この武闘派魔法使いに祝福を!   作:アスランLS

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みんちゃす無双……もとい過労死回です。


機動要塞の脅威⑤

 

【sideカズマ】

 

「白蓮氷葬!」

 デストロイヤーから這い出してくるゴーレムやモンスター達をみんちゃすが次々と氷漬けにしていく中、俺は近くにいた冒険者達を集めていた。

「な、なあ……このまま此処にいたら不味いんじゃないのか?」

「…………多分だがこういった場合、このままだとボンッてなると思う」

 一人の冒険者が口にした予想に俺が同意すると、居並ぶ冒険者達の顔が引きつる。

 この巨大な要塞が爆発でもしたら一体どれほどの被害が出るのかわからんが、要塞の動力源すら知らない俺達にはこれ以上どうすることもできない。できる事と言ったら、もうとっとと逃げるぐらいで……。

 しかしウチの頑固なクルセイダーが、街を捨てて逃げてくれるだろうか? 

 まだ街に被害が出る規模の爆発が起きると決まった訳じゃ無いし、そこら辺を理由にあの頑固な女を説得出来れば……

 

「み、店が……。このまま街が被害にあったら、お、お店が、お店が無くなっちゃう……」

 

 それは、泣きそうなウィズの声。

 彼女はおそらく自分の魔道具店の事を言ったのだろうが……

『この機体は、機動を停止致しました。この機体は、機動を停止致しました。排熱、及び機動エネルギーの消費が出来なくなっています。この機体は……』

「白蓮氷葬-っ! ……流石にもう限界だな……次から次へと沸いて出て埒が明かねーし、さっさと内部に乗り込むか。……オメーらはどうするんだ? 判断が(おせ)ーんだよ、俺に続くか逃げるかとっとと決めやがれ!」

『雪月華』を鞘にしまいながらみんちゃすがそう吐き捨て、『エア・ウォーク』でデストロイヤーの内部へと侵入していくと、誰かがぽつりと呟いた。

「……やるぞ。俺は」

 それは、誰の呟きだったのだろう。

「……俺も。レベル30越えてるのに、なぜ未だにこの駆け出しの街にいる理由を思い出した」

 ……みんちゃす以外にも、そんな高レベルの奴がいたのか。

 だが気持ちは分からんでもない。

「むしろ今まで安くお世話になって来た分、ここで恩返し出来なきゃ終わってるだろ……」

 ………………。

 シンと静まり返る中。

 聞こえてくるのは……。

『この機体は、機動を停止致しました。この機体は…………』

 

 ―俺は拡声器を手に、大声を張り上げた。

 

「機動要塞デストロイヤーに、乗り込む人は手を上げろー!!」

 迷うことなく一斉に冒険者達が手を上げる中、アーチャー達がフックつきロープの矢を、デストロイヤーに向けて打ち上げた。

 狙撃というアーチャースキルは矢の飛距離を飛躍的に伸ばし、命中精度を引き上げる効果がある。スキルによって飛距離を強化された矢は、重い矢じりとロープを物ともせず、巨大なデストロイヤーの甲板にも楽に届いた。

 フック状の矢の部分がデストロイヤーの甲板部分の障害物に引っ掛かり、矢の後ろに付いたロープを引くとそれがピンと張られる。

 そして張られたロープに冒険者達が次々取り付き登って行く。

 鎧を着たままでロープを上るだとか、人間離れし過ぎだろとか、どこからそんな体力がとか、きっと今の彼らには言うだけ無粋なのだろう。

 やがて最初にロープに取り付いた冒険者が、いち早く甲板へとよじ登る。

 その後にも続々と、まるでこの日の為に鍛えてきたとでも言わんばかりに、彼らは異様な士気の高さで……

 

「「「乗り込めー!」」」

 

 冒険者達は次々とまるで無力な小村を襲う野盗か何かの様な奇声を上げて、巨大要塞へと乗り込んだ! 

