地上最強の生物のラクーン観光記   作:ケプラー星人

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不死身ッッッ!

 

 屍──────それは本来、動く筈がない人の生きた証でもあり、人の終わりを示す標でもある。合衆国中西部に位置する人口10万人程度の小規模の都市であるラクーンは今、動く屍という本来あり得ない存在が跋扈する悪夢が顕在化した地獄に変貌していた。

 

 映画館、ガソリンスタンド、玩具店、レストラン、駅、医療品店、本屋、役所。この都市の至る場所がリビングデッドが埋め尽くされる。数少ない生存者も逃亡を図る者か、悲鳴を上げる者、死者に貪られる者しか居ない。都市機能は完全に麻痺し、警察は化物達に対しての応戦能力を失っていた。その証拠に制服姿のゾンビも珍しくはない。

 ゾンビの群れは肉の匂い、特に生きた肉を好む。元は同種同属だった事実は無かったか如く、生存者は動く死者に見つかり次第、肉塊にされる。地獄と言う以外形容しようがないラクーンシティの中に於いて、異様極まりない男が居る。

 

 上半身裸、この時点で一般的考えから遠く離れている。どんな良質な防護服を来ても安心とは言えないこの都市で衣服を纏わない事は自殺とほぼ等しい。武器も何一つ所持していない、ナイフすら持っていない。これも自殺志願者とほぼ等しい。そして男はハンドポケット状態で悠々自適にラクーンシティを闊歩している。いかなる歴然の強者でも最大限の注意を払うこの局面で男はまるで遊園地を堪能するかの様に振る舞う。

 一体のゾンビが人間の臭い、筆舌にし難い強烈な衝動を醸し出す臭いを感知する。となると必然的に生きた死者は獲物を刈るべく動く! 

 

 しかし「それ」と対面した瞬間、リビングデッドはフリーズする。皮膚機能などとうの昔に失った筈、しかし汗が滝の如く流れる。

 

 範 馬 勇 次 郎

 

 地上最強の生物、オーガ、ベアナックルアーミー、鬼、歩く核弾頭

 

 数多くの諢名を持つこの男を前にしてはTウイルスで変貌した怪物も小動物と何ら変わらなかった。

 

「どうした? 間合いだぜ?」

 

 見えなかったッッッ! 目に写らなかったッッッ! 感じる事すら出来なかったッッッ! 

 

 ゾンビが察知したのはただ目の前の「鬼」が蹴りの様な動作をしたという事だけであった。と同時にゾンビは自らの身体が切断されてはいないかを必死に感覚で察知する。人間の知能が失われたゾンビでも鬼の一撃が自らを瞬時に葬り去る威力がある事が理解出来る。知能という積み重ねた脳の働きより直感という原始から備え付けられている感覚の方が現状を知るのには優れている場合がある。今は正にその場合だった。ゾンビは自ら身体が正常に結合されている事を感じ、安堵する。しかしッッッ! 

 

 

 ドォォォォォォォォォォン! 

 

 ゾンビが背にしていた三階建てのビルが突如右に倒れ込む! 炎上して脆くなっているせいでもあるが、主因は間違いなく勇次郎の放った蹴りだ。ビルはゾンビ数体を巻き込んで完全に崩壊した。恐怖心も感情も無い筈のゾンビの股から尿が大量に漏れ出す。それは知性を超越した恐怖の現れだった。

「フン」

 勇次郎は最早興味が無いと言わんばかりに動作を止めた。ゾンビは笑みを浮かべる、それは安堵の証であった。

 が勇次郎が踵を返した瞬間、ゾンビは爆ぜる。上半身、下半身残さず木端微塵に砕け散った。

 

 鬼の神にまで進化したGウィリアムズを撃破し、最大の満足感を得た筈の範馬勇次郎がまたラクーンシティに戻って来た理由はただ一つッッッ! 

 

 更なる満足感を得る為ッッッ! 

 

 更なる闘争の底を知る為ッッッ! 

