デストロイヤー「認める」
【sideカズマ】
「おっ! やっぱり、来たかカズマ! お前なら来るって信じてたぜ!」
完全武装でギルドへ入ると、そこには同じく重装備のダストの姿。その顔つきも、最初俺に絡んできたときの小物臭いチンピラとは別人のような真剣さだ。さらにその隣にはキースにテイラーとリーンの姿も。
……改めてギルドの中を見渡してみると、様々な冒険者達が考えられる限りの重武装で馳せ参じていた。きっと彼らもこの街が好きなのだろう。……男性冒険者達がやけに多い気がするが、きっと気のせいだ。
「……カズマ? オメーも来たのかよ? はっきり言って荷物まとめて逃げた方が良いぞ? 俺が参加してんだから、あの不動産屋に対する義理立てとしちゃ十分だろ」
そんな中白黒の魔法使いローブを着込み、赤と青の包帯を両腕に巻き付けた、いつも通りのスーパー中二スタイルのみんちゃすが、俺のもとに来て、そんなことを忠告してくる。どうやらこいつは屋敷を借りていることに対する責任感から馳せ参じたと思っているらしい。実のところ下心全開な理由なため良心がちくちくと痛むが、せっかく都合の良い勘違いをしてくれているのだからここは乗っかっておこう。
「水くさいこと言うなよみんちゃす。俺達五人の運命は一蓮托生だ。それに俺達だってこの街を守りたいんだよ」
「……ほー。中々リーダーが板に付いてきたじゃねーか。腹は括っているようだし、止めても無駄みてーだな。だったら俺もこれ以上は何も言わねーよ……何としてでもこの街を守り切るぞ」
愉快そうに笑った後、みんちゃすは真剣な顔つきでそう言った。まだ幼くても流石は歴戦の冒険者、俺を含めてサキュバスの店が無かったら躊躇無く逃げてるであろう連中とは、身に纏う風格からしてモノが違う。
……と、ある程度の冒険者達が集まった所で。
「お集まりの皆さん! 本日は緊急の呼び出しに応えて下さり、大変ありがとうございます! 只今より、対機動要塞デストロイヤー討伐の緊急クエストを行ないます。このクエストにはレベルもクラスも関係なく全員参加でお願いします。皆さんがこの街の最後の砦です。どうかよろしくお願い致します!」
ギルド内が喧しくざわめく中、ギルド職員が声を張り上げた。
場の空気が尋常じゃ無く張り詰めていること
からも、それほどまでにデストロイヤーがヤバイって事が伝わってくる。
「それではお集まりの皆さん、只今より緊急の作戦会議を行ないます。……えっとまずは、機動要塞デストロイヤーの説明が必要な方はいらっしゃいますか?」
その職員の言葉に俺を含む数名の冒険者が手を上げた。それを見て職員が一つ頷き、
「機動要塞デストロイヤーは元々は対魔王軍制圧兵器として、魔道技術大国ノイズで造られた巨大ゴーレムの事です。国家予算から巨額を投じられ、当時世界最強と謳われた魔法使いが様々な術式を施して作られたこの巨大なゴーレムは、蜘蛛の様な形状をしております。小さな城ぐらいの大きさを誇っており、魔法金属をふんだんに使われ、外見に似合わない軽めの重量で、八本の脚で馬にも匹敵する速度が出せます。そしてその体には最強の魔法使いによって組まれた強力な魔力結界術式が張られていて、いかなる魔法攻撃も意味をなしません」
それを聞いている冒険者達の表情が、徐々にお通夜モードになっていく。
いかに自分たちが無謀な戦いをしようとしているのかを、段々と実感してきたからだろう。
「魔法が効かない為物理攻撃しか無い訳ですが……白騎士アステリア様ですら破壊できないほど堅いです。そもそも接近すると轢き潰されますので弓や投石などの遠距離攻撃になりますが、元が魔法金属製のゴーレムな為弓はまず弾かれ、攻城用の投石器も機動要塞の速度からして運用が難しいと思われます。それにこのゴーレムの胴体部分には、空からのモンスターの攻撃に備える為、自立型の中型ゴーレムが、飛来する物体を備え付けの小型バリスタ等で撃ち落し、なおかつ戦闘用のゴーレムが胴体部分の上に配備されております。……また、一度でもデストロイヤーに攻撃を加えると、周囲にいる生物の魔力を感知して熱光線を無差別に撃ってきます」
……えー。
「そして、その機動要塞デストロイヤーがなぜ暴れているのかですが……研究開発を担った責任者が、この機動要塞を乗っ取ったと言われています。そして現在も機動要塞の中枢部内にその研究者がおり、ゴーレムに指示を出しているとか……。人類、モンスター問わず全てを平等に蹂躙していく人工の天災、それが機動要塞デストロイヤーです。これが接近してきたときは、かの『白騎士』アステリア様に撃退してもらうしか方法が無いとされています。そしてそのアステリアですら、デストロイヤーの進路を力技で強引にずらすだけで精一杯だったそうです」