「う、うわあ……。ねえカズマ、私、何かあそこに混ざるの怖いんですけど……。みんちゃすも行ったことだし、もう任せといても大丈夫よ。帰ろう? 帰って、また明日頑張ろう?」

 異様な熱気に包まれる冒険者達を見て、むしろ冒険者達に怖気付いたアクアが袖を引っ張る。

 だがそんな訳にもいかない。

 あそこでは俺の同志、仲間達が戦っている。

「ここで帰れる訳がないだろ、バカかお前は。お前にはあの、みんちゃすのように馬鹿げた強さなどなくても、街を守るため果敢に乗り込むあの勇者達の姿が見えないのかよ。お前の仕事はこれからだろうが。なんちゃって女神じゃないなら、あの勇者達を癒してやれ」

 俺はアクアにそう告げると、既に要塞に乗り込んで行った連中の後を追う。

 周りでロープつきの矢を放っていたアーチャー連中も今では既に要塞だ。

「ダクネス、お前は鎧が重過ぎて流石に上れないだろ! めぐみんはそのまま休んでろ! ウィズは好きに任せる! アクア、お前はやらかした張本人なんだからついて来い!」

「ねえ待って! だから、私今回はまだ何もしてない!」

 俺がロープに取り付くと、アクアも泣きそうな顔をしながらも後を付いてくる。そしてウィズもロープを伝い、そのまま後を付いてきた。

 

 

 

 俺達が甲板へと上がると、まず目についたのはその広さだ。明らかに外観よりも遥かに広大で、一種のダンジョンみたいになっている。

 この兵器の開発に携わったのは最強と謳われたほどの魔法使いらしいので、多分空間を拡張させる魔法的なものをかけているのだろうか。

 そしてその次に目についたのは……

「ゴーレムを囲め囲め! 大勢でロープ使って引きずり倒せ! 倒れた所をハンマーで叩けっ!」

「コカトリスだ! 石化光線には注意して袋叩きにするぞ!」

 それはもう、どちらが侵略者か分からない状態だった。

 既に多くの小型ゴーレムや戦闘用のゴーレム、その他様々なモンスター達が、駆け出しの多いはずのこの街の冒険者達に破壊されていた。

「デカイのがそっち行ったぞーっ!」

 その声に振り向くと、そこには二体の戦闘用のゴーレム。

 まるでひと昔前のブリキのおもちゃのようなフォルムの、無骨で大きい四角く角ばった人型のゴーレムだ。それら二体ともがこちらに向かって来こようとしたが、 

 

「ぶっ潰れろ! 大般若鬼哭爪!」

 

 その内の一体が突如空中より飛来したみんちゃすに、バターよろしく頭を引き裂かれて崩れ落ちた。

「あ、あの堅そうな装甲を素手で……!?」

 多分魔法で強化してるだろうとはいえ、相変わらず魔法使い離れ……というより人間離れしたパワーだ。

「さーてと、もう一匹も……」

「待てみんちゃす!」

 実に良い笑顔で続いて二体目を狩ろうとしたみんちゃすを、俺は手で制した。 

 ふっふっふ……せっかくだし、対ゴーレム用の秘策を披露してやろう。

「おいお前ら、いい物見せてやる。スキルの有用な使い方って奴だ」

 俺は手をわきわきさせて、ゴーレムに向かって手を上にして突き出した。

 相手がゴーレムなら、部品を奪っちまえば動けまい。盗む系のスキルを機械に使うと、即死攻撃になるって相場は決まってるのだ。

「『スティール』!」

「あ、ちょっ! カズマ、待っ……」

 何をする気か察したのか、アクアが鋭く叫びを上げ……

 俺の突き出した手の上には、巨大なゴーレムの頭が乗っていた。勿論頭を盗られたゴーレムは、途端に動かなくなる。よし、計画通り。

 スティールによってしっかりと俺の右手の上に乗っかった、かなりの重さを誇るゴーレムの大きな頭は、

 

 そのまま重力に従って、右手を下敷きにして地面に落ちた。

 

「っっっぎゃぁぁあああ!? 腕が! 腕がああああああっ!」

「何がしてーんだよオメーは……」

 ドヤ顔だった俺の表情が泣き顔に変わる。みんちゃすは呆れながらも、右手を挟んでるゴーレムの頭をひっ掴んでどけてくれた。

「ああっ! 大丈夫ですかカズマさん!? 重い物を持っているモンスター相手には、スティール使っちゃいけませんよ!」

「もしかして俺のせいで軽いと勘違いしちまったか? だとしたら何かすまんな……」

 みんちゃすが気まずそうに頬を掻き、ウィズが俺を心配する中、俺の右手の具合をアクアが見る。

「アクア……これ折れてる。絶対折れてるよ」

「ヒビ一つ入ってないわよ。一応ヒールぐらい掛けてあげるけど、あんまり調子に乗ってバカな事しないでね?」

 くっ、屈辱だ! 

