Undertale─サンズ戦以降─   作:ごくごく普通の怪人

1 / 6
サンズ戦────地獄で燃えてしまえばいい

「......よう。忙しそうで何よりだな」

 

僕は......声をかけられた。

正面にいる骸骨の少年。

青いパーカーに身を包み、ポッケに手を突っ込んでヘラヘラとしている......ように見える。

最後の回廊、その最奥に立ち塞がるように立つ、サンズだった。

 

「お前に......聞きたいことがある」

 

僕は一歩、前に進む。

回廊は暖色で彩られ、隙間から漏れる光は神々しくサンズを照らしだしていた。

 

「救いようのない悪党でも、変われると思うか?」

 

僕は答えない。

きっと、それは僕のことを言っているのだろう。

分かっている。

だって、僕は......いままでみんなを殺してきたのだから。

大虐殺の、犯人だ。

 

「努力さえすれば、誰でも......いい人になれると思うか?」

 

そして、僕は.........サンズの弟を。

パピルスを、殺した。

パピルスは何も、悪くない。

なのに......何故僕はパピルスを?

何故、彼を殺したのか?

分からない。

分からないまま、僕はみんなを殺し続けた。

今言ったサンズの言葉は、パピルスの言葉と重なる。

 

『誰だって......努力すれば、立派な人になれるんだ!』

 

優しい彼の言葉は、何故僕に響かなかったのか。

 

「へへへ.........まあ、いい」

 

おどけたように笑う。

途端、表情が変わった。

凄みをかけ、僕を牽制する。

いつもは見える真っ白な瞳孔が消え失せ、僕の恐怖を煽るようだ。

 

「質問を変えよう」

 

威圧に屈することなく、僕は歩みをまた1歩、進める。

サンズの影は1歩、歩いただけで大きくなる。

口角が上がり、僕を歓迎している......訳では無い。目が、笑っていない。僕を軽蔑するように、見据えている。

 

 

「お前、サイアクな目に遭わされたいか?」

 

僕はさらに近づく。

 

「それ以上近づくと、心の底から後悔することになるぜ?」

 

忠告を無視し、さらに近づく。

何故、僕はこんなことをしているのだろう。

本当は、みんなと仲良くなっていたはずなのに────

 

「.........仕方ないな。ごめんよ、オバサン」

 

オバサンとは、誰のことなのだろう。

もう、何も考えることが出来ない。

ただ、目の前のサンズを......殺すことだけを考える。

 

────────────サンズを、殺すことを。

 

「だから、約束は嫌いなんだ」

 

サンズは初めて、僕に歩み寄った。

 

「.........今日はステキな日だ。花が咲いてる。小鳥達も囀ってる」

 

ふと、眼差しが和らいだ。

耳には小鳥のピヨピヨという鳴き声が届き、僕のささくれだった心が、少し癒された。

 

「こんな日には、お前みたいなヤツは─────」

 

サンズの目が真っ黒になる。

僕はほんもののナイフを構え、来るであろう攻撃に備え。

そして.........仲間を殺し、心を荒らした1人のニンゲンにありったけの怒りを込めて、冷徹に吐き捨てる。

 

「地 獄 で 燃 え て し ま え ば い い」

 

サンズが左腕を持ち上げた。

左目には怪しい青の光が浮かび、僕の”タマシイ”は下方向に打ち付けられる。

 

......サイアクな目に遭わされそうな予感がする。

すぐさま上方向に逃げると、僕が元いた場所には骨の床が出来上がっていた。この骨に刺されれば、一溜りもなかったはずだ。

 

と、束の間の休息もあたらえれず、僕の周囲を囲むように無数の頭骨(ガスター・ブラスター)が現れる。

これは.........。

 

