邂逅ッッッ!
ラクーンシティ
国際的ガリバー企業である製薬会社アンブレラ社の庇護の元、発展を遂げた人口10万人の都市である。四方を山に囲まれ、ラクーンシティに行くには一本の道を通るしかない交通の便の悪さはあるものの、アークレイ山脈の美しさのお陰で観光地としても有名だ。そのラクーンシティに入る為の唯一の道にあるガソリンスタンド店内に一人の女子大生が入ろうとしていた。
「誰か……居ませんか……」
クレア・レッドフィールド、一般の女子大生である。音信不通となった兄、クリス・レッドフィールドを探す為、彼女は兄が居るラクーンシティに向う道中に立ち寄ったガソリンスタンドに不穏な空気を感じていた。
クレアは懐中電灯を片手に店内を見回す、夥しい量の血が床に飛び散り、商品が散乱していた。更に奥に進むと首に怪我を負った店員らしき人物が床に座っていた。息も荒く、応急措置が必要な様子だったが、クレアはこの事態を引き起こした元凶をどうにかするのが先と判断し、奥に進む。店内奥のドアを開けると信じられない光景が飛び込んで来た。
「ムシャ、グニュ」
人が人を食べている……貪っている。まるで映画等に登場するゾンビの様…… いやゾンビそのものだった。
「こ、これは……」
クレアが惨状を目の当たりにし、呟くとゾンビはクレアの方へ向かっていく。息を荒く皮膚が所々剥がれた怪物は次なる獲物を食する為、拙い足取りで獲物に襲い掛かる。
「近寄らないで!」
クレアは来た道を戻るが、扉は閉まっていた。ゾンビは目前に迫っている。
「くっ!」
クレアは已む無く、護身用に所持していた小型のハンドガンでゾンビの足に数発の銃弾を撃ち込んだ。ゾンビは断末魔の様な呻き声を上げながら倒れ込んだ。クレアはその隙に事務所内を見渡す、壁に銀色の光が見えた。
「あれは鍵?」
クレアは咄嗟に鍵を手に取ると近くの扉に駆け寄る。ゾンビは這いつくばって此方に向かって来る、クレアは願いながら鍵をドアノブに差し込む。
「開いた!」
クレアは一目散に入り口まで走った。店内に居るゾンビ達は獲物を視界に入れた事により、雄叫びを上げる。クレアが入り口のドアを開けると一人の男がこちらに銃口を向けて来た。クレアは思わず叫ぶ。
「撃たないで!」
「しゃがめ!」
男の忠告通りにすると、後方に居たゾンビの頭に銃弾が撃ち込まれ、怪物はダウンする。
「早く車へ乗り込め!」
男の掛け声と共にクレアは車に駆け寄る。しかしいつの間にかゾンビに周りを囲まれてしまった。二人で応戦するが多勢に無勢、あっという間に弾切れに追い込まれた。
「万事休すか……」
男が生存を諦めかけたその時、暗闇から一人の人物が現れた。
「フン、ストライダムの戯言を真に受けて来てみればこの様だ」
尋常ではない筋肉量、それでいて肥満とは程遠い筋密量、まるで悪魔のような顔つき。漆黒のカンフー胴着を纏った男から発せられる覇気はクレア達のみならず、ゾンビの歩みも止めていた。
「デマではなかったか……いいぜ、来な。死すらも克服するその力、堪能させて貰うッッッ!」
男の悪魔の如き顔が笑みに変わると凄まじい覇気は更に勢いを増す。
起きてはならない事がその時起こったッ!