 

 

 

「ぐあぁっ!?」

「オラオラオラ-って多っ!? ちょ待っ……うわああああ!」

 勇猛果敢に進撃していた冒険者達も、あまりの多勢に徐々に押されていく。

「……というかモンスター多過ぎだろ!? こいつらどっから沸いて出てくるんだ!?」 

「うるっせぇ黙ってろバカズマ! 気が散って感知が鈍るだろうが! ただでさえ魔力感知苦手なんだよボケ!」

 俺達に向かってくるモンスターを次々と葬りながら、みんちゃすが俺に怒声を飛ばした。

 何を探しているのかは知らないしバカズマ呼ばわりは非常に遺憾だが、無茶苦茶怖いので大人しく従ってお口チャックする。

 すると、ウィズがおずおずとみんちゃすに話しかける。

「あ、あのみんちゃすさん」

「あ‘’!? 聞こえてなかったのかテメー、集中してんだから黙らねーと-」

「お、おそらくは召喚陣はあちらの方角です」

「……そういやリッチーだったなアンタ。魔力感知ひとつ取っても、魔法使いとしては落ちこぼれの俺とはワケが違うって訳ね」

 苦々しそうに肩を落とすみんちゃす。落ちこぼれ云々は置いといて、まずお前格好以外に魔法使い要素ほぼ無いのはツッコんじゃだめか? ……まあそれはさておき、

「……召喚陣? 何だそれ?」

「文字通りモンスターをこの場に呼び寄せる魔方陣だ。デストロイヤーが止まった直後にモンスターが沸いて出たことから、おそらくは設置型。普通だったら設置型の魔方陣は事前に注ぎ込んだ魔力が尽きれば自然消滅するが、デストロイヤーの動力源からエネルギーが止めどなく供給されることで、一度発動すれば魔方陣が破壊されるまで半永久的に発動し続ける仕組みみてーだ」

 つまりこのモンスター達は、倒しても倒しても無限に涌き出てくるのか。となるとその召喚陣を破壊しにいかなければならないのだろうが……

「なあ、この要塞ってもうすぐ爆発するんだろ? だったら先にそっちを何とかした方が良くないか?」

 そんな俺の提案に、ウィズは残念そうに首を振る。

「あまりお勧めはできません。設置型の召喚陣は大抵が防衛用で、それをどうにかしない限り先へは進めないよう構築されてる可能性が高いので。……凄腕の魔法使いが防衛目的で設置したのなら、確実にそういう構築にするでしょう」

「だ、だったらアクアに解除してもらえば-」

「正しい手順で解かないと何かしらの罠が発動する可能性が高いから、正直オススメはできねー。最悪強引に解除した途端ドカンだ」

 おいおいマジか、あんまり悠長にしてられないってのに……。

 そんな俺達の不安を察したのか、みんちゃすは余裕そうに笑みを浮かべながら構えを作る。

 左手を天に、右手を地に向けた格好……みんちゃすが口上の際によく使う構えだ。

「そう焦ることはねーよ。時間がねーなら速攻で片付けりゃいい。ついてきな、召喚陣の所まで最短ルートて押し通るぞ……我が格闘術の極致にして我が覇道の原点、『赤碧覇闘乱舞』でな!」

 

 

 

 

 そこから先はまさに一方的な蹂躙劇。

 

「ふは、はーっははは! アーッハッハッハッハッハ! フハハハハハハハ!」

 

 際限なく召喚され襲いかかってくるモンスター達を、やたらとハイテンションなみんちゃすが片っ端から消し飛ばし、召喚陣まで一直線に進んでいく。

 乗り込んだメンバー全員がその後ろをついていく中、一人の冒険者がおずおずと俺に訪ねた。

「な、なあ……あいつって、ホントに魔法使いなのか……?」

「そんなことは俺が聞きたい」

 みんちゃすの拳が熊みたいなモンスターの腹をぶち抜き、足が狼モンスターの頭部を消し飛ばす。鬼のようなモンスターが後ろから棍棒でみんちゃすを殴りつけるが、みんちゃすは痛がる素振りすら見せずにその鬼の首を片手で握り潰す。その凄惨な光景に怖じ気づいたガーゴイルを掴んで、地面に叩きつけて圧死させる。ケルベロスらしきモンスターが三つの首で一斉に噛みつきにかかるも、みんちゃすが凄まじい速度で繰り出した連続の蹴りに、三つとも頭部を消し飛ばされる。鳥型モンスターが上空から奇襲を駆けるも、やはりみんちゃすは防ぎも避けもせずまともに受け、ダメージを受けた様子もなくその鳥を掴んで力任せに引き千切った。