タマシイを包囲した髑髏達は、僕を容赦なく狙撃し、ビームを発射。

一直線に襲いかかってくる初撃を既のところで交わすと、四辺を囲んでいた4つの髑髏が僕を中央に閉じ込める。

しかし攻撃は緩むことなく、中央の僕を的確に......4つの角から狙い撃ちする。

まだ余裕がある。難なく交わすと、さらに左右から極太のビームが襲いかかる。少しくらった。かすっただけなのに、僕のLOVE(Level of Violence)が3分の1ほど削られた。すぐさまゆきだるまのかけらで回復する。

......何故だろうか。ゆきだるまのかけらを食べると、心が痛んだ。だが、直ぐにサンズへと意識を移す。隙を作れば殺されかねない。

 

「......いつも思ってたんだ。なんで、みんな最初に必殺技を使わないんだろうって」

 

両腕を広げ、どうして?と言わんばかりに疑問を体現する。

どうしてだろう。

ああ、それは多分、必殺技を使うのに時間がかかるんじゃないかな。それか、......僕に情けをかけていたのか。微かな、希望をかけていたのか。

 

僕のターンがやってくる。僕はナイフを振りかざし、最高の一撃をサンズにぶつける。だが、その一刀は易々と躱された。

 

「え?......まさか、大人しく喰らうとでも思ってたのか?」

 

戦いの最中でもなお、普段のように僕をからかう。

どこまで行ってもサンズなのだろう。むしろ、そっちの方が彼らしくていい。

 

僕のターンは呆気なく終わり、サンズのターン。迫り来る骨の乱舞を辛うじて全回避し、僕のターンでサンズを攻撃。だがまたも当たらず、サンズのターン。こんなことを何度も繰り返す。互いに少し、疲れが出てきていた。

 

だが、それでも。

 

*攻撃を、続けろ。

 

僕の頭の中に、そのワードがリフレインしている。

攻撃を続けろ、いずれは当たるはずだ、と。

最もラクな敵だ、と。

馬鹿をいえ。

確かにサンズの体力は1だ。

だが、当たらなければどうということはない。

サンズは、僕の攻撃をことごとく避けている。それなのに、最もラクな敵?

僕はいかれてしまったのだろうか?

.........いや、みんなを殺した時点で僕の頭は既にいかれていたか。

 

そんな中攻防は続き、サンズが徐ろに口を開いた。

 

「時空に、大規模な歪みが発生しているらしい」

 

平然とした顔で、世界の危機に匹敵する重要なことを言ってのける。

そして、再びサンズから白目が消えた。

 

「時空の流れが......滅茶苦茶に飛んで.........止まって、また動いて.........。そして突然、世界が終わりを迎えるんだ。へへっ、それってお前の仕業なんだろ?」

 

サンズは僕を見つめていた。相変わらず骨が周囲に構えているが、僕の答えを待っているのだろうか。今はまだ、襲ってくる気配はなかった。

 

僕はまた、何も答えない。

いや、答えたくなかったのかもしれない。

みんなをある程度殺して、ある程度生かして、Nルートなんて言われる世界線を生み出して、リセットして。

みんなを全員生かして、アズリエルを救って、Pルートなんて言われる世界線を生み出して、リセットして。

そして、最後に......僕はみんなを殺して、Gルートなんて言われるこの世界線を生み出した。

 

──────────────大虐殺だ。

 

「.........お前には分からないんだろうな。ある日突然、何の前触れもなく......世界がリセットされる。それを知りながら、生きていく気持ちなんて」

 

分からないさ。だって、僕は......リセット”する”側なのだから。僕にとって、この世界は所詮......セーブデータのひとつでしかない。リセットすれば全てがなかったことになり、また最初からやり直しができる。死んでもゲームオーバーになるだけで、セーブさえしていれば何度だって立ち向かうことが出来るのだから。

だが、サンズ達、この世界の住民からしたらどうだ。

自分達がデータを支えるパーツでしかない、それを知ったならば......一体、どうなるだろうか?

 

若しかすると、サンズは......最初から、それを知って?

