*おちた ニンゲンに なまえをつけてください
気がつくと、僕は花畑の上に立っている。
どうやら花がクッションになったらしい。かなりの高さで落ちたのに何故生きているんだろうとは思っていたけど、そういうことなのだろう。
*おちた ニンゲンに なまえをつけてください
あ、そうだった。落ちたニンゲンに名前をつけなきゃね。
......そう。これが唯一、Charaに奪われなかった力。
Charaの名前は自由に変えることが出来るのだ。
どうやらここまでは手を出せなかったらしいから。
うーん、どうしようか。
Charaの名前だ。せっかくだし、有り余る怒りを込めて超ダサい名前にしてやろうかな。あるいはイタイ名前とか。名前が「名前」だったら面白いだろうな。
あ、そうだ。地下のモンスターの名前をつけたらどうなるんだろう。
えーと、こうして。
「サンズ」
『だめだぜ』
ダメらしい。っていうかサンズ?いるの?
んー。じゃあ、こうして。
「パピルス」
『俺様は別にいいよッ!』
いいんだ.........。しかもちゃんとこれでも選べるようになってる。
あ、これはどうだろ。
「ナプスタ」
『...............(止める気力がない)』
可愛いやつめ。
───そんなかんなで、命名遊びを繰り返す。
「フラウィ」
『その名前は僕だけのもの』
「アズリエル」
『...』
「アンダイン」
『自分の名前をつけろ!』
などなど。
ここで疑問。
Charaの名前をつけたら.........どうなるのか?
少し怖いけれど、好奇心のが恐怖を上回る。
「キャラ」
『──────本当の、名前』
............え?
動かしていないのに、喋ったつもりは無いのに、自分の口が確かにそう言った。
どういうこと?
「教えてほしいか?」
また、自分の口が動く。
教えて欲しいか、だって?
そりゃあ、教えて欲しいに決まってる。僕の体を乗っ取ったニンゲンのことだから、どうせろくな事をしていないのだろうけど。
「お前の体の主導権は私が受け継いだ。安心しろ、もうお前に何もできることは無い」
は?
ちょっとまって。
それって、どういう.........
「言葉のままだ。もはやお前に、この体を動かす力はない」
そんな.........?
ちょっと、まって!
僕の体を乗っ取ったっていうのか!?
「そうだ。今、お前の体は私のものとなった」
う、嘘..............................。
嘘だと言ってくれ。
............。
.........。
......。
...。
分かってる。
僕には何も残されてないんだ。
意見を言うことすら、唇を少しでも動かす権利すら。
僕の意思は、完全にタマシイの片隅に追いやられてしまった。
でも、無くなったわけじゃない。
「無駄な足掻きを。お前に出来ることは無いと言ったはずだ」
分からないじゃないか。
私は心の中で笑って、そこにはないCharaの姿を見据える。
「ははは。どうだか」
Charaは嗤って、僕の無謀を切り捨てる。
こうして、何事もなかったように.........地下世界の6週目が始まっていく。
誰も殺さない、というのは実に楽だった。
殺さない、ということは倒さなければいいということ。ならば、逃げてもいいのだ。
Charaはそれはまあ華麗にモンスター達から逃げたり行動したり、とにかく上手く立ち回って見せた。
僕が自分の体を動かしていた時よりも遥かに身軽に。
どうして?何故?
僕の体は、何故Charaに馴染む?
何故僕よりも軽快に動く?
僕は一体誰なんだ?
Charaの下位互換か?
本当にフリスクか?
