イナズマイレブン!新たなる守護者   作:ハチミツりんご

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連日投稿ゥー。前話を見ていない人はご注意ください〜


止まらぬ炎と、進めぬ氷と

 

 

 

「おおおおおおおおおお!!!爆裂ッ!!!パンチィ!!!ーーーどわぁぁ!!?」

 

 

両拳で何度も何度も迫り来るタイヤを殴りつけるが、止めることは出来ずに吹き飛ばされる森崎。しかしすぐさま起き上がり、タイヤを揺らして両の手に熱気を込め、再び連撃、しかし吹き飛ばされる。

 

 

 

「クソっ!!やっぱり上手くいかねぇ…!」

 

 

 

先程から何十回も続けているが、一向に成功する気配は無い。燈咲から禁止されている練習時間外の夜特訓を始めてしばらく経つが、吹き飛ばされるだけで終わっている。

 

 

陽花戸との練習試合が決まって、早数日。日々立向居率いる陽花戸に勝つ為に特訓を重ねる神楽中イレブンは、元々の大部分が初心者という事と、薫という指導に専念できる人材の登場によってその実力を日に日に伸ばしていっていた。

 

 

 

ーーーいや、一人だけ例外がいる。ここにいる森崎。彼は、初心者達が成長し、経験者達が己の技を磨く中で一人だけ大した成長が見られなかった。爆裂パンチの糸口すら掴むことが出来ない状態が既に何日も続いており、森崎自身も色々とやり方を変えているが一向に解決策は見えてこない。

 

 

「兎月達が言ってたのは………制御が甘くて定着が荒くなってる、だったか?」

 

 

今日の昼練を思い出す森崎。キーパー練習に付き合ってくれた2人の友人からのアドバイスでは、森崎自身の精密さに問題がある可能性を指摘された。

 

 

爆裂パンチという技は、至極単純。熱血パンチの時に拳に溜める熱のエネルギーを両手に溜め、コンパクトに連撃を叩き込む。ただそれだけの技だ。

 

正直なところ、この技の難易度は全国的に低い。その至極単純なモーションに加え、両手に熱気を込めるだけでいいという明快さは、幼い子供であっても理解しやすい。さらには効果範囲が真正面、かつ両拳が届く範囲という狭さ故に簡易さに反して威力も高い。

 

その為、この技はある程度の実力を持ったリトルチームではキーパーの入門技として使われる程。狭い分正面に強い爆裂パンチと、効果範囲が広くゴール全体をカバーする技ーーー例えば【パワーシールド】や【シュートポケット】といった技を習得させてから自分自身の技の開発に取り組ませるチームは少なくない。

 

 

・・・いや、今の日本のレベルを考えれば、そうしているリトルチームの方が多いだろう。才能ある選手ならば、特に意識せずとも一発で成功させることも容易だ。

 

 

 

 

しかし。森崎にはそれが使えない。その最大の理由として、燈咲と紫藤が予想したのは精密さ。

 

一般的に知られている爆裂パンチは、円堂の使用したもの。手順を表すと

 

 

①両手の拳に熱気を込める

②拳を振り上げ、熱血パンチの要領で初撃を叩き込む

③そのままボクシングのラッシュのように、コンパクトかつスピーディに連撃を加えていく

 

 

 

この様に書いてこそいるものの、簡略化して言えば『熱気込めて両手で連続パンチ』。何度も言うが、本当にたったこれだけの事なのだ。何故この男は、それが出来ないのか。

 

 

 

言ってしまえば、一重に『才能の無さ』。これに尽きる。

 

 

一般的に、キーパーを志すような子供達には大なり小なり才能が存在する。少し学べば純然に必殺技を使いこなし、味方から頼りにされる守護神になれる子もいれば、途方もない時間をかけてようやく必殺技を会得するような子もいる。これは歴然たる事実だ。

 

 

だがしかし、努力すれば努力するだけ報われる。この世界のサッカーというものはそう出来ており、『努力しない天才』よりも『努力し続けた凡才』の方が。『何となくサッカーをしている人間』よりも、『真摯にサッカーに向き合い続けた人間』の方が、より強くなれるのだ。

 

 

でも、もしも仮に同じだけ努力した人間同士が相対した時、勝つのはどちらになるのか。同じだけ頑張ったのだから、仲良く引き分けで終わるのか?

