「おい、あれみろよ」
誰かがグラウンドを指さしながら言った。その先に立っているのは、22人の選手達ーーー陽花戸中のユニフォームに身を包んだ11人と、それに相対するように立つビブスを着た11人。神楽中の面々だ。
「おっ、初心者軍団じゃん。陽花戸と試合組んだってマジだったのな」
「な。勝てるわけねぇのに、馬鹿だよなぁ」
嘲笑するようにーーーいや、実際嘲笑しているのだろう。勝てるわけがない、と馬鹿にしたような言葉を並べて笑い合う、神楽中の生徒達。それほどまでの実力差が存在するのは、サッカーに詳しくない彼らでも容易に理解できた。
「………ほんとに、来たんやな」
そんな中、生徒会室で一人外を眺める女子生徒の姿があった。その女子生徒ーーー支倉は、陽花戸中の面々を見ながら、ひとつ言葉を零した。
「勝てるわけ、ないんや……もしこれで、あの子達がサッカーを嫌いになったら………」
それは後輩達を心配した言葉なのだろうか。それとも、自分に言い聞かせるための言葉なのだろうか。支倉にはそれが分からなかったし、そもそもそれを意識出来るような余裕は彼女の胸中にはなかった。
ふと、彼女は自分の机に視線を落とす。生徒会室で、副会長用の彼女の机。その上には、ひとつの箱。フタの部分には、一枚の付箋が貼られていた。
『貴方に、必要なものです
秋雨』
短くそう書かれた付箋。蓋を開ければ、そこに入っているのは、見知ったもの。かつて何度も共に戦い、そしてもう二度と履くことは無いと思っていた自分のシューズ。
そして、もう一つ。あの写真だ。
写真を見る。かつての自分と相棒が、共に写っている。
グラウンドを見る。先に進めなくなった自分とは正反対に、信頼する仲間達と共に歩んでいく相棒がいた。
「ゴメンな………こんな、事まで、してくれて………でも、ウチもうダメやねん………ゴメンなぁ、アルちゃん………」
「さて…………………タイヤ特訓って、何のことですか、森崎くぅん………?」
「いえ、あの、その……………ち、ちょっと元気が残った日に少し………」
「毎日、やってるらしいですね………?」
「すんまっせんしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
背後にゴゴゴゴゴゴゴゴ……とでも見えてきそうなほど凄みのある笑みを浮かべる燈咲の目の前で正座で縮こまっているオレンジスカーフ男、森崎。そんな2人からすすっ…と離れていく神楽中の面々と、遠巻きに見守りながら困惑したような表情を浮かべる陽花戸の面々。
「私、言いましたよね………?勝手な特訓されると怪我の元になるからやめて下さいって………?」
「ゔっ……!!」
ひくひくと頬を吊り上げながら額に青筋の浮かぶ燈咲。別に元気が残ってたんだし怪我もしてないんだからいいじゃん、とも思うが、約束をした上で破ったのは森崎だ。それを理解しているから彼もそのまま怒られている。決して燈咲の背後に般若が見えているとかそういうのではない。断じてない。
「あなたはひと月も経たずに約束を忘れる人なんですか?あぁそれとも私との約束なんて守る必要も無いと?えぇそうですか理解しましたじゃあこれからは特訓が必要ないほどの量をーーー」
「はーいストップ燈咲さん」
「それくらいにしましょう。相手を待たせてます」
静かに怒り心頭状態の燈咲。二年生たちでも遠巻きにしている彼女を止めたのは、紫藤と秋雨だ。チーム内でも冷静な2人が止めに入ってくれたことで、森崎も救われたかのような表情を浮かべる。
「秋雨先輩の言う通り、陽花戸の人達待たせてるんだよ。堅固も怪我してないし、それくらいにしたら?」
「む……しかし……」
「今は相手に集中すべきでしょう。手早く作戦確認して試合に入りましょう………森崎君のお説教なら練習試合後にのんびりどうぞ」
「………あれ?アル先輩なんかとんでもない事言ってません……?」
「気の所為ですよ気の所為。ほら森崎君、立向居さんが相手してくれますよー嬉しいですねーさっそくポジションに着きましょうかー」
「っ!そうだ立向居さんのプレー生で見れるんだ!!ひゃっほうテンション上がってきたぜぇ!!!」
