この武闘派魔法使いに祝福を!   作:アスランLS

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今回の話は鬼滅の刃の下弦パワハラ回を参考に書きました。


悪霊屋敷②

【sideカズマ】

 

 そんなこんなで現在夜半過ぎ。

 各自の部屋割りは既に決め、荷物なども部屋に運び終えている。肝心の除霊に関してだが、この屋敷に今日からアクアとみんちゃすのヤクザコンビが住み着く以上、悪霊の類は出て行ってくれるんじゃないか? もしくはアンデッドホイホイなアクアの部屋に集まってくれるだろう。そうなればあれでいて一応アークプリーストにして女神なアクアだ、悪霊なんぞに好き勝手やられるのを放置しておく筈がない。

 そんなわけで俺は仁義なきじゃんけん勝負を勝ち抜いて自分の部屋として確保した、二階の一番大きな部屋でわりと安心して休んでいた。

 

「あああああああああっ!? わあああああああーっ!!」

 

 アクア(アンデットキラー)の泣き声を聞くまでは。

 

 

 

「おいアクア、何があった!? 大丈夫かっ!?」

 慌ててアクアの部屋の前に駆けつけ、部屋のドアをノックするがアクアからの返事が無いので、業を煮やして勢いよくドアを開けると、そこには……

「うっ……ううっ……。カ、カズマああああっ!」

 部屋の中央で、ラベルに『白雲去来』と書かれた空の酒瓶を大事そうに抱え、泣いているアクアの姿。

「…………えっと、何があった? てか、お前は酒瓶なんて抱いて何してんだ。酔っ払って奇声を上げたとか言ったら、クリエイト・ウォーターて水ぶっかけて酔いを醒ましてやるからな」

「これは以前みんちゃすに貰って大事に取っておいた、凄く高い上に滅多に手に入らないお酒なのよ……! お風呂から上がったらゆっくりちびちび大事に飲もうと楽しみにしてたのに……私が部屋に帰ってきたら、見ての通り空だったのよおおおおおおっ!」

 なるほど、寝るか。

「じゃあお休み。また明日な」

「……これは悪霊よ! もしくは野良幽霊の仕業に違いないわ! ちょっと私、屋敷の中を探索して目につく霊をしばき回してくるわ!」

 自称水の女神のくせに目に炎を灯しながら、アクアは勢いよくドアをあけて飛び出していった。野良幽霊なんてもんがこの世界にはいるのか? ……まあ除霊してくれると言うのならそれに越したことはないか。

「……なんだ、一体何の騒ぎだ?」

「こんな時間に騒ぐとみんちゃすがキレますよ? いったい何事なんですか?」

 先ほどのアクアの叫びを聞きつけて来たのだろう、ダクネスとめぐみんの二人がやって来る。というか、みんちゃすはもう寝たのか。

「取っといた酒を悪霊に飲まれたとかアクアが騒いでてな、除霊するとか言って飛び出していったよ。めんどくさいから俺はもう寝る。後はお前らに任せたよ」

 とっておきの酒を飲んでしまう程度の悪さしかしない悪霊なら、放置しといても問題ないだろ。

 

 …………あれ? さっきの酒のラベルの文字、日本語で書かれてなかったか? 

 ……気のせいか。

 

 

 

 

 

 そんなわけでしばらく眠っていた俺だったが、ふと夜中に目が覚めた。と同時に無性にトイレにいきたくなり、俺は寝ていたベッドから起き上がろうと……してが、何故か体が動かない。

 ……金縛り? 

 声を出そうとしてみてもくぐもった声が出るだけで、助けを求める事も出来ない。

 そんな状況で俺はふと、大変な事に気がついた。そう……尿意がアテンションプリーズである。

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ! この年で漏らすとか、控えめに言って自殺もんだ! またエリス様に迷惑がかかっちまう! 

 俺は身動きが取れない状況で歯を食いしばって耐えていると……

 

 カタンッ。

 

 部屋の隅から音が聴こえ、静まり返る屋敷の中にとても大きく響き渡った。身動きが取れない俺はどうにか視線だけを、音がした方へと向けると……。

 

 部屋の隅の暗がりに、見覚えの無い小さな西洋人形が置かれていた。

 

「…………ッ!」

 な、なんであんな所に人形が……? あんなん俺が持ち込んだ荷物には無かったぞ? 