 

 

否。断じて否。では勝敗を分ける原因になるのは何か?

 

 

その日のコンディションや、チームメイトたちとの信頼関係。時の運、という場合もあるだろう。

 

 

しかし、しかし、しかし。

 

 

同じだけ努力した人間同士を最も大きく、残酷なまでに振り分けるのはーーー成長速度。即ち、【才能】だ。

 

1ヶ月の練習で10進める人間と、1ヶ月で100進める人間が同じ努力をしても、その差は開いていくばかり。結果、同じだけの努力をしているのにも関わらず、前者は負け、後者が勝つ。悲しい事だが、サッカーはスポーツ。勝者がいれば敗者がいるのが理だ。

 

 

 

 

では、森崎の才能はどうなのか。

 

 

先程も言ったが、残念な事に森崎にキーパーとしての才能はーーーいや、サッカープレイヤーとしての才能はとてつもなく低い。

 

 

森崎は、体格自体は恵まれた方だ。紫藤の様に小学生と間違われるような身長ではなく、むしろ同学年ではそこそこ高身長に位置する。一年間特訓してきたことにより、ある程度の筋肉も着いている。肉体面に限って言えばスポーツは得意な方に位置する人物。それが森崎だ。

 

 

しかし・・・この世界のサッカーは、肉体面だけで戦い抜けるほど甘くない。事実森崎は、パワーシューターである刃金は勿論のこと、力で勝っているはずの燈咲のシュートに押し負けている。『肉体面の優劣=パワーの優劣』ではないのだ。

 

 

 

そんな才能の無い彼では、『両拳に熱気を込める事』と『コンパクトに連撃を加える事』を両立出来ないのだ。熱気を保とうとすれば連撃が疎かになり、手数を増やそうとすれば熱気が霧散し威力がガタ落ちする・・・これが、森崎が練習を重ねても未だに爆裂パンチを扱えない理由だった。

 

 

 

ーーーまぁ、だからと言って。

 

 

 

 

 

「うーん・・・取り敢えず、兎月から言われた通りに熱気を込めて弾けないようにする事を重点的にやるか。熱気を込めることに慣れれば自然に出来て、パンチ速度の方に意識を割いても問題無くなるって、幻斗も言ってたし・・・っしゃあ!!もっかいだ!!無駄な努力なんてない、精一杯の努力は、きっと実を結ぶ!!」

 

 

 

 

 

 

ーーーこのとてつもないアホが諦める理由にはならないのだが。

 

 

森崎が尊敬する男。それは、現在高校で活躍する彼。伝説のゴールキーパーとも呼ばれ、数多のライバル達と幾度と無く死闘を繰り広げてきた、世界一・・・いや、宇宙一のサッカー馬鹿。『みんなから愛された物語(イナズマイレブンという作品)』の主人公ーーー【円堂(えんどう) (まもる)】。

 

 

 

そんな円堂は、多くの選手を導く言葉を残してきた。その言葉は時として味方を、ライバルを、そして直接会った事の無い、彼に憧れた多くの後輩達の背中を押し続けてきた。森崎も、彼の言葉に背中を押され続けた一人だ。

 

 

そんな彼は、決して歩みを止めることはしない。憧れの背は見えるどころか、何処にあるのかすらわからないほど遠く険しい道のり。それでも歩き続けられるのは、憧れへの想いとその背に追いついたいという渇望。そして何より、森崎自身の心に灯る、決して揺らがぬ強い『決意』の存在があるから。

 

 

 

 

 

「どぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁあぁ!!!爆裂ッ!!!パンチィ!!!」

 

 

 

そんな馬鹿みたいに熱く、途絶えぬ炎の如きこの男は、今日も憧れの人の言葉を胸に拳を振るう。例え歩みは遅くとも、一歩、一歩を、着実に踏み締めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………なんで」

 

 

 

小さな呟きがいやに大きく響いた。特訓を続け、今一度タイヤに繋がれたロープを引いて揺らそうとしていた時。練習に熱中していた森崎の耳に、不思議と入ってきた小さな言葉。ふと声のした方に森崎が視線を投げると、木の影からこちらを覗く人物が一人。

 

 

 

「ん?誰だ?」

 

「ッ!」

 

