※追記
陽花戸の子達に勝手に2つ名(アレスのキャッチコピー)をつけています。「うちの子こんなダサくねぇ!変えろ!」という言葉はそっと胸の内にしまうか、メッセで変更案をご提示下さい
「お、おいあれ見ろよ!!」
「陽花戸中サッカー部じゃねぇか!?」
「すっげぇ……生の立向居だ!!」
陸井を先頭に神楽中内部を進んでいく陽花戸中サッカー部の面々。この二年で一気にその名を全国に轟かせたこのチームの事は、流石にサッカーに興味ない生徒達も知っている。・・・というよりも、正しくは立向居のことを知っているのだろう。彼らの姿が見えると、今日サッカー部の使うグラウンド以外で練習していた部活動生や、特に何も用はないがただ話している生徒達が動きを止め、ヒソヒソと話し始める。
「キャプテン、人気もんやね〜…………」
「あはは……まぁもう慣れたよ」
「さっすがキャプテン!日本代表の自分にとってはこの程度の注目どうってことないって事なのかなぁ!」
太明がほわほわとした雰囲気で立向居に話し掛けると、苦笑しながら頬を搔く。そんな彼に向かって、後輩である楽野が茶化すようにそう言うが、瞬間に王野と文月の2人から頭部を左右挟まれるようにして殴りつけられる。
「あだぁ!?」
「あんったはもう!!その舐め腐ったような口調を直せって何回も言ってるでしょうが!!」
「まったく………貴方はほんとに学びませんね。正直お手上げですよ」
「ちょっとぉ!?剣一くん僕だけ扱い雑じゃない!?文月先輩はいつもの事だけどさぁ!!」
ギャーギャーと楽野が講義の声を上げるが、その言葉が余計に文月の額に青筋を浮かべる結果になることに気がついた方がいいーーーというか、気がついているのだろう。それなのにやめない辺り根っからの道化なのだろう。
「こら、仲がいいのはいい事だけど他校でそんな事しない!」
そんな彼らにキャプテンとして立向居が注意を呼び掛けるが、彼自身この雰囲気が割と好きだったりする。以前のキャプテンである戸田や、先輩達を思い起こすからだろうか。・・・まぁ楽野が聞けば文句のひとつでも皮肉混じりに言い出す気もするが。
「何やってんだよ……こっちの方に行きゃ、多分グラウンドがーーーん?」
「おーい!!陸井!!お前陸井だろ!?」
チームメイトの騒々しい声に苦笑しながら道案内を続けようとした陸井の元に、誰かが二人ほど駆け寄ってくる。付けているネクタイを見ればこの神楽中の3年生であることが伺える。以前この学校に所属していた陸井の友人か、と思った一同だが、陸井の隣に立つ立向居だけが気がついた。陸井の顔があまり明るくなく、若干複雑そうなーーー少なくとも久しぶりに出会った友人に向けた顔では無いことに。
「おい陸井!!久しぶりだなぁ!!お前メールしたのに全然返信しやがらねぇで!コイツー!!」
「ホントだよ!クラスの奴とか会いたがってたぜ?何しに来たんだよー!」
「ハハ……わりぃわりぃ。練習忙しくて、あんまり返信とか出来なくってよ」
笑いながら対応する陸井だったが、その表情は依然優れないまま。それに、友人やチームメイトを大切にする彼は、返信が遅れたり忘れたりすることはあれど、長期間に渡って返信をしない、ということは無かったはずだ。その点について、立向居が首を傾げる。
と、そんな時。陸井と話していた2人の男子生徒の視線が立向居たちの方に向く。
「ってかヤベぇよ!!立向居だよ!あの伝説の後継者が目の前にいるよ!!」
「うっはすっげぇ!!ホンモノだよ!!それにほら!!【吹き咲く突風】に、【愛らしきホワイト・チア】!!それと………あー、あの司令塔の美人さんなんだっけ?」
「ばっかお前、【残念ゲームメイカー】だろ?」
「残念言うな!!!」
フシャー!!!と警戒を全面に押し出したのは、納得いかない2つ名を名付けられた萌黄本人。これがただ流布したものならば気にするだけで済んだだろうが、残念なことにコレは中学サッカー協会が公式に名付けたもの。全国に知られているのである。
