イナズマイレブン!新たなる守護者   作:ハチミツりんご

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Vs陽花戸②

 

 

 

「真バウンサーラビット!!」

 

「アイアントルネードっ!!」

 

 

 

兎のように飛び跳ねてから月を背後に地面にボールを打ち下ろした燈咲のシュートに、空中に飛んでいた刃金がチェインを重ねる。神楽中でシュート技を使える2人による同時攻撃、現実的に行える攻撃としては最高火力だ。

 

 

 

 

「はぁっ!!」

 

 

 

しかし、立向居は必殺技すら使わない、ただのパンチングでそれを弾き飛ばす。油断はしていないし、手を抜いている訳でもない。この程度の威力なら問題なく弾けるのなら、タメの必要な必殺技ではなくパンチングやノーマルキャッチで対応するのが最善、と考えたまでだ。

 

 

「クソっ!!重ねてもダメかっ!!」

 

 

 

刃金がチームの言葉を代表して述べるが、そう簡単に突破出来るとも思っていない。ここにいるのは日本代表に選ばれた、トップクラスの実力者。こちらとの実力差は大きい。

 

 

「ハハハッ!!さすがはキャプテン!!それじゃあ僕もいこうかな!!」

 

「そう簡単にはいかせん!!」

 

「さっきのリベンジ!!」

 

 

弾かれたボールを回収したのは、先程ブロック技で秋宮を翻弄した黒野。ドリブルで進もうとするが、そうは通さないとばかりに側面から人鳥が、正面から秋宮が同時に対応する。必殺技こそ使えない2人だが、今までの練習で培った動きは初心者とは思えないものだ。

 

 

 

「そよ風ステップV2ッ!!」

 

「げっ!?」

 

「なにっ!?」

 

 

しかし黒野はドリブル技を使用。まるで人と人の間を穏やかに吹くそよ風のように、流れるようなステップで2人を躱していった。

 

 

「っ!星舟先輩、あと3歩後ろに!!」

 

 

そのまま中盤のMF組にパスを通そうとした黒野だが、それより早く神楽側が動いた。

 

紫藤が黒野と最も近い場所にいる楽野との間に。

 

燈咲から指示を飛ばされた星船が逆サイドの文月に。

 

そして燈咲がDMFの太明に、灰飛がOMFでたり司令塔の萌黄にそれぞれマークし、綺麗にパスコースを切って見せた。

 

 

通常ならばロングパスを通せばいいが、右サイドのFWである王野の所までパスするには距離が長く、かつ秋風が近くにいる。ならば他2人のFW、陸井か立花に送ればいいとも思うが、そこには先程パスカットをして見せた高身長のCB、香沙薙がいる。ただロングパスしただけでは、先程のようにカットされて終わるだけだろう。

 

 

 

 

「………フッ!!」

 

 

 

そう、()()()()()()()()()()()()()

 

 

黒野はこの状態でのパスは面倒くさいと判断。しかし、他のディフェンダーに渡そうにも同級生の方はは逆サイドな上にパスのスピードは早くない、3年生の先輩の方はキック力が高い故に鋭いパスを送れるが、精度はイマイチ。なら。自分でやった方が手っ取り早い。

 

 

眼前で両手を交差させながら深くしゃがんだ黒野は、体を捻り回転しながら上昇。空気の気流を発生させながら空へと登っていった彼は、高く昇った所で上昇を辞め、ボールに気流を集めるエネルギーを溜め込んだ。

 

 

 

「スピニングトランザムV2ッ!!!」

 

「っ!?あの位置からシュートを!?」

 

 

 

螺旋回転しながら打ち出されたシュート技。ロングシュートでもないスピニングトランザムをあの位置から打ち出したことに塵山が驚くが、黒野は何も点を決めることを狙った訳では無い。

 

撃ち放たれたボールは、前線に走る陽花戸FWーーー陸井と立花の方へと送られた。ボールの下にはMFの楽野がおり、彼の判断次第でどちらにも送れる微妙な位置へとパスした故に、香沙薙はどちらに対応すればいいのかわからず一瞬足を止める。

 

 

 

 

「香沙薙君、10番の方に走ってください」

 

「っ!!任しとけ!!」

 

 

 

しかし、彼に素早く指示を送る存在が神楽中には存在した。もう1人のCBにして2年生女子、秋雨だ。フィジカルや身体能力面では香沙薙に大きく劣るが、その思考力と判断能力の高さは香沙薙にはない彼女の長所。そして指示を受けた香沙薙はなんの迷いも無く10番の陸井方面へと突貫する。

 

 

 

「っ!まぁエース止めに来るよね!!立花!!」

 

 

即座に楽野は飛び上がりボールの側面に蹴りを入れ、中央にいる立花へとパス。昨年の県予選覇者、陽花戸のレギュラーメンバーでも目を見張る程の身体能力を持つ香沙薙さえ躱せば、後に残るのは線の細い女のDFと爆裂パンチすら使えない弱小キーパーの2人のみ。一年生とはいえ陽花戸のスリートップの一角を担う立花ならば楽に突破出来るだろう。

 

 

 

「伝来宝刀改ッ!!!」

 

 

 

その足に黄金色の大太刀を宿した立花は、楽野から送られたボールに向けて一気に振り下ろす。黒野のスピニングトランザムのパワーも含んだその一撃はなかなかの高威力であり、秋雨と森崎の2人では真正面から止めるのは不可能だろう。

