【sideめぐみん】
「ね、ねえゆんゆん! めぐみんも反省してるみたいだし、そんぐらいで!」
「だってだって……! 友達から初めて貰った物なのに……!」
万年ボッチのゆんゆんにようやく友達ができてひと安心かと思ったが、全然そんなことはなかった。
ふにふらが、あんたちょっとオシャレしなよとゆんゆんに髪留めをあげたらしい。それを貰ったゆんゆんは、嬉しくて、一旦教室に戻り、机の奥に大事に仕舞っておいたらしい。
……そして、
「ていうか、なんでめぐみんは私の机の中漁ったりするの!? なんで人のゴムを飛ばして遊んだりするの!? 子供なの!?」
本を読むのに飽きて早めに教室に戻った私が、暇潰しに窓の外にピンピン飛ばしていたゴムの中に、それが混ざっていたらしい。髪留めは窓の外の木の天辺に引っかかっており、体力バカのみんちゃすに頼んで取りに行ってもらっている。頼んだ際のみんちゃすが向けてきた可哀想な人をみるかのような目つきは、私の心に深い傷を作った。
ーーーちなみに私は教室の床に正座したまま。
「違うのです。窓の外に見えるあの木の枝に、ほら、ミノムシがぶら下がってるじゃないですか。あれが凄く気になって気になって、もう撃ち落としたくてたまらなくなり、自分の机の中にあったゴムだけでは仕留め切れなかったので、つい拝借を……」
「『つい』じゃないでしょ!? 女の子のやる遊びじゃないから! まったくもう……っ!」
深々と頭を下げる私に、ゆんゆんがため息を吐いた。
「ふにふらさん、ごめんね! その、せっかく貰った物なのに! 家に持って帰ったら、金庫の中に仕舞っておこうと思ってるのに……!」
「いや重いよ!?」
「髪留めなんだから髪につけろや……ほらよゆんゆん」
「早っ!? ……あ、ありがとみんちゃす。取るの大変じゃなかった?」
「こんなもん昼飯前だ」
「あ、確かにそろそろお昼だね。どどんこも交ぜて、向こうで一緒に弁当食べようよ」
ようやくみんちゃすに慣れたらしいふにふらが、なんでもなさ気にそんな事を言った。
「い、いいの!? 一緒にお弁当食べるとか、そんなのまるで友達同士みたいじゃない!」
「いやだから、友達だから! あたし達、友達になったじゃん!」
ゆんゆんのぼっち癖は既に末期に近かったらしい。
「ね、ねえみんちゃす……舞い上がり過ぎて引かれないように、歯止め役に付き合ってくれない?」
「別に構わねーが、どど……、えっと……ふりくらの友達は俺と一緒で大丈夫なのか?」
「ふにふらだっつの! あんたやっぱりわざとでしょ! さりげなくこのまま持ちネタとして定着させようとしてるでしょ絶対!」
……というかこの二人打ち解けすぎじゃないか? 既にゆんゆんとより仲が良さそうなのだが。
「確かにお前の名前間違えるのはわざとやっているが、お前の友達の名前に関しては、その……なんだっけ……?」
「…………どどんこよ。私が大丈夫だからあの子も大丈夫だと思うわ」
申し訳なさそうに目を背けるみんちゃすに、ふにふらは友人を憐れむような表情で名前を告げる。長い付き合いでそれもわざとだと看破しているゆんゆんが、みんちゃすにジト目を向けていることにも気づかずに。
「そうですね、もういい時間ですしお昼を食べてとっとと帰りましょうか」
床に正座させられていた私も立ち上がり、ごく自然な流れで三人について行こうと……。
「……めぐみん、お弁当なんて持ってきてるの?」
「ないです」
「ダメじゃん」
「悲しいなオメー」
ゆんゆんの言葉に答える私にふにふらがダメ出しを、みんちゃすが同情をしてきた。
……これはマズい、大変な事に気がついた。ゆんゆんに友達ができるまでは良しとしよう。でもそれと同時に今後、貧しい私の大切なライフラインが失われてしまう。
弁当の包みを持ってよそに行こうとするゆんゆんを見ながらオロオロしていると……
「めぐみん、その……半分だけなら……ちょ、抱きつかないで! 拝まないで!」
「これがクラス首席の姿か……悲しいなふさふさ」
「そうね、こんなの以下の私達って……あとふにふらよ」
外野うるさい、こっちは死活問題なのだ。
