地上最強の生物のラクーン観光記   作:ケプラー星人

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死神ッッッ!&豆腐ッッッ!&豆腐レンジャーズッッッ!

 

 勇次郎は下水道内を隈無く探索する。数え切れない程のゴミ、流れるゆく汚水、 探しているシェリーのブレスレットを見つけるのは容易でなかった。しかし勇次郎は探索を止めない。あの少女の為だけではない。地上最強の生物の直感はあのケーブルカーの先に行けば自らが望む真の満足を果たせる、そう感じ取っていた。

 

 

「BOWか、イレギュラーミュータントか……どちらでもいい。任務の邪魔になる障害物は……」

 

 下水道の隅に居る影が拳銃を構える。その構える動作だけ見てもその人物が超一流である事を伺わせる。影は慎重に狙いを定める、標的は此方に気付いていない。勝負は決していたも同然だった。しかし起きてはならない事がその時起こった!

 

 なんと標的は狙撃を避けたのだ!銃弾は汚水に呑み込まれた。絶対に成功する狙撃、並みの狙撃主なら動揺を隠せない所だが影は動じる様子は無い。

 

「エフッエフッ……狙撃の腕、場所取り、タイミング、どれを取っても申し分無いッ!しかしその殺気は頂けねえな。漏れに漏れて隠れている意味がねえぜ。まあどうせ俺を怪物と勘違いしたからこそのミスなんだろうが」

 

 狙撃主は自らの間違いを全て言い当てられても苛立つ様子も、落ち込む様子も微塵も無かった。男の胸中にあるのは任務の達成、ただ其だけだった。影は動き出す。物陰から飛び出すと先ずはショットガンを三連射する。闇雲に撃っているのではない、避けられる又は致命傷にはなり得ないと知っての三連射だ。男の狙い通り、勇次郎は壁際に誘導された。そのあるかないかの絶妙のタイミングでデザートイーグルで射撃する!マグナム弾が命中して全くの無傷で居られる生物は居ない。地球上に存在する殆どの生物ならば喰らっていた筈の流れる様なコンボは地上最強の生物には通用しなかった。勇次郎は高く飛び、敵に蹴りを放つ。男は軽く避け、カウンターとしてナイフでの斬撃を与える。オーガの腕に一筋の切り傷が刻まれる。

 

「ほう……」

 

 勇次郎は敵の姿を初めてまともに見る。男は全身黒色の武装に身を包んでいた。装備は見る限りではショットガン、ハンドガン、アサルトライフル、デザートイーグル、手榴弾、コンバットナイフが確認出来る。そして一番特徴的なのがガスマスクである。眼部分のガラスは赤色で本当の眼の姿は伺い知る事が出来ない。まるで『死神』の様だった。

 

「ハンク!無事か!?一体何があった!?」

 

 男の無線機から仲間であろう者の声が鳴り響く、ハンクと呼ばれた男の返事は冷徹であった。

 

「ここは戦場だ、運命は自ら切り開け」

 

 ハンクは勇次郎の足を目掛けてアサルトライフルでの射撃を行った。横一列の射撃は普通ならば足を撃ち抜き、行動不能、若しくは行動を著しく制限させるだろう。しかし相手は普通という概念から最も離れた存在だった。勇次郎は壁を使い、目にも止まらぬ早さで縦横無尽に飛び回る。ハンクは背後を取られる、鬼の手刀が死神を襲う!しかし手刀は止まる。振り向きもせずコンバットナイフで勇次郎の手刀を止めた。勇次郎は喜びを隠せないのか、震えに震えた。ハンクは距離を取りながらハンドガンを乱れ撃ちする。敵は地上最強の生物、銃弾すら回避しながら距離を詰めた。ハンクはもう片手でショットガンを放つ、勇次郎の躯に無数の散弾が埋め込まれた。

 

「俺を殺すには不十分だな」

 

 勇次郎が全身を力ませると散弾が体から飛び出す。これには死神も唖然とした。

 

「喋るから人間だと思っていたんだがな」

 

「人呼んで地上最強の生物……らしいわ」

 

 勇次郎の返答にハンクはハッとする。風の噂で日本に地上最強の生物と呼ばれる人物がいる、その人物は徒手空拳で軍隊を倒し、北極熊をも素手で屠り去る、という話を聞いた事があった。余りに滑稽無糖な話なのでハンクは信じてはいなかったが今此処で確信する。

 

「成る程、本物だ」

 

 ハンクは三度ショットガンを構える。しかし狙いは勇次郎ではなかった。

 

 バシャ!