 

 

 

 

「………ふむ、単純ですね」

 

 

 

しかし、しかし。それを見ても不敵に笑った秋雨は、肩の力を抜いて自身の必殺技を発動させる。

 

 

軽く目を瞑り、まるで演奏を間近に控えたピアニストのように両手の指を軽く前に出すと、彼女の指一つ一つから細い《糸》が生成される。

光に反射し煌めく10本のそれは、留まることなく伸び続ける。そして一定の長さに達した時、秋雨は薄く目を開き、マリオネットを操るかの如く素早く指を動かしてその糸を編んでいく。

 

10本もある糸をなんの道具も使わず、己の技量だけで操ってみせる秋雨。まるで自分自身の身体の一部であるかの如く、刹那の迷いすらなく紡いでいく彼女は、ボールが眼前に迫った瞬間、片手で5本ずつ糸を掴み一気に引く。

 

 

 

 

「キャプチャーストリング………V2!」

 

 

 

秋雨が作り上げたもの。それは、10本の糸によって編み込まれた『道』だ。彼女の前から斜めに伸びているその糸の道は、立花のシュートを受けても破れることなく。それどころかボールはその道に沿って滑っていき、ゴールポストを大きく超えて飛んでいってしまう。

 

 

 

「っ!?シュートを、()()()()!?」

 

 

「パワーは高かったので、真正面には強いんでしょうね。ですが繋ぎ方が随分と荒かったので、逸らさせて頂きました」

 

 

驚愕する陽花戸側に向けて、秋雨は表情を崩さずなんてことないかのように言ってみせる。

 

黒野のスピニングトランザム、立花の伝来宝刀は、どちらも貫通力の高いシュートだ。ただ単純な威力よりも、シュートブロックが効きにくく、DFを経てもキーパーまで本来の威力に近いパワーで送ることの出来るシュート。つまり止まりにくい技なのであり、森崎の実力を考えれば彼らの技の選択は正しい。たとえブロックされても森崎までたどり着けば、余程削られていない限り得点は確実だからだ。

 

 

 

しかし、秋雨はそれを逸らしてみせた。

 

黒野のシュートを横から楽野が蹴り、そこに直接立花がチェインした先程のシュートはたかい威力に比べてエネルギーの制御が甘くなっていたのだ。秋雨はその僅かな隙間に糸を噛ませる事によって僅かに浮かせ、糸の道へと導いたのだ。

 

 

これを行う為には、僅かなズレすら許されない精密な糸の操作と、相手のシュートを的確に分析する観察眼が必要になる。秋雨有華という少女は、それを満たしていたのだ。

 

 

 

 

「うぉぉおおおおお!!!?アル先輩すっげぇ!!そんなこと出来たんすか!?」

 

「えぇ、まぁ。練習ではやりませんでしたが、上手くいってほっとしていますよ」

 

 

 

森崎が驚きのあまり叫びながら秋雨へと声を掛ける。

 

そう、秋雨は練習でこれを見せていないのだ。

 

そもそも彼女の『キャプチャーストリング』は、このように糸の道を作って逸らす技では無い。本来ならば指の糸で敵を搦め取り、ボールを奪い取るブロック技だ。本来は糸を操るのに四苦八苦し、扱うことすら難しい技。ましてやシュートブロックまで派生させるのはまさしく至難の技なのである。

 

 

それを十全に使いこなす技量の高さは、秋雨有華という少女の異色さを雄弁に語っていた。おおよそ試合をしたことがないとは思えないほどのその実力は、高い身体能力で敵を驚かせた香沙薙のそれとは対極のもの。彼が《剛》の選手だとすれば、彼女は《柔》の選手と言えるだろう。

 

 

 

 

 

「…………くそっ!」

 

「落ち着きなさい立花。………にしても驚いた、舐めてるつもりはなかったけど………ホントに初心者なの彼ら」

 

 

飛んでいったボールを回収しに行っているあいだ、陽花戸は集合して話し合っていた。

 

 

文月がユニフォームの首元で汗を拭いながらそう呟くが、それはチームの大多数の意見を代弁していた。初心者軍団、と同校の生徒に呼ばれていた彼らだが、戦ってみた限りでは初心者とは思えない選手が大半だ。

 

 

 

「あの金髪の3番(香沙薙)と青髪の2番(秋雨)のコンビは厄介ですね……上手く噛み合ってる。…………GKは口だけで大した事ないが」

 

「スピードならサイドバックの4番(秋風)もかなりのものでしたよ。あとあの小さい5番(紫藤)はカバーが上手いですね……」

 

 

立花と王野が驚きと共に神楽中のDF陣を褒める。それに合わせて楽野が口を開いた。

 

 

 

7番(秋宮)は初心者っぽいけど、結構いいパワーしてるねぇ……判断も早いし。あと、あの6番(塵山)、地味ーにパスコース切ってくるんだよねぇ………めんどくさい」

 

「え、えっと、その……は、8番(星舟)さんはパスコース作るのが凄く上手で…け、経験者さんなんでしょうか…?」

 

「んー、ボール持った時は初心者っぼいけどねぇ。でもパス精度は高かったし………あとあの9番(燈咲)は完全に経験者ですよね、指示出しこなしてましたし」

 

「ドリブルも上手だったけんねぇ〜………11番(人鳥)の子は周りばよぉ見とるねぇ……あとあの帽子、可愛かば〜い