この武闘派魔法使いに祝福を!   作:アスランLS

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久々の更新です。
ポンコツ騎士、ようやく帰還の巻。


王国の懐刀

【sideみんちゃす】

 

「へっっっくしゅんっ!」

 

 雪の降り積もる早朝、のアクアの盛大なくしゃみが部屋中に響いた。

「おやおや風邪かい? 気をつけたまえよ?」

「カズマさんこそ鼻声じゃない? 早くこのジャージ直してあげるわね」

 カズマの気遣うように後ろから語りかけ、アクアはボロボロになった衣服の修繕を続けながら答える。

 うむ。一見実に仲睦まじい光景だが、

「それ暖炉に入れて燃やしたの、お前だけどな?」

「…………」

 実際はこんなもんだ所詮。

 あのじゃーじ、とかいう見たこともない独特な衣服に、カズマは相当な思い入れがあるようなのだが、何故かアクアはことあるごとに燃やそうとしその度に不毛な争いを繰り広げている。

「ほれ、冒険者でオメーの陣地に進撃。そのままクルセイダーを殺害っと」

「ぐぬぬ……相変わらずクルセイダーは使えませんね。最弱職にあっさりやられるとは何たる役立たず……!」

 特に珍しい光景でもないので俺とめぐみんは気にも留めず恒例のボードゲームをプレイしていると、今度はアクアの腹の虫が部屋中に響いた。

「おやおやアクア、お腹空いたのかい?」

「そういえば、まだ朝ご飯食べてなかったわね」

「調子に乗って有り金全部酒代に使ったの、お前だけどな?」

「…………」

 嫌が応にも現実を叩きつけるカズマの指摘にアクアの手が止まり、再び腹の虫がグーっと鳴る。やがてアクアは肩を震わせ、涙目でカズマの方に振り返った。

「だってだって! 皆楽しそうに飲んでたんだもの! ……ちょっとカズマ? それ、私がベットの下に隠してた『獺祭』に見えるんだけど……!?」

 いつの間にかカズマが手に持っていた酒瓶を見て固まるアクア。この前ダスティネス家が差し入れで送ってきたやつ、まだ取っておいたのか。

「質屋ァ……空いてるよなぁ……」

「返してぇぇぇ!? その子が最後の一本なの! 私の最後の希望なのよぉぉぉおおおおお!」

「えぇいうるさーい! 今すぐ金に変えて来てやる! じゃなかったらこの場で全部飲んでやる! 少しはこの冷えた体も暖まるだろうよ!」

 うわあ……離婚寸前の夫婦見たいなやり取りだ。見ていて居たたまれない。

「よーしよし、クルセイダーを取ったな? 取っちゃったな? ……残念! そいつはハナから囮で、本命はこっちでした!」

「私のウィザードがぁぁぁっ!? たまには囮以外の使い方は無いのですか!? 一応上級職なのにあまりにも不憫ですよ!」

「毎回みすみす取られてる上に役立たず呼ばわりしてるオメーに言われたかねーよ。そもそもクルセイダーは捨て駒って法律で決まってるしな」

「決まってません、決まってませんよ! なんですかその無情過ぎる法律は!? ダクネスが聞いたら悲しみ…………ませんね。むしろ喜びそうです、はい」

 わかってるじゃないか。

「やめてぇぇえええ!? 私、その子を抱いてないと眠れないのぉぉぉ!」

「人のジャージ燃やしといてよく言えたなお前!? だったらその神具だとかいう羽衣、こいつの代わりにちょっと売り飛ばしてこい!」

「何言ってるのこのクソニートは!? この羽衣は私の女神としての最後のアイデンティティよ!? 売れるわけ無いじゃない! バカなの? 何バカ言ってんの-」

「『スティール』」

「っ!? ……あぁぁぁああああ! カズマ様あぁぁぁああああ! ジャージ燃やしたのは謝るから、返してぇぇぇ!」

「うるさぁぁあああい! 借金は一向に無くならないし、ダクネスも帰ってこないんだぞ!? 少しは緊張感持てよ!」

 度重なるストレスでカズマも荒れてんなぁ……ったく、早く戻ってこいやあのポンコツ騎士。

「ふっふっふ……ここまでこの最強たる我によくぞ食い下がりましたねみんちゃす、誉めてあげましょう。ですが、あなたの快進撃もここまでです。アークウィザードでみんちゃすの陣地を侵攻! 今こそ降臨した最強の大魔法使いが全てを蹂躙して-」