 ……もしかして、アクアあたりの嫌がらせか。うん、きっとそうだ。

 あの駄女神め、朝になったらあの大事にしている羽衣で汚れた床を雑巾がけしてやる。

 勝手にアクアのせいだと断定し、俺はきつく目を瞑る。

 

 カタンッ。

 

 ……が、嫌でも部屋に響くその音を聴き、どっと全身から汗が吹き出るのを感じる。

 あれだな、何でもかんでもアクアの所為にするのは流石に可哀想だよな。結果はともかく日頃あいつも頑張ってるんだ、たまには優しくしてやるか、うん。

 

 カタンッ。

 

 なんせ女神様だからな、うん。

 この屋敷にはその女神がついてるんだ。その上天下無敵のヤクザ魔法使いもセットでいるんだ。

 悪霊? 何ソレ美味しいの? ウチのアクアはリッチーを浄化させた女神で、みんちゃすはデュラハンを消し飛ばした大魔法使いですぜ? 

 

 カタンッ。

 カタンッ! 

 カタンッ!! 

 

 よし、朝になったらアクアに今までの事を謝ろう。俺は確かに女神様に対してちょっと扱いが雑過ぎたな、うんあれだ、反省してます。

 

 カタカタカタカタッ、ガタガタガタガタッ! 

 

 あああああああああマジで今までの事全部謝るから! 謝るからどうかアクア様助けてくださいっ! お願い助けてぇぇぇ300エリスあげるからぁぁあああああ! 

 

 ……………………俺の懺悔と祈りが届いたのか、部屋の隅から聞こえていた音が止んでいた。

 び、びびらせやがって……やっぱり悪霊なんて居なかったじゃねぇか。そう安心すると同時に、ある欲求が湧き上がった。

 

 目を開けたい。

 

 俗に言う怖いもの見たさという奴か、目を開けてさっきの人形が今どうなってるのか確認したくなった。だが俺の勘みたいな部分が、全力でそれは止めとけと囁いている。

 やめとくのが賢い選択だとわかっちゃいるが、どうしようマジで気になる。

 俺はしばらくの間悩んだ後、そういえばトイレが近かったことを思い出す。

 俺は意を決して、うっすらとその目を開け…………。

 

 すぐ目の前で、俺の顔を覗き込んでいる西洋人形と目が合った。

 

「なああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 魂を搾り出す様に絶叫を上げると、途端に動く様になった身体で目の前の人形を払いのけた! 

 

 

 

 

 

「アクアー! アクア様あああああー!」

 俺はアクアの部屋へ続く廊下を裸、足で走っていた。……背後に何かが追って来る音を聞きながら。

 アカンごっつ怖い! 思わず関西弁になっちゃうほど超怖い! まさしくこれアカンやつや! 

 

 ガダンッ! ガタッタッタッタッタン! 

 

 なんか変なリズム刻み出したし!? 

 そんなこんなでようやくアクアの部屋の前に着くと、ノックもせずにそのまま部屋に飛び込んだ。そして慌ててそのままドアを閉め、そのままドアに鍵をかける。

 一拍置いて、ドアに何かがぶつかる音。

 それをドア越しに背中で聞きながら、俺は部屋の中に視線をやると……

 

 両目を紅く輝かせた黒髪の少女が、暗闇の中一人部屋の中央に座り込んでいた。

 

「ひゃああああああああああ!?」

「きゃああああああああああ!?」

 思わず悲鳴を上げる俺に、目の前の黒髪の少女も悲鳴を上げる。

 その悲鳴の声色に聞き覚えのあることに気づきよく見ると、パジャマ姿のめぐみんだった。

 ひとしきり叫んだ後、俺達は少しだけ落ち着きを取り戻す。

「お、脅かすなよめぐみん……危うく漏らすとこだったぞマジで」

「そ、それはこっちのセリフです! なぜカズマがこの部屋に飛び込んでくるんですか、アクアが帰って来たのかと思ったのに……」

「つーか何でアクアの部屋にめぐみんが? そもそもアクアはどうした?」。

「う……。いや、その……。人形が、ですね。その、あちこちで動いておりまして……それでですね、その……アクアに、身の安全を守ってもらうのと、…………一緒にトイレに……と思いまして……」

