そうであれと、願われたのなら。   作:吉川佳乃

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DREAM LANDへようこそ

 

 乱雑に組まれた木々が各所に散らばり、その上で輝きが躍る様に揺らめいている。

 周囲を岩に囲まれ、天だけがぽっかりと抜けた、月光降り注ぐ大洞窟。

 

 輝きを囲うのは、げらげらと下品な笑いを零す数百人の人影。男も女も、まだ年端も行かないだろう少年の姿もあった。皆が一様に楽しそうに、愉快そうに笑っている。

 交わされる内容は多岐にわたる。獲物の話。国勢の話。色恋の話や奪愛の話。

 どこどこの何を奪っただとか、誰を殺しただとか。

 何を盗んだ、だとか。

 

 そう、ここに集っているのはとある盗賊団だ。

 大規模な盗賊団──小さな盗賊がいくつか集まって出来た、勿論非公式な盗賊組合(ギルド)

 夢に破れ、人の道から外れ、落ちてきた先でまた、夢を語る。

 人は夢から離れられず、故にこそ群れて群がってまた、新しいコミュニティを築き上げるのだ。

 

 この中には多分、今は盗賊に身を窶しているだけで、いずれは返り咲かんとする者もいるだろうし、盗賊であることに蜜を覚えた故にこの稼業をずっと続けていこうとほくそ笑んでいる者もいるだろう。

 それでも今はと、再び生きて会えた事に、盃を酌み交わす。

 肩を組み、歌を歌い、楽しい時間が過ぎていく。

 

 

 そしてそれは、唐突に終わりを告げた。

 

 

「動くな! 国際指名手配A級盗賊組合【DREAM LAND】──貴様らのこれ以上の狼藉は、この私が許さん!」

 

 ふ、と輝き──焚火の火が消える。

 ほぼ同時だ。全ての焚火が輝きを失い、周囲が暗闇に包まれた。

 運悪く月さえも雲のベールに隠れてしまい、辺りは完全な闇へと堕ちる。

 

 襲撃。

 それは数々の国で、数々の悪事を為している盗賊団であるからこそ、慣れたものだった。

 襲撃者が例えEランク冒険者であっても、神殺しとさえ謳われる伝説であっても、対応は変わらない。後者であれば適うはずがないし、前者であっても不特定多数にこの場所が割れている可能性があるのだ。であれば、一瞬にして撤収するほうが賢い。

 

 盗賊組合【DREAM LAND】は、そんじょそこらの盗賊団とは違う。

 在籍するそのほとんどが、熟練の冒険者や何らかの事情で国を追われた騎士、軍人だ。

 自らが人道に反している事を知っているが故に、自覚しているが故に、プライドを捨てて逃げるという選択肢を取る事に迷いがない。

 

 焚火が落ちて、この大洞窟から人間がいなくなるまで、凡そ二分。

 

 その間襲撃者が何もしなかったかと言えば、勿論そんなことはない。

 すぐに襲撃者の内の一人が炎を放ち、灯りを保った。保とうとした。

 

 それは暗闇から放たれたナイフに撃墜されてしまったから、灯す事は出来なかったのだ。

 

 全ての人間が逃げたわけではなかった。

 殿──全員が逃げ切るまでの二分間、敵を縫い付ける役目を担う者たちがいた。

 

 襲撃者はそれに、まんまと縫い付けられていたというわけである。

 

 

 

*

 

 

 

「ボス、ボス、マジやばいってアイツら! もうみんな逃げたんだから早くにげましょ、無理ッスってあれ!」

 

「うるせぇなぁコビン。ガキ3人にジジイ1人、ちったぁまともそうなのが1人。これのどこを恐れる必要がある?」

 

「そうそう。私達の居場所わかってないみたいだし、このままサクっとやって、金品奪っていきましょ。折角の酔いが醒めちゃって、気分サイアクだもん」

 

「上玉もいるしなー。ガキとはいえ、ありゃ将来化けるぞー。二、三年飼っておけば、ものすげー金になりそーだ」

 

「いやいや無理ッス無理ッス一瞬明るくなった時に見えたでしょあの剣! 王家の紋章入ってましたよリアレタの! そんで詠唱ナシにあの威力の炎出せるジジイとか、リアレタの宮廷魔術師くらいしか知らねえッス!!」