ちなみに、【吹き咲く突風】はチームのSMF、まとめ役にして攻守のバランサー、『文月 茉莉』。【愛すべきホワイト・チア】は、1年生ながら陽花戸のレギュラーに選ばれた小動物系DF、『尾白 華』のことである。
ーーー本当は太明も女子選手のはずなのだが、何を思われたのか彼女は周囲のメンバーに『男子部員』だと思われている。しかも学年も本来の3年生ではなく2年生と認識されており、正しく知っているのはチーム内ではクラスが同じな立向居のみなのだ。
「てかホントやべぇ、実物めっちゃ可愛い…!」
「ねぇねぇ、なんで神楽に来たの?あ、良けりゃ連絡先ーーー」
「あぁそうだちょーっといいかぁ!?」
作り笑いを浮かべながら文月達に近寄っていく2人の男子。どうみても下心しか無いその態度に嫌悪感を示す女子組を見て咄嗟に前に出ようとした立向居だったが、それより早く2人の頭を掴んだ陸井が話し始める。
「うぉっ!?」
「サッカー部が使ってるグラウンドってこっちで合ってるよなぁ!?久々だから分かんなくってよ!」
「さ、サッカー部?………うちの学校にサッカー部なんかあったっけ?」
いきなり体格のでかい陸井に頭を掴まれて驚いた男子達。陸井からの質問に首を傾げるが、もう片方の生徒が思い出したかのようにポン、と手を叩く。
「あぁ〜、ほらアレだろ。
「………………1年生が?」
「?そうそう。なんか入学してすぐに創部して、最近やっと試合人数集まったって初心者共だよ」
「あぁ思い出した!1年のガキと物好きな2年生のアレか!え?陽花戸がわざわざそんなのと試合しに来たの?意味わかんねぇ」
「な、なぁ!!3年生は!?ってか、静穂の奴はいるんだろう!?」
一年がキャプテン、初心者達と聞いた瞬間、ため息をつくのが2人。元々神楽と試合することに反対派だった木倉と立花だ。立花の隣にいる黒野も、やっぱりね、とでもいいたげに笑っている。他メンバーも露骨にそのような態度をとる者はいないが、少なからず落胆はあった。
そんな中で、ただ一人そのような気持ちの揺れがなかった立向居のみ、陸井の様子に気がつくことが出来た。この学校と試合を組むことを望み、最も楽しみにしていたように見えた陸井が、落胆ーーーというよりも動揺しているのが見て取れる。
「支倉ぁ?……あぁ陸井とサッカー部作ろうとしてた奴か。さぁ?しらね」
「あいつ今確か生徒会だっけ?陸井がいなくなった後、しばらく学校休んだりしてたよな。………まぁ話聞かないし、飽きたんだろ」
飽きた。その言葉を聞いた瞬間、陸井の目付きが一気に鋭くなり、噛みつかんばかりの勢いでその生徒の胸ぐらを掴みあげた。
「アイツが!!!自分からサッカー辞めるわけねぇだろ!!!なぁ、なんか理由があんだろ!?教えてくれよ!!」
「うぉあっ!?な、何すんだよ!?」
「…………そこまで。落ち着け栄作、らしくないぞ」
そこに割り込み、手を下ろさせたのは、唯一気がついていたキャプテンである立向居。陸井は未だ興奮状態だったが、チームの大黒柱であり信頼する立向居の言葉を受けて手を離す。
「ゲホッ、ゲホッ……てめぇ!!」
「ゴメンね。うちのチームメイトが失礼な事をした。チームを代表して、謝罪するよ」
「っ!キャプテン!?」
そういって真っ先に立向居が頭を下げると、後輩の誰かが驚きのあまり声を上げる。同級生達も目を見開いており、胸ぐらを掴まれた相手も虚をつかれたのか怒りが霧散していく。
「………それで、サッカー部が普段使ってるグラウンドはあっちでいいのかな?」
「お、おう、そうだと思う………」
「そっか。わざわざありがとう。それじゃ、俺達はこれで。みんな行くよ!」
相手が面食らってるうちに話を手早く進め、チームメイトを引き連れて足早にその場を去っていく。話しかけた男子生徒達は、ぽかんとした顔でその後ろ姿を眺めるしかなかったーーー。