「乃愛先輩っすか?・・・あ、でも乃愛先輩は今日は一緒に練習したし、天文学部の活動ないから残ってる訳ないか・・・?」

 

 

うーん、と首を傾げる森崎を見て、存在が完全にバレていることに気がついた彼女。このまま隠れているものおかしいし、逃げようにも近くに隠れながら移動出来る場所はなく、森崎はこちらを向いている。大人しく出ていった方が自然と判断し、木の影から姿を現す。

 

 

 

「あははー・・・バレてもうたか〜・・・」

 

「支倉先輩!!」

 

 

イタズラ失敗やー、と頬を掻きながら姿を現したのは、紫色を帯びた銀色という珍しい髪色のくせっ毛ロングヘアを揺らし、黄土色の瞳をしたツリ目の女子生徒。森崎も知っている通り、神楽中サッカー部に協力してくれている生徒会副会長、支倉だ。

 

 

 

 

「いやー、こんな時間に何しとるんやー!って言って驚かそうおもてたんに、バレてまうんやもんなぁ〜」

 

「いや充分びっくりっすよ!支倉先輩、なんでこんな時間まで残ってんすか?やっぱ生徒会で?」

 

「あー・・・せやで!ついさっきまで生徒会室におったねん」

 

 

 

嘘は言っていない。先程まで生徒会室にいたのは事実だ。・・・仕事をできる精神状態だったのかは置いておくとして。

 

 

 

「やっぱり!生徒会すっげぇ忙しそうッスよね。こんな時間まで、ご苦労さまっス!!」

 

「んー、うちが好きでやっとることやから気にせんでもええんやで〜?ええ子やなぁ森崎君は。・・・まっ、そんなこんなでおっそい時間までせっせこせっせこ働かされた支倉ちゃんは、えらいでっかい音聞こえてきたからなにごとやー!?っと参上した次第やで!」

 

 

 

おちゃらけた雰囲気を崩さない支倉を見て相変わらず明るい人だなぁ、と一人思う森崎。事実支倉は、()()()()()『何時でも明るく推しの強い、生徒会の元気印』として知られている生徒であり、その明るさと人当たりの良さから多くの後輩に好かれ、慕われる人物だ。

 

 

「うっへぇ、マジすか。すんません、うるさくしちまって・・・」

 

「いやいや!森崎君が練習しとったんはさっちゃんも言いよったから、単純にうちが忘れとっただけやで。………なぁ森崎君、ちょっとだけ特訓を見学しとってもええ?」

 

 

叫びながら特訓に熱中していた森崎は、さすがに迷惑だったかと頭を下げる。が、支倉曰くこの時間に残っている生徒は自分くらいなものだし、単純に忘れていただけだ、と笑いながら言う。

 

そんな支倉から唐突に申し出された特訓の見学。言われた側の森崎はぽかんとしていたものの、すぐさま笑顔に変わってその申し出を受ける。

 

 

 

「良いっすよ!!むしろ歓迎です!」

 

「ホンマに?ありがとなぁ。・・・あっ、横から口出したりはせぇへんから安心してええで!」

 

「いやいや、むしろガンッガン言ってください!支倉先輩はサッカーに詳しいみたいですし、俺の変なとこ教えてくれると嬉しいっす!」

 

 

 

森崎からしてみれば東京で活躍していた燈咲のこと、そしてそのチームの事を知っている程サッカーに通じている支倉から指摘してもらえれば、爆裂パンチ習得のきっかけを掴めるのではないかと感じたらしい。そんな彼の様子を見ながら、ええ子やなぁ、と聞こえない程度の声で再び呟いた。

 

そんな支倉の呟きは露知らず、森崎は再び大きくタイヤを揺らしてから両拳を構える。

 

 

 

「おおおおおお!!!爆裂パンチィ!!!・・・のわぁぁ!!?」

 

 

 

両手に熱気を込め、それを維持するように意識しながら殴りつけるが、やはり圧倒的に拳速が足りないようで。様式美のごとく吹き飛んだ森崎の様子にうへぇ、と驚きながらも、支倉は心の中で冷静に分析していた。

 

 

 

「(連撃速度が遅い……いや、ちゃうな。しきりに両手を気にしとる。熱気込めるのを意識しとるんか?つまりエネルギーの制御に問題点………いや、速度自体も遅すぎや。こりゃエネルギー制御不足に加えて身体能力も不足しとるせいで形にすら辿り着いとらんのか)」

