勇次郎はケーブルカーのある広い空間まで戻って来た。切り傷、銃痕、数々の傷が増えた事をエイダは驚く。
「どうしたの? その傷……」
「フン」
エイダの疑問を軽くあしらうとケーブルカーの隣にある台の上の紙が目に止まる。勇次郎は手に取り、黙読する。
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ユージローへ
俺達はこの先にあるアンブレラの研究所に向かう。この事態を起こした元凶はアンブレラだ。確かめないは訳にはいかない。君はなんとか脱出してくれ
レオン
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「アイツら……」
三人はケーブルカーに入る。エイダがレバーを動かすとケーブルカーは移動を始める。10分後、アンブレラ研究所に辿り着く。しかしエイダは動かなかった。
「勇次郎、私はまだダメージが残っているからここに残るわ。気を付けてね」
勇次郎は違和感を感じるもシェリーを抱え先へ進む。アンブレラ研究所の入り口は厳重な巨大な扉で閉ざされていた。しかし勇次郎が所持していたブレスレットに反応して扉は開く、二重、三重に重なっていた扉は全て解放された。と同時に研究所内の電気がつく。勇次郎はロビーの近くにある部屋に入る。中にはベットがあった、そこにシェリーを寝かせると勇次郎は部屋を後にする。奥に行くための扉はブレスレットでは反応しなかった。そういった時、この男が起こす行動はただひとつ。
「邪ァッ!」
扉は一撃で吹き飛ぶ。奥の空間は中央にエレベーターがあり、二つの入り口が左右にあった。入り口と中央エレベーターは空中通路で繋がっている。勇次郎は紫の色の液晶モニターがある右の入り口に進む。空中通路は閉じる事も可能な様だが、通路は繋がっていた。恐らくレオンとクレア達の仕業だろう。一研究所にしては余りに巨大過ぎる空間、ここで重要な研究がなされていた事は火を見る明らかだった。例の如く、紫の色の液晶画面がある扉を粉砕し、中に入る。
中には特殊部隊の兵士の遺体があった。装備は下水道のあった遺体と同様だった。奥に進むと黄色い防護服が大量に置いてある部屋がある。それと連なる様にあった除菌室を抜けると広い空間に出る。どうやら一階もあるようだ。その奥が目的地のウイルス開発室だ。ウイルス保管庫に新型ウイルスがない代わりにウイルスワクチンがあった。これでシェリーを治療出来る。勇次郎は続けて近くにあったレポートに目を通す。新型ウイルスはどうやら『Gウイルス』と呼ぶらしい。増殖するため新たな宿主を探す性質がある様だ、シェリーが感染したのもこの性質の為だろう。
勇次郎はシェリーの元へ向かう。広い空間を抜けようとした矢先、何かが天井をぶち破り、この地に降り立つ。それは勇次郎と二回戦った怪物であった。怪物が勇次郎に向かうとした瞬間、怪物は硫酸が直撃する! 怪物はうつ伏せに倒れ込んだ。一人の女性が怪物に近付く、女性の目から涙が流れる。
「ウィリアム、ごめんなさい……」
「お前は誰だ?」
「私はアネット、このウィリアム、いえG生物の妻よ。ウィリアムはアンブレラに追い詰められ、自らGウイルスを投与した。そして」
「このザマになった訳だな」
「ええ、もう苦しみも終わり、安らかに眠って。ウィリアム…………」
「避けろ!」
勇次郎の呼び掛けも虚しく、アネットは吹き飛ばれ、壁に叩き付けられる。大量の吐血は多大なるダメージを示していた。
『G』は変化、いや進化する。顔はより禍々しい形相になり、背中から新たな傷な腕が生えてくる。まるで翼を携えた悪魔の様だ。体格も一回りも大きくなり、特徴の目玉は左脚、右の巨大な腕、背中に付いている。その姿はホモサピエンスから『神』へ進化完了した如きだ。Gは雄叫びを上げる、勇次郎は近付くにあるボタンを押し、素早くアネットとワクチンを渡す。警報が空間に鳴り響き、今ある地面が下がる。勇次郎とGが地獄へ落ちていく様にも見えた。
「察するにシェリーはお前の娘だろう。ロビー近くの部屋に避難させている。先にいってワクチンを打ってやれ」
「貴方はどうするの!? どうにか出来ると思っているの!?」
「生憎、これより強いもんは知らんものでな」
勇次郎が親指で自分を指すと同時に、地面は一階に降り立つ。
悪魔の雄叫びは鉄製の研究物すら震わす。Gは背にある巨大な右手で突きを繰り出す。勇次郎は後ろに飛び、回避する。
左、右、左の順で横払いが繰り出される。前回の闘いより鋭さと力がより増した攻撃だ。
勇次郎は小手調べでハイキックを繰り出す。怪物は三回目の闘いで初めてオーガの攻撃をガードした! カウンターで繰り出したアッパー気味の斬撃は空をきる。
「自我も無く、格闘技術が進化するとは……楽しませてくれるッ!」