 

 残った四人の盗賊の内、小声で叫ぶ、叫んで焦る男に反して、他の三人は危機感を持っていないらしい。

 暗闇に包まれた岩陰に隠れ、襲撃者……少女二人、少年一人、老人一人に精悍な顔立ちの男一人のパーティを観察している。

 襲撃者五人は互いの背を合わせるようにして警戒をしているようだが、精悍な男と老人一人以外の注意は散漫も散漫だ。

 

「リアレタの騎士と宮廷魔術師が子供三人のお守? ……やんごとなき、ってヤツかしら」

 

「ん、つーことはあの上玉は姫さんかー? そりゃ流石に、分が悪いなー」

 

「チェイス、お前確かリアレタの……あ? 分が悪いのはガキに対してなのか?」

 

「んー、姫さんはリアレタ王の教え受けてるらしいんだよー」

 

「いやいやいやいや拳闘王の直伝とかやばいやばいやばい」

 

 当然ながら、この四人もまた様々な事情があって、ここにいる。

 その中でもチェイスと呼ばれた男は、元リアレタ王国の庭師だったという。その情報筋は恐らく確かなものだろう。

 

「あ、言われてみれば見覚えあるわ、あのガキンチョ。あの杖持ってるの、教会の法皇よ。あんなナリでも齢千を超える化けモノだから、気を付けなさいな」

 

「姐さんちょっとおかしくないっすかそれなんでそんな化物がこんな所にいるんすか」

 

「うるせぇなぁコビン。たかだか宮廷魔術師に王国騎士に教会法皇に拳闘皇の娘だろぉ?

 ……やばくね?」

 

「だから言ってるでしょ! てか、それが霞むほどヤバイのが真ん中のアレ!」

 

 馬鹿な話をしながらも、決して目は逸らさない。

 時折コビンと呼ばれた男がナイフを投げて牽制し、隠れる場所を都度都度変えているのがこの均衡を崩さない理由でもある。

 

「そうかー? 少なくとも俺は見た事ねーけどー」

 

「私もないわね。っていうか、悔しいくらい可愛いこじゃない。おいしそ」

 

「コビン。真ん中のは誰だ? 俺もこの国は結構知ってるつもりだったが……知らねえ」

 

 知っている者ならまだしも、知らぬ者については危険度がわからない。

 ただ、あれほどの面々を従えているのなら、やはりそれなりに何かがあるのだろうと三人は判断した。

 その上でコビンを頼る。

 コビンは小物だが、故にこそその観察眼は本物だった。

 

「オレも知らねッスよあんなの……あんな化物、同じ人間とは思えねえ。逃げないと、ガチで死ぬッスよ。なまじっか後ろの四人を倒せたとしても、アイツだけは無理ッス」

 

「ふむ。コビンにそれほどまで言わせる敵は……まぁ、結構いたが。それにしたって怯えてんなぁ」

 

「ま、逃げるならそれでいいわよ。コビンが勝算ないってんなら、本当にないんでしょうし」

 

「逃げる準備は出来てるぞー。ボス、コビン。どうするー?」

 

 四人は顔を見合わせた。

 そして、一斉に駆け出す。

 

 三人は洞窟の隠し通路へ──一人は、敵の方へ。

 

「ボス!?」

 

「コビン、振り向いちゃダメ。アンタもわかってるんでしょ? 必ず誰かが犠牲になる必要があった、って事くらいは」

 

「悔しいけどなー。でもまぁ、この状況じゃなくても、ボスは行ったと思うぜー」

 

 なんせ。

 

 

 

*

 

 

 

「おうおう、久しいじゃあないかのぅ。ええ? ──堕ちた英雄、カルザボス」

 

「……久しぶりだな、クソジジイ」

 

 ボス、ボスと慕われていた男。

 真実、あの四人だけの盗賊団のボスであったことは事実だが、それは愛称でもあった。

 

 カルザボス、と名乗っていた男は、とある大国とリアレタ王国の戦争における英雄の一人だ。

 男と対峙する老人──ファシュシム老と同じ、英雄。

 

