この武闘派魔法使いに祝福を!   作:アスランLS

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紅と蒼の瞳⑧

【sideみんちゃす】

 

 里の外に広がる森の中。ぷっちんの前に並んだ俺以外の皆は、各自思い思いの武器(ハリボテ)を手にしていた。大抵が刃のない武器を携える中、ゆんゆんだけは先日めぐみんと行った鍛冶屋で買ったらしい銀色の短剣を握っている。この前ゆんゆんが嬉しそうにそう話していたが、ライバルは馴れ合ったりしない云々はどうした。

「よし! いいかお前らよく聞けよ。先ほども言ったが先日、この周辺の強力なモンスターは軒並み狩った」

 そのせいで昨日狩りに行けなくて暇だったんだぞ、どうしてくれるんだこの野郎。

「なので残っているのは弱いモンスターばかりだ。そいつらも念には念を入れて、俺が片っ端から魔法で身動きを取れなくする。お前達は、動けなくなったモンスター達にトドメを刺せ」

 担任が巨大なハリボテの剣を手にしたまま言ってきた。

「問題ないとは思うが、もし何かあったら大声を出すように。では、解散!」

 ぷっちんはノリノリでそう告げるとどっかに走って行った。それに伴いクラスメイト達が、あちこちに散らばっていく。その時……

 

「『フリーズ・バインド』!」

 

 ぷっちんが去っていった方向から、そんな声が聞こえてくる。めぐみんとあるえがそちらに向かい、俺も歩いてついていく。

「「おお……」」

 そこには首から下を氷漬けにされた、小さく呻くファイアードレイクがいた。

 

「『フリーズ・バインド』ー!」

 

 またも遠くから聞こえるぷっちんの声。結構な頻度で俺にボコられているせいで、生徒から内心舐められていることを気にしているのか、活躍の機会とばかりにやたらとはりきってるようだ。……ちょっとは自重してやるか。

「お先にいいかい?」 

 あるえの呟きに俺とめぐみんは頷く。あるえがハリボテの大剣を両手で構えて振りかぶる。

「その生命を以て、我が力の糧となるがいいっ!」

 大剣がトカゲの頭に振り下ろされ、首から下を氷漬けにされたトカゲはキュッと断末魔を上げ、クタッと動かなくなった。あるえは自分の冒険者カードを見ると、満足そうに一つ頷く。

 どうやらレベルが上がったらしい。俺が必要なスキルポイントは4。だいたい1レベルにつき1~2ポイント。よってあと4、うまくいっても3レベル上げる必要がある。……つっても今の俺のレベルだとファイアードレイク程度の敵じゃ、何十体倒しても上がるかどうかだけどな。その点レベルの低いめぐみんは下手したら今日中に爆裂魔法を習得できるかもしれないので、気合いが入っているのがひと目でわかる。

 そんなめぐみんが経験値の元を探して辺りを見回すと、首から下を氷漬けにされた一撃兎を前に何やら騒いでいるグループがいた。一撃兎に銀の短剣を構えたまま動かないゆんゆんだ。悲しげな目で命乞いをするかの様にキューキュー鳴く兎を目にして、トドメを刺せずに固まっているらしい。……まあ確かに気分がいい作業じゃないけどさ。

「ゆ、ゆんゆん、早く殺りなよ! 早く狩って、次に行かないとさ!」

「そ、そうそう、成績二番手の優等生なんだから、まずはゆんゆんがお手本見せてよ!」

 短剣を手にしたまま戸惑っているゆんゆんに、グループを組んだ二人が急かしていた。

 

 ……んー。

 

 ……まあいいか、まだ断定はできないし。

「ご、ごめん、この子と目が合っちゃって……! ごめん、無理!」

 涙目で首を振り、短剣をしまって二人に差し出すゆんゆんだが、二人はそれを受け取らない。

「今からそんな事言っててどーすんの!? あたし達紅魔族は、そんな甘っちょろい種族じゃないっしょ? そんなんじゃ舐められるから!」

「そそ、そうそう、動かないんだから簡単よ、クラス二番手の実力を見せてよ! それでサクッと……!」

「では、サクッといってみましょうか」

 俺の中でゆんゆんに対して過保護であることに定評のあるめぐみんは、煽っていた内の一人であるどどんこの背後に立つと、その背中をグイグイ押して、

「えっ!? ちょっ!」

 ゆんゆんから短剣を奪うと、慌てた声を出すどどんこの手にそれを強引に握らせた。めぐみんはそのまま驚くどどんこを後ろから抱きかかえるように、短剣をしっかり握らせ、腰の前に構えさせる。そして……