「…………悪かった、立向居。俺のせいで………」
「チームメイトを庇うのはキャプテンの務めだよ。それに、友達だろ?気にするなよ」
「…………ありがとな」
「なぁ栄作。何かあるのか?お前があんな態度とるなんて、普通じゃないぞ」
「………いや、なんでもないんだ。気にしないでくれ。
………そうだ。辞めるわけ無い。俺よりも、アイツの方がサッカー好きなんだ。サッカー部が出来て、黙ってるはずがない………」
「……っ!!来た……!!」
誰が呟いたか。それとも全員の心のうちが自然に言葉に出ていたのか。神楽中サッカー部の目の前に、11人の選手達の姿が見える。
昨年の福岡予選覇者、全国大会において、あの円堂守率いる『雷門中』と試合し、ギリギリまで追い詰めた、紛れもない現福岡県最強のサッカー部。
背番号11、【絶対王剣】
2年FW『王野 剣一』。
背番号10、【不屈のボルケイノハート】
3年FW『陸井 栄作』。
背番号9、【誇りの一刀】
1年FW『立花 武瑠』。
背番号8、【残念ゲームメイカー】
3年MF、司令塔『萌黄 潤香』。
背番号7、【笑み浮かぶ慧眼】
2年MF、『楽野 心也』。
背番号6、【吹き咲く突風】
3年MF、『文月 茉莉』。
背番号5、【一味違う陽だまりガール】
3年MF、『太明 和花子』。
背番号4、【愛すべきホワイト・チア】
1年DF、『尾白 華』。
背番号3、【空翔ける黒翼】
1年DF、『黒野 翼』。
背番号2、【燃え猛るど根性ブロッカー】
3年DF、『木倉 燈吾』。
そして、背番号1。日本代表、イナズマジャパンにも選ばれ、円堂守が卒業した今日本中の誰もが認める世代最強のキーパーにして【伝説の後継者】。
3年GK兼キャプテン、『立向居 勇気』。
以上11名、陽花戸中サッカー部レギュラーメンバー全員の姿が、目の前にあった。
「…………本当に来ましたよ………しかもフルメンバー………」
「あっはは………ガチじゃん」
燈咲、紫藤は陽花戸の様子を見て、完全フルメンバーできたことにため息を通り越して笑いが浮かんでくる。その隣に立つ秋宮と秋風も、彼らの放つ強者のオーラのようなものに押されて冷や汗をかく。
「…………………」
「?アルちゃん?どうしたの?」
「…………いえ、なんでもないですよ。気にしないでください、乃愛」
「?」
一人、辺りを見渡していた秋雨に星舟が声を掛ける。しかし、秋雨は薄く笑うだけで何も答えない。呼んだはずの、救いたい人が姿を見せていないことなど、親友には関係の無いことだから。
「…………伝説の、後継者…………でも負けない………あの人に追いつくには…………」
「………おらぁ!!」
「うわっ!?か、香沙薙先輩!!何すんですか!!」
「なーに、後輩がカゲみてぇな暗い顔してたからな。気ぃ張りすぎんなよ、本番じゃねぇんだ。胸借りてくつもりでいこーぜ、な?」
「………ったく、貴方は緊張感ありませんね………」
ブツブツと、影の差す顔で呟いていた灰飛。その彼の様子を見かねた香沙薙は、乱雑に頭を撫でる。その行為に驚いたのか抗議の声を上げる灰飛だったが、それにより差していた影が消えていた。それを見た香沙薙は1人心の中で安堵の息を漏らす。
「わー、なんか強そう」
「実際、すっごく強いからね。去年のレギュラーが3人残ってるし、特にあの立向居君が頭一つ………いや、二つは抜けてるかなぁ」
「へ〜………サッカー知らないから何とも言えないけど、凄そう!でもペンギン出るかなぁ?」
「ペンギンは……立向居君は出さないだろうねぇ」
「そっかー………」
完全初心者であり、妙に肝の座っている人鳥は緊張感が薄いーーーというより、緊張しているけれどそれが影響しにくいのだろう。相手の強さよりもペンギン技が出てくるかどうかの方が気になる様子。その隣で薫は緊張するよりいいね!と笑っていた。
「おいおいおいおい、見ろよ堅固!!あの立向居さんが目の前にいるぜ!!」