あれほどざわついていた冒険者達は、今はシンと静まり返っていた。そんな中みんちゃすが険しい表情で手を上げて口を開く。
「なあギルド職員共、ちょっと聞いておきたかったんだが……今回みたいにデストロイヤーの進路に街があるときは、かなり速い段階で母ち……『白騎士』にクエストを発注しておくのが常識だろうが。今からじゃもう呼んでも間に合わねーじゃねーか、なんでこんな直前まで放置してやがったんだコラ」
みんちゃすにドスの効いた声で凄まれたギルド職員は、顔を真っ青にしながらてを上げて首を振る。
「ち、違うんですみんちゃすさん! 事前に調査していたデストロイヤーの進路予測では、この街を通過することはまずあり得ないとのことだったんです! しかし何故かデストロイヤーは数日前に突然不自然な方向転換を行い……」
「何だと……!? デストロイヤーの進路は規則的で、内部にいるであろう科学者ですらコントロール不可という説が有力な筈。その急激な方向転換が本当だとしたら-」
「そういうのは後にしてくれみんちゃす! 何か知らんけど多分今切迫した状況なんだろ!?」
「あ、ああスマン……」
話が脱線しそうだったのでみんちゃすを引き下がらせる。職員はほっと一息ついた後、話を元に戻す。
「現在、機動要塞デストロイヤーは、この街の
北西方面からこちらに向けて真っ直ぐ侵攻中です。……では、ご意見をどうぞ!」
無理ゲー。
俺は脳内にそんな言葉が浮かんだ。
……と、ある冒険者が手を上げる。
「……あの、その魔道技術大国ノイズって国はどうなったんです? そいつを造った国なら、それに匹敵する何かを造るなりなんなり、出来ないんですか? それに最強と謳われたた魔法使いな、何か対抗策を用意してるとかは……」
「滅びました。デストロイヤーの暴走で、真っ先に滅ぼされました。あと、
「……他に、ありませんか?」
職員が促すと、別の冒険者が手を上げる。
「街の周りに巨大な落とし穴でも掘るとか」
「やりました。多くの《エレメンタルマスター》が寄り集まって地の精霊に働きかけ、即席ながらも巨大な大穴を掘り、デストロイヤーを穴に落としたまでは良かったのですが……。機動性能が半端なく、なんと八本の脚を使い、ジャンプしました。上から岩を落としてフタをする作戦だったそうですが、その暇も無かったそうです」
「…………」
思わず場が静まり返る。
「……他にありませんか?」
また一人の冒険者が手を上げた。
「『白騎士』はデストロイヤーをどうやって撃退するんだ? その方法がわかっているなら俺達もそれを-」
「極限まで練り上げた闘気をデストロイヤーの真横から一気に放出して、無理矢理どかすという力技です」
「……闘気? みんちゃすも確か出来たよな? だったら-」
「いける訳ねーだろ俺まだ覚えたてだぞ? 練度が天と地ほど離れてるっつの」
また、ひとり……
「魔王軍の奴等はどう対処してるんだ? 連中だって困ってるんじゃないのか?」
「あの城には魔王軍幹部、ドクター・ペルセウスが製作した強力な魔力結界が張られています。現在、魔王城に被害は無い様なので、デストロイヤーを破壊しようとしてくれる気配はありませんね。彼らにとって野良モンスターが蹂躙される事は、取るに足りない事でしょうから」
職員が、静かに言った。
「他に、ありませんか?」
ギルド内はあーでもないこーでもないと、会議は難航していた。
空中でも高速で機動できるみんちゃすなら内部に乗り込めないかと言う意見が出れば、乗り込む前にレーザーで集中砲火され蜂の巣だとみんちゃすに却下される。
デストロイヤーを越える巨大なバリケードは造れないのかとの意見が出れば職員が、壁を迂回して踏み潰して行った例があると告げ、静まり返った。
魔法は効かない、闘気は出力が足りない、接近したら踏まれる、空からの攻撃も撃ち落とされる。しかもそれらの行動が迅速に行なわれる。
なるほど、アクアとめぐみんが逃げようとするのも仕方ない。
難航する会議に飽きたのか、
「おいカズマ。お前さんなら機転が効くだろう。何か良い案は無いか?」
俺達のテーブルの傍に座っていたテイラーが、突然俺にそんな無茶振りをしてきた。
……そんな事言われても。
離れた所からめぐみんにぶっ飛ばしてもらうぐらいにしか考えていなかったのが、そもそも結界で魔法が効かないって時点で……。
…………結界で魔法が効かない? じゃあその結界が無かったら?
