この武闘派魔法使いに祝福を!   作:アスランLS

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今年ももうすぐ終わりですね……。


貧乏店主の正体

【sideカズマ】

 

 俺はアクアとみんちゃすを引き連れ、某ノーライフキング様の居住地へ向かっていた。

 ダクネスには美味しいクエストが出た際にはすぐに確保して貰えるよう、ギルドで待機してもらっている。……「お前にとって美味しいクエストじゃないからな」と再三念押ししたが、どうせ半分以上ろくでもないクエストを確保してるんだろうな……。

 めぐみんは朝からどこかへ出掛けていった。暇さえあればフラッと一人で大物を狩りにいったり鍛練しにいったりするみんちゃすといい、どうして紅魔族はちょこちょこ単独行動を取りたがるんだろうか。……たぶん孤高の大魔法使い(笑)ムーブなんだろうが。

 それにしても、俺達のパーティはバランスが悪く、パロメーターが偏り過ぎている。

 アクアはプリーストとしてはまあ優秀なのかもしれないが、ダクネスが硬すぎたりみんちゃすが強過ぎたりと、回復魔法の出番が殆ど無い。

 めぐみんは最大瞬間火力は突出しているが、継戦能力はクソ以下だ。撃った後の後衛の火力はみんちゃすのトンデモ剣術頼みになってしまう。

 つまりパーティーの攻撃面の八割以上を、みんちゃす一人で受け持っているという有り様だ。……ダクネス? あいつの攻撃面に期待するなんて、チンパンジーに人生相談するようなもんだ。

 当面の問題として必要なのは、みんちゃすの負担を減らすための安定した火力だから、俺がスキルを覚えるなりしないといけないのだが、最弱職で低ステータスの俺が剣技とか覚えてもたかが知れている。みんちゃすから『雪月華』を借りるという手も考えたが、精霊結晶で作られた武器は使い手を選ぶらしく、この前ものは試しにの握ったところえらいことになった。

 俺の数少ない取り柄である幸運値に左右されるという狙撃スキルを習得して、ダクネスが敵を引きつけている間に弓で援護するというのが現実的なラインだが、もう少しこう……所謂メインウエポンが欲しい。

 そんな訳で先日のダンジョン探索で何気にレベルが上がった俺は、件のマジックアイテムを扱っている魔道具店の前にやって来ていた。

「おし、着いたぞ。……いいかアクア。今の内に言っとくが絶対に暴れるなよ。フリじゃないからな? ちょっとでも不穏な素振りを見せたらみんちゃすに鎮圧してもらうぞ」

「俺まで連れてきたのそのためかよ……」

「というか待ちなさいよカズマ。何で私がそんな事しなきゃなんないのよ。前から思ってたけど私を何だと思ってるの? チンピラや無法者じゃないわよ。女神よ? ゴッドよ?」

 文句をたれるアクアとやる気無さげなみんちゃすを引き連れ、俺は店のドアを開けた。

「いらっしゃ……、ああっ!?」

「あああああああああっ!? 出たわねこのクソアンデッド! あんた、こんな所で店なんて出してたの!? 女神であるこの私が馬小屋で寝泊りしてるってのに、あんたはお店の経営者ってわけ!? リッチーのくせに生意気よ! こんな店、神の名の下に燃やしていだぁっ!?」

 店に入るなり、いきなり注意を忘れて暴れだしたアクアの頭を、俺はダガーの柄で、みんちゃすはそのままグーで軽く殴る。

 そのまま両サイドの後頭部を押さえてうずくまるアクアを他所に、俺達は怯える店主に挨拶した。 

「よーウィズ。相変わらず大盛況なようで何よりだ」

「あからさま過ぎるお世辞はやめてください!?」

「ひ、久しぶり。約束通り来たぞ」

 

 

 