「あぁ……あの人が、目の前にいて俺たちと戦うなんて……!!燃えてきたァ!!!ぜってぇシュート止めてやる!!」
「儂も滾って来たぜぇ………アイアントルネードがどこまで通用するのか、確かめてやる!!」
そんな中、ギラギラと眼光を輝かせながら叫ぶ刃金と、その隣でやる気に満ち溢れた顔つきの森崎。一見緊張していないように見えるが、彼らでも緊張はしている。ただ、それ以上に嬉しいのだ。
刃金は、憧れの豪炎寺のシュートを何度も受けてきた、立向居に自分がどれだけ通用するのか、試す機会が早々に巡ってきたことが。
そして森崎は、憧れの人ーーー渇望するほどに追いつきたいあの人に、最も近い存在である立向居と同じピッチに立ち、戦える事が。
そんな中、陽花戸メンバーから一人近づいてくる。茶色い髪をした、一際オーラを放っている人物。キャプテンである、立向居だ。
「…………初めまして。今回は練習試合のお誘い、ありがとうございます。陽花戸中キャプテンの立向居です」
「はい!!神楽中キャプテンの森崎っス!!会えて嬉しいです、立向居さん!!」
グローブを脱ぎ、手を差し出して互いに握手を交わす。その際に森崎は、立向居のゴツゴツとした硬いその手に思わず驚く。予想以上のものだ、きっと目の前のこの人は自分よりもさらに凄い努力をしてきたのだろう、と。
「……君、キーパーだね」
「へ?は、はい!そうですけど……」
「あぁ、ゴメンね!握手のとき、かなり皮膚が固まってたから………タイヤ特訓、してるんでしょ?」
「分かるんすか!?」
手を触っただけで自身がキーパーであること、さらにタイヤ特訓の事まで言い当てた立向居が信じられず、思わず聞き返してしまう。当の立向居は笑みを浮かべながら、言葉を続けていく。
「分かるよ!だって俺もタイヤ特訓してるからね。この感じだと、毎日欠かさずやってるのかな………君も、円堂さんに?」
「はい!!!俺、円堂さんの………あの人のプレーを見て、ほんっとに感動したんす!!あの人に憧れて、キーパーやって………」
「そっか………同じだね、俺達」
同じ。
立向居は、目の前のこの少年の思いは2年前に自分が感じ、憧れたその思いと同種だと心で感じていた。理屈ではなく、心の奥に共鳴するような、そんなもの。それ程に、2人にとって【円堂 守】という存在は大きかったのだ。
「………立向居さんからそんなこと言ってもらえるなんて、嬉しいっす。………俺、円堂さんみたいになりたい。あの人の見た景色を、この目で見てみたいんです。だから………立向居さんにも、負けません!!!」
森崎が強く、大きく宣言する。瞬間、陽花戸側からの視線が強くなる。当然だ、自分たちのキャプテンにして、世代最強のキーパーに向けて、こんな初心者軍団のキーパー如きが負けないなどと、10年ーーーいや、100年早いだろう。
「………そっか。じゃあ、ライバルだね」
しかし、立向居はそうは思わなかった。彼はチームメイトから尊敬され、信頼されている男である。こんなことで腹を立てることなんてないし、キーパーとして、森崎の言葉が偽りも何も無い、純粋な闘志と敬意によるものだと理解していた。
「………それじゃあ、もう試合を始めようか。アップは済んでる?」
「え?俺達は大丈夫っすけど、立向居さん達はーーー」
「必要無いよ。俺たち全員、準備は出来てる」
森崎の前から離れ、チームメイトたちの方へと戻っていく立向居。彼らの前に立つと、立向居は薄く笑いながら森崎の方をーーー否、『神楽中イレブン』の方を振り向いた。
森崎のその思いを受け取ったからこそ、立向居は振舞った。先輩キーパーとして、同じ人物に憧れを抱く者として、彼を導く先立ちとしてーーー
「さぁ、始めようか、神楽イレブン。練習試合だからといって手加減なんてしないよ。俺たち11人ーーー陽花戸中レギュラーが、全力を持って、相手になる」
ーーー昨年の、県予選覇者として。
「来なよ、新世代達」