この武闘派魔法使いに祝福を!   作:アスランLS

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デストロイヤー戦もいよいよクライマックスです。


ここでこの作品のデストロイヤーのスペックをおさらい。



機動要塞デストロイヤー
・爆裂魔法でも足を破壊するのが精一杯の規格外の大きさ
・馬に匹敵するスピード
・素材は物理攻撃に対して凄まじい耐性(かの白騎士ですら破壊できないほど)を持つ特殊金属
・あらゆる攻撃魔法を受け付けない結界
・魔力に反応して放たれるレーザー弾幕
・破壊されるまで無尽蔵にモンスターを召喚する魔方陣
その他色々……


逆に、こんなのと同格扱いの『白騎士』はどんだけ強いんでしょうね?






機動要塞の脅威⑦

【sideカズマ】

 

「これがコロナタイトか。……ってか、これどうやって取るんだよ」

 そこは機動要塞の中枢部。

 大人数で行ってもしょうがないと皆に任され、俺とみんちゃすとアクアとウィズの四人で入った部屋の中央には、鉄格子に囲まれた小さな石……コロナタイトが、何やら複雑な魔方陣の上に鎮座し、燃えるような赤い光を途切れることなく放ち続けている。

「……確証はありませんがあの魔方陣はおそらく、コロナタイトが絶えず放出する炎熱エネルギーの一部を、魔力へと変換するよう作られてるのでしょうね」

「なるほどな。俺達がデストロイヤーを行動不能にしたせいで、動力に回してた分のエネルギーが行き場を失い破裂しそうになってるわけか。……逆に言えばあれを処理すれば解決と、実にわかりやすいな」

 確かにわかりやすいが、こんな頑丈そうな鉄格子に囲まれていては取り出せないぞ。攻め込まれた時、動力源を持ち去られないための最後の砦ってわけか。

「どうしようかしらね」

「……よし任せろ。どうやらこの牢はアダマンタイトでできてるみてーだが、俺なら何とか-」

 みんちゃすがいつも通り力技でどうにかしようとするが、俺も解決策が閃いたので一歩前に出る。

「もうヘトヘトのみんちゃすにそんな無理させなくても、こうすりゃいいんじゃないのか? 格子なんて関係ない。この距離なら……『スティール』ッ!」

「ああっ! カ、カズマさんっ!?」

「あ、バカっ!?」

 ウィズやみんちゃすが何かを叫ぶ中、俺の予想通りコロナタイトは格子をすり抜け、俺の手の中におさまった。

 

 赤々と燃えながら。

 

「あああああああづああああ!!」

「だから何がしてーんだオメーは!?」

「『フリーズ』! 『フリーズ』!」

「『ヒール』! 『ヒール』! ……ねえ、バカなの? カズマって、普段は結構知恵が働くって思ってたんだけれど、さっきのゴーレムの件といい、実はバカなの?」

 くっ、悔しい! みんちゃすにはともかく、アクアに言われて何も言い返せないなんて! 

 大慌てで冷やして剥がしてくれたウィズの足元に、燃え盛るコロナタイトが転がった。それは一瞬は冷まされたものの、また再び赤々と光り出した。

「あわよくば回収できねーかと期待したんだが、コロナタイトの鎮静方法なんざ知らねーから無理だな。……さて、それはともかくどうしたものか」

「マズイですね、時間がないですよ。そろそろボンッていきそうです。……これ、どうしましょうか……」

 悩むみんちゃすやウィズの足元では、コロナタイトがどんどんその輝きを増していた。

 いつの間にか機械的なあの警告の声も止んでいる。この石が要塞内の全ての動力源だったからだろう。魔力結界やらレーザー弾幕やら召喚陣やらその他諸々のエネルギーをこれ一つで賄えるとか、伝説級と称されるだけのことはある。

 こんな物の処理など俺には……いや、アクセルチートキャラコンビ(ウィズとみんちゃす)が対処に困ってる以上、この街の駆け出し冒険者なんかにはどうにもならないレベルの話だ。

 これほどの要塞を動かす、燃え盛る石をどうにかできるのは……そうだ、困った時の神頼みしかない! 