「お噂はかねがね。俺は王国騎士団現第一団長リューギスと申します。伝説と謳われた前第一団長殿とお会いできて光栄です」

 

「騎士団が子供のお守たぁ、堕ちたもんだな」

 

「王族を守るのが騎士団の務めですので」

 

 顔色一つ変えずに言うリューギス。

 その瞳にあるのは侮蔑だけで、尊敬の念など欠片もない。

 

 パシン、と音が響く。

 それは掌に拳を打ち付けた音。

 

「カルザボス様。お久しぶりですね。と、言っても……恥ずかしながら、私はアナタを覚えていないのですけれど」

 

「そりゃあ姫さん、仕方ないさ。なんせ十年前だ。姫さんは今と変わらず、妃サマの乳をしゃぶる赤子でしかねぇ」

 

「ええ、お母様のおかげで私はこんなにも強くなりましたわ」

 

 優雅なカーテシーで、にっこりとほほ笑む少女。

 カルザボスは彼女の母と全く同じのその笑みが苦手だった。

 

「はは、旧知との挨拶はすんだかい? そろそろウチのリーダーが痺れをきらしてしまいそうなんだけどね」

 

「別に構わない。貴方も何か言いたいことがあるのなら、言っておきなさい」

 

「そうかい? じゃあ、遠慮なく。

 ──久しぶりだね、義兄さん」

 

「殺すぞてめぇ」

 

「はははっ! 何を怒るんだい、事実だろう? 君の妹は僕の妻だ。ならば、君は僕の義兄ということになる」

 

「相変わらず気持ち悪い笑い声だなカネルバ。死んでくれ」

 

 カネルバと呼ばれた少年は、邪悪な笑みを浮かべる。

 とても聖職とは思えない笑み──それは、彼の前に陣取っていた少女によって阻止される。

 主に彼の足を思いっきり踏みつけるという動作で。

 

 イ゛ッ!? という声にならない悲鳴を上げて蹲るカネルバに、カルザボスは珍しいものをみた、という表情で少女を見た。

 軽鎧に剣。腕には魔道具だろうリング。

 そして、とても強い瞳。

 

 だが、他の面々には見劣りする──ただの少女だ。

 

 コビンが、一番ヤバイと言っていた少女である。

 

「一つ。安心しなさい。貴方の妹は、おじい様と私が保護したわ。今は信頼のできる場所に預けてある」

 

「……なるほど。そうか。そこの害悪から取り戻してくれたのか」

 

「ええ。後ろの害悪はボッコボコにしてやったわ」

 

「それについては感謝しよう。だがもう俺は戻れん所まで来た。戻るつもりもないし、アイツに会いに行く気もない」

 

「意地っ張りめ……まぁ、それだけのことをしでかしたわけじゃなからなぁ。

 カルザボス。貴様は極刑以外の道が残っておらん。それはわかっておるな?」

 

 殺気が立ち込める。

 次の言葉が、合図となる。

 それはここにいる全員が理解していた。

 

「──知らんな。ここでお前たちを倒せばいい話だろう!」

 

 カルザボスが剣を抜く。

 だが、それよりも早く動くモノがいた。

 

 拳を握り締めた姫でも、ゆっくりと剣を抜くリューギスでもない。

 未だ蹲るカネルバでも、口を開いたファシュシム老でもない。

 

 それは少女──既に剣を抜き去った少女が、カルザボスの首の皮一枚の所までその刃を届かせていた。

 

 

 だが。

 その剣は、硬質な音に弾かれる。

 

「チェイスウウウウウウウウウ!」

 

「あいよー! トリモチ矢、発射ァ!」

 

 ナイフ──風を纏うナイフが、少女の剣を弾き飛ばしたのだ。

 さらに叫び声と共に、カルザボスの真後ろから何かが飛来。

 

 それはカルザボスの身体に引っ付き──その巨体を、思いっきり引き上げた。

 

「姐さん、ケムリ!」

 

「はいはい!」

 

 そして直後、周囲が煙に包まれる。 

 暗闇と煙によって視界は最悪だ。

 

 それでも動く影があった。

 

 少女と、騎士リューギス。

 

 二つの影は一直線にそこ──標的のいる場所へ向かう。

 