「お前もか……」

 俺のその呟きに、めぐみんも俺が同じ目に合った事を察したらしい。

「カズマも人形に追いかけられたんですか。多分アクアは、ダクネスと共にこの屋敷内の除霊を行なっているのではと思います」

「……そういやあいつクルセイダーなんだったな」

 本来クルセイダーとは神に仕える騎士にして、敬虔な神の信徒。プリースト程ではないが確か神聖な力も使える筈だ。……あの守り馬鹿のダクネスが魔法系のスキルを取っているとは思えないがな。

「……あれ? めぐみんの部屋からはここよりも、みんちゃすの部屋の方が近いだろ。なんでわざわざアクアの部屋まで来たんだ?」

 ふと気になったことを訪ねると、めぐみんは少し顔を青ざめさせながら、

「……安眠を妨害されたみんちゃすは、幽霊より遥かに恐ろしいですからね。一応緊急時ですから私には攻撃しないだけの分別はあるでしょうが……最悪屋敷ごと元凶の幽霊を消し飛ばそうとするかもしれません」

「なにそれこわい」

 そしてマズい。もしあの人形共がみんちゃすのちょっかいでもかけたりしたら……。

 しかしそうなると、俺とめぐみんは困った状況に置かれている事になる。咄嗟の事で武器の類は部屋に置いきちゃったし、めぐみんも杖など持たず手ぶらのままだ。……いや屋敷内で爆裂魔法使われてもアレだけどもよ。

 どうしようかと悩んでいると、めぐみんが何かに気付いた様に言ってきた。

「カズマカズマ、ドアの外の音が止んでます。今ならドアの外に人形はいないのでは?」

 そういえば、すでに音は止んでいた。

 正直言って出るのが怖いが、みんちゃすに屋敷を消し飛ばされてはたまったものじゃないので、今から急いで様子を見に行くべきだろう。

 

 ……まあその前に、今のうちにすることを済ましておくか。

 

「なあめぐみん、ちょっとドアの方向いて耳塞いでてくれ。ちょっと失礼してベランダから……」

 俺がズボンのベルトに手をかけ、ベランダに出ようと……した俺のズボンのベルトを、何故か後ろからめぐみんが掴んできた。

「……おい、何してんだよ。放してくれ、さもないと俺のズボンとアクアの部屋の絨毯が大変な事になる」

「行かせませんよ、何一人ですっきりしようとしてるんですか。私達は……仲間じゃないですか。トイレだろうとどこだろうと…………逝く時は一緒です♪」

 めぐみんがそう言って、こんな時でなければ多少ドキッとするような満面の笑みを……

「ええい放せ! こんな時だけ仲間の絆を主張するんじゃない! お前、紅魔族はトイレ行かないとか言ってたじゃねーか! なんならそこに空いた酒瓶が転がってるからぁぁあ!」

「今とんでもない事口走りましたね!? その空いた酒瓶で私に何をしろと!?」

 おしっこだよ! 

「させませんよ! 私でも、カズマが用を足そうとしてる所を、後ろから揺らしてやるぐらいは出来ますか……ら……ね……………………」

 なんか本人的には格好いいと思ってるであろうポーズの途中で、途端に尻すぼみになっていくめぐみん。その視線は俺というより俺の後ろ……ベランダの窓の方を凝視している事に気が付いた。嫌な予感がしつつもそちらを向くと、案の定と言うべきか予想外と言うべきか。

 

 ベランダの窓にびっしりと張り付いた、大量の人形がこちらを見ていた。

 

「「ああああああああああ!」」

 俺とめぐみんは同時に叫び、二人仲良く部屋から飛び出し、風となって廊下を駆け抜けた。

 

 

 

「みんちゃすー! みんちゃす様あああああああ!」

 不機嫌だろうが屋敷を消し飛ばされようが構うものか! 人命第一、命あっての物種だ! 