光明が見えたかもしれない俺は流行る気持ちを抑えつつ、早々に会議に飽きて隣でコップの水でテーブルに絵を描いて暇を潰しているアクアへと振りる。
「なあアクア。ウィズの話じゃ魔王の城に張られている魔力結界ですら、幹部二、三人で維持したものなら、お前の力で破れるとかって言ってなかったか? なら、デストロイヤーの結界も…………おわっ!? なんだこりゃー!?」
俺はそこまで言ってアクアが水だけを使ってテーブルに描いた、美しい天使が花を手に戯れているその絵に目が釘付けになった。
「ああ、そういえばそんな事言ってたわね。でもやってみないと分からないわよ? 結界を破れる確約は出来ないわ」
アクアは、言いながらその水で描いた絵に、惜しげもなくコップの水をぶっかけた。
「ああっ! もったいねえ、何で消すんだ!」
「な、何よ急に。描き終わったから消して、また新しいのを……」
そんな事を言い合っていた俺達に、職員が大声を上げた。
「破れるんですか!? デストロイヤーの結界を!?」
その言葉に、俺とアクアは冒険者達の注目に晒される。
「いや、もしかしたらって事で。確約は出来ないそうです」
慌てて言った俺の言葉にギルド内がざわつく。
そして……。
「一応、やるだけやっては貰えませんか? それが出来れば魔法による攻撃が……! ……あ、いやでも。巨大ゴーレム相手には、下手な魔法では効果が無い。駆け出しばかりのこの街の魔法使い達では、火力が足りないでしょうか……」
「火力だったら何の問題もねーよ、なあオメーら」
職員が再び悩み出したが、即座にみんちゃすが薄く笑いながらそう告げる。そしてある冒険者もそれに同意する。
「そうだな。火力持ちならいるじゃないか……頭のおかしい子が」
「そうか、頭のおかしいのが……!」
「おかしい子がいたな……!」
そして集まるめぐみんへの視線。
「……おい待て!? それが私の事を言っているなら、その略し方は止めてもらおう! ……さもなくば、いかに私の頭がおかしいかを今ここで証明する事になる」
「結局おかしいんじゃねーか……」
めぐみんが言って立ち上がるとみんちゃすは呆れ、冒険者達は一斉に目を逸らした。
ベルディアの罪は重い。
あいつがめぐみんを頭のおかしい紅魔の娘呼ばわりしてから、冒険者達の間にそのフレーズが定着したらしい。
ちなみにみんちゃすは密かにヤクザ魔法使いで定着しているが、確実にシバかれるので誰も面と向かってはそう呼ばない。
勢いで立ったものの、人々の期待を込めた視線を受けためぐみんはみるみる顔を赤くし、
「わ、我が爆裂魔法でも、流石に一撃では仕留めきれない……と、思われ……」
そうぼそぼそと告げて再び座った。
せめてあと一人、あと一人強力な魔法の使い手がいてくれれば……。
ギルド内の視線がみんちゃすに集まるのに、そう時間はかからなかった。みんちゃすはやれやれとため息を吐くと、
「……仕方ねーな。軽く死線を潜ることになるからできればやりたくねーが、
みんちゃすがTHE捨て身の無茶苦茶な作戦を言い切る前に、 突然ギルドの入口のドアが開いた。
「すいません、遅くなりました……! ウィズ魔法店の店主です。一応冒険者の資格を持っているので、私もお手伝いに……」
この作品のデストロイヤーはある魔法使いのせいで原作よりパワーアップしています。そしてその魔法使いは、かつて悪い魔法使いキールが師と仰いだ人物です。
さて、その傍迷惑な魔法使いとは一体だれでしょうね?