 

 

一度見ただけの森崎の様子から、彼の問題点と意識している点を同時に抜き出してみせた支倉。その後も何度かトライする森崎の様子を見続け、支倉は理解する。森崎の大きな問題点とーーー彼自身の持つ()()を。

 

 

ただし、ここで支倉が指摘したとしても彼の利点は活かせない。彼の問題点と利点はある意味結合している。問題点の方を最低限どうにかしなければ、活かすことは出来ないというのが支倉の判断だった。

 

 

「(…………それに)」

 

 

 

仮にこの利点を十全に活かせるようになったとしても、上り詰めて中の上が精々。さらに、そこまで森崎が登り詰めた頃には、森崎は既にこの神楽中を・・・いや。高校を卒業する頃になっているだろう。それ程までに彼の『成長速度(才能)』は、残酷だった。

 

 

 

「(なのに)」

 

 

 

 

「爆裂っ!!パンチ!!!ーーーーーーぬぁぁぁぁぁぁ!!?

 

………くぅぅぅ〜!!今の!!今の感じ、惜しかったくないですか!?今までよりも長く連撃入れれたから、止めれる時間長かった!!」

 

 

「(なのに、なんで君は)」

 

 

「なんか、少しずつ!!少しずつですけど、両手の熱気に意識を割かなくても保てるようになってきた気がする!!これなら陽花戸との……立向居さんとの試合までに形になるかもしれねぇ!!よっしゃぁ!!やっぱ努力すりゃ、実は結ばれる!!さっきの感覚忘れないうちにーーー」

 

 

 

 

 

 

 

「なんで、笑っていられるんや………?」

 

 

「もういっかーーーへ?」

 

 

 

しまった。

 

そう思い、両手で素早く口を塞いだが既にその言葉は紡がれてしまっている。顔から血が引き、青くなるのが感覚で分かる。

 

自分は今何を言った?努力している後輩に向かって、夢に向かっている後輩に向かって、『何故笑っていられるのか』?

 

 

滑稽だ。何様のつもりだ。諦めず、ゆっくりでも歩みを続ける彼に向かって、歩みを止めた自分がーーーいや。()()()()()()()()()()()()()()()が、彼にそんなことを言う権利も資格も無い。

 

 

「・・・えーっと・・・」

 

「っ!!ご、ゴメンな森崎君!?うち、とんでもない事ーーー!!」

 

「?あぁいや、特に気にしてはないんすよ」

 

 

なはは〜、と笑いながら手を横に振る森崎を見て、へ?と間の抜けた声が漏れる。

 

 

 

「気にしてないって………」

 

「はい!!マジに気にしてないっす!どっちかというと、なんでいきなりそんなこと言ったのかの方が気になります」

 

 

あっけらかんとそう言った森崎。そんな彼の様子を見て安心したのか気が抜けたのか、思わず支倉の口から言葉が零れる。

 

 

 

「あんな……森崎君達、今度陽花戸と練習試合するんやろ?………怖く、ないん?」

 

「怖い、っすか?」

 

 

こくり、と小さく支倉は頷いた。

 

 

「自分がやってきたことが……信じてたことが……正しいと思ってたことが……その試合で全部、無駄だったってなるかもしれんねやで?もし………そうなったら……」

 

 

声を震わせながらそう言う支倉は、自身の2年前がーーーきっとわかってくれると思い、そして裏切られた記憶がふつふつと蘇ってくるのを、必死になって押さえ付ける。

 

 

「は、支倉先輩?大丈夫っすか?」

 

「………大丈夫、大丈夫や。ごめんな、変な事聞いて。邪魔せんで言うたのになぁ」

 

 

そんな支倉を心配する森崎に向かって支倉は繕ったような笑顔で応じる。それを見た森崎は、頭を捻りながらんー、と言葉を口にする。

 

 

 

「笑うのはなんというか、癖っていうか・・・」

 

 

そのー、と言いながら頭を搔く森崎は、本当に支倉の失言を気にしていない様子。支倉からしたら、努力する森崎を嘲笑するに等しいことを言ってしまった自覚があったが、彼はそうは思ってないようだ。

 

 

 

「えっと、身内の話になるんすけど・・・うちの両親、共働きなんすよ。親父が土木作業員で、おふくろがスーパーのレジ打ちのパートやってて。

 

んで、一人息子の俺が言うのもなんなんすけど、結構適当なんスよ。基本何やってもいいけど、その分ちゃんとやるべき事やれって言うくらいなもんで、アレやれコレやれって言うことは無かったんす

 

 

そんな両親が、昔っからずっと言い続けてることがあるんすよ」

 

 

「言い続けてること…?」

 

 

「ハイ!