 

 ハンクは汚水を撃つ!汚物の入った水飛沫が勇次郎の目に入る。この僅かの視界の停止こそハンクが欲しかったものだ。死神は素早く勇次郎の懐に入りナイフでの一撃を腹部に入れる。しかしそこはオーガ、視界をいち早く回復し、カウンター気味に前蹴りをハンクの腹部に入れる、ハンクは壁に叩き付けられた。

 

 死神は認識を改める。この男は今までの任務の中で遭遇したどんな怪物よりも脅威であると。

 

 

「さあ、まだ戦いはこれからだぜ」

 

 勇次郎がハンクに襲い掛かろうとした矢先、不思議な足音が聞こえてくる。ペタペタとその音は近付いてくる。

 

 

「久しぶりやで~」

 

 

 滅多な事では動じる事はない勇次郎も口を開けて唖然とするしかなかった。豆腐である、木綿豆腐である。紛れもない豆腐が此方に向かって歩いてくる。豆腐は帽子を被っていて、手にはコンバットナイフが握られている。ウイルスのせいで生まれた生物なのか、アンブレラが製造した生物兵器なのかは定かではないが、それが寸分の違いもない豆腐である事は確かである。

 

 

「ほないこか~」

 

 気の抜けた掛け声と同時に豆腐は勇次郎に向けて突きを連発する。その姿からは想像出来ない程の素早い連撃だ。勇次郎の頬にかすり傷が出来る。この期を逃さんとばかりにハンクはショットガンを連発する。散弾は数発、勇次郎の足に食い込む。散弾を回避する為に高くジャンプした勇次郎に今度はグレネードランチャー弾が襲い掛かる。体を回転させ、辛うじて避ける。火炎弾は少し後ろで火炎を撒き散らした。

 

 

「おつかれさまでーす」

 

「オーケーです」

 

「さあああこいぃ!」

 

「おぅし!いくぞ!」

 

 勇次郎は更に唖然を重ねる。豆腐どころではない。目の前に動く、いや生きているプリン、コンニャク、ういろう、杏仁豆腐が現れた。全員豆腐の同族なのか、個性が強い。プリンはロケットランチャー、ミニガン、スパークショット、コンニャクはグレネードランチャー、ういろうは大量の手榴弾、杏仁豆腐はリボルバーをそれぞれ装備していた。

 

 真っ先に動いたのはプリンだった。ミニガンを水平に構え、鬼に対して大量の銃弾をばら蒔く。ジグザグに高速移動する勇次郎に杏仁豆腐は素早くリボルバーを全弾放つ!回避され、杏仁豆腐はリロードを開始する。そのリロードの間もグレネードランチャー、手榴弾を連発するコンニャクとういろうにより勇次郎は徐々に行動を狭められる。その瞬間、前門の虎、後門の狼の如く、ハンクと豆腐がナイフ攻撃で挟み撃ちにする。超手練れ二人の止まらぬ連撃にオーガの肉体は徐々に鮮血を見せる。二人の攻撃が突然止む、勇次郎は全てを察した。オーガ達が居た周辺が大爆発に包まれる。壁や汚水が全て吹き飛び、辺りは爆煙に覆われる。

 

 プリンはこの程度では標的を仕留めていないと言わんばかりにミニガンを乱射する。コンニャクや杏仁豆腐も続いた。コンニャクの下で汚水が泡たつ。気付いた時には遅し、鬼はコンニャクの前に現れ、裏拳を喰らわす。一命は取り止めたがコンニャクのみずみずしい躯の一部が弾け飛ぶ。プリンはとっさに銃口を勇次郎に向ける。