秋雨の口車に乗せられてフィールドへと走っていく森崎。秋雨はヒラヒラ~と手を振りながら他の面々にもフィールドに行くように促す。
「………なんか彼、知能指数下がってません…?」
「立向居さんが目の前にいて戦えるんだし、仕方ないんじゃない?」
「ふむ………あのバカ並に単純ですねあの子」
「素直でいい子だと思うよ?とっても明るい子だもん!」
森崎を見ながら苦笑いする3人。薫のみ森崎の明るさを褒めるが、傍から見ればアホにしか見えないのも事実である。4人は手早く戦術について確認すると、薫はベンチに座り、3人はそれぞれ自分のポジションへと足を進めて行ったーーー。
神楽中フォーメーション
ーーーー刃金ーー人鳥ーーーー
ー星舟ーーー燈咲ーーー秋宮ー
ーーーーーー塵山ーーーーーー
ー秋風ーーーーーーーー紫藤ー
ーーーー秋雨ーー香沙薙ーーー
ーーーーーー森崎ーーーーーー
陽花戸中フォーメーション
ーー陸井ーー立花ーー王野ーー
ー楽野ーーー萌黄ーーー文月ー
ーーーーーー太明ーーーーーー
ーー黒野ーー木倉ーー尾白ーー
ーーーーー立向居ーーーーーー
「それでは、陽花戸中対、神楽中の練習試合を始めます!!よーい……スタート!!」
ピーッ!!と笛の音が鳴る。まずは神楽中ボールから。刃金は人鳥に軽くボールを蹴ると、人鳥はそのままバックパス。ボールを受け取った燈咲は、素早く味方に指示を出していく。
「よし……星舟先輩と秋宮先輩、上がってください!!刃金君と人鳥君も一気に!!」
「おっしゃあ!!」
「りょうかーい!!」
「分かりました!」
「あぁ!!」
手早く指示を出し、それを受けたFWの2人とサイドの2人が陽花戸側へと駆けていく。燈咲はそのままボールを持ち、ドリブルで自身も上がっていく。
「行きます!!ラビットステップV3!!」
「っ!速い…!?」
当然すぐに陽花戸中の1年生FW、9番の立花が燈咲を止めようと詰めるが、彼が近づくよりも早く燈咲が必殺技を使用。まるで兎のような跳躍力で立花の周りを跳ね回った燈咲は、相手が混乱しているうちに頭上を飛び越えて突破する。
「へぇ、使い込んでるみたいだね!司令塔の君は経験者かなぁ………」
「それはどうもっ!!秋宮先輩!!」
しかし立花が突破されるのを見越していたのか、陽花戸中の司令塔、8番の萌黄が燈咲が降り立った瞬間を狙って素早く距離を詰める。しかし、上空からその動きを読んでいた燈咲は、萌黄に捕まるより早くサイドの秋宮にパスを出す。
「っと……!!」
「あれあれあれあれぇ!?あの10番のビブスの子は経験者だけど君は初心者みたいだねぇ!?パスの受け取り方、ヘッタクソだなぁ見てられないねぇ!!」
たどたどしくパスを受けた秋宮。何度も練習はしたが、流石に初めての試合。緊張からか、練習でやったように上手く受けることが出来なかった。それを見逃すほど、陽花戸は甘くない。すぐに7番を背負う楽野が距離を詰め、煽りながらスライディング。それにイラッときた秋宮は自力で突破しようと思い至ったが、それを止めるように後ろから声が掛かる。
「秋宮先輩落ち着いて!!こっち!!」
「っ!スマン、頼む!!」
声を掛けたのは、秋宮の後ろにいた紫藤。DFだが秋宮をカバーする目的で上がっていた彼は、秋宮からのバックパスを受け取る。ボールを渡した秋宮は落ち着いてスライディングを躱し、前方へと走っていく。
「あーらら、上手く煽れたと思ったのにねぇ……邪魔しないでよおチビちゃん!!」
「おチビって言わないで貰えますかね!!イリュージョンボール改ッ!!」
「っと、やべっ……!!」
悪態を投げてくる楽野に向けて紫藤が得意とするドリブル技を使用。スライディングして体勢を崩していた楽野は対応し切れずに躱されてしまい、突破した紫藤は前を走る秋宮にパスを送った。
「よし!これなら……」
素早くドリブルしていく秋宮。その姿は未だ慣れてはいないが、元の身体能力と合わさって中々に様になっていた。
「初心者にしては速い……けど、そう簡単に通したら怒られるし!!」
しかしそこに現れたのは陽花戸のDFの1人。1年生にして背番号3を持っている黒野だ。