「さあどどんこ! 殺るのです! このつぶらな瞳をした哀れな兎を、あなたの経験値の足しにするのです!」

 実に生き生きした笑顔を浮かべてどどんこを追い詰める。

「待って! ねえ待って! めぐみん待ってお願い許して!」

「何を遠慮しているのですか、この無垢な兎を汝の力の生け贄に……! さあ、成績二番手のゆんゆんではなく、主席の私が直々に指導を……!」

「待ってえっ! やめて、ほんとやめて! それ以上押したら刃が刺さる! キューって鳴いてる! この子、キューって鳴いてるっ!」

「ちょ、めぐみんやめっ! どどんこ泣いてっから! やめ、おいやめろってば! ちょっとみんちゃす、退屈そうに欠伸してないでめぐみんを止めてぇっ!」

 面倒なので嫌です。

 ふにふらとどどんこが騒ぐ中、あるえが森の方を指指して呟いた。

「……おい君達。なにか、ヤバイのがいるんだけど」

 言われるままに視線をやると、そこには一体のモンスター。両手に鋭い爪を持ち、漆黒の毛皮に覆われ、コウモリの翼を生やした人型の悪魔。爬虫類の顔にクチバシがついたその頭が、辺りをせわしなく見回している。すると、そいつの視線が何やらコソコソと逃げようとしていためぐみんに向くと、そいつは翼をはためかせてめぐみんへと-

 

「豪傑無双烈破ッ!!!」

「!?」

 

 -襲いかかろうとしたが、俺がそいつの横っ面を思いっきり張り倒して地面に撃墜させた。そのモンスターはそのままごろごろと地面を転がっていき、仰向けに倒れたままピクリとも動かなくなった。

 俺はそいつが起き上がってこないのを確認し終えると、ぽかんとした表情でこちらを見ている五人の方へ振り向き、着用義務のあるマントを翻しながら両足を開き、両腕を胸元で交差させる。

「我が名はみんちゃす。アークウィザードにして、近接格闘の道を極めんとする者……」

 そして交差された両腕をゆっくりと反時計回りに回転させ、左手を高く天に掲げ、右手を低く地に構えた状態で固定する。

「紅魔族随一の武闘派にして、やがては世界最強へと至る者……!」

 そして(おの)が野心を高らかに歌い上げる。

「「か、格好良い!」」

「ふむ……流石はみんちゃすと言ったところか、実に素晴らしい」

「ぐ、ぐぬぬ……非常に悔しいですが、100点満点の演出です……!」

「は、恥ずかしい……!」

 四人からは絶賛の嵐。

 ゆんゆんはまあ、いつも通りだ。 

「と、ところでみんちゃす……さっきあのモンスターを倒した技って、魔法? ってことはもしかして、もう卒業しちゃうんじゃ……」

「あー? 魔法なんざ使ってねーよ」

「……え?」

 目が点になるゆんゆんに、仕方がないから解説してやることに。

「豪傑無双烈破とは……明けても暮れても鍛え続けた我が渾身の力をもって、敵の横っ面ををひっぱたき昏倒させる、一撃必殺の絶技だ」

「「す、すごい……」」

「それが噂に聞く、(きた)るべき決戦に備えて編み出したという禁断の技か……!」

「なんという破壊力……しかし宣言しましょう! いずれ私が魔法を覚えた暁には、それを容易く凌駕して見せようじゃないか!」

 再び大絶賛のなか、ゆんゆんが気まずそうにおずおずと俺に尋ねる。

「え? でもそれって……ようするにただのビンタなんじゃ……」

 

「「「「…………………………」」」」

 