だから彼は、いつもやる気のない姿で?

()はとっくに、諦めた」

 

僕はもう一度、サンズの顔を見た。

弟を喪い、仲間と呼べる存在すら僕に殺され、そしてこの後世界をリセットされると知って。

それでも、僕を止めるために......出来っこしないとわかっていながら、それでも......世界を守るために、仲間たちが残していった”タマシイ”を守るために、僕に抗う。

 

サンズ............君は............。

 

そんな僕の心境を知ってか知らないでか、サンズは手をポッケに突っ込んで、諭すように僕に言う。

 

「もう、地上に戻りたいと思うことも無くなった。だって、もし戻れたって───」

 

話しながら、骨が僕を狙って発射された。

不意打ち。

さすがにこれを避けることは出来ず、痛手を負う。だが、2撃目を大人しく受けるような僕でもない。それはサンズもわかっているはずだ。骨攻撃を避け切り、レジェンドヒーローで回復。

 

「───また、ここへ戻されるんだろ?記憶を、消されてさ。そんなだから......正直、何をやってもやる気が出ない。それも、怠けるための口実なのかもしれないけどな。自分でも、よく分からないよ」

 

ああ、もう辞めたい。

何故僕は、こんなルートを始めてしまったのか。

何故、僕は軽率に────サンズと戦いたい、なんて思ってしまったのか。

 

「ただ一つ分かるのは......この後、何が起こるのか知っている以上、もう何もしないで見ている訳には行かないってことさ」

 

僕は馬鹿だ。大馬鹿だ。もうどうしようもない程の。

 

もう、こんなことをして......何になるんだ。何故、サンズにナイフを向けているんだ。

 

助けてくれ。

止めさせてくれ。

サンズ、僕を───止めてくれ。

 

剣戟をぶつけながら、サンズにお願いする。

どうか、僕を殺してくれ、と。

ゲームオーバーなんかじゃない。セーブなんかでもない。SAVEを、させてくれ。

みんなを殺して、自分も死んで。

傲慢なのは分かっている。

それでも、僕は......この世界から、居なくなりたい。

僕は、消え去りたい。

 

「ま、それはさておき」

 

サンズが、答えるように呟いた。

宙に浮いていた骨が消滅し、僕を捕らえるものがなくなる。

 

「お前、本当にブキを振り回すの、好きだな」

 

違う。

そうじゃない。

僕は、ナイフを振り回すのが好きなわけじゃ───!

 

.........本当に、そうか?

 

「.........なあ、さっきは答えてくれなかったけど──」

 

「...」

 

「俺にはわかるよ」

 

「...」

 

「お前の中には、正義のココロの欠片がある。正しいことを望んだヤツの記憶が、あるはずだ」

 

「...」

 

「ひょっとして......俺たち.........別の時間軸では............」

 

「...」

 

「友達、だったんじゃないのか?」

 

思考が、止まった。

 

その通りだった。

NルートでもPルートでも、サンズは僕の大切な友達だった。ニンゲンもモンスターも関係なく接してくれる、優しい兄貴だった。弟想いの、いいヤツだ。

 

「なあ、答えてくれよ」

 

サンズの目が優しく微笑む。

遠くにいたはずの姿は目の前にあり、僕の深層部分に問うているようだった。

 

 

「俺の事、覚えてるのか?」

 

 

もちろんだとも。

サンズのことを、忘れる訳が無い。

 

*サンズは逃がしてくれるようだ。

 

「俺の言ってることの意味がわかるなら.........こんなのもう、辞めようぜ?武器を置いてくれよ。そしたら、俺の仕事もラクになる」

 

僕は、いつの間にか「にげる」選択をしていた。

タマシイを「にげる」に合わせ、サンズを見た。

ニッコリと微笑むその顔は、ほかの世界線の彼の影と重なる。

 

僕は、サンズを──────。

 

*こうげきを つづけろ。

 

ふと、脳内に声が響いた。

攻撃を、続けろだって?

