ターンテーブルは終着地に着く。後部にある列車と連結し、発車準備は完了した様だ。勇次郎はターンテーブルから列車内に入るとシェリーと再会する。勇次郎は操縦席に目を向けるがまだ操作レバーに手を掛けない。
「何を手こずっているッッッ!」
瓦礫が降り注ぎ、至るところで爆発が起こる。研究所の寿命も残り僅か、その様はアンブレラの栄華の終焉にも見える。
何かが乗っかった音がする、勇次郎は姿を見るまでもなく察する。地上最強の生物は気配でその存在の大体の様子が理解出来る。
「「勇次郎!」」
「フッ……やはり生きていたか」
レオンとクレアの無事を確認すると勇次郎はレバーを引く。列車は動き出し、加速する。あの地獄、あの修羅場、前代未聞、空前絶後の災厄から離れる事実はレオン、クレア、シェリーを安堵させ、床に座らせる。
「お、終わったのよね……」
「ああ、なんとか生き延びた、まるで夢、悪夢だった……」
レオンとクレアは項垂れる。疲れや安心感、その姿は戦場から帰還した兵士の様にも見える。列車は地下道を猛スピードで駆け抜ける、終点は恐らくラクーンシティ郊外であろう。災厄から逃れられるのは間違いない。しかしその時―――――――
ガシャ!
列車が大きく揺れる程の衝撃と凄まじい金属音が三人の安堵感を粉々に破壊する。一体何が起きたのか、思考停止するのは必然であろう。しかし地上最強の生物にはその必然は通用しない。この男の心中にあるのは喜び、ただそれだけだった。
「い、一体何なんだ!」
「わ、私、様子を見てくるわ!」
「お前らは此処にいろ」
勇次郎はハンドポケット状態で歩き出す。高鳴る鼓動、行幸の予感、二つの先の車両に着くとそれは最高潮に達した。
「ここまでやらせてくれるとは……感謝……」
列車後部にある強固な扉が歪む、また歪む。扉の向こうに何がいるか、勇次郎には火を見るより明らかだった。
鉄製の壁と扉をズタズタに切り裂き五度、それは現れる。
今までの姿とはかけ離れた姿、まるで軟体生物の様に柔らかく、尚且つ190センチ超の勇次郎が見上げる程の巨体、横幅も列車の幅とほぼ同じである。四つの触手を駆使し、巨体を前進させている。よく観察すると躯の至るところに腕や足が生えている。研究所内のゾンビを吸収したのだろう、この巨体も恐らくそのせいであろう事は想像に難くない。躯の中央にある巨大な口は有機物、無機物関係無く原型を留めない程に破壊する。最早人間から遠く離れた白く邪悪な面は無限の進化の可能性すら感じさせる。
五回目の鬼との対面、五回目の死闘、それだけで驚愕に値する。ノーベル戦闘賞なるものが仮にあれば勇次郎の次に相応しい存在だ。その進化の権現は悲鳴をも超越した悲鳴を散らし、地上最強の生物に迫る。勇次郎は応答するが如く、神に向かって走り出す。
オーガのストレートパンチ――――――その威力は格闘という戦闘の一形態の範疇を遥かに超えている。実際、G第一形態との戦闘はそれで決着をつけている。
だが今、勇次郎の前にいるGには決定打になる様子はない。悲鳴は止まる気配はないが、前進も止まる気配はない。それだけで今までの形態とは比較にならない耐久力を有している事が理解出来る。
巨大なる口での噛み付きを恐れる事無く、勇次郎は次々と打撃を繰り出していく。飛び蹴り、裏拳、回し蹴り、アッパー、ハイキック、フリッカージャブ、踵落とし。
戦車やヘリコプターすら喰らったら跡形も無くなるであろう地上最強の生物の放つ連撃を真っ正面から受け止めてもG第五形態は前へ前へ進んでいく、敵を滅する為に――――――
今まで人生、大抵の敵は一撃で屠り去ってきた。最強の筋肉、最強の格闘センス、オーガの打撃を耐えられる生物など居ない筈、自他共に認めるところだろう。しかし眼前にいる敵には致命傷に程遠い。初めての体験―鬼面毒笑、オーガは嗤う、嗤って嗤って嗤ってまた嗤う。
「よくぞ此処まで練り上げた……よくぞ此処まで辿り着いた」
列車の扉が開く、そこにはレオンとクレアの姿があった。しかし二人は前代未聞の怪物の姿より驚嘆するものを見せられる。
「勇次郎、無事か……あ……」
「レ、レオン、見て! あ、あれ……」
「ああ、あれはまるで……」
「「鬼の形相のような……」」
範馬勇次郎がオーガと呼ばれる所以、範馬が鬼と呼ばれる所以。打撃の要である背中の筋肉、打撃を行う事で発達するとも言われているが、数えるのも馬鹿らしいくなる程の戦闘、他者への打撃を経てそれは極限を迎える。魅せる筋肉でも余計な筋肉でもない純粋なるヒッティングマッスル―その最高峰、到達点がこの鬼の形相である。背中の筋肉がまるで鬼の形相に見える、そしてこの姿を拝んだ相手は必ず死ぬ。人間を超越せし鬼―オーガはただ目の前の敵をぶん殴るッッッ!
肉が弾け飛ぶッ! 神の躯が消し飛ぶッ!
先程とはうってかわってGは蠢き、苦しんでいる様子だ。自慢の巨体は一撃ごとに大量な損失を見せ、悲鳴も最大に達した。しかしその状況に抗うが如く、巨大な口から弱点でもあり、G生物のシンボルでもある目玉が出現する。勇次郎はこの至高なる闘いに終止符を打つべく両手を天に掲げる。
「勇次郎の背中、いや鬼……鬼が」
「「鬼が哭いている!?」」
究極を超えた究極、最強より強い最強、極限のその先
背中の鬼が発達の限界を超えた事により哭いている様に見える。勇次郎は両手を後ろに移動させる。
放たれたのはパンチそのものである。しかしタイミング、速度、威力、どれを取っても人間の域を遥かに超えた悪魔の打撃だ。
悪魔の打撃は神の中枢を完全に破壊した。触手を暴れられる限り振り回す。だが最後の足掻き、足掻きにもならなかった。
レオンか、クレアかはわからない。列車を連結を切り離し、Gは研究所爆破による火炎に投げ込まれる。それは地獄の完全なる終演を意味している様にも見える。レオン、クレア、シェリーは互いの顔を見て笑顔を浮かべる。勇次郎はただ火炎、そして友を見つめるだけだった。