 まさにみんちゃす無双。

 いかなる敵が立ち塞がろうとも気にも留めず、全てを力づくで捩じ伏せ進撃する究極の脳筋戦法。生半可な敵ではたとえ何十何百何千集まろうが、その覇道を止めることは敵わない。

 並外れた身体能力とダクネスに次ぐ防御力を併せ持つみんちゃすだからこそできる芸当だ。……やっぱり魔法使いのスタイルとしては明らかに間違ってる気がするが。

 結果、あっという間に魔法陣が敷いてある部屋が見えてきた。

「おっ、ようやく見えてきたな。それじゃあ一気に片付けるか……『サンダー・エッジ』!」

 みんちゃすが両手を大きく広げると、十本指先からそれぞれ雷の刃が伸びていく。

 

「紅魔死滅爪・雷轟!」

 

 そしてみんちゃすが両腕を振り回すと、それに沿って雷の刃が鞭のようにしなりながら、さらに物凄いペースでモンスター達を抉り殺していった。おお、一気に三十体は殺ったな……。

 物理的な刃じゃないからまともな手段ではガードできないし、あの攻撃範囲じゃ回避も尋常じゃなく難しいという、例に漏れずとんでもなく理不尽な技だ。

 

『【サモン・ゲート】への接近を確認。対侵入者用防衛モンスター、ヤマタノオロチを解凍』

 

 召喚陣が敷いてある部屋にみんちゃすが突入する直前、再び鳴り響いたアナウンス音と共に、その名の通り八つの首を持つ大蛇が召喚陣から現れた。

 ゲームとかでも大抵ボスキャラとして出てくるようなモンスターだが……今まで無限に沸いて出てきた奴等とは威圧感がまるで違う。冬将軍や魔王軍幹部とまではいかないが、相当強力なモンスターなのだろう。

 こいつは流石にみんちゃす一人に任せるわけにはいかないな……ここは沢山いる冒険者達と協力して、みんちゃすのバックアップを-

 

「紅蓮百鬼夜行!」

 

 みんちゃすは『九蓮宝燈』を抜刀し、紅蓮の闘気(クリムゾン・オーラ)を纏わせ高速斬撃をぶっ放した。放たれた斬撃はヤマタノオロチの首を半数、一撃のもと消し飛ばす。

 

「続けていくぜ! 紅蓮百鬼夜行!」

 

 返す刀で再びみんちゃすは高速で『九蓮宝燈』で高速斬撃を繰り出し、ヤマタノオロチは残った首も消し飛ばされてしまった。

 

「こいつでシメーだ! 紅蓮百鬼夜行!」

 

 さらにみんちゃすは召喚陣にも高速斬撃を放ち、部屋ごと跡形もなく葬り去った。

「……っ……! 流石に三連発は、しんどいな……」

 流石に無茶をしていたのか、息絶え絶えになったみんちゃすがその場に片膝をついてしゃがみこむ。それと同時にデストロイヤー内部の広大な空間が本来のサイズまで縮小し、一つの建物が現れた。

 どうやらあの召喚陣は空間拡張の役割も兼任していたらしい。そしてこの建物はおそらくデストロイヤーの中枢……動力源、そしてこの要塞を乗っ取ったと言われている、責任者が立て籠ってる場所なのだろう。

 みんちゃすは息を懐からポーションを取り出して一気に飲み干し、それをポイ捨てした。

「ちっ、闘気で消耗した体力はポーションじゃ元に戻らねーんだな……。まあいいか、それじゃあ突入するぞオメーら」 

「「「は、はいっ、わかりましたみんちゃすさん」」」

「ウィズはともかく、なんでオメーらまで敬語なんだよ……」

 

 あんなえげつないもん見せられたら誰だってこうなるわ! 

 




紅魔覇闘乱舞……みんちゃすがこれまで研鑽してきた様々な格闘の技を次々と繰り出し、いかなる敵をも真っ向から完膚なきまでに叩き潰し葬り去る。要するに肉弾戦によるごり押し。

紅蓮百鬼夜行……紅蓮の闘気を纏わせて高速剣撃を放つ。火焔竜演舞の闘気バージョン。

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