黒野は独特なポーズをとり、秋宮に向かって駆け出す。その姿はまるでストロボ写真のように断続的に姿を残し、秋宮を混乱させる。
「ワンダートラップ……V2ってね!!」
「っ!しまった!!」
秋宮に向かって飛び上がった黒野。そちらを警戒していた秋宮だったが、瞬間、全ての分身と黒野が姿を消す。驚いている間に、黒野は低いスライディングで秋宮からボールを奪取。焦る秋宮だったが、彼の横を通る影がひとつあった。
「ハハハハ!!びっくりする技だろう!?さて、萌黄せんぱーーーっ!?危なっ!?」
「げっ!!バレた!!」
笑いながら司令塔の萌黄へとボールを送ろうとした黒野。しかし、そんな彼は瞬時にパスをやめて足でボールを挟み跳躍。その瞬間、前線からもどり、横から不意打ち気味にスライディングを試みた人鳥が黒野の下を通る。
「いえ、ナイスです人鳥君!!」
「よく周り見てたね、流石ペンギン!!」
しかし人鳥が作った隙は無駄では無かった。人鳥のスライディングによって黒野が飛んだことにより、その僅かな滞空時間によって燈咲、紫藤の2人が間に合ったのだ。
紫藤が黒野の足に挟まったボールを蹴り、そのボールを燈咲が受け取る。
「っ!連携上手いな……!!」
「星舟先輩!!」
見事な紫藤と燈咲の連携に舌を巻く黒野。ボールを見事奪い取った燈咲は、逆サイドの星舟に向けて大きくボールを蹴る。
「周りをよく見て、ボールをしっかり見据えて………丁寧、にっ!!」
星舟の走る先に、速過ぎず遅過ぎず、星舟が蹴りやすいように配慮を込めたボールを送る燈咲。さり気ないプレーに垣間見得る実力の高さに、へぇ…と面白そうな顔で燈咲を観察する萌黄だった。
ボールが送られた星舟は、薫から習ったことをしっかりと頭に入れ、燈咲のボールをダイレクトでキック。一度ボールを持つと思っていた4番の尾白、2番の木倉のDF2人は一瞬虚を突かれた。その隙さえあれば、この男も十全に動けるというもの。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
「っ!豪炎寺さんの……いや、違う!」
チームの最大火力、刃金が回転しながら空中を駆け上がる。彼に燈咲が事前に与えた指示のひとつ。星舟にボールが送られたら、シュート体勢に入れ、というものだった。最初からシュートチャンスが巡ってくるとは思っていなかったが、刃金は内心で奮い立っていた。
「日本代表、ゴールキーパー!!今の儂が、この人にどこまで通用するのか、ここで確かめるっ!!!」
大会以外で、立向居と戦える機会はそう多くない。今回の練習試合はまさしくチャンスだと、刃金は認識していた。
豪炎寺修也。憧れのストライカー。彼を超え、世界一の必殺シューターになること。刃金の目標を達成する為に、必ず超えなければならない巨大な壁が、目の前にある。
「アイアン………トルネェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェドッ!!!!!!」
鈍い赤色、溶かした鉄のようなオーラを纏った脚を振り抜く。時間こそかかるものの、この技は刃金が自身で編み出した技であり、その威力はチーム内でも飛びぬけて高い。
しかもこの一撃、刃金の気合いが乗っているのか、今までの練習で放っていたものよりも熱気が乗っている。間違いなく、刃金の過去最高の一撃だ。
「ぶち抜けェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!」
ーーーしかし。
「…………ふっ!!!」
この男はーーーイナズマジャパンのキーパーは、規格が違う。
過去最高の刃金のアイアントルネード。進化こそしていないが、その威力は並のキーパーなら十分吹き飛ばせるほど。
それを立向居は、『
「んなっ……!?」
「ーーーうん。良いシュートだ。時間がかかり過ぎるのは難点だけど、この威力は凄いね!回転の仕方を意識すれば、もっと良くなるよ!それと、空中でシュートするのと逆の足を意識して。威力が伝わり切ってないよ」