なんとゾンビ達は自分で自分達を殴り始めた。他のゾンビに噛みつくゾンビすら居る。クレア達は怪物達の豹変した行動に唖然とするしかなかった。
「やめい」
男が一言呟くとゾンビ達は動きを止める。全てのゾンビは震えながら男の方を向く。
「貴様らの選択は正しい。仮に……闘おうともせず一人でも逃走だしたならその場で屠り去っていた。かと言って俺に向かってきても同じ運命、ならば苦肉の策、自らを殺傷し合う……自らを殺傷する、それでいい、それがいい。許してやろう」
男の笑みを視界に入れたゾンビ達は倒れ込む様に座り込む。人としての自我を失い、怪物と成り果てた現在でも目の前の人間?と戦えば必ず死ぬと分かる程度の最低限の生存本能は失われてはいなかった。
「お前ら、ラクーンシティに行くんだろ?俺も乗せな」
「よ、よし車を出そう!」
もう一人の男がエンジンを掛ける、クレアとカンフー胴着の男が車に乗り込むと車は急発進した。
「さっきはありがとう。私はクレア・レッドフィールド」
「俺はレオン・S・ケネディ。いや、俺も助かった、あんたのお陰で……」
レオンとクレアが目を尻目にして後部座席を見る。カンフー胴着の男は腕と足を組み、この緊急事態でも特に緊張した様子もなかった。
「あんたの」
「範馬勇次郎」
レオンが言い終わる前に勇次郎は自分の名前を告げる。レオンの額から冷や汗が止まらない。勇次郎と名乗るこの男の戦闘をしている場面を見た訳でも、身体能力を見た訳でもない。ただこの男の常軌を逸脱した存在感がレオンの五臓六腑に圧力を掛けていた。
「しかし、さっきの化物達は一体何だったんだ?集団洗脳のせいか、危険薬物のせいか」
クレアは疑問点をぶつける。
「でも全員白目だったし、皮膚も爛れていた。そう……信じられないけどあれはゾンビそのもの……」
「馬鹿な、と言いたい所だが今のところはそうとしか考えられない。全くとんだ着任日になっちまった」
「着任日?レオン、あなたまさか警察官?」
「ああ、そうだが?」
クレアはその情報を聞き、落ち着いては居られない様子だ。
「私、兄を探しているの!その兄はラクーン市警の特殊部隊の隊員、クリス・レッドフィールド!貴方知らない!?」
「いや待ってくれ、警察官と言っても今日が初めてなんだ。詳しい情報は分からないんだ」
レオンはクレアを宥める様に言葉を返した。クレアは肩をすくめる。
「そう……よね」
「と、取り敢えずラクーン警察署に行けば何か分かる筈だ。落ち込むな、クレア」
(レッドフィールド。この名、どこかで……)
勇次郎が自らの記憶と格闘していると車はその動きを止める。ラクーンシティに到着した様だ。前方にはバリケードが張り巡らしている、四方八方を見渡すとゾンビが獲物を貪っていた。
「この状況は不味いな……車を出て警察署を目指すしか……ん?」
レオンがふとバックミラーを見ると大型トレーラーがこちらを目掛けてくる様を視界に入れた。一難去らずにまた一難、レオンは叫んだ。
「トレーラーが突っ込んで来るぞ!皆、早く車を出るんだ!」
三人が車を出た瞬間、周辺は凄まじい衝撃に襲われ、車やゾンビはまるで重力がないかの様に吹き飛び、火の海と化す。
勇次郎はその最中でも表情を全く変えず、平然としていた。火の海から声が聞こえる。
「ゆ、勇次郎……生きてるか?」
「ああ」
「良かった、俺とクレアは警察署に向かう。勇次郎も来てくれ!」
「フン」
勇次郎は当たり障りのある返事をするとハンドポケット状態でラクーンシティを闊歩する。炎上した車、死体を無我夢中で食するゾンビ、朽ち果てたバリケード。まるで地獄のような光景だったが、数え切れない程の戦場を経験した勇次郎にとっては遊園地を闊歩するのと同等だった。ゾンビはこの男に襲い掛からない、見て見ぬフリをするのが関の山だ。知性と引き換えに得た常人を超越した腕力と食欲もこの男の前には何ら効力を為さない事位はゾンビ達にすら理解出来た。
「あれが警察署か」
目標を視野に入れた勇次郎は足取りを早める。自分が楽しめる雰囲気を感じ取ったからだ。
門を開け、続けて玄関を開けるとそこは広いホールだった。左右にある二階に繋がる階段と中央に存在する女神像が目につく。勇次郎が前に進むと一人の怪我を負った黒人男性が現れた。
「生存者か……良かった。しかしここも危ない」
「あんた、ここの警官か?」
「ああ、俺はマービン。今では唯一の生き残りだ。俺以外の警官は全滅してしまった、来て貰って悪いがここは安全地帯としての機能を失ってしまっている。一人でも多く救う為に他に脱出経路を探さないと……」
「何か手掛かりは?」
「ある警官が残したこの手帳にそこの女神像から抜け道がある事が記されているが、この傷では探索も出来ない。二階にあるライオン像の仕掛けと何か関係がある様だが、良ければライオン像を調べてくれな」
「アホウ」
勇次郎はマービンにそう告げると女神像の前に立つ。片手を掲げると金属の如き力瘤を発生させる、その表情はまるで伝説上の生物『オーガ』を彷彿とさせた。
「ッチェリァァァァァァ!」
勇次郎の放った拳撃は女神像、下にある台を瞬時に粉々に粉砕、ホールの壁には亀裂が所狭しと入った。破壊したお陰で隠し階段が見える様になった。マービンはゾンビ達の惨状以上に驚愕を隠せない。
「入るぜ」
「脱出経路など興味もねえが、この先は面白そうだ」
オーガは高鳴る鼓動と共に階段を降りていった。