 

ーーーどんな時でも笑えって、そう言うんすよね」

 

 

 

 

笑え。森崎の両親が、彼に常に言ってきた言葉。何事も経験、子供の人生は子供自身が決める事であり、自分たちは手助けこそすれど制限させるべきではない、という信条をもつ森崎の両親が唯一子供に知って欲しかったこと。

 

 

 

 

 

『堅固!!笑え!!どんなに泣きそうでも、どんなに辛くてもだ!!笑う門には福来る!最後にゃ笑ってるやつがいっちばん強えんだ!!』

 

『強いとか強くないとかはお母さん的にどうでもいいんだけど・・・いっつも笑顔で負けない子になってくれたら、お母さん嬉しいなぁ』

 

 

 

「常に………笑う………」

 

「まぁなんで、これ癖なんすよ。

 

 

まぁでもほら!!ピンチの時でも笑っていられれば、なんか神様からご褒美貰えそうな気がしません?やっぱり暗い顔するよりも、口角上げて笑ってた方が、なんでも乗り越えられると、俺も思ってんすよ!!」

 

 

 

なんで、と言いながら森崎は自分の頬を両手で持ち上げてニカッと笑いながら支倉の方を見る。

 

 

 

「俺、先輩に何があったのかは分かんないっす!でも、なんとなく先輩が無理してるのくらいは分かります!!だから、もし良ければ笑いません?元気の秘訣は笑顔からッスよ!」

 

 

なんの根拠もないっスけどね!と笑う森崎。どんな時でも笑顔を忘れない。どんなに辛くても笑っていれば、きっと誰かが見ていてくれる。そんな森崎の考えは酷く曖昧で、しかし今の支倉には酷く眩しくて。

 

 

自分がかつて持っていたもの。どんな時でも諦めず、楽しんでいた自分。

 

それが過去のものになった支倉とは違い、それを現在進行形で持っている森崎の笑顔は、胸のあたりの中心に、ポッカリと穴を開けたかのように空虚な自分を支倉に思い起こさせた。

 

 

 

「………そっか………君は………強い子やねぇ………」

 

 

噛み締めるように小さく言った支倉。諦めてしまった、捨ててしまった自分とは違い、それを手放さない覚悟と、それを可能にするだけの心の強さを持った森崎という存在は、今の支倉にとって何よりも羨ましくーーー何よりも、辛いものだった。

 

 

 

「ゴメンな、森崎君。うち、そろそろ帰るわ…」

 

「……そっすか!!お疲れ様っす先輩!こんな時間に、ありがとうございました!!」

 

「いや、うちは、なんにもしとらんから……。全部、君自身の力やで。……試合、頑張ってな」

 

「うっす!!俺はもう少し、あの感覚を掴んでから……っと!!」

 

 

 

どこか覇気のない支倉の言葉だが、もう遅い時間だ。帰ると言っている先輩を引き止めるのは非常識である故に、森崎はそのまま礼をした後にタイヤを揺らす。先程掴みかけた感覚をものにする為に、今までのよりも、力を込めて、大きく揺らした。

 

 

 

瞬間、支倉の耳にビキリ、と軋むような嫌な音が聞こえた。まさかと思い瞬時に身体を反転させる。そして視界に入ったのは、大きく揺れながら森崎に向かっていくタイヤと・・・そのタイヤが吊り下げられた部分に、亀裂の入った木の枝。

 

 

 

「あかん!!森崎君っ!!!」

 

「うおっ!?なんすか!?」

 

 

突然の叫び声に驚いて振り向く森崎。その瞬間、亀裂の入った木の枝は嫌な音を立てながら完全に折れ、勢いの着いたタイヤが森崎に向かって飛んでいく。

 

 

瞬間、支倉が()()()

 

 

 

「………え?」

 

 

 

一歩。確かにそこまで距離が開いていなかったのだが、それにしても早すぎるその機動。瞬きの間に森崎の隣に並んだ支倉は、その勢いのまま身体を捻る。

 