 

 しかし重きミニガンの性、取り回しは早くない。鬼がその遅さを見逃す筈がなかった。しかし勇次郎はプリンに一撃を与える事無く再び走り出す。杏仁豆腐とハンクの一斉射撃が開始されたからだ。ういろうは半ば出鱈目に手榴弾を投げまくる。しかし杏仁豆腐のリボルバー、プリンのミニガン、ハンクのショットガンにより嫌が応にも手榴弾に当たる。勇次郎はより回避速度を上げるしかなかった。

 

「なにすんねん!」

 

 豆腐は怒りの連斬撃を放つ!オーガの躯に切り傷がより刻まれる。

 

 ドン!

 

 ハンクのデザートイーグルが放ったマグナム弾が勇次郎の腹部に当たる。完全なる直撃ではなかったが、オーガの腹部が血で滲む。しかしオーガは笑みを浮かべる。

 

「皆の衆、感謝するッ。ここまで血が滾ったのは久方ぶりだ」

 

 そう語るとオーガは両手を上に構える。このファイティングポーズは勇次郎が本気になったシグナル、真の開戦の合図だ。

 

 

「これが貴様達に贈る最大の賛辞だッッッ!」

 

 勇次郎の姿が瞬間的に消える。その瞬間、豆腐、プリン、ういろうの体の一部が弾け飛ぶ。ハンクも突然吹き飛ばれる。ハンクは何が起こったのか分からず混乱するが、豆腐が再び吹き飛ばれる様を見てようやく理解出来た。鬼は姿を消したのではない、目にも止まらぬ、いや目にも写らぬ早さで移動し、攻撃を加えているのだと。豆腐五人衆の躯が徐々に削り取られる。この状況を打開するには自らもあの早さに付いていくしかなかった。

 

 ハンクは神経を極限まで研ぎ澄ます。音が入ってこない。ハンクはゾーンを超えた領域へと突入した。

 

 

「ここだ!」

 

 マグナム弾が勇次郎に炸裂する!血が舞うが攻撃は止まらない!豆腐達もこの状況を打開すべく体の限界を振り絞り、勇次郎の動きを捉えんとする。受ける攻撃の方が多くとも少しずつ反撃が通じる様になる。しかし鬼の移動攻撃速度は更に早くなる!

 

「面白いッ!」

 

 ここにいる七人の攻撃と移動速度は最早人間のそれではなかった。暴虐の嵐が吹き荒れる。しかしその中でもハンク、豆腐、プリン、ういろう、杏仁豆腐、コンニャクの躯は徐々に損傷し、限界に達しつつあったのに対して勇次郎の動きは鋭さを増すばかりだ。

 

 シンクロニシティ

 

 ハンク達の脳内に共通の戦略が浮かぶ。言葉も交わしてなければ、コンタクトを交わしてもいない。歴然の戦士達が生き延びる為に辿り着いた必然であった。

 

 手榴弾が数個投げられる。勇次郎は更に動きを加速させ、回避しようとするが真意を気付いた時には遅かった。

 

 閃光手榴弾―ハンク達が唯一勇次郎に見せていなかった武器である。激しい閃光が数発周辺を包み込んだ。流石の勇次郎も動きを鈍らせる。しかしこの状態でも殺気のある攻撃には対応出来た。

 

 ただ光が止んだ時には敵は一人も居なかった。

 

 逃走―それは時に恥と言われながらも生存するという生物の根幹を崩さぬ戦略の一つである。勇次郎は軽く地団駄を踏んだ。

 

 

 

 逃げる道中でハンクは呟く。

 

 

「煮えたぎる闘争は嫌いではないが、任務が最優先なのでな」

 

 

 *****

 

 

 

 勇次郎は一人激戦の地で立つ。ふっと地面を見ると白いブレスレットが落ちていた。大方あの六人の誰が持っていたのだろう。目当ての物を拾いながら勇次郎は口を開く。

 

「クックックッ……武器使いの手練れとやり合ったせいで思い出しちまった」

 

「レッドフィールドと言う名、あの時のアイツだッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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