 下段、逆袈裟に神速の斬撃。

 それを逆手に持ったナイフで刃を合わせて止め、すぐさま前蹴りで以てリューギスを吹き飛ばしたのは──コビンだ。

 

「チェイス、姐さん! ボスの事頼んだっすよ!」

 

「りょーかいっ! 死ぬなよー!」

 

「この馬鹿は責任もって預かるから、あんたも死ぬんじゃないよ、コビン!」

 

 返事はない。

 ただ、硬質な音だけが響く。

 上下左右、突きやフェイントを織り交ぜて、その全てが目に負える速さではない斬撃が、悉く。たった一本──たった一本のナイフによっていなされ、弾かれる。

 

 時折入る長剣による切り伏せでは何の効果もない。邪魔だと言わんばかりに蹴り飛ばされ、殴り飛ばされ、為すすべもなく煙の中心地からリューギスが吐き出された。

 

 緑と白の入り混じったような光が瞬く。

 直後斬撃はその速度を二倍にするが、それでも届かない。弾かれる。弾かれる。

 

 少女の剣は──コビンには、届かない。

 

「……驚いたの。ヤツが最も小物だと思っておったが……」

 

「はい。お姉さまを相手にして、一歩も引かない……どころか、競り勝とうとしている。信じられません」

 

 強化も治癒も、対象の視認が必要だ。

 この煙が蔓延している状況では、ファシュシム老もカネルバも、自らの得意分野を発揮できなかった。おそらくはそれが狙いだったのだろう。

 

 煙の中からはじき出されたリューギスが、息も絶え絶えに彼らの元に戻る。

 

 多く煙を吸ったのだろう、コホコホと咳き込みながら、普段はクールな彼には珍しく、怒りとも悔やみとも取れぬ表情を浮かべていた。

 

「姫。申し訳ございません。あれなりし者を相手に、俺は貴女様を守れそうにない。もしもの時は、逃げてください」

 

 弱気な発言も珍しい。

 いつだって強気で、プライドが高く、しかし実力が伴っているのがリューギスだった。

 カルザボスを相手にした時だってそうだ。自らの誇りを元に一切の感情を出さないでいたが、勝算は微妙なところだったかもしれない。少なくとも過去、カルザボスに助けられたことをきっかけに騎士を目指したリューギスでは、その剣が鈍っていた可能性すらある。

 彼の強気は演技以上に自己暗示だった。にも拘らず、弱音。

 それは真に、無理であることを悟っている証左。

 

「……」

 

 もう痛みも治まっただろうに、未だ蹲って煙の向こうを見つめるカネルバだけが、沈黙を保ったままだった。

 

 

 

*

 

 

 

 少女は興奮していた。

 昂っていた。それはオカシナ意味ではなく──高揚していたのだ。

 

 ()()()()()()()()()、不思議な力を得てから、少女の前に敵はなかった。

 国の最強と謳われた者ですら、少女の敵ではなかった。唯一少女がおじい様と慕う老人だけは、搦め手を用いて少女に勝った。故にこそ、尊敬している。

 だが、正攻法で──真正面から少女と渡り合える者など、存在しなかった。

 少なくとも王都には。

 

 だから、魔王退治の旅に出た。

 なんとも不純な動機だ。戦いを求めて、一国を滅ぼそうというのだから。

 無論いきなり呼ばれた国の──世界の事情など、少女にはどうでもよかったのかもしれないが。

 

 それが。

 

 それが、こんな序盤に。

 旅に出てすぐの、盗賊団退治などという欠片も興味が湧かなかった依頼(クエスト)に。

 

「ッ……!」

 

 声に使う酸素すら勿体ない。

 不思議な力は少女の身体を十全以上に強化した。少女が剣を振るえば鉄はバターを切る様に裂け、少女が拳を振るえば山に穴が開く。

 それほどまでに”強くなった”少女が、息をする事すら勿体ないと、興奮して剣を振るう相手。

 

「ちょぉぉおおっちょちょちょっちょっちょっちょあぶねえマジ危ねえおいおいおいおいおい首狙ってくるなぁ怖い怖い怖い怖い!」

 

