下水道内部はやはり常時使用されていた様だ、各通路に資材が置いてある。アンブレラ社が整備して各用途に使用していたのだろう。巨大鰐を倒した勇次郎はエレベーターで下に降り、道なりに進む。階段を降り高台から、迷宮の様な下水道地下に飛び降りる。凄まじい匂いだが数多の戦場の香りに比べればあってないようなものだった。下水道を進むと階段を見つける。赤に塗装された階段には特殊部隊らしき遺体が数体あった。どこの国の装備とも違う遺体の様子から勇次郎は結論を導きだす。
「またアンブレラか」
隊員の遺体は噛まれた様子は無く、鋭い巨大な爪の様なもので切り裂かれたようだ。勇次郎は先へ進む。途中ゾンビがいたが、勇次郎にとっては空気も同然だ。階段を降り、下水道の斜面を滑り落ちる。奥に進み、扉を開けると広い部屋に辿り着く。そこにはケーブルカーがあった。どう考えても公共の施設である下水道内にあるべき物ではなかったが、アンブレラとラクーンシティの只ならぬ繋がりを見れば寧ろ当然と言えば当然とも言えた。勇次郎は梯子を使わずジャンプで高台に乗る。扉を開け、部屋の中にある吹き抜け穴を飛び降りる。降りた先の部屋の窓から見覚えのある姿が見えた。
「ここに居たか」
エイダとシェリーはゴミ集積所で倒れていた。ゴミ集積所に行くには近くにある強固な鉄製の扉をチェスのギミックを解いて開ける必要があるが、この男は謎解きを解く必要はない。
グシャ!
鉄製の扉は勇次郎の打撃数発を喰らい、吹き飛ばされた。階段を降りて、ゴミ集積所のこれまた頑丈なシャッターの前に向かう。ラクーン警察署の駐車場の時と同じく、蹴り一つで人が通れる位の穴が空いた。勇次郎は二人に近付くと軽く地面を踏む。その衝撃で二人は目を覚ました。
「ん……こ、ここは……」
「起きたか」
エイダとシェリーが目を擦り、意識を覚まそうとしている時、鈍重な足音が近付いて来た。勇次郎はとっさにゴミ集積所から飛び出す。
「やはり生きていたか……」
勇次郎の目の前にいる存在はあのラクーン警察署の地下にある機械室で闘った怪物であった。しかしその姿は変化、いや進化した様だ。あの巨大な目玉が発生し肥大化した右腕には先程はなかった長き禍々しい爪が生えていた。辛うじて『人間』を保っていた顔は腹部に押し込まれ、新たな顔が生まれている。その顔は最早人間のそれとはかけ離れていた。紅き丸い眼に皮を剥ぎ、筋肉質剥き出しの如き顔面、人間から『神』へ順調に進化している証左だった。
怪物は雄叫びを上げる、敵の臨戦状態を確認した勇次郎は後方へ走り出す。地上最強の生物は如何なる生物が相手であっても、如何なる軍隊が相手であっても逃げる事は無い。後ろへ下がったのはエイダとシェリーから怪物を引き離す為だ。勇次郎の読み通り、怪物は標的に付いてくる。扉やシャッターを吹き飛ばしながら勇次郎は進む、その先にはコンテナを釣っているクレーン機械があった。コンテナを置くであろう地面は四方を底の見えない谷間に囲まれている。勇次郎は足場から地面に降りるとクレーンを操作する機械のボタンを押す。するとクレーンとコンテナは遠くに離れていく。警報音が広き空間に鳴り響く。
「広い方がいいだろ。いいぜ、来なッ!」
勇次郎の言葉が理解出来たのか、怪物はその言葉と同時に足場が飛び降りながら巨大な爪を振りかぶる、しかし攻撃は空を斬る。地面に降り立つと直ぐ様、連撃を放つ。相手を真っ正面から叩き潰す、地上最強という称号―避けたのはいつ以来か。オーガですら回避するその斬撃はコンクリート製の地面を抉りに抉っていた。今度はオーガの腹部を狙った斬撃が放たれる。当然避けるがオーガは瀬戸際、奈落の底寸前まで追い込まれた。
「面白いッ!」
怪物の敵を谷底に突き落とそうとする突きは勇次郎の横転により、空を斬る。その後の追撃で操作機械のボタンを図らずも押す。クレーンとコンテナが此方に向かって来る。
「小細工は俺の流儀じゃねぇ……」
コンテナが二人を吹き飛ばさんとする刹那―勇次郎の筋肉質は人間のそれから『鬼』のそれへと変質する。
それは蹴りと呼ぶには余りにも強力、余りの衝撃、一般的知見としての蹴りとは余りにもかけ離れていた。コンテナは勇次郎と怪物の居る反対方向に吹き飛ばされ、奈落の底に落ちた。理性の無い筈の怪物が狼狽えている様だった。
「どうした?間合いだぜ?」
いつの間にか勇次郎は怪物の懐に移動していた。慌てるように爪での斬撃を放たんとするが、足払いされる。怪物の巨大な躯が宙に浮く、この絶好のチャンスに攻撃をしない程、怪物の敵は甘くはない。強烈なアッパーがクリーンヒットする。怪物は瀬戸際に辛うじて着地するが、全身が震えとても反撃の狼煙は上げられなかった。
抜き手ッ!
オーガの抜き手は刃物の殺傷能力をも凌駕する。巨大な目玉というウィークポイントにそんな代物が貫かれる。谷底に落下するのは必然であった。しかし勝利した筈のオーガに安堵や慢心、余裕は一切無かった。
「また交えるか......」
再々度の開戦は不回避と見た勇次郎はエイダとシェリーの元へ戻る。エイダは横たわっているシェリーの側にいる。
「勇次郎、シェリーの様子がおかしいの……呼び掛けても返事はしないし、顔も変わって……まさか」
「奴に何らかのウイルスでも仕込まれたか」
「だとしたらワクチンが無いと治療出来ないわね。ケーブルカーの先にアンブレラの研究所があるのは掴んでいる。その研究所に行けば……」
二人はシェリーを抱え、ケーブルカーの前まで来た。しかしケーブルカーに付けられている端末機は侵入を許さなかった。
「チッ、こればかりは力づくという訳にもいくまいか。何らかのキーがねえと移動に必要な電力は供給されねぇ様だしな」
「シェリーが付けていたブレスレットがそのキーかもしれない。今は付けていないわよね。怪物達から逃げてる途中で落としたのかもしれない。警察署駐車場までは付けていたと思うからきっとこの下水道内に」
「お前はここを確保しておけ」
鬼はエイダにそう告げるとケーブルカーのある広き部屋を後にした。