「……ふん。お茶も出ないのかしら? このお店は」 

「あ、俺紅茶ね」

「あっ、す、すいませんっ!! 今すぐ持って来ますっ!」

「いや持って来なくていいよ! 喫茶店じゃないんだから!」

 陰湿なイビリをするアクアとそれに便乗したみんちゃすの言う事を、素直に聞こうとするウィズを止める。

 魔道具店なんて初めてな俺は、店内を見回して手近にあったポーションの瓶をを何気なく手に取る。

「あっ、それは強い衝撃を与えると爆発しますから気を付けてくださいね」

「げっ、マジか」

 そんな危ないもんを注意書も無しにポンと置いておくなと内心思いつつも、俺は慌てて瓶をもとの場所に戻す。そのついでに隣の瓶を手に取ると……

「あっ、それはフタを開けると爆発するので……」

 無言でそっとソレを戻すと、更に隣の瓶を手に取る。

「これは?」

「水に触れると爆発します」

「……こ、これは?」

「温めると爆発を……」

「爆薬専門店かここは!?」

「ちちち、違いますよ!? そこの棚は爆発シリーズが置いてあるだけです!」

「どれもこれもクソアイテムばっかだけどな。相変わらず商才が犬の餌レベルで何よりだ」

「クソアイテム!? 犬の餌!?」

 みんちゃすの情け容赦のない酷評に涙目になるウィズ。……というかそうじゃない。俺は別に魔法の道具が欲しくて来たんじゃない。いつの間にか勝手に自分でお茶を入れてすすっている厚かましコンビは放っておいて、俺は本題に入る事に。

「ウィズ、以前言っていたろ? リッチーのスキルを教えてくれるって。スキルポイントに余裕ができたからさ、何か教えてくれないか?」

「ぶぅぅうううっ!?」

「きゃああああっ!?」

「うわ、汚っ……」

 俺の言葉にアクアがお茶を吹き出し、それがウィズにモロに掛かった。みんちゃすはちゃっかり避難しつつもその光景にドン引きしている。

「ちょっと、何考えてんのよカズマっ! リッチーのスキルですって!? 以前この女に名刺貰ってた時、一体何してるんだろうって思ってたら! リッチーの持つスキルなんてろくでもない物ばっかりよ! ……いい? リッチーってのは薄暗くてジメジメした所が大好きな、言ってみればなめくじの親戚みたいな連中なの」

「ひ、酷いっ!?」

 アクアの情け容赦の無い決め付けにウィズが涙ぐむ。

「なめくじの親戚でも従兄弟でもなんだっていいんだけどさ、リッチーのスキルなんて覚えてようとして覚えられるもんでもないだろ普通? そんなレアなスキルを覚えられたら結構な戦力になるんじゃないかと思ってな? 今のパーティーの戦力じゃちょっと強い敵が大勢出てきたら、みんちゃすに頼りきるしかないのはお前も分かるだろ」

「むう……女神としては、私の従者がリッチーのスキルなんて覚えることを見過ごす訳にはいかない所なんですけど……」

「いつ俺がお前の従者になったよ」

 ぶつぶつ言いながらも渋々と引き下がるアクアを一瞥しながら、ウィズが不安そうな顔で恐る恐る尋ねてきた。

「『女神としては』……? その、以前私をターンアンデッドで消し去りかけたりしたのは……。ひょっとして、本物の女神様だったりするのですか?」

 流石にリッチーにもなれば、アクアが本物の女神だと分かるのか。はっきりとした証拠を目の当たりにした俺ですら、アクアが女神だって事に疑問を持っているというのに。

「まあね。あなたはよそに言い触らしたりはしないでしょうから言っておくわ……私はアクア! アクシズ教団で崇められている、四代元素の一角である水を司る女神、アクア様よ! 控えなさいリッチー!」

「ひいいぃぃぃっ!?」

 ウィズがこれ以上に無いぐらいの怯えた顔でみんちゃすの後ろに回り込んだ。リッチーにとって、やはり神って存在は、天敵に出くわしたような物なのか。

「おいウィズ、そんなに怯えなくてもいい。アンデッドと女神なんて水と油みたいな関係なんだろうけどもさ」

「つーか仮にも俺に勝った奴が情けねー声上げてんじゃねーよ。ぶち殺したくなってくるだろうが」

 なだめる俺と脅すみんちゃすだったが、

「い、いえその……。アクシズ教団の人は頭のおかしい人が多く、関わり合いにならない方がいいと言うのが世間の常識で……アクシズ教団の元締めの女神様と聞いて……」

「まあそりゃ無理ねーけどよ」

「何ですってぇぇえええっ!?」

「ごごごご、ごめんなさぃぃぃっ!」

「……は、話が進まねえ……」

 

 

 

 涙目でウィズに掴みかかるアクアを引き剥がし、店の商品でも見てこいと追い払うと、意外にも素直にアクアは店内を物色した。

 そんなアクアをちょっと気にしながら、気を取り直したウィズが、

「そう言えば最近知ったのですが、カズマさん達があのベルディアさんを倒されたそうで。あの方は幹部の中でも剣の腕はティアマットさんに次ぐものだったのですが、凄いですねえ」

 そう言って俺達に穏やかな笑みを浮かべ…… 

 

 ……あれ? 

