この武闘派魔法使いに祝福を!   作:アスランLS

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再びミツルギメインの話です。
誰得感ハンパないですね。


【幕間】続・魔剣の勇者と竜帝

【sideミツルギ】

 

 僕の名前は御剣響夜。女神アクア様により魔剣グラムを授かり、魔王を倒す使命を抱きこの世界へと転生した勇者だ。

 現在僕は仲間のフィオやクレメアと共に、アクセルの町から遠く離れた地、『竜の渓谷』にて……

 

「はぁ……はぁ……」

「も、もうダメ……死ぬ……」

「待ってよ二人ともぉぉぉ……」

「シャキッとせんか馬鹿者共! つらく苦しい時こそ心を強く持て!」

 

 ……魔王軍幹部・竜帝ティアマットに、修行と称してひたすら走り込みをさせられていた。

 僕達がティアマットに敗北し殺されかけたところを、突如現れた純白の騎士に助けられ事なきを得たが……意識を取り戻した僕達にその騎士は開口一番、

 

『貴様達にはしばらくティアに師事してもらう。敗北した貴様らに拒否権は存在せんので粛々と受け入れろ』

 

 これである。清々しいほど横暴な言い分なので当然僕達は猛抗議したのだが、

 

『そうか、ならば選べ。私の言うことに従うか、その魔剣とやらをへし折られるか……両腕を切り落とされるかの3択だ』

 

 と、純白に輝く剣を突き立てられながらそう脅された。その際に涼しい顔のまま浴びせられた殺気から、この女性が冗談を言っている訳ではないことと、その気になれば一瞬で僕達三人の首を切り落とせることを嫌でも理解させられた。

 それでも『人類の敵である魔王軍、その幹部に師事するなんて……』と苦し紛れに言えば、

 

『ならば問題は無い。こやつは別に魔王に忠誠など誓っておらん。ただ己が主の命で結界の維持だけ引き受けているだけの、言わばなんちゃって幹部に過ぎん。手にかけた人間は何人かいるが、そやつらは皆賞金目当てで首を取りに来た命知らず共だ』

 

 何をもって問題無しと判断したのか、手をかけてるじゃないかなどツッコミ所山積みだが、これ以上抵抗すれば本気で腕を切り落とされかねなかったので、やむなく承諾する。

 憤懣やる方無いが、僕は魔王を倒すまで死ぬ訳にはいかないし、冒険者もやめるわけにはいかない。

 ……で、肝心の修行内容がどうして走り込みオンリーなのかというと、技術以前に僕達は基礎体力がまるでなっていないらしく、最低限の体力をつける必要があるとのことだ。

 僕は前世ではサッカー部に所属していたので基礎体力にはそこそこ自信があったのだが、今のままでは魔王城へ攻め入っても、魔王に辿り着くことなくガス欠するすると断言された。ちなみにクレメアとフィオは問題外という評価。

 しかも基礎体力は力や敏捷などとは違いレベル上げでは身に付かず、こうして地道に鍛えるしかないとのこと。ステータスに恵まれた者ほどそれを疎かにしがちで、それがこれまで魔王軍に攻め勝てていない要因の一つらしい。そう言われるとやらないという選択はできないが、1ヶ月ずっと走り込みオンリーは流石にきつい……。

 

 

 

「ふむ……ようやく必要最低限の基礎ができてきた、と言ったところか」

 数十キロのランニングルートを走り抜き、死屍累々に横たわる僕達を見下ろしながら、ティアマットは満足そうに頷く。

「では明日より本格的な訓練に入る。剣を使うミツルギは明日以降もこの場所だが……クレメア、フィオ、受け取れ」

 ティアマットはおもむろに懐から二つの封筒を取り出し、クレメアとフィオに一つずつ手渡した。

「……? 何よこれ?」

「生憎と私は剣以外の武器を扱ったことがない。故に剣しか扱えんのでランサーや盗賊に教えられることは精々基礎鍛練までだ。その封筒には明日以降お前達が鍛練を積む場所と、必要になるであろう物をまとめた書類が入っている。蛇の道は蛇、お前達に合った指導者の元で研鑽を積んでこい。……私の知る限り最も適任である人物に委託しておいた」

「ちょちょちょ、ちょっと待って! 何よそれ!?」

「私達にキョウヤから離れろって!? ふざけんじゃないわよ!」

 物凄い勢いで喰ってかかる二人を、ティアマットは冷めた目で見据えながら。

「そうか……つまりお前達はこのまま、金魚のフンに甘んじるというわけだな?」

「「っ……!?」」

 突き付けられた言葉に二人は呆然として固まる。

「先日の一戦でお前達三人の実力は大まかに把握したが……お前達二人とミツルギの実力には決して小さくない隔たりがある。今の段階でも強敵との戦いになれば、精々サポート程度しかできないのだろう?」

