19XX
某国、某所
冷戦時、資本主義陣営と共産主義陣営が全面戦争を避け、発展途上国を通じて代理戦争を行っていた。そこでも超大国の威信を懸けての執念は凄まじかった。
民主主義の定着ッ! 資本主義の拡大ッ!
自らのテーゼ、対する敵の信念。勝つためには合法、非合法、手段は問わなかった。
それは僅かの敵に対しての攻撃戦略ではなかった。
一つの山に対しての爆弾量、実に100トン。それで終わりではない。山が丸裸になるまで火炎放射器での掃討、周辺の村に対しての尋問―とは聞こえはいいが実態はほぼ略奪であった。
作戦終了と共に米陸軍が徐々に集結する。数々の車輌、数々のヘリ、しかし彼らの様子は明るい。戦争をするというよりまるで観光気分であった。その中に於いて暗い表情を浮かべる兵士がヘリ内に居た。
「クライフ、まだ拗ねているのか? そうしていても無くなったものは元には戻らないぜ?」
クライフと呼ばれた兵士は手を振り、そうではないというジェスチャーを行う。
「拗ねるとかそういう問題ではない。これは……正義ではない」
「現実はこんなもんさ、大義名分の裏ではこうなっちまう。人間の性さ」
「この戦いで俺はもう軍を辞める。こんな事をしていては未来の世代にも顔向けが出来ない」
ヘリは地上に降り立つ。米兵が続々と禿げた山へ登っていく。談笑、タバコ、中には酒を飲みながら行軍している者すらいる。さながらピクニックの様だ。クライフも山へ登っていく、目前の惨状に目を細めるしかなかった。
「未来の世代? クライフ、まさか」
「ああ、妊娠三ヶ月らしい」
「やったな、お前も父親か……名前はもう決めているのか?」
「ああ、男ならクリス、女ならクレアと名付けようと思っている」
ふっとクライフは近くの焦げた木を見る。何が動いた気がするが何らおかしい所はない。下から大名行列の如き群れが上がって来た。
「ストーム中佐だ。ああやって部下を引き連れては破壊した敵陣地や敵の死骸を見るのが趣味なんだと。まあ控えめに言ってもサディストだな」
ストーム中佐は山にいる全ての米兵達の先頭に立つと後ろを振り返る。その声は図太くよく響いた。
「いいか、お前ら! これが我ら米軍、いや米国だけに許された光景だ! 我らには敵を滅する義務がある! 我らには悪を滅ぼす責務がある! もし罪の意識や疑問があるのならそんなもんは直ぐに捨てろ!」
クライフは歯軋りする。正義を突き通す為に、世の中を少しでも良くする為に軍隊に入った。だが現実はこのザマだ。
「これが勝利だ! これが栄光だ! これが世界最強の力だ! 我ら米軍に敵う存在はいない! 我々が地球上の全ての生物の生殺与奪権を握っているも同然だ! これが人類の叡知の極致―」
ストーム中佐の演説は突然止まる。と同時に周囲の米兵は唖然とする。年端も行かぬ東洋人の少年がストーム中佐の首を掴み、堂々と立ち尽くしていたからだ。筋密度、筋肉量、どれをとっても超一級品である事は誰が見ても理解出来た。
範馬勇次郎 12歳と148日
「ファ────ク!」
ストーム中佐の直ぐ後ろに居た米兵達はアサルトライフルを勇次郎に向ける。しかし引き金を引くより早く勇次郎は中佐を兵の群れに投げ込んだ。米兵達は数秒間混乱する。その数秒間の思考停止が生死を分けた。
ある兵士は目玉を抉られ、ある兵士は金玉を潰され、ある兵士は内臓を引きずり出された。足が飛び、腕が飛び、脳が飛ぶ。瞬く間にホラー映画の様な大量殺戮が為される。米兵達は目の前の少年に向けてアサルトライフルを闇雲に発射する。
しかし少年は素早くしゃがみ、数人の兵士の脚を蹴りでへし折る。肉が裂け、骨が粉砕させる。その攻撃は最早人間の打撃というより重火器の威力に近かった。
クライフは固まる。まるで出来の悪い三流スプラッタ映画を見ている様だった。その間にも一人の兵士が少年に近付き、ナイフで応戦する。少年はあろうことか、ナイフごと腕をぶん殴って吹き飛ばす。近くにいた手榴弾を投げようとした兵士は顎をハイキックで無きものにされた。味方が次々と肉塊にされる、気づいたら山の麓にいる兵士達を除けば味方はほぼ全滅している事態だった。クライフは雄叫びを上げた。
「オオオオオオオオオオオオォォォォォォ!」
アサルトライフルの銃弾が少年の足元に放たれる、勇次郎は後ろのジャンプして回避する。その隙にクライフは敵の懐に入り強烈なストレートを喰らわす。勇次郎はガードするも後方に飛ばされる。もう片手で放たれたハンドガンの玉はベアナックルアーミーの躯に数ヶ所の傷を付ける。多少クライフが油断した刹那、勇次郎の飛び蹴りがクライフの胸にクリーンヒットする。クライフは焼かれた木に叩き付けられ吐血する。
勇次郎はクライフの落としたアサルトライフルを手に取るとその腕力だけでひん曲げた。強固な鉄製の重火器を飴細工や粘土の如く自由自在に曲げる。人間離れした所業にクライフは戦慄する。
「見れば分かる、貴様の本気はこんなものではない筈だ。さあ、本領を見せてみろッッッ!」
クライフは立ち上がる。愛する我が子の顔をこの目で見るまでは死ねない。その思いがクライフに本来の力を発揮させた。
ハンドガンを乱れ撃ちする。勇次郎は当然の如く避けるが、集中の極致にいるクライフは勇次郎の移動を読み、ストレートを頬に当てる。しかし反撃として腹に前蹴りを喰らう。クライフは悶絶しそうになるが、その最中でも軽めのタックルを当てる事には成功する。目の前の敵がこの程度で参る筈もない、クライフはコンバットナイフを取り出し、追撃に入る。一撃、一撃が確実に少年の躯に流血をさせる。敵の連撃を中断せんと放った勇次郎のアッパーに対してカウンター気味にアッパーを放つ。
打!
流石の勇次郎も膝を付いた。少年は笑う、しかしその笑みは決して諦めや敗北を認める類いのものではなかった。
「クックックッ……面白いッ! ならば見せてやろう、俺の本領をッッッ!」
「何か来るぞ!」
脚を折られて戦闘不能になっていたクライフの友人が注意を促す。忠告通り、敵は両手を上にあげ、全身を力ませる。見えてはいないが、背中の筋肉が変化しつつある様だ! クライフはコンバットナイフとハンドガンを構える。
しかし戦闘はここで終わった。戦闘ヘリが十数機到着し、勇次郎に向けて威嚇射撃を行う。そして麓や横に展開していた米兵が異変を察知して集結してきたのだ。勇次郎は戦闘体勢を解く。
「楽しみはとっておくものだ。貴様、名は?」
「クライフ、クライフ・レッドフィールドだ」
誇らしい敵の名を聞いた勇次郎はその場から消える様に立ち去った。