「おいアクア、お前これを封印とかってできないか? 良くあるだろほらあれ、女神が悪しき力を封印する的なやつ」

「良くあるけど! それはゲームの話でしょ!? ちょっとウィズ、あんた何とか出来ないの!?」

 無理難題を日頃付け狙っていたリッチーにあっさり押し付けた自称何とか。だが、無理ですと言うかと思ったウィズは……

「できない事はないですが……。それには魔力が足りません……。みんちゃすさんはもう限界なようですし……あの、カズマさん、お願いが!」

 そう言って、真剣な表情で俺の前に顔を寄せた。

「な、何でしょう?」

 ウィズは、切羽詰まった様に、俺の頬を両手の平で挟みながら。

 

「吸わせてもらえませんか!?」

「喜んで」

 

 何を、なんて野暮は言わない。

 こんな時に!? なんて言わない。

 俺はこんな状況でで動揺したりするヘタレや、すっとぼけたりする様な鈍感系じゃない。

「ありがとうございます! では、参ります!」

 否が応でもウィズの艶やかな唇が目に入る。

 お父さん、お母さん、大人になり……ま……? 

 

「カズマさん、すいません! ドレインタッチー!」

「あああああああ!」

 

「吸い過ぎだバカヤロー!?」

「それ以上はカズマさんが干物になっちゃう!」

 アクアとみんちゃすが慌てて止める中、俺が意識を失う前にウィズがその手を離してくれた。

 いや、どうせこんなオチじゃないかって予想はしてたけれども! 少しは夢見たっていいじゃないかチクショー! 

「これでテレポートの魔法が使えます!」

「魔力足りてねーなら先言えや! こっちは念のために高純度のマナタイトいくつか持ってきてんだよ!」

「えぇっ!? そ、そうなんですか!?」

 しかも俺吸われ損かい!? みんちゃすも、お前こそそういう大事なことは先言えよ! 

「き、気を取り直して……問題は、これをどこに送るかなのですが……。私のテレポートの転送先は、アクセルの街と王都とダンジョンなんです。これ、どうしましょうか」

 ふむ……つまり、この石をどこかにテレポートさせようってのか。

「ダンジョンとやらに送れば良いんじゃないの?」

「そ、それが……。私が転送先で登録しているそのダンジョンは、魔法の素材集めにちょくちょく利用していた、世界最大のダンジョンで……」

「あーあそこかー……俺もちょくちょく鍛練やレベル上げに利用してるけど、入り口付近にはダンジョンを名物とした一大観光街ができてるんだよなー……」

「なんて迷惑な話なんだ!? ……っておい、ヤバいぞ!? 石が赤を通り越して、白く輝き出してるんだけど!」

「ちぃっ! ……唸れ『雪月華』!」

「フリーズ! フリーズ! フリーズ」

 アクアとウィズがオロオロする中、俺とみんちゃすはありったけの冷気を浴びせて沈静化を図るが、それでも申し訳程度の効果しかない。

「一応、一つだけ手があります! ランダムテレポートと呼ばれる物で、転送先を指定しないで飛ばす方法です! ただ、これは本当にどこに転送されるかわからないので、転送先が海や山なら良いのですが、下手すれば人が密集している場所に送られることも……」

 ウィズが眉根を寄せながら、泣きそうな声で言ってくる。

「世の中ってのは広いんだ! 人のいる場所に転送されるよりも、無人の場所に送られる可能性の方が確率は高い! 大丈夫、全責任は俺が取る! こう見えて俺は運が良いらしいぞ!」

「だな。少なくとも俺がマナタイトを媒介に転位させるよりは安全な筈だろうし。幸運値低い俺がやればおそらく、王都辺りに飛ばしてドカンだろうからな……」

 俺とみんちゃすの言葉にウィズが頷き、声高に魔法を唱えた。

 

「『テレポート』ーッ!」

 

 

 

「どうなった? コロナタイトはどこに行った? この近くじゃないだろな!?」

 俺の言葉にアクアとウィズは不安そうに顔を見合わせるが、みんちゃすはニヤリと笑ってサムズアップした。

「心配すんな。あんなとてつもないエネルギーの塊が近くにあれば、俺の感知にもひっかかる筈だ。転位先は少なくともこの近くじゃねーよ」

 野生児みんちゃすの説得力のある言葉に俺達も安堵する。それじゃあさっさとこんな所からはオサラバだ。

 俺達が部屋から出ると機動要塞の警報も止んだことから、他の冒険者達は引き上げに掛かっていた。皆が続々とロープを伝って降りる中、そこに残されていたのは俺達のみとなっている。

 あの研究者の骨も地上に降ろされ、木箱に収められていた。

 あんないい加減な奴でももう仏様だ、きっと街の墓地にでも埋葬されるのだろう。

 俺達も地上に降りる(みんちゃすロープを使わず、飛び降りて普通に着地していた。日を追うごとにアイツが本当に人間なのか疑わしくなってくるな……)と、ダクネスやめぐみんの下へと向かった。