……しかし、女が三人集まれば姦しいとは言うが、
「でさー、絶対あの人ってあたしに気があると思うわけよ! でもどうしよう……あたしってさ、ほら前世で、生まれ変わったら次も一緒になろうって誓い合った相手がいるじゃん? だからこれって浮気? みたいなね」
「いいじゃないの、前世は前世、今は今。私の運命の相手は最も深いダンジョンの底に封印されてるイケメンな設定……じゃない、そのはずだから、私の場合は早く魔法を覚えて彼を助けに行かないとだし」
なんだろうこの痛々しい会話は。あまりの痛々しさに私が呆れ返り、欠片も興味ないのか我関せずとばかりにみんちゃすが昼飯をかっ食らう一方、
「そ、そうなんだ……凄いね二人とも!」
ゆんゆんは緊張した笑みを浮かべて相槌をうっていた。会話についていけてないのに、愛想笑いしながらどうにか話を合わせようとするぼっちの
五人で昼食を食べているのだが、先ほどから謎の恋バナが止まらない。可哀想なことに、脳内で作られた恋人の話と現実がごっちゃになっているらしい。
「…………で、ゆんゆんは? ゆんゆんの好みのタイプ……じゃないや、前世での恋人ってどんな人だったの?」
どどんこが、フォークでサラダをつつきながら尋ねると。
「私!? え、えっと私は-」
「短気で横暴で意地悪で気まぐれでマイペースで傍若無人でとんでもないサディストだけど、実は仲間想いで困っているときは手を差しのべてくれる、オッドアイの脳筋な武闘派魔法使いですよね? 言わなくても分かってますよ」
「え……オッドアイで、脳筋……?」
「そ……それってまさか、みん-」
「だ、だから違うって言ってるでしょ!? ふ、ふにふらさんもどどんこさんもみんちゃすも、ご、誤解しないでね……!」
そう言いながら顔を真っ赤にして、チラチラとみんちゃすの様子を伺うゆんゆん。『色気より食い気』などと不名誉な中傷を受けたことのある私ですら気づいたのだ、恋愛脳を拗らせている二人が気づかないわけがない。というか今のゆんゆんの様子を見て気づかない人がいるのか?
「? ああ」
目の前にいた。しかもよりによって当の本人がまるで気づいていないとか……。
みんちゃすは明らかに聞き流していたようで、適当に肯定して再びご飯タイムに戻る。
「う、うわぁ……これは前途多難ね……」
「が、頑張ってねゆんゆん。道は遥か険しいだろうけど、友達として応援しているわ!」
「だ、だから違うんだってばぁ!?」
「まあしょうがないですね。みんちゃすは生粋のバトル脳ですから、オトすには相当な覚悟がいるでしょうね。ちなみに私の前世は破壊神のはずですから、恋人はいませんでした。あ、ごちそうさまです、美味しかったですよ」
「めぐみんまで!? ……っていうかめぐみん、半分って言ったじゃない! なのにまたお弁当全部食べた!」
破壊神だから燃費が悪いのだ、仕方がない。
学校からの帰り道。明日の養殖という授業に備え、教師達がニート共と大物を討伐しているためみんちゃすは今日狩りには行けないらしく、私達とともに帰宅している。
「良かったですね、友達ができて。ゆんゆんは前世がダイオウコドクムシじゃないのかと疑うぐらいに、ぼっちを貫いてきましたからね。ちょっと心配だったのですよ」
「俺もてっきりゆんゆんが前世で犯した罪のせいで、『永遠の孤独』の業を背負わされてるんじゃないかと危惧してたけど、良かった良かった」
浮かれながら隣を歩いていたゆんゆんに、私とみんちゃすが言った。
「好きで一人でいる訳じゃないからね! あと何よ前世の罪って!? ……って、めぐみん口元。あーあー、女の子なんだから少しぐらいは身だしなみに気をつけなさいよ、ソースがついてるわよ?」
言いながら、私の口元をハンカチで甲斐甲斐しく拭ってくるゆんゆんは、なんだか母親みたいだ。
「実はゆんゆんの事を、友達になろうと言いながら近寄ってくる悪い男に、簡単に騙されそうな社会適応能力のない子だと思っていたので、明日からは少し安心できますよ」
「私はめぐみんの事を、ご飯を奢ってあげるよと言いながら近寄ってくる悪い男に、簡単に騙されそうな生活能力のない子だと思っていたから、明日からが少し不安なんだけどね」