「じゃあその前にオメーの陣地に潜ませておいた冒険者をウィザードにクラスチェンジ、続いてオメーのキングを暖炉の中にテレポートさせてはいおしまいっと」

「ぬぐぉぉぉああああ!?」

 これで五連勝か……こいつ俺より頭良いのに隙あらばエクスプロージョンしたがったり、そうでなくても肝心要な状況は全部アークウィザード頼みだから、そこを徹底して対策してると割と簡単に勝てるよな。

 行き過ぎた拘りなんざ単なる自己満足だ。勝つために拘りを捨てる覚悟が無きゃ俺には勝てないぞ、めぐみんよ。

 

「た、大変だ! カズマ、大変なんだ!」

 

 お、ようやく帰って来やがったかポンコ…………は? 

 屋敷に入ってきたララティーナの格好に思わず面食らってしまう。確かこいつ自分がダスティネス家の令嬢だって隠したいんじゃなかったのか? なんだそのいかにも「貴族!」って主張しているようなドレスは? ほら見ろの三人のポカンとした表情、多分オメーが誰だかわかってないぞ。

「……あんた誰?」

 やっぱわかってなかったよ。

「んんっ……!? くっ……! カズマ! 今はふざけている場合じゃない! そういったプレイは後にしてくれ!」

「なんだダクネスか……心配させやがって、やっと帰って来たのかよ!」

 しかしすぐ正体が判明。まあこんなろくでもない反応する奴、こいつ以外にそうそういねーよな。

「わあああああ! ダクネス、カズマがああああああ! 私を無理矢理脱がして、私の一番大事な物を売り飛ばそうと……!」

「なっ……!?」

「その言い方は本気で誤解を招くからやめろおおおおお!?」

 しかし朝早くから元気だねこいつらも。

 二人が騒いでる中、めぐみんが何やら思いつめた表情でララティーナの肩に手を置く。

「お帰りなさい、何があったのかは詳しく聞きません。とにかく今はゆっくりお風呂にでも入って、心と体を癒してきてくださいね」

「……風呂? いや、いったい何を言っているんだ? というか私としては、今アクアが言った特殊プレイの方が気になるのだが……」

 ……そういや事情の知らないカズマ達は、ララティーナがあの領主の慰み者にでもなってると誤解してたんだっけ。いちいち解いてやるのも面倒だし、紅茶でも淹れながら見守ってやるとするか。

「寝ぼけたこと言ってないでゆっくり休めよ。ほら、温かい風呂にでも入って泣いてくるといい」

「だから先程からいったい何を言っている!? なぜ私が風呂で泣かなければ……アクア? どうしたドレスの裾を引っ張って-」

「……間違いないわ、高級品よ。きっと領主の人にオマケとして貰ってきたのね……」

「ダクネス……俺を助けるために、随分と辛い目に遭ったんだな……」

「バカッ! お前達は一体何を勘違いしている!? もしかしてお前達、私が帰ってこないのは領主に良いように弄ばれているとでも誤解して……みんちゃす! どうして話が拗れたまま放置していたんだ!?」

「ん、誤解を解いておいてほしかったのか? しかしそうなると、オメーの隠し事も全部ぶちまけないといけねーが」

「ぬぐっ……!」

 ララティーナは突然俺に抗議してくるが、優雅に紅茶を啜りながらそう返してやると苦虫を噛み潰した表情で口をつぐむ。

「……隠し事?」

「…………背に腹は変えられん。カズマ、まずはこれを見てくれ」

 そう言ってララティーナはカズマに一枚の写真を渡した。あの写真に写ってる男……件のバカ領主の息子、ロイヤルナイツ第七席のバルターか。

「……なんだこのイケメン? ムカツク」

 そして流れるような動きでそれを破り捨てるカズマ。躊躇ねーな……。

「ああっ!? 見合い写真に何をするんだっ! そんなことしたら見合いを断ることができなくなるだろうが!」

 なるほど、またイグニスのおっさんの余計なお節介か。

「あ、スマンつい無意識に……見合い写真?」

「そうだ! アルダープめ、小賢しい手を使ってきた! 無体な要求をしてきたら父が即座に話を蹴る。それをわかっていたからこそ私は、何でも言うことを聞くと言ったのだが……」