 俺は木陰で休んでいためぐみんを背中におぶると、すっかり戦勝ムードで浮かれる冒険者達の間で、未だに街の前に仁王立ちしたままのダクネスの下へと近寄った。

 浮かれる皆とは裏腹に、ダクネスは未だ険しい顔で機動要塞を睨んでいる。

「おいダクネス。無事デストロイヤーの心臓部を止めてきたぞ。……はぁー……流石に疲れた。屋敷に帰って、今日ぐらいはちょっと豪華な飯でも食おうぜ」

 そんな俺の言葉に、ダクネスは首を振りながら小さく呟いた。

「……まだ終わっていない。私の強敵を嗅ぎつける嗅覚が、まだ香ばしい危険の香りを嗅ぎとっている。……あれはまだ、終わっていないぞ!」

 

 ダクネスの言葉に反応するかのように、機動要塞そのものが振動音と共に震え出した。

 

「どうなってんの? なあ、アレ、どうなってんだ!?」

「おおお、落ち着いて! こういうときはアレよ! 導火線の赤か青の、どっちかを切るってヤツがあるはずよ!」 

「導火線が何かは知らんが、その二択なら青だな。赤を切るなんて俺達紅魔族が許さねー」

「いやそりゃ爆弾の話だろ! みんちゃすも乗っかるな! ……というか、デストロイヤーのコアを抜いたのに、なんで動き出してるんだよ!?」

 他の冒険者達も異変に気づいたらしく、慌ててデストロイヤーから距離を取る。

「ど、どうしましょう! これまで内部に溜まっていた熱が、外に漏れ出そうとしてるんです!」

「……どうやらあの前面部の、爆裂魔法の余波でできた大きな亀裂から熱が漏れ出してるようだな……流石にもう俺『雪月華』を使える余力はねーし、このままだとあそこから街を目掛けて-」

「聞きたくない亀裂からなんて知らない! ……カズマさーん、カズマさーん! はやく、はやく何とかしてえーっ!!」

 みんちゃすの言葉をアクアが遮り、無茶な要求を吹っ掛けてきた。いやお前、これは流石にどうしようも……

「ま、魔力を! 誰か魔力を分けて下さい! 爆裂魔法を、あの亀裂に打ち込んで、爆発を相殺します!」

 唐突に近くの冒険者にそんなことを言い出したウィズに、俺は慌てて制止する。

「お、おいウィズ! いきなり何言い出すんだよ!? 他の冒険者達はお前かドレインできるって知らないんだぞ! リッチーだってバレたらどうする気だよ!」

「で、でも! 魔力を吸える私しか、アレを止めることは……!」

 ウィズがそこまで言いかけたのを、手を突き出して遮った。

「以前教えてくれただろ? 俺ならリッチースキルを使って調べられても大丈夫だし、一旦俺が誰かから魔力を吸ってそれをウィズに渡せばいい」

 ドレインタッチは魔力や体力を吸うだけではなく、相手に与えることもできる。

 魔力、魔力……。

 みんちゃすはもう限界だし、冒険者の中で特に魔力が大きそうな奴と言えば……

「ねえダクネス、いつまでも頑固な事言ってないで、早く逃げましょう! そして、一からやり直しましょう! ……ちょっと待って? よく考えたら、私達の借金はこの街のギルドが立て替えているんだし、いっそこのままボンってなっちゃえば-あああああああああーっ!?」

 何やらろくでもない事を企んでいるアクアの手を握り、魔力を搾り取る。

 不意打ちのドレインタッチに、アクアは抵抗する間もなく悲鳴を上げた。

「ちょっとこのヒキニート! この非常事態に何すんのよ!?」

「非常事態だからだよ!? いいか、よく聞け! 今からお前の魔力をウィズに分けて、爆裂魔法でデストロイヤーを撃ってもらう! それで、多分いけるはずだ!」

「嫌よ! なんで私の魔力をアンデッドなんかに! ……だいたい私の神聖な魔力をウィズに大量注入なんかしたら、この子きっと消滅しちゃうわよ!」

 アクアの言葉にウィズの方を向くと、ウィズが青い顔でこくとくと頷いた。

 となると、残された手段は-

 

「めぐみん、オメーの出番だ」

「言われるまでもありません……真打ち、登場」

 

 みんちゃすの言葉に呼応し、めぐみんが俺の背中から降り立った。

 

 

 

 

「ねえ、吸い過ぎないでね? 吸い過ぎないでね!?」

「わかってるわかってる。宴会芸の神様の前振りなんだろ?」

「芸人みたいなノリで言ってるんじゃないわよ!?」

 アクアが俺の前に正座しいつでも魔力を吸われる体勢になり、隣ではめぐみんがいつでも魔法を放てるようにデストロイヤーに杖を向けていた。

「ドレインタッチは皮膚が薄い部分からの方が、より多く吸収できますしより多く多く送れます! それから、魔力の源である心臓部に近い位置からドレインすると効率が良いですよ!」