 

「あのベルディアさんって、なんかベルディアを知ってたみたいな口ぶりだな。あれか? 同じアンデッド仲間だから繋がりでもあったのか?」

「……仮にそうだとしてもオメー、なんでティアの事まで詳しいんだよ?」

 俺達のそんな疑問に、ウィズが世間話でもする様な気軽さで、

「ああ、言ってませんでしたっけ。私、魔王軍の幹部の一人ですから」

 

 ……………………。

 

「確保ーっ!!」

 商品棚の間をウロウロしていたアクアがウィズに向かって襲い掛かり、みんちゃすも無言で『九蓮宝燈』と『雪月華』を鞘から抜いた。

「待って待って待ってください!? お願いします、話を聞いてください!」

 取り押さえられたウィズがアクアにのしかかられたまま悲鳴を上げる。いい仕事したとばかりに頬の汗を拭いながらアクアが、

「さあみんちゃす、やってしまいなさい! これで借金なんてチャラよチャラ! それどころかお釣りがくるわ! 宿を借りるどころか家だって買えちゃうわよ!」

「街中に堂々と店を構えてのスパイ行為たぁいい度胸じゃねーかコラ……あのときの借り、ここできっちり精算してやるよ」

「ひぃぃぃ!? なんか赤いオーラが迸ってますぅぅぅぅぅ!?」

 あ、ヤバイ。この二人(特に闘気まで出しているみんちゃす)完全に殺る気だ。

 とりあえず俺はみんちゃすを手で制しながら、取り押さえられているウィズへと屈み込み、

「一応事情くらいは聞いてやれよお前ら……えっと、幹部ってどう言う事だ? みんちゃすの言う通り、流石に魔王軍のスパイとかだと、一応冒険者な手前見逃すって訳にも……」

 そんな俺の言葉に、ウィズが泣きそうになりながら必死に弁解する。

「違うんです! 魔王城を守る結界の維持の為に頼まれたんです! 勿論今まで人に危害を加えた事は無いですし、幹部って言ってもバニルさんやティマットさんと同じ、なんちゃって幹部ですから! それに私を倒したところで、そもそも賞金も掛かってませんから!」

 ウィズの懇願を聞き、俺とアクアは顔を見合わせた。みんちゃすは闘気は消したものの依然として油断なく構えたままだ。

「……よく分かんないけど、念の為に退治しておくわね」

「待ってくださいアクア様ーっ!!」

 アクアに取り押さえられながら喚くウィズ。

 俺は魔法の詠唱を始めたアクアに、まあ待てと手を突き出す。

「えっと、何だ? つまり、ゲームとかによくある、幹部を全部倒すと魔王の城への道が開けるとかそんなんか? ……それでウィズは、その結界とやらの維持だけ請け負っていると」

「げーむとやらは知りませんが、そういう事です! 魔王さんに頼まれたんです、人里でお店を経営しながらのんびり暮らすのは止めないから、幹部として結界の維持だけ頼めないかって! 魔王の幹部が人里でお店やってるなんて思わないだろうから、人間に倒されないだけでも充分助かるって!」

「つまりあんたが生きてるだけで人類は魔王城には攻め込めないって事ね。カズマ、退治しときましょう」

 アクアの言葉にウィズが泣き出す。

「待ってください! アクア様の力なら、幹部の二、三人ぐらいで維持する結界なら破れるはずです! 私を倒した所であと8人も幹部がいますし……なにより構築者のペルセウスさんもいますので、流石にアクア様でも結界破りは出来ません。魔王城に攻め込むには私を浄化したとしても、どのみちペルセウスさんを含む4、5人は幹部を倒さないといけませんし! ……せめて、アクア様が結界を破れる程度に幹部が減るまで、生かしておいてください……私にはまだやるべき事があるんです……」