「う……」

「そ、それは……」

 言い返せない二人を一瞥してから、ティアマットは僕に指を突き付ける。

「この私が鍛える以上、こいつを今の半端な強さで留めるつもりは毛頭無い。最低でも最上級冒険者程度まで引き上げるつもりだ。……そうなればお前達は、単なる足手まといに成り下がるだろうな」

「おい、流石に言い過ぎじゃ-」

「黙れ小僧。ただの仲好しごっこはパーティーとは言わん。……例えばそうだな、お前達の力関係が今以上に大きく開いた状態で、魔王城に攻め込めばいったいどうなると思う?」

 ど、どうなるってそんなの……

「まさか貴様、魔王軍は聖人君子の集まりだとでも思っているのか? 他人数との戦いの定石に則り、まず間違いなく弱いこいつら二人から狙われるだろう。お前が勇者を名乗るのなら、危機に瀕した仲間を捨て置くことなどできまい。お前達二人を庇い敵の強靭に倒れ、ミツルギを失えば魔王軍の精鋭共にお前達が太刀打ちできる筈もなく……結局の所パーティーは全滅だ」

「「う……」」

 そしてティアマットは再び二人に向き直る。

「背を預け合ってこそ真の仲間だ。今後もミツルギの仲間でいたいのなら、こいつが安心して頼れるくらいに強くなるがいい」

 ぐっ……どうして当の魔王軍幹部本人に、そこまで言われなければならないのか非常に遺憾ではあるが、言っていることは正論だ。クレメアもフィオも僕にとって大切な仲間であることは間違いないが、魔剣を持つ僕と実力が離れてしまっているのは事実だ。少なくともティアマットは僕がどれだけ強くなろうと、この二人を庇いながら倒せるとは到底思えない。

「~~~っ! わかったわよ! 行けばいいんでしょ!」

「見てなさいよ! アンタをけちょんけちょんにやっつけられるくらい強くなってやるんだから」

 そこまでいくと僕より強くないか? 

「「ただし!」」

 二人は声を揃えて指を突きつけ、

「私達がいないのを良いことに、キョウヤに色目使ったらただじゃおかないからね!」

「そうよ、そうよ! もしそんなことしたら、『魔王軍幹部の竜帝は淫乱売女』ってあちこちで触れ回ってやるんだから!」

 クレメアとフィオは普段そこまで仲が良いわけないのに、僕が絡むといつも息がぴったりになるな。……それだけ僕の身を案じてくれているということだろうか。

「アクシズ教徒みたいなことを企むな馬鹿娘共。……そもそも貴様ら、私がドラゴンだということを忘れているんじゃあるまいな? 人間相手に恋慕の情を抱くなど有り得ん。ましてや生まれてまだ十数年の若僧となれば尚更だ」

 肩を竦めて嘆息するティアマット。僕のことを若僧呼ばわりしているが、彼女はそこまで年が離れてるようには見えないんだが……。二人も同意見なようで、クレメア訝しげな表情で問い質す。

「若僧って……そういうアンタはいくつなのよ? 私らよりは年上だろうけど、そこまで違いがあるようには見えないんだけど」

「今年で187になる」

 187!? 

「「ババアじゃない-痛ぁっ!?」」

「竜族の年を人の尺度で考えるな」

 竜帝でもババア呼ばわりは流石に気にくわなかったのか、ティアマットは二人を拳骨で沈めたのだった。

 

 

 

 

 その日はそれで解散し、後日からはそれぞれに合った指導者の下で修行に明け暮れることとなる。クレメアとフィオのことが心配じゃないと言えば嘘になるが、あの二人ならきっと乗り越えてくれるだろう。それに-

 

「ぐはぁっ!?」

「たわけ! 間合いの取り方が下手過ぎる! お前はそれでも剣士か!」

 

「おぐぉっ!?」

「お前の動きには無駄が多すぎる! その無駄が速度を鈍らせ、威力を殺し、技を駄するのだ!」

 

「げひゃばぁ!?」

「お前にはまだ覚悟が足らん! 自らが志したものを頭だけでなく、毛の先までも染み込ませろ!」

 

 僕とて人の心配をしている場合では無いのだから! 前日より数十倍過酷になったこのシゴキを、果たして僕は生き残れるのだろうか……? 

 

「雑念を抱くな馬鹿者!」

「へぶっ!?」

 

 ……無理かもしれない。




まだまだ続きます。

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