一撃。右腕一本で、刃金の渾身の熱を霧散させてみせた立向居は、小さく頷きながら刃金へとアドバイスを贈る。これは練習試合。互いを高め合うためのものであるが故の助言だった。
「必殺技すら使わず……片手で止めた……」
刃金自身も確信出来るほどの最高を一撃を、必殺技すらなく、ノーマルキャッチで止められた。その事実を受けた刃金が俯く。
「………折れたか?」
近くにいた木倉が、心が折れたのでは、と呟く。
しかし、しかし、しかし。
「すっげぇ………日本代表の壁は、こんなに高いか!!!ははっ、やる気出てくるってもんだ!!次は必殺技使わせる!!必ずだ!!」
「うん、いい気合いだ。それなら、俺も全力で答えるよ。………それじゃ、攻めようか!!尾白さん!!」
「は、ひゃいぃ!!」
刃金の気合いを受けた立向居は、笑いながら右サイドの尾白にボールを投げる。舌を噛みながらもボールを受け取った尾白に向け、星舟がディフェンスに行く。
「えっと、その、と、通して頂きます!!メテオシャワーV2!!」
「っ!?きゃあああ!?」
「乃愛ちゃん先輩!!」
尾白が宙返りのようにしてボールを蹴りあげて自身も飛び上がり、空高くからオーバーヘッドでボールを打ち出す。瞬間、ボールが分裂し、まるで流星群のように星舟の周囲に落下。爆発して彼女の視界を塞ぎ、吹き飛ばした。人鳥が星舟の身を按じる声を上げるが、直撃していないようで、怪我もなく無事な様だ。
「ご、ゴメンなさい!!わか先輩ぃ!」
星舟に謝罪しながらも尾白は的確にパスを送る。受けたのは陽花戸のアンカー。五番を背負う守備的MF、太明だ。
「う〜ん……みんな頑張っとるから、ボクも頑張るば〜い……」
「そう簡単に行かせませんっ!!」
ふわふわとした太明からボールを奪おうと、燈咲が素早くチェック。しかし太明は慌てない。ふわふわとした雰囲気を崩さず、どこからともなく巨大なうちわを取り出した。
「へっ!?」
「よぉいしょ〜〜〜!!!真……お〜おう〜ちわ〜〜〜!!!」
「きゃあっ!?」
「ふふ〜〜……ボクもやるときゃやるんよ〜…?茉莉しゃん、パ〜ス!」
ぶおんっ!とうちわを大きく振り、風を巻き起こして燈咲を吹き飛ばす。悠々と通り抜けた太明は、右方向にパスを出す。そこにいたのは、太明と同じ3年生のMF、6番の文月。
「ナイス、和花子!!こっちも行くよ、真神風ダッシュ!!!」
「っ!!速いっ!?」
走りながら両手を広げると、彼女の周りを風が包み込み、瞬間的に空気抵抗を極限まで低くする。それにより、加速しやすい環境を作りだした文月は、秋風が目を見張るほどのスピードで駆け抜けて行った。
「決めなよ、立花!!」
ここで文月は、王野と立花の2人がフリーなことに気がつく。王野に送ろうかとも思ったが、青髪ポニテのDFーーー秋雨が近くにいた為、中央の立花にボールを送った。
「……よし、決める……!!」
ボールが送られているのを視認した立花は、ボールを受けてからシュート体勢に入ろうとしたーーーそんな彼に、影が差した。
「ぃよっと!!」
「っ!?」
その影の正体は、香沙薙だ。飛び上がった彼は、体を捻り、立花に送られるはずだった文月のパスをクリア。身体能力に任せて一気に前方まで蹴り飛ばした。
「(コイツッ、いつの間に!?さっきまでいなかったはず……!!)」
言葉に出さずに驚愕する立花。何故いなかった香沙薙が現れたのかーーー離れた位置から見ていた王野には理解出来た。
「あの金髪の選手………あれだけ離れた位置から、たった数歩で……!?」
離れた位置にいた香沙薙。初心者である彼はポジショニングが分かっておらず、パスが送られた際に焦った。その結果、彼は十数歩はかかる距離を、短く一気に加速に、文字通り
「ふぃー、あっぶねぇ………もっとこっち寄った方がいいのかねぇ」
危ないが、危機は脱したな!と呟く香沙薙。そんな彼の様子に小さくため息をつきながら、高い身体能力を改めて評価する秋雨であった。
「よしっ!!」
蹴られたボールを回収したのは、塵山灰飛。灰飛は周りを見て、パスコースが無いことを確認したあとそのままドリブルで上がっていこうとした。