 少女の剣を弾き、いなし、かと思えば少女の喉元目掛けて斬りかかり、直後に身を翻して斬撃を避け──焦りまくっている声とは裏腹に、余裕のある動きだった。

 自己強化魔法をもう一段上げる。

 初めて実戦で使う自己強化魔法。今までは行う必要が一切なかったが、今は使わなければ追い縋れない。

 

 さらに倍になった少女の斬撃を、しかし相手──コビンは弾く。

 完全に後ろを取ったのに。

 

 早くなったのは剣だけでない。移動速度も倍になっているというのに、首元を狙った斬りかかりは後ろ手に出されたナイフに弾かれた。

 コビンの身体が沈む。

 沈み様に振り向き様に、ひねりを加えてアッパーカット。

 少女は瞬時にバックステップし、これを回避。ヒュッと音を立てて飛んでくるナイフを弾き、突きの姿勢を取る。

 

 影が見えた。

 煙が晴れてきているのだ。その、通り始めた月明かりが翳る、という事は。

 

「っ、」

 

 弾かれたナイフが掴まれたのが見えた。

 突きの姿勢はそう簡単には崩せない。

 月光を掲げて、とても恐ろしい瞳が少女を貫く。

 

 頭頂。

 

 そこへ今、ナイフが──。

 

「守れ、聖なる光!」

 

「ロア!」

 

「お姉さま!」

 

「ハァァアッ!」

 

 刺さらなかった。

 

 コビンの身体を、灼熱の球体が吹き飛ばしたからだ。

 そして姫が少女の身体をかっさらい、破裂した灼熱の流れ弾をリューギスが叩き斬る。

 

 破裂した灼熱。

 そう、あの姿勢から──コビンはこれに対応、それを相殺した。

 

「信じられん……」

 

「もー、僕の守りが無駄になったじゃないか」

 

「申し訳ありません。姫が最優先ですので」

 

 愕然とするファシュシム老の横で、カネルバとリューギスが言い合いをしている。

 炎程度、カネルバの守りがあれば問題なかった。にも拘らず、リューギスが*1炎を叩き斬ってしまったせいで、守りが無駄になった、というしょうもない争いだ。

 

「いやいやいや人に炎撃っておいて何が『信じられん……』だよクソジジイ! 死ぬかと思ったじゃないッスか!」

 

「……貴様、何者じゃ。ただのコソ泥ではあるまい」

 

「話聞いてねー!」

 

 完全に晴れた煙が月光を導く。

 煌めき。

 

 カネルバの守り──保護、防護、さらに身体強化その他諸々を一度で付与する反則級の補佐魔法は、少女の疾走を最早人間の目では追えないモノにまで仕立て上げた。

 

 だが、それでも。

 

「どわぁっ!? 人が話してるときに剣向けてくるとか頭おかしいんじゃないっすか!?」

 

 先ほど自分たちが似たようなことをしたのも棚に上げて、コビンが叫ぶ。

 その手に握られたナイフはしっかり、少女の剣を受け止めていた。

 

「ロア!」

 

 ファシュシム老がその言葉を叫ぶ。

 中空に灼熱の球体が集い──、

 

「ただでさえ多勢に無勢なんだから、召喚獣とか無しッス!」

 

 その()()辺りを、投げられたナイフが刺し貫いた。

 

 悲痛な声が上がる。

 灼熱はほどけ、見えない何かが倒れ伏す。

 

 斬り上げ。

 それを横から蹴って、コビンはナイフを拾いなおした。

 

 そのまま五人から距離を取る。

 

「……お、お姉さま……?」

 

 終始。

 無言で、不意打ち気味に斬りかかったその全てを弾かれ、いなされた少女は──。

 

「──素晴らしい」

 

 笑っていた。

 

 これ以上ないくらいの笑み。それなりの時間を共に過ごした姫やファシュシム老であっても、見たことのない満面の笑み。

 

「決めた」

 

 決めた。

 何を?

 

「私は──アイツと結婚する」

 

 

 

*

 

 

 

 これが。

 とある盗賊と、とある勇者と、あとどこぞの魔王による盛大な捕り物劇の、最初の一幕である。

 

 

 

*

*1
いいとこ見せたくて




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