「......よう。忙しそうで何よりだな」
僕は......声をかけられた。
正面にいる骸骨の少年。
青いパーカーに身を包み、ポッケに手を突っ込んでヘラヘラとしている......ように見える。
最後の回廊、その最奥に立ち塞がるように立つ、サンズだった。
「お前に......聞きたいことがある」
僕は一歩、前に進む。
回廊は暖色で彩られ、隙間から漏れる光は神々しくサンズを照らしだしていた。
「救いようのない悪党でも、変われると思うか?」
僕は答えない。
きっと、それは僕のことを言っているのだろう。
分かっている。
だって、僕は......いままでみんなを殺してきたのだから。
大虐殺の、犯人だ。
「努力さえすれば、誰でも......いい人になれると思うか?」
そして、僕は.........サンズの弟を。
パピルスを、殺した。
パピルスは何も、悪くない。
なのに......何故僕はパピルスを?
何故、彼を殺したのか?
分からない。
分からないまま、僕はみんなを殺し続けた。
今言ったサンズの言葉は、パピルスの言葉と重なる。
『誰だって......努力すれば、立派な人になれるんだ!』
優しい彼の言葉は、何故僕に響かなかったのか。
「へへへ.........まあ、いい」
おどけたように笑う。
途端、表情が変わった。
凄みをかけ、僕を牽制する。
いつもは見える真っ白な瞳孔が消え失せ、僕の恐怖を煽るようだ。
「質問を変えよう」
威圧に屈することなく、僕は歩みをまた1歩、進める。
サンズの影は1歩、歩いただけで大きくなる。
口角が上がり、僕を歓迎している......訳では無い。目が、笑っていない。僕を軽蔑するように、見据えている。
「お前、サイアクな目に遭わされたいか?」
僕はさらに近づく。
「それ以上近づくと、心の底から後悔することになるぜ?」
忠告を無視し、さらに近づく。
何故、僕はこんなことをしているのだろう。
本当は、みんなと仲良くなっていたはずなのに────
「.........仕方ないな。ごめんよ、オバサン」
オバサンとは、誰のことなのだろう。
もう、何も考えることが出来ない。
ただ、目の前のサンズを......殺すことだけを考える。
────────────サンズを、殺すことを。
「だから、約束は嫌いなんだ」
サンズは初めて、僕に歩み寄った。
「.........今日はステキな日だ。花が咲いてる。小鳥達も囀ってる」
ふと、眼差しが和らいだ。
耳には小鳥のピヨピヨという鳴き声が届き、僕のささくれだった心が、少し癒された。
「こんな日には、お前みたいなヤツは─────」
サンズの目が真っ黒になる。
僕はほんもののナイフを構え、来るであろう攻撃に備え。
そして.........仲間を殺し、心を荒らした1人のニンゲンにありったけの怒りを込めて、冷徹に吐き捨てる。
「地 獄 で 燃 え て し ま え ば い い」
サンズが左腕を持ち上げた。
左目には怪しい青の光が浮かび、僕の”タマシイ”は下方向に打ち付けられる。
......サイアクな目に遭わされそうな予感がする。
すぐさま上方向に逃げると、僕が元いた場所には骨の床が出来上がっていた。この骨に刺されれば、一溜りもなかったはずだ。
と、束の間の休息もあたらえれず、僕の周囲を囲むように無数の
これは.........。
タマシイを包囲した髑髏達は、僕を容赦なく狙撃し、ビームを発射。
一直線に襲いかかってくる初撃を既のところで交わすと、四辺を囲んでいた4つの髑髏が僕を中央に閉じ込める。
しかし攻撃は緩むことなく、中央の僕を的確に......4つの角から狙い撃ちする。
まだ余裕がある。難なく交わすと、さらに左右から極太のビームが襲いかかる。少しくらった。かすっただけなのに、僕の
......何故だろうか。ゆきだるまのかけらを食べると、心が痛んだ。だが、直ぐにサンズへと意識を移す。隙を作れば殺されかねない。
「......いつも思ってたんだ。なんで、みんな最初に必殺技を使わないんだろうって」
両腕を広げ、どうして?と言わんばかりに疑問を体現する。
どうしてだろう。
ああ、それは多分、必殺技を使うのに時間がかかるんじゃないかな。それか、......僕に情けをかけていたのか。微かな、希望をかけていたのか。
僕のターンがやってくる。僕はナイフを振りかざし、最高の一撃をサンズにぶつける。だが、その一刀は易々と躱された。
「え?......まさか、大人しく喰らうとでも思ってたのか?」
戦いの最中でもなお、普段のように僕をからかう。
どこまで行ってもサンズなのだろう。むしろ、そっちの方が彼らしくていい。
僕のターンは呆気なく終わり、サンズのターン。迫り来る骨の乱舞を辛うじて全回避し、僕のターンでサンズを攻撃。だがまたも当たらず、サンズのターン。こんなことを何度も繰り返す。互いに少し、疲れが出てきていた。
だが、それでも。
*攻撃を、続けろ。
僕の頭の中に、そのワードがリフレインしている。
攻撃を続けろ、いずれは当たるはずだ、と。
最もラクな敵だ、と。
馬鹿をいえ。
確かにサンズの体力は1だ。
だが、当たらなければどうということはない。
サンズは、僕の攻撃をことごとく避けている。それなのに、最もラクな敵?