「ーーーもらったぜ」
しかし、そこに現れた男が一人。
背番号10ーーーエースナンバーを背負った男。陽花戸のエースストライカーにして、支倉のかつての相棒。陸井だ。
「っ!?いつの間に…!?」
瞬時に灰飛からボールを奪い取った陸井に驚き、すぐさまボールを取り返そうと足を伸ばす灰飛。しかしそれを嘲笑うかのように素早く動き、灰飛の追撃をかわした陸井は、思いっきり地面を『踏み抜いた』。
「っ!アレは………!!」
遠く見ていた支倉が呟いた。この技は、自分が知っている技。あの頃と変わらない、彼の技だ。
「爆……グラウンドクラッシュ!!!!」
踏み抜いた地面の欠片。それをボールへと集結させた陸井は、そのままボールを力強くシュート。地面を抉りながら、ボールはゴールへと直進していく。
「っ!やべっ!!」
「しまっ、油断した…!」
センターバック、中央のDFである香沙薙と秋雨だったが、先程の香沙薙のプレーで気が抜けていたのかブロックに入れない。陽花戸のエースストライカーの一撃、それが森崎へと襲いかかった。
「立向居さん、俺が止めたことの無いザックのシュートを片手で止めた………!!俺も、負けてられねぇ!!」
それを見ても森崎は笑う。憧れの人から見せてもらったあのプレー。それを見て、闘志が湧いてこないわけはなかった。
「おおおおお!!!爆裂、パンチっ!!!!」
未完成だが、使うしかない。両手に熱気を込めた森崎は、ボールを見据えて連撃を叩き込んでいく。
「っ!?どわぁぁぁぁぁ!?!」
だがしかし。熱気が霧散するより早く。連撃が追いつかなくなるより早く。陸井のパワーは、そんな次元のものではなかった。耐えることすら出来ず、大きく吹き飛ばされた森崎はボールごとゴールに叩き込まれた。
陽花戸 1-0 神楽
「森崎っ!!」
「森崎君!!」
すぐさま近くにいた香沙薙と秋雨が彼に近づいて安否を確認する。
「〜〜〜〜〜〜!!!だぁぁぁぁぁ!!!止められなかったァァァァァァ!!!」
しかし森崎はガバァ!!と起き上がり、2人へと頭を下げる。
「すんません!!止められませんでした!!」
「おっ!?いや、お前は頑張ったよ!!それよりも、油断してた俺がわりぃ!!」
「私も油断していました…唯一シュートブロックができるというのに…」
森崎から謝られるとは思っていなかった2人は、目を丸くして自分も悪い、と謝罪する。
「いやっ!!止められなかったのはキーパーの俺の責任っす!!次こそ止めてみせます!!」
ドンッ!!と胸を叩いて止めると豪語する森崎。あれほどの実力差を見せられても、彼の心は折れるどころかより燃え滾っていた。それを見た香沙薙と秋雨はお互いに顔を見合せ、思わず笑い合う。
「よっしゃ!!次こそ任せろ森崎!!俺も手伝うからよ!!」
「私も、シュートブロックをかけて少しでも負担を減らせるようにしますよ」
「堅固ォ!!攻めは任せとけぇ!!次こそ儂がぶち抜く!!」
「僕もやるよ!!この試合でペンギンだしてやるー!!」
それが聞こえたのか聞こえていないのか。刃金と人鳥が最前線から森崎に声を投げる。
「指示出しは任せて下さい!きっと最善の策を講じてみせます!!」
「次こそはボールをキープしてみせる!!任せてくれ!!」
「私もさっきのパスの感覚を忘れないように、頑張りますね!!」
それに呼応し、燈咲、秋宮、星舟が。
「僕もカバー出来るよう、頑張って走るよ!!」
「次はこんなに簡単には抜かれない!!スピードじゃ負けたくないしね!!」
「次はあんな情けないことにならないように……!!僕もやりますよ、堅固!!」
さらに紫藤、秋風、灰飛が声を上げる。チーム全員が、本気で陽花戸に勝つために向かい合っていた。
「…………いいチームだね、森崎君」
信頼し合っている彼らを見て、立向居がぽつりと呟く。しかし、負けてやるつもりも毛頭ないのだろうが。
「なんでだ……なんでお前が出てこねぇんだよ……!!!」
一方で、目が曇ったようになっている人物の姿も見える。が、それに気がつく人物はこの場にはいなかった。
「っしゃあ!!!!みんな、頑張っていこうぜ!!!」