 

 確かに七回進化したG生物を上回る怪物はこのラクーンシティと言えど居ないかもしれない。しかしウイルスの感染拡大、多数のクリーチャーの跋扈、何も起きない筈も無い。

 微かな希望を胸に勇次郎は時計塔に到着する。ラクーン市役所と共にラクーンシティのシンボルとも言える場所だ。付近にはバリケードの残骸があるが既に突破されている。まるでビッグベンをも思わす立派な時計塔だ。表向きは一地方都市に過ぎないラクーンシティには見合わない代物とも言えるがそれもアンブレラの財力を窺わせる建造物とも言える。

 

 

 ジャリ、ジャリ

 

 時計塔を見上げる勇次郎は直ぐに後ろから発せられるアスファルトと金属が擦れる音を感知し、振り向く。

 死体の山、千切れた四肢、飛び出した五臓六腑。

 そのような地獄を山ほど見てきた勇次郎でも一瞬の刹那だけ背筋が凍った。

 

 その者は女性の顔面の皮を何枚も繋ぎ合わせたマスクを被っている。いずれの皮も苦痛の声と悲鳴が今にも聞こえるかの様に苦悶の表情を浮かべている。しかしそのせいでこの奇怪な者の顔自体は伺えない。両手は木製の手錠が嵌められている。ボロボロになった服を見るに長年どこかに閉じ込められていたのだろう。身体のサイズ自体は平均的な女性と何ら変わりない。胸もある。しかしうめき声ばかりで言葉は発せられない様だ。

 異様なる女性は勇次郎に向かっていく。その辺の化物ならばオーガの気迫を感じとれば直ぐ様戦意喪失する筈だがこの女性には通じない。

 両手を振り上げスレッジハンマーを繰り出すが空を切る。勇次郎はカウンターとしてストレートパンチをお見舞いする。七割位の勢いで放ったが奇怪な女性は入り口の壁にめり込んだ。

 が女性は何も無かったの如く、壁から飛び出した。まるでダメージが効いてないかの動きだ。オーガのストレートパンチは格闘技の基本形にも関わらず大抵の生物は一撃で逝かせる威力がある、それがノーダメージとは考え辛い。だがここはラクーンシティ。都市がそっくりそのままアンブレラの実験場と言っても決して過言でも虚勢でもない。その莫大なリソースで行われる実験、そしてその研究結果は緻密な勇次郎の頭脳を持ってしても想像の埒外の領域に行っていても可笑しくはない。

 女性の横薙ぎが連続して勇次郎を襲う。今まで戦った怪物達と比べても動きや攻撃速度は早い方ではない。地上最強の生物に当たる可能性はほぼ無い。

 

 蹴! 

 

 何回転したか分からない程、女性は空高く舞いながら回転する。地面に着地した時、クレーターで出来たのは当然である。

 しかし女性はまた何事も無かったかの様に歩き出す。勇次郎は下を向く。

 

「エフッエフッエフッ」

「つくづくこの街は」

 

「楽しみませてくれる!」

 

 勇次郎をこれ迄に無い前代未聞の強敵と判断したのか、女性の攻撃が加速する! 振り下ろし、横薙ぎ、袈裟懸け、多種多様な両手攻撃が鬼の身体に少しずつ、少しずつ傷を作っていく。勇次郎も連撃の合間に打撃を喰らわしているが攻撃が止まる気配が毛頭感じられない。

「なら、こいつはどうだ?」

 勇次郎は回避を止め、両手を広げ上げる。オーガの本気を示すファイティングポーズである。勇次郎の身体が自身の血で染まる中、それは浮き出る。

 

 鬼の形相

 

 先程ニュクスを葬り去った最強の筋肉体勢は再びその姿を表す。その危険性を皮膚感覚で感じ取ったのか、女性の攻撃速度は更に更に加速する。ここで仕留めねば、ここでやらねば、やられるッッッ! その思いが行動に出たが遅かった。

 

 奇怪なマスクを被る怪物の身体は超高速度で宙を駆け抜け、巨大な時計の下にめり込んだ。

 

「どう出る?」

 

 勇次郎もこれで仕留めたとは努々思ってもなかった。ただ闘争が出来る狂喜で一杯だ。

「ん?」

 突如、時計塔の屋根に人影が現れる。後ろから飛び移ったのか、とすれば尋常ではない身体能力だ。

 

「リサ・トレヴァー。あの館の爆発程度では死なんとは思っていたがやはり生きていたか……」

 

 その人物は金髪のオールバックでサングラスをしている。漆黒の戦闘服に身を包んだその姿は見る者を威圧する。

 

「ユージロー・ハンマ」

「お前の身体、細胞。この私が貰い受ける」

 

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