 ウィズが真面目な顔で教えてくれた。

 ……なるほど、皮膚の薄いところか。

「いつでも準備は良いですよ! 日に二回も爆裂魔法を撃てるなんて、今日わひゃああああああ!?」

 めぐみんの背中に右手を入れると、めぐみんは背筋を伸ばして声を上げた。

「いきなり何するんですか!? 心臓止まるかと思いましたよ! 何ですか、セクハラですか? この非常事態にセクハラですか!?」

「バカ、そうじゃない! 今のウィズの言葉を聞いてなかったのかよ! これはセクハラじゃなく効率を考えたドレインだ! 心臓に近くて皮膚の薄い場所って言ったら、背中とかが良いだろうが! ……あっ、ちょっ、こらっ! おいアクア、抵抗するな! お前、こっちには街を救うっていう大義名分があるんだぞ! 前に手を突っ込まないだけありがたいと思え!」

 俺の発言を受けて、アクアが手を背中に入れさせまいと激しい抵抗を見せていると……

 

 俺達の目の前スレスレを、凄まじい勢いの炎の斬撃が通りすぎた。

 

 飛んできた方角を恐る恐る見ると、怖いくらい真顔で据わった両目を輝かせて、『九蓮宝燈』の切っ先をを俺達に向けているみんちゃすがいた。

「時間ねーっつってんのに遊んでんじゃねーよ、グズグズしてると次は当てるぞコラ。魔力限界だがまだマナタイトがいくつかある、テメーら消し炭にするなんざわけねーんだからな」

 脅迫以外の何物でもないみんちゃすの言葉に、俺達は黙って頷くしか無かった。

 だって怖いもん死ぬほど。

 

 

 

 妥協案として俺はめぐみんとアクアの首根っこを掴んでいた。アクアの魔力が俺の両手を媒介に、めぐみんの体内へと流れ込んでいく。

「ヤバいです……これはヤバいですよ! アクアの魔力はヤバいです! これは、過去最高級の爆裂魔法が放てそうです!」

「ねえめぐみん、まだかしら。もう、結構な量を吸われていると思うんですけど」

 アクアの言葉の通り、既にめぐみんにはとてつもない量の魔力が注ぎ込まれていた。

 腐っても女神と言うべきか、アクアの魔力はどれだけ吸っても尽きる気配すら無い。

「もうちょい、もうちょいいけます……あっ、ヤバイかも……ヤバイです……!」

「おい、ヤバイってなんだよ! 破裂とかしないだろうな!」

 物騒な事を口走り始めためぐみんが、左目の眼帯をむしり取ると、杖を構えて魔法を唱える。既に聞き慣れた爆裂魔法の詠唱を終え、めぐみんの杖に既に何度も見た爆裂魔法の光が形成されると、おもむろにみんちゃすが近寄ってきてそれに手を添える。

「みんちゃす、何を……?」

「ちょっと思いついちまったんでな……俺の残りの生命力をギリギリまで闘気に変えて、こいつに注ぎ込んで合成する」

 添えられた手が紅蓮に染まったかと思うと、爆裂魔法の光へと吸い込まれていく。

「お……おおおおお! 感じます……我が爆裂魔法が、更なるステージへと駆け上がるのを感じますよ!」

「がはっ……合成、完了……! 今だめぐみん……やっちまえ……!」

 体力を使い果たしたのかその場に倒れ付しながら、みんちゃすはめぐみんに合図を出す。

「感謝しますよアクア、カズマ、みんちゃす! 行きます、ウィズを越えるべく更なる領域へと進化を果たした我が爆裂魔法……名付けて」

 

「「紅蓮爆裂魔法……」」

 

 めぐみんとみんちゃすが同時にそう呟くと、その名の通り紅蓮に染まった杖先の光が、今にも弾け飛びそうなデストロイヤーの大きな裂け目に向けられる。

 紅い瞳を輝かせ、負けず嫌いのアークウィザードが、張り裂けんばかりの声で魔法を唱えた。

 

「『クリムゾン・エクスプロージョン』──ー

 ッッッ!」

 

 

 

 その爆裂魔法の凄まじさは、爆裂ソムリエの俺をして100点を軽く越える点数を叩き出し、それを受けたデストロイヤーは跡形も無く灰塵に帰した。




紅蓮爆裂魔法……爆裂魔法に紅蓮の闘気を組み込んだ合体魔法。みんちゃすは爆裂魔法を使えず、めぐみんは闘気を使えないので、この二人が力を合わせて初めて使用可能となる。威力、攻撃範囲共に通常の爆裂魔法を凌駕する。

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