僕はいかれてしまったのだろうか?
.........いや、みんなを殺した時点で僕の頭は既にいかれていたか。
そんな中攻防は続き、サンズが徐ろに口を開いた。
「時空に、大規模な歪みが発生しているらしい」
平然とした顔で、世界の危機に匹敵する重要なことを言ってのける。
そして、再びサンズから白目が消えた。
「時空の流れが......滅茶苦茶に飛んで.........止まって、また動いて.........。そして突然、世界が終わりを迎えるんだ。へへっ、それってお前の仕業なんだろ?」
サンズは僕を見つめていた。相変わらず骨が周囲に構えているが、僕の答えを待っているのだろうか。今はまだ、襲ってくる気配はなかった。
僕はまた、何も答えない。
いや、答えたくなかったのかもしれない。
みんなをある程度殺して、ある程度生かして、Nルートなんて言われる世界線を生み出して、リセットして。
みんなを全員生かして、アズリエルを救って、Pルートなんて言われる世界線を生み出して、リセットして。
そして、最後に......僕はみんなを殺して、Gルートなんて言われるこの世界線を生み出した。
──────────────大虐殺だ。
「.........お前には分からないんだろうな。ある日突然、何の前触れもなく......世界がリセットされる。それを知りながら、生きていく気持ちなんて」
分からないさ。だって、僕は......リセット”する”側なのだから。僕にとって、この世界は所詮......セーブデータのひとつでしかない。リセットすれば全てがなかったことになり、また最初からやり直しができる。死んでもゲームオーバーになるだけで、セーブさえしていれば何度だって立ち向かうことが出来るのだから。
だが、サンズ達、この世界の住民からしたらどうだ。
自分達がデータを支えるパーツでしかない、それを知ったならば......一体、どうなるだろうか?
若しかすると、サンズは......最初から、それを知って?
だから彼は、いつもやる気のない姿で?
「
僕はもう一度、サンズの顔を見た。
弟を喪い、仲間と呼べる存在すら僕に殺され、そしてこの後世界をリセットされると知って。
それでも、僕を止めるために......出来っこしないとわかっていながら、それでも......世界を守るために、仲間たちが残していった”タマシイ”を守るために、僕に抗う。
サンズ............君は............。
そんな僕の心境を知ってか知らないでか、サンズは手をポッケに突っ込んで、諭すように僕に言う。
「もう、地上に戻りたいと思うことも無くなった。だって、もし戻れたって───」
話しながら、骨が僕を狙って発射された。
不意打ち。
さすがにこれを避けることは出来ず、痛手を負う。だが、2撃目を大人しく受けるような僕でもない。それはサンズもわかっているはずだ。骨攻撃を避け切り、レジェンドヒーローで回復。
「───また、ここへ戻されるんだろ?記憶を、消されてさ。そんなだから......正直、何をやってもやる気が出ない。それも、怠けるための口実なのかもしれないけどな。自分でも、よく分からないよ」
ああ、もう辞めたい。
何故僕は、こんなルートを始めてしまったのか。
何故、僕は軽率に────サンズと戦いたい、なんて思ってしまったのか。
「ただ一つ分かるのは......この後、何が起こるのか知っている以上、もう何もしないで見ている訳には行かないってことさ」
僕は馬鹿だ。大馬鹿だ。もうどうしようもない程の。
もう、こんなことをして......何になるんだ。何故、サンズにナイフを向けているんだ。
助けてくれ。
止めさせてくれ。
サンズ、僕を───止めてくれ。
剣戟をぶつけながら、サンズにお願いする。
どうか、僕を殺してくれ、と。
ゲームオーバーなんかじゃない。セーブなんかでもない。SAVEを、させてくれ。
みんなを殺して、自分も死んで。
傲慢なのは分かっている。
それでも、僕は......この世界から、居なくなりたい。
僕は、消え去りたい。
「ま、それはさておき」
サンズが、答えるように呟いた。
宙に浮いていた骨が消滅し、僕を捕らえるものがなくなる。
「お前、本当にブキを振り回すの、好きだな」
違う。
そうじゃない。
僕は、ナイフを振り回すのが好きなわけじゃ───!
.........本当に、そうか?