なんでまた、そんなことをしなければならないんだ。

この期に及んで、なんでそこまで。

 

──────────────なんでそこまで、肩入れする?

 

*こうげきを つづけろ。

 

嫌だ。

もう、疲れたんだ。

もう、攻撃なんて.........したくないんだ。

仲間を一人一人殺していく度に、心が痛んだ。

仲間との思い出が僕を苦しめて、それでも僕は。

 

ああ、僕はなんて酷いニンゲンだろう。

 

サンズは、僕を逃がしてくれる。

 

...............僕を、逃がして?

 

 

僕は逃げて、どうするんだ?

この世界で、人知れず......隠れて過ごすのか?

モンスターから隔離して、こじんまりと?

本当に、それでいいのか?

僕はサンズに殺されることを望んでいたはずだ。

.........逃げるのが、本当に最適の答えなのか?

 

それに、本当に僕は心の底から逃げたいと思っているのか?

 

*こうげきを つづけろ。

 

また声が響く。

そうか......。

僕の本心は、別の.........違う所にあったようだ。

心の奥底からフツフツと沸き立つこの無意識の高揚は、どうやらサンズを殺すことへの悦びだったらしい。

.........僕はなんて非道なのだろうか。クズなのだろうか。

 

ならば。

 

「にげる」を指していたタマシイは左へと移動し、「アイテム」、「こうどう」を通り過ぎる。

そして、「こうげき」スロット迄辿り着くと────

 

至近距離のサンズに、切りをかます。

 

「......」

 

予想していたのだろう。サンズは回避した。

 

「ま、一応言ってみただけだ。そっちが辞める気がないなら......仕方ない」

 

言っていた言葉の割に、サンズは悲観していないようだった。

.........まんまと、騙されかけたようだ。

さっき、僕が逃げる選択をしていたら。

サンズは容赦なく......無防備になった僕を咎めたはずだ。

だけど、僕が殺されたとは限らない。ゲームオーバーになっていたかもしれない。

 

「実はさ、こっそり思ってたんだ。お前と友達になれないかな、って」

 

サンズは遠くを見つめている。

きっと、ほかの世界線のことを夢見ているのだろう。

 

友達か.........。

 

───────────実にくだらない。

 

「時空が歪むのは......誰かが不満を感じてるからかもしれない、ってな。だから、その不満を解消してやれば......歪まなくなるかも、って思ったんだ」

 

僕も考えてみる。

だけれど、既にそれは経験済み。

ほかの世界線で、僕は既に2回、それを経験している。

思い返すのは、いつもサンズが楽しく語るグリルビーズでの話だ。

 

「どうすれば不満が解消されるかはわからないけど、”ウマイ飯”とか、”くだらないギャグ”とか、”友達”とかがあればいいのかな、って」

 

サンズが言ったものは、全てほかの世界線で実際にあったことだ。あったと言うより、本当にサンズがやっていたこと。

なんで僕は───

 

─────────────こんな相手に、手こずっているのか。

 

「何度も何度も、時間軸を食い荒らして、そして最後は......」

 

サンズは攻撃の手を止めた。

だが、僕の攻撃は相変わらず当たることなく躱される。これでいい。サンズに、僕の攻撃は当てたくない。

 

「なぁ......これだけは忠告しておく。お前もいつか............”やめる”選択をしなきゃ、行けなくなるんだぜ?」

 

サンズは動きを止めた。

僕に、何を求めるというのだろうか。

 

......まさか、サンズはこのデータをまたロードさせないようにしているのか?

 

だから、こんなにも鬼畜な戦いを演じているのか?

わざと、僕に「やめる」選択をさせるために?

 

「そして、今日がその日だ」

 

声のない質問に答えるように、サンズはそう言い放った。そして、攻撃が再び始まる。

 

”ゲーム”そのものを、止めさせるために。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。