 瞬間、時が止まった。

 それはもう、いつのまに時間停止魔法を編み出してしまったのかと錯覚したほどに。

「え? え……?」  

 俺は一人だけ場の雰囲気についていけずオロオロしているゆんゆんに近づき、その肩に手を置く。

「……ゆんゆんオメーさ……少しは空気読もうぜ? そんなんだからボッチなんだよオメーは」

「えぇっ!?」

 ゆんゆんは泣き出しそうな表情になるが、その程度で糾弾される流れは変わらない。俺以外の四人もやれやれとばかりにため息をつく。

 まずふにふらが……

「いやあの、ゆんゆんあんた……今のは流石に無いわ」

 続いてどどんこが……

「うん……ゆんゆんに悪気が無いのは、なんとなくわかるけど……ねぇ……」

 さらにはあるえが……

「私も……あれはぶちギレられても文句は言えないと思う」  

 しまいにはめぐみんまで……

「まったく、こんなのが私のライバルを自称してるなんて……情けなくて泣きたくなりますよ」

「やっぱり私が変なの!? そこまで言われるほど私の感性って変わってるの!? ねぇ!?」

 とうとう泣き出してしまうゆんゆんだが……あれは、ねぇ……。

「くそうみんちゃすめ、美味しいところを全部持っていきよって……せっかく一番格好いいタイミングで助けに入ろうとしてたのに……」

 そしてこのダメ教師はほんとロクでもないな。今後も一切自重しないでおこう。

 

 

 

 

「なあ聞いたか? めぐみん達を襲おうとしたモンスターって、この辺りじゃ見た事もないヤツらしいぜ。空を飛べるモンスターなんて、里の周りにはいないんだってさ」

 あのモンスターの乱入未遂で野外授業は中止になり早々と学校に帰ってきたのだが、教室内では早速そんな噂が飛び交っていた。 

 あと、なんか俺へと向ける視線にいつもより怯えが混じってる。大方アレだけの大物をワンパンで沈めたことに臆しているんだろうが、こいつら自分が世界最強クラスの戦闘民族である自覚あんのか? 

 しばらくすると、なんだか疲れた様子のぷっちんが入ってきて、肩を落としながら教壇に立つ。

「お前らよく聞けー。邪神の墓の封印が解けかけていた事は話したな? 今朝の野外授業で変わったモンスターに出くわしただろう。調査の結果、アイツは邪神の下僕である可能性があるとの事だ」

 不意打ちとはいえ俺に一撃でやられたアレが? 邪神サイドってのは人材不足なのかね? 

「封印の欠片を探しているのだが、相変わらず欠片は見つかっていないそうだ。急いで調査を進めないとマズい。という訳で俺も、今から狩り出される事になった。昨日に続いてモンスター狩りだ。……よって、今日も午後の授業は無しだ。先日も言ったが、墓の再封印がなされるまでは一人で帰らず集団で下校するように。以上だ!」

 ぷっちんはそれだけ伝え、教室から出て行った。……つまり今日も狩りに行けないっとことじゃないか……邪神だかなんだか知らないが会ったら絶対シバくと決意する。

「めぐみん、みんちゃす。……あ、あの……きょ、今日も……」

 何か言いたそうにチラチラとこちらを見るゆんゆん。友達が出来てもこういうところは変わらないのな。めぐみんは呆れたようにため息をつくと、

「……ゆんゆん、一緒-」

 

「ねえゆんゆん、一緒に帰ろう! ていうかさ、ちょっと話があるんだ!」

 

 めぐみんの言葉を遮る形で、ふにふらがゆんゆんに声を掛けた。

「えっ!? あ……、う、うん」

 押しに弱いゆんゆんは、断りきれずにあっさり頷く。相変わらず雰囲気に流されやすいことで。

「えっと、じゃ、じゃあねめぐみん、みんちゃす。また明日……」

「おー、また明日なー」

 どことなく不安そうで、寂しそうな表情のゆんゆんは、二人の後について帰って行った。

 めぐみんが何やら複雑そうな顔をしていると、何やらあるえが近寄ってきて……

「………………寝取-」

「それ以上言ったら、その忌まわしい巨乳をエライ目に合わせますよ! だいたいその台詞は私よりもみんちゃすに言うべきでしょうが!」

「ふむ…………それも、そうかもね」

「あー? なんでそこで急に俺が出てくるんだよ?」

「「…………」」

 至極真っ当な指摘をしたというのに、あるえとめぐみんは何故かバカを見るような目で俺をら見てくる。…………とりあえずイラっとするからぶちのめそう。

「何か言い残すことはあるか? んー?」

「あ、謝ります……謝りますから、首から手を離して下ろしてください……!」

「ぅぐ……(ぐる)じい……!」

 胸ぐらを掴んで持ち上げつつ命乞いをさせる。喧嘩を売ってきた輩は例外無くぶち殺す……それが紅魔族の掟だ。


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