 俺とめぐみんは藁にでもすがるように、みんちゃすの部屋まで全力疾走で駆け抜けた。

 怖い怖い怖い怖い怖い! 何!? 何なのこれ!? 俺こんな目に遭わなきゃならない何かした!? ……はい色々しましたね! パンツ盗ったり女神を檻に入れて池に放り込んだり! 心当たりが有り過ぎて笑えてくるよコンチクショウ! やがてみんちゃすの部屋に辿り着くと……

 

「あああああああああっ! があああああああっ!」

 

 部屋の中からみんちゃすの絶叫が聞こえてきた。さらにガシャンガシャンと何かが割れる音も聞こえてくる。

 えっ、何事!? もしかしてみんちゃすも人形に? ……まさかあのみんちゃすが、たかが悪霊ごときに? 苦手意識はもう克服したとか言ってたけど、実はあれ単なる強がりだったんじゃ……。

 逃げ出したい衝動を全力で抑えつけ、俺とめぐみんはみんちゃすの部屋のドアを少しだけ開けて中の様子を伺うと……

 

 

 鬼のような形相のみんちゃすが、両腕から赤いオーラを吹き出しながら手当たり次第に人形達を殴る蹴るの暴力で叩き潰していた。

 

 

「「…………」」

 思わず真顔&無言になる俺達。無性にドアを閉めたくなったが、一応事の行く末を見守ることに。

 あっという間にみんちゃすの部屋に集まった人形達が残り6体になった頃に、

 

「座れぇぇぇえええええ!」

 

 みんちゃすは怯える人形達を見下ろしてそう怒鳴り付けた。

「ハイさっさとそこ並んで、正座して座りやがれこのド腐れ共が!」

 いきなり命令された人形達は、カタカタと挙動不審な動きになる。俺に人形の心なんてわからないが、多分困惑してるのだろう。

 

 ガシャァァアアアンッ! 

 

 そんな人形達の一体を、みんちゃすは無言で蹴り飛ばして粉砕した。

「……さっさと座らねーと潰すぞ」

 とても未成年の少年が発したとは思えないほどドスの聞いた声に、ようやく人形達は5体揃ってその場に正座した。

「さーてと、俺がテメーらに問いたいのは一つのみだ。……どういう了見で俺様の快眠を邪魔しやがったんだコラ」

 殺意全開でそう問いかけられても、人形達は答えない。……というか人形だから喋れないよな。

 

 ガシャァァアアアンッ!! 

 

「さっさと答えろ潰すぞ」

 情け容赦の無いみんちゃすの制裁が炸裂し、残り4体。

 その内の一体が、どこからともなくペンとスケッチブックを取り出し、『人を驚かすことが、私達幽霊の仕事ですから……』と書いてみんちゃすに見せる。見も蓋も無い理由だが、それでも納得できなくは-

 

 ガシャァァアアアンッ!!! 

 

「口で喋れや潰すぞ」

 り、理不尽過ぎる……! 何が一番理不尽って、きっちり一体破壊してから潰すぞって脅すところが。もう潰してますやん。

 もし残り三体となった人形達の表情が変化するのなら、確実に顔面蒼白になっていることだろう。悪霊相手とはいえあまりの横暴さに、陰で見守る俺とめぐみんもドン引きしている。

「……ただまあ、テメーらの言い分はわかった。そりゃテメーらは幽霊だしな? 人をヒビらせてなんぼの種族だしな? この屋敷にすむことになった俺らを、多分絶好のチャンスとばかりに驚かしにきたんだろうよ。だがな…………俺は安眠を妨害されんのがこの世で三番目くらいにムカつくんだよクソボェェェッ! とっとと砕け散れやゴラアアアアア!」

 

 ガシャガシャガッッシャァァァアアアアアンッ!!!!! 

 

 結局残りの三体もキレたみんちゃすによって無惨に叩き壊された。

「チッ……寝直しだクソが」

 部屋中に散らばった人形の残骸には目も暮れず、不機嫌そうに布団へ戻るみんちゃすを見届け、俺はそっとドアを閉じる。

 

「行くぞ」

「そうですね」

 

 あんなの見せられてなおみんちゃすに助けを求めるほど、俺達は愚かじゃない。

 人命第一、命あっての物種だ。




みんちゃすの嫌いなもの、ことトップ3。
 
三位……安眠妨害 
二位……勝ち逃げされること
一位……弱いくせに偉そうな奴。

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