 

「……………フッ!!!」

 

 

 

右足に薄らと水色のオーラを纏った状態で、タイヤを上空から撃ち落とすようにカカト落としを叩き込んだ。

 

その勢いを受けたタイヤは、文字通り()()()()()。こちらに飛んできていた時と同等ーーーいや、それ以上の勢いで飛んだタイヤは、そのまま一際大きい樹木にぶつかると、そのまま樹木に『張り付いた』。よく見れば、タイヤの飛んだ軌跡と、支倉の足元が、視認出来るほどの冷気を放ちながら凍った跡のように覆われていた。

 

 

森崎が一度も止められたことの無いサイズのタイヤ。しかも勢いをつけているため、いつもよりもさらに重さの増しているソレを、完全に受け止めるどころか弾き飛ばした支倉。そんな彼女を見て、森崎が感動したように大声を上げる。

 

 

 

 

「すっげぇ………すっげぇぇぇぇぇ!!!!は、支倉先輩!!!なんすかいまの!!!シュート技っすよね!?先輩、サッカーやった事ないんじゃなかったんすか!?」

 

 

目を爛々と輝かせて詰め寄ってくる森崎。それもそのはず、いきなり目の前でこんなものを魅せられてはこのサッカー馬鹿が黙っているはずは無い。

 

 

しかし、支倉にはその森崎の様子に、既視感があった。

 

 

 

『すっげぇぇぇぇぇ!!!!お前、なんだよ今のシュート!?シュート技だよな!?俺以外にもシュート技使えるやつがチームにいたなんて!!!』

 

 

「………あ」

 

 

「支倉先輩、みずくさいっすよ!!!こんなすっげぇシュート打てるのに隠してたなんて!!俺、シュート受けてみたいっす!!!」

『水くせぇぞお前!!同じチームなのにこんなの隠してたのか!!!俺のシュートとどっちがすげぇか、比べてみようぜ!!!』

 

 

「あ………いや………」

 

 

 

「ねぇ、支倉先輩!!!」

『なぁ、支倉!!!』

 

 

 

「辞めて………見ないで………ソレで……!」

 

 

 

 

「『ーーーサッカーやろうぜ!!!」』

 

 

 

「『その目』で………うちを見ないでぇ……!!!」

 

 

 

 

 

かつての相棒を思い起こさせる森崎の目。サッカーに対する貪欲なまでの欲求と、他者を思いやる優しさが綯い交ぜになった瞳は、支倉にとってとてもよく見なれたものであり、もう随分と見ていないもの。

 

 

 

「支倉先輩、どうしーーーって!?先輩!?」

 

 

掠れた声を震わせ、その場から逃げるように支倉は立ち去ってしまう。森崎の静止の声すら聞こえないように・・・というよりも実際聞こえていないのだろう。彼女の胸の内は、ここから、あの目から離れようという意思のみだ。

 

 

そんな普段とは変わり果てた先輩の姿を見た森崎は、少しの間困惑していたが、大きく息を吸い込んで支倉の背に向かって叫ぶ。

 

 

 

 

「支倉先輩ッ!!!!俺、待ってます!!!」

 

 

 

その言葉に対する答えは、返ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてーーーー

 

 

 

 

「ここか……なんつーかふっつーのとこだな」

 

「平々凡々って感じだねぇ、特徴無しってのが特徴なの?」

 

「お二人共、それくらいにしておいたらどうですか?」

 

「まぁ確かに、なにか特別力入れてる雰囲気も感じないわね」

 

「そう〜〜・・・?僕はこういう雰囲気好きかよ〜〜・・・」

 

「うーむむむ、なんだかピンッと来る子は見当たらないな〜。シロちゃんはどう思う〜?」

 

「へぇえ!?わ、私ですか!?」

 

「………ほんとに意味があるのか。練習した方がよっぽど効率的だ」

 

「んー?キャプテンと陸井さんの決定でしょ〜?なら、僕は文句も特にないよ」

 

 

 

 

「ーーーみんな!!あまりはしゃがないで!!栄作、案内頼んでいい?」

 

 

「あぁ、勿論だ!!

 

………ようやく、ようやく完成したんだな………静穂……!!」

 

 

 

 

ーーー『運命』が、やってくる。

 

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