ると……
右拳は眩い光に包まれる。その輝きは種類こそ違えど、めぐみんの爆裂魔法を連想させる程の強い光であった。
それを見たベルディアは、これでもかと言うくらい露骨にに慌てふためく。
「そ……そそそそそそそれはまさか!? 『白騎士』の!?」
「この技は俺のオリジナルだが、よく似た技に見覚えがあるみてーだな。勇者アンサー専用の奥義『フォー・オブ・ア・カインド』……それを母ちゃんが独学で自分用に改良した必殺剣技『ストレート・フラッシュ』を、さらに手を加えて編み出した、俺の俺による俺だけの格闘技。名付けて……」
そこまで言ってみんちゃすはベルディアの体に照準を定め、光輝く拳を構える。
「ちょ、待-」
「五光神滅覇だ! 消し飛びやがれええええええええええ!」
みんちゃすの放った拳は爆裂魔法並の轟音と共に、覆っていた黒い結界ごとベルディアの体を消し飛ばした。
「うぎゃああぁぁぁあああああぁぁあああぁぁぁぁぁぁ…………」
肉体部分が跡形もなく完全に消滅させられたことで、ベルディアの首の方も消えていった。
……こうして、結局何が目的でこの地にやってきたのかも明かすことなく、魔王軍の幹部はこんな所で討ち取られた。
柔軟性がどうたらとか言っていますが、みんちゃす本人の性質はガッチガチの剛で、柔の技に関してはまだまだ未熟です。
例えば虎狼輪廻流。流れるような動きで敵の攻撃を受け流す……というコンセプトですが実はまだ未完成で、強化魔法込みの馬鹿力で強引に向きを変えているので手は結構痛かったり。
あと新必殺の五光神滅覇ですが、めぐみんの爆裂魔法と同等もしくはそれ以上の……ネタ技です。
詳しくは次回にて。