 取り押さえられたままシクシク泣き出すウィズに、流石のアクアも微妙な表情を浮かべた。

「はあ……くっだらね。ノーライフキング様が弱者みてーに惨めったらしく懇願してんじゃねーよ。この場で俺らを皆殺しにしてでも生き延びようって気概はねーのかよ。……興が覚めたからカズマ、俺はオメーの判断に任せる」

 そう吐き捨てて、つまらなそうに納刀するみんちゃす。なんというか、こいつって身内以外とダクネスにはとことん容赦無いな……。

「……ええっと。まあ、いいんじゃないのか? どのみち今ウィズを浄化したって、その結界とやらがどうにかなる訳でもないんだろ? それに本来なら幹部全員倒さないと結界とやらは解けないはずが、アクアがいれば幹部を全員倒さなくても結界が破れるんだろ? だったらウィズ以外の幹部をみんちゃすが倒すまで、気長に待った方がいいだろ」

「他力本願過ぎねーかオメー……」

 みんちゃすはそう言うが、魔王だの幹部だの、俺達みたいな未熟なパーティにどうにか出来るとも思えないし、そもそも俺はそんな危険な事に首突っ込むつもりもない。

 というか放っておけばこのどんどん強くなる戦闘狂が、バッサバッサと幹部を減らしていってくれるだろうという期待もある。

 俺が地球に帰るには俺達の手で魔王を倒す必要があるため、俺達のパーティーがみんちゃすの足を引っ張らないくらい強くなるまでは、今のままの方がいい。ウィズがいる限り結界は維持され、他のチート持ち連中に先を越される心配もないしな。

 そんな俺の姑息な打算も露知らず、その言葉にウィズがぱあっと表情を明るくさせた。

「でもいいのか? 幹部って連中は一応ウィズの知り合いとかなんだろ? ベルディアを倒した俺達に恨みとかは無いのか?」

「……ベルディアさんとは、特に仲が良かったとか、そんな事も無かったですからね……。それにあの方は、私が歩いてるとよく足元に自分の首を転がしてきて、スカートの中を覗こうとする人でしたし」

「よく俺らに騎士だとか胸張って自称できたなあの腐れ頭」

 ほんとにな。

「幹部の中で私と仲の良かった方は二人しかいませんし、その方々は……、まあ簡単に死ぬような方でも無いですから。……それに私は今でも、心だけは人間のつもりですしね」

 そう言って寂しげに笑うウィズ。

「……とんだ甘ちゃんだなオメー。まあそんなお花畑全開の思考回路じゃ、俺達を皆殺しになんて物騒なことできやしねーか……」

 口では悪態をつきながらも、その口調からは先ほどまでの刺々しさが無くなっている。

 最近知ったことだがみんちゃすは意外と情が移りやすい。

「にしてもあと9人か……全盛期に比べると随分減ったなー」

「……減った? どういうことだよみんちゃす」

「今から20年くらい前は15人の幹部がいたらしい。で、俺も一人なんちゃって幹部の知り合いがいるんだが、追加された幹部はそいつとウィズを含めて4人だそうだ。つまり合計19人の幹部が今代の魔王に仕えたわけだが……その内の8人は母ちゃんが狩った」

「どんだけだよお前の母ちゃん!?」

 そんなことされたらそりゃ幹部だろうが引きこもりになるわ! 

「ベルディアは俺らが討伐したとして……あとの一人は昔父ちゃんがとある事情で魔王城にカチコミかけたとき、雑魚同然に消し潰したらしい」

「父ちゃんもおかしかったーっ!?」

 そういやこいつの父親って、魔王を土下座させたんだっけ……。

「みんちゃすさんって『白騎士』様と『紅魔王』様のご子息様なんですか!? ど、道理でその若さであれほどの力を……」

 ウィズが驚愕しているところを見ると、どうやら本当のことらしい。

 ベルディアも最終的にみんちゃすが討伐したし、魔王軍にとってみんちゃす一家は疫病神みたいなもんだな……。




自称なんちゃって幹部なのに誰よりも魔王軍に貢献してるペルセウスさん。

なのに人望0!

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