「.........なあ、さっきは答えてくれなかったけど──」
「...」
「俺にはわかるよ」
「...」
「お前の中には、正義のココロの欠片がある。正しいことを望んだヤツの記憶が、あるはずだ」
「...」
「ひょっとして......俺たち.........別の時間軸では............」
「...」
「友達、だったんじゃないのか?」
思考が、止まった。
その通りだった。
NルートでもPルートでも、サンズは僕の大切な友達だった。ニンゲンもモンスターも関係なく接してくれる、優しい兄貴だった。弟想いの、いいヤツだ。
「なあ、答えてくれよ」
サンズの目が優しく微笑む。
遠くにいたはずの姿は目の前にあり、僕の深層部分に問うているようだった。
「俺の事、覚えてるのか?」
もちろんだとも。
サンズのことを、忘れる訳が無い。
*サンズは逃がしてくれるようだ。
「俺の言ってることの意味がわかるなら.........こんなのもう、辞めようぜ?武器を置いてくれよ。そしたら、俺の仕事もラクになる」
僕は、いつの間にか「にげる」選択をしていた。
タマシイを「にげる」に合わせ、サンズを見た。
ニッコリと微笑むその顔は、ほかの世界線の彼の影と重なる。
僕は、サンズを──────。
*こうげきを つづけろ。
ふと、脳内に声が響いた。
攻撃を、続けろだって?
なんでまた、そんなことをしなければならないんだ。
この期に及んで、なんでそこまで。
──────────────なんでそこまで、肩入れする?
*こうげきを つづけろ。
嫌だ。
もう、疲れたんだ。
もう、攻撃なんて.........したくないんだ。
仲間を一人一人殺していく度に、心が痛んだ。
仲間との思い出が僕を苦しめて、それでも僕は。
ああ、僕はなんて酷いニンゲンだろう。
サンズは、僕を逃がしてくれる。
...............僕を、逃がして?
僕は逃げて、どうするんだ?
この世界で、人知れず......隠れて過ごすのか?
モンスターから隔離して、こじんまりと?
本当に、それでいいのか?
僕はサンズに殺されることを望んでいたはずだ。
.........逃げるのが、本当に最適の答えなのか?
それに、本当に僕は心の底から逃げたいと思っているのか?
*こうげきを つづけろ。
また声が響く。
そうか......。
僕の本心は、別の.........違う所にあったようだ。
心の奥底からフツフツと沸き立つこの無意識の高揚は、どうやらサンズを殺すことへの悦びだったらしい。
.........僕はなんて非道なのだろうか。クズなのだろうか。
ならば。
「にげる」を指していたタマシイは左へと移動し、「アイテム」、「こうどう」を通り過ぎる。
そして、「こうげき」スロット迄辿り着くと────
至近距離のサンズに、切りをかます。
「......」
予想していたのだろう。サンズは回避した。
「ま、一応言ってみただけだ。そっちが辞める気がないなら......仕方ない」
言っていた言葉の割に、サンズは悲観していないようだった。
.........まんまと、騙されかけたようだ。
さっき、僕が逃げる選択をしていたら。
サンズは容赦なく......無防備になった僕を咎めたはずだ。
だけど、僕が殺されたとは限らない。ゲームオーバーになっていたかもしれない。
「実はさ、こっそり思ってたんだ。お前と友達になれないかな、って」
サンズは遠くを見つめている。
きっと、ほかの世界線のことを夢見ているのだろう。
友達か.........。
───────────実にくだらない。
「時空が歪むのは......誰かが不満を感じてるからかもしれない、ってな。だから、その不満を解消してやれば......歪まなくなるかも、って思ったんだ」
僕も考えてみる。
だけれど、既にそれは経験済み。
ほかの世界線で、僕は既に2回、それを経験している。
思い返すのは、いつもサンズが楽しく語るグリルビーズでの話だ。
「どうすれば不満が解消されるかはわからないけど、”ウマイ飯”とか、”くだらないギャグ”とか、”友達”とかがあればいいのかな、って」
サンズが言ったものは、全てほかの世界線で実際にあったことだ。あったと言うより、本当にサンズがやっていたこと。
なんで僕は───
─────────────こんな相手に、手こずっているのか。
「何度も何度も、時間軸を食い荒らして、そして最後は......」
サンズは攻撃の手を止めた。
だが、僕の攻撃は相変わらず当たることなく躱される。これでいい。サンズに、僕の攻撃は当てたくない。
「なぁ......これだけは忠告しておく。お前もいつか............”やめる”選択をしなきゃ、行けなくなるんだぜ?」
サンズは動きを止めた。
僕に、何を求めるというのだろうか。
......まさか、サンズはこのデータをまたロードさせないようにしているのか?
だから、こんなにも鬼畜な戦いを演じているのか?
わざと、僕に「やめる」選択をさせるために?
「そして、今日がその日だ」
声のない質問に答えるように、サンズはそう言い放った。そして、攻撃が再び始まる。
”ゲーム”そのものを、止めさせるために。