 ……なるほどそこで領主との約束が響いてくるか、そいつは一段と厄介だな。

 

 

 

 アクアがご飯粒で見合い写真をせっせと修復する傍ら、ララティーナはカズマ達に事情を説明する。

「……つまり、こういうことですか? ダクネスのお父さんは危険な冒険者稼業を辞めさせたくて、以前から隙あらば勝手にお見合いをセッティングしていたと。でもダクネスはまだ結婚なんてしたくないから、今までは全て話を蹴っていたと」

「……ん、そうだ。正直言って私は今の暮らしに満足している。この稼業を続けやがて名が売れた私は、とうとう魔王軍に目を付けられ抵抗むなしく捕まってしまい、囚われの身となった私はそれはもうとんでもない目に……や、やめろお……っ!」

「きしょいなこいつ」

「ああ、もうさっさと嫁に行った方がいいんじゃないかな」

 俺の率直な感想にカズマも同意し距離を取るそんな中めぐみんが、杖をプラプラさせながら不思議そうに、

「なるほど。今回は何でも言うことを聞くと約束している領主が持ってきた見合いだから、いつものように見合いを断れない訳ですか。……あの領主がダクネスに執着してるのはこの前の裁判の反応から一目瞭然ですが、息子の嫁にしようだなんて随分と回りくどいですね? 領主ほどの地位にいるなら強引に妾にだってできるでしょうに」

 ……まあ事情を知らないなら、そういう疑問も抱くよな。

 ララティーナはしばらく俯いて躊躇ていたが、意を決して隠していた秘密を打ち明ける。

「……わ、私は本名を、ダスティネス・フォード・ララティーナという。その……そこそこ大きな貴族の娘だ」

「「「ええっ!?」」」

 カズマ達が驚愕するのを見て、ララティーナは寂しそうに表情を曇らせる。……大方大貴族という立場に気後れされることを憂いているんだろうが、あのカズマ達がそんな常識的な反応をするとでも思ってんのかね。

「ダスティネスって……この国の懐刀とまで言われている、あのダスティネス!? 『白騎士』や『塵滅』などの傑物を数多く排出してきたあの……って、ちょっと待ってください。つまりダクネスは、その……みんちゃすと血縁関係にあるということですか?」

「そ、そうだな。みんちゃすの母、『白騎士』アステリア様は私の父の妹だから、私達はいとこ同士の関係だ」

 ……考えてみりゃなんでめぐみんは気づかなかったんだ? ララティーナが母ちゃんと瓜二つって時点で、ダスティネス家の関係者だと予想つくだろうに。

「つまりダクネスの家の子になれば、毎日ゴロゴロ贅沢三昧できるってこと!?」

「い、いや、当家は清貧を心がけてるからそこまでは……そもそも今のところ養女は必要としていない」

 もっと言えばそんな自堕落に過ごしてたら、サリーちゃんにブチ殺されるだろうな。

「ダクネスお前……普段は真面目くさった騎士みたいな口調なのにっ! 本名はララティーナなんて可愛らしい名前なのかよっ!?」

「ら、ララティーナと呼ぶなあ……っ!」

 赤い顔で涙目になって大声を上げるララティーナ。毎度毎度思うが、こいつの羞恥の基準どうなってるんだ? 

 と、驚きのあまり立ち上がっていためぐみんが、何かを思い出したかのようにこちらにジト目を向けてくる。

「何だよ?」

「……みんちゃすは全部知っていたのですか?」

「たりめーだろ。一応は親戚にあたるわけだしな」

「……あなたがダクネスのことを頑なに『ダクネス』と呼ばなかったのは、そういった訳ですか」

「まあな。なんか必死に隠したがってたし『ララティーナ』で呼ぶのはアレだったが、『ダクネス』って呼ぶのは何かこいつの思惑通りな感じがして面白くねーしな」

「そ、そんな理由で私は散々ポンコツ呼ばわりされてきたのか……」

 ポンコツなのは事実だろ。




皆さんは物欲センサーを信じますか?
私は特に信じてなかったんですが、このファンでガチャを回せど回せど星4めぐみんが一種類しか出ない有り様にどうしても『物欲センサー』の単語が脳裏を過ります……。
星4アイリスは早々にコンプリートしたのに何なんでしょうかこの偏りは。

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