私の口元を拭っていたゆんゆんと視線を交わすと、その場でバッと大きく距離を取る。みんちゃすは呆れてるようだが、これは私達二人の宿命の闘いだ。
「面白い事を言ってくれますね。この私がご飯欲しさにノコノコ男について行く、チョロいお手軽女だとでも?」
「めぐみんこそ、幾らなんでも私の事を侮り過ぎじゃないかしら。友達って言葉さえつけばホイホイ男についてく様な、チョロい尻軽女だとでも?」
道端でゆんゆんと対峙しながら、不敵に笑いあった。みんちゃすは飽きたのか私達から少し距離を取って、気に入ったらしい『仁義なき貴族達』を読み始めた。
「おやおや、私には……『俺達友達だろ?』って一言でダメ男やみんちゃすのような外道にいいように使われているゆんゆんの未来が、簡単に幻視できるのですがねえ!」
「私には、生活能力がないから簡単に路頭に迷い、めぐみんのタイプとは真逆な感じのダメ男やみんちゃすみたいな鬼畜に、プライド捨ててご飯奢って下さいと泣きつく姿が幻視できたわ!」
「……あ”!?」
あ、墓穴掘った。
「俺の気が長くないの知ってて喧嘩売ったのか? だとしたらオメーら良い度胸だなー。今謝ればまだ許してやるぞ? ん?」
「「ご、ごめんなさい……」」
勢いに任せてみんちゃすに飛び火したせいで彼の怒りを買ったらしく、間髪入れずに私達は脳天に拳骨を叩き込まれ、そのまま胸ぐらを掴まれ持ち上げられた状態でそう脅されて為す術なく屈服した。宿命の闘いが始まる前に終了とは……。
「みんちゃすお前、女の子相手でも容赦ないな……」
声がした方に顔向けると、我が家の近所に住む靴屋のせがれが立っていた。
「あん? ……なんだニートか」
「ニート言うな」
「ぶっころりーじゃないですか。こんな所で何してるんです?」
私やこめっこにとって近所のお兄さんみたいな存在なのだが、『世界が俺を必要とする日がくるまで力の温存をする』とか言い張り、毎日家でゴロゴロしている残念な人だ。そんな彼が外をうろついているのは珍しい。
「最近モンスターが活発化して、里の近くにまで出没したらしくてね。さっきまで里周辺のモンスターを駆除してたんだ。いやあ、『今こそ温存してきたその力を振るう時だ!』って頼られてさ、張り切っちゃったよ」
「相変わらず時間セレブなようで何よりですねー、ペッ」
「いや、なんか良さそうに言い変えても駄目だからね? というかなんでそんなやたらと喧嘩腰なの?」
そういえば担任が、里のニート達を率いてモンスター狩りをするとか言っていた。体よくタダ働きさせられたのだろうけど、本人は満足そうだしそっとしておこう。あとみんちゃすが喧嘩腰なのもそのせいだろう。
「そういや、普段は見かけない妙なモンスターがいてね。あれは何だったんだろう? この里の周辺にあんなヤツいたかなあ……」
そんな事を呟くぶっころりーが、ふとゆんゆんと目が合った。
「……我が名はぶっころりー。アークウィザードにして上級魔法を操る者……。紅魔族随一の靴屋のせがれ、やがては靴屋を継ぎし者……! 族長の娘さんだね。どうぞよろしく」
「あっ! は、はい、ゆんゆんです、よろしくお願いします……」
ぶっころりーの大仰な自己紹介に、恥ずかしそうに顔を赤らめ、俯きながら小さな声で名乗るゆんゆん。
「オメー何せっかくのチャンスを不意にしてるんだよ。それでも族長の娘か?」
「だ、だってぇ……」
みんちゃすの言う通りせっかくの名乗りチャンスなのに、やはりこの娘は変わり者だ。
「……で、二人は何してたんだい? みんちゃすにボコられるまではやたらとバトルっぽい熱い雰囲気だったけど」
「そうでした! この娘と、どちらが上かを決める血みどろの殺し合いをするのでした! さあゆんゆん、いきますよ!」
「待って! 普通の勝負するだけじゃなかったの!? そんな覚悟私には無いから!」
「じゃあ俺はこのニートでもなぶり殺すか。流石にこいつらを本気でシバき回すわけにはいかなかったから、不完全燃焼気味でイライラしてたんだよ」
「そんな理由で殺されるの僕!? というかさっきの、アレで手心加えてたの!?」