Gは勇次郎に背を向けて部屋に数ヶ所ある燃料タンクを引きちぎりに掛かる。たとえ専門の機械があっても取り出すのに時間が掛かるであろう物を怪物は五体のみ、筋肉のみで引きちぎり、取り出す。燃料タンクが尋常ではないスピードで投げ飛ばされる。辺りは火の海と化した。怪物は背後に立つ気配を察すると裏拳を放つ。敵は人間離れした反射速度でしゃかみ、弱点であろう左脚の目玉を手刀で潰す。Gはたまらず膝を付く。巨大な右腕に付いている巨大な目玉にストレートパンチの追撃が入る。怪物は暴れる様に爪を振り回す。連撃を回避しながら勇次郎は残された最後の弱点である背中の目玉を飛び蹴りで潰す。全ての弱点を潰されたGは両膝を付く、そして胸から巨大な目玉が姿を表す。これこそ真の弱点であろう。ジャブより早い踵落としが真の弱点を切り裂く。
Gは暴れまわるかと思いきや躯を丸める。すると躯が真紅に染まる。憤怒、覚醒、絶望、様々な状況を一辺に表しているかの様だ。怪物は発狂すると室内で最も大きい柱を掴む。柱は激しく軋み、通常では決して見る事が出来ない『分離』という状態に変化する。
「他者の筋力を見て震えたのは初めてか……いつ以来か」
地上最強の生物―あらゆる兵器を、あらゆる生物を五体の肉体のみという条件下で潰し、破壊し、屠り去る。最強の肉体が誇り、最強の筋力が勲章、その自負は常にあった。しかし目の前の筋肉はその自負を少しだけでも揺るがせるに値するものだ。勇次郎は首を思わず横に振る。現実を逃避した訳ではない。Gの尋常ではない怪力を見て、一瞬だけ父・範馬勇一郎を思い出してしまったからだ。戦艦アイオワを腕力だけで制圧した父、自分より先に筋肉だけで米国に勝利した父、生き方、思想、戦闘スタイル、自分とはまるで正反対の父、そんな父の姿と目の前の『神』の姿が重なる。極限まで極めた筋肉は最強まで驚嘆させる。
絶対にあり得ない光景、巨大な柱が宙を舞う! 落下すると火炎が部屋を包んだ。『鬼』は自分の欲望を抑える事はもう出来なかった。オーガはGの前に立つ。
「言葉が分からぬなら分からぬまま聞けッ! 無限に進化する、たとえ負けても勝っても進化する。たとえ無傷でもズタボロにされても進化する、称賛に値する」
「殴り合おう……小細工なしでだ」
オーガは完全に間合いに入る。しかしGは攻撃も警戒もしない。崩壊した自我、劣化した知性、言語を理解出来る筈もなかった。だがGはその言葉が持つ言葉の意味を理解していた。度重なるこの男との激闘はどんな言語よりも強烈な言語として成立していたのだ。
勇次郎とGは同時に膝を落とす。片方は顔面が潰れ、片方は体に大きな爪痕が残る。それでも両者は一切の怯みを見せない。
打!
怪物の顔の大半が滅茶苦茶になる。全身が震え、全身が思う通りに動かない。しかしGは戦闘体勢を崩さない。目の前の敵も血だらけである。
打!
ノーガードで撃ち合う、敵の攻撃を避けない、ダメージ覚悟の我慢比べ、腕力比べ。現代格闘技というダメージを可能な限り軽減し敵を倒す技術概念、そして生存本能という生存を何より一番とする本能からは程遠い概念ッッッ! 程遠い愚行ッッッ! しかし両超雄はその時代遅れというべき愚行を止めなかった。敵の攻撃を堪能したいッッッ! 自分の攻撃を堪能させたいッッッ! 極限の闘争を通じて生まれた欲望はあらゆる概念を過去のものにした。
打!
勇次郎は血塗れ、Gの躯はオウトツが激しくなる。鬼の笑顔、それは連撃の加速を意味していた。もうダメージを受けたくないからという軟弱な考えからではない。全身から溢れ出る闘争本能が、より濃厚な戦を望む想いが打撃の加速を促進させた。Gの躯は破損を極める。背中から生える二腕をガードに使う、初めて『神』は闘争本能より生存を、自らの保身を優先させた。その差が勝敗を分けた。
決!
勇次郎の渾身の一撃は怪物のガードごと弱点である胸の大目玉を粉砕した。Gはうつ伏せに倒れ込む、しかし勝利者は無言である。それは激戦を物語るものでもあり、更なる激戦をまた堪能出来るという喜びも示していた。
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「「勇次郎!」」
勇次郎がシェリーの元に戻るとそこにはレオンとクレアの姿があった。二人共、体に包帯が巻かれ無傷ではない。しかし二人は生き延びた。あの地獄を生き残った。数時間ぶりの再会とは思えない程の濃い、濃い時間であったが数時間ぶりの再会を喜ぶ。
「生きていたか」
「あんたこそ。生きていて良かった」
「マ……マ?」
シェリーは目を覚ます。アネットがワクチンを打って容体が良くなった様だ。しかし娘を救った筈の母の命は尽きようとしていた。
「シ、シェリー……あなたに構ってあげらなくて本当にごめんね。良いママでは無かったけれどシェリーの事は愛しているわ。あなた方、シェリーをどうか救って……お、おね……が」
アネットは息絶える。Gという怪物を作り上げてしまった責任の一端はあるものの最期はひとりの母として、娘を愛する母として逝った。少女の叫びが部屋を包む。鬼に出来る事はただ悲痛な想いを吐き出させてやる事だけだった。