どうなんだよ。ねぇ。
闇に訊いても、答えは帰ってこない。
指ひとつ動かせないままに、僕の体は外の世界を目指して扉を開ける。
「ははは。これで、私は外の世界に出ることが出来る」
静観しているつもりなんて毛頭ないけど、何も出来ないんだから仕方ない。
.........仕方ないなんて、誰に言い聞かせてるんだよ。
「私が大使?...............それはちょっと、遠慮させてもらおう」
「ニンゲンがやらないなら俺様がやるぞッ!早速地上のニンゲン達に挨拶してくるッ!」
「.........全く、しょうがないな。アイツにはオイラが付いといてやらないとだめだからな。オイラも行くぜ」
「ならばッ!私も行くぞ!」
「ま、まって!私も......!」
「............私は何かした方がいいのかな?」
「......」
「そ、それじゃあ私も失礼する!」
「みんな.........忙しないわね。それはさておきフリスク、あなたには帰る場所があるのよね?」
「私にそんなものは無い。トリエルと一緒に暮らしたいと思っている」
「あら、そうなの?......もっと早く行ってくれれば............でも、これで良かったのよね」
「そうだとも。それでは、行こう」
「ええ」
良くない。
全くもって、良くない。
地上に出るみんなの話を聞いていたけど、僕がいた時と特に変化はない。ちょっと違うのは僕の体が大使になることを拒んだことくらいか。
それからCharaは当然のようにトリエルと一緒に住むことになる。
トリエルもCharaも女なのでなかばシェアハウス状態だ。
Charaはしばらく大人しくしていて、トリエルにバタースコッチシナモンパイの作り方を教わったり、時々訪れるサンズ達と仲良くダジャレを言い合ったり......残酷なあの姿とは違う不思議な一面をみた。
だが、それも束の間。
とある夜。
Charaが起きると時間は真夜中で、扉の近くを見るとバタースコッチパイが置かれていた。
「そろそろ、頃合いか」
そんなつぶやきが聞こえたかと思うと、体が起き上がってどこかへと歩き始めた。
『どこに行く?』
「まあ見ていればわかる」
トボトボと暗い廊下を彷徨い、キッチンに辿り着く。
「出来たパイを切るために……確か、ここに仕舞ってあったはずだ」
棚を開け、綺麗に片付けられたナイフを取り出す。
『まさか、──』
「黙って見ていろと言ったはずだ」
無理やり口を塞がれ、何も言えなくなる。
塞ぐと言っても元は僕の口。
辛うじて発せた声も出せなくなり、僕が僕であるという証明はほぼ出来ない。
暗いからか、覚束無い足取りで寝室へと向かう。
ナイフを片手に、行く場所など決まっている。
「この日のために、何日も我慢をしてきたのだ」
体からどす黒い何かが吹き荒れる感覚。
リセットされたはずのLvが一気に戻ったように錯覚し、心臓が音を撒き散らす。
キィ、と扉が開く。
トリエルの可愛い寝息が聞こえる。
同時に、殺意の篭もった足音も聞こえる。
僕の体が、思い切りナイフを振り上げる。
どうすることもできないまま、抵抗虚しくナイフが振り下ろされ、トリエルは、───────────?
「おっと、寝込みを襲うとは卑怯だな」
骨が擦れる音がした。
「どうしたんだ?そんなボーンッとして。......骨だけに?」
ツクテーンというBGMが聞こえてきそうだけど、今はそんな状況じゃない。
いつもの彼のおどけた素振りは、果たしてどれだけCharaに届くのか。
「少しくらい笑ってくれてもいいんだぜ......、なぁ、お前さんよ」
顔を伏せているのか、はたまた暗いからか、彼の目を見ることが出来ない。どんな表情をしているかもわからない。
「今夜は綺麗な星が見えるぜ?」
口説き文句......なわけない。
トリエルを殺そうとしているこの状況下で、骨身の彼がこの言葉を言う時は......。
「こんな清々しい日なんだ。お前さんみたいな
『サンズ......』
サンズが顔を上げる。
左目に青白い炎を宿し、ポケットから手を抜いて......僕の、Charaの体を強く見据えて。
「地 獄 の 業 火 に 焼 か れ て も ら う ぜ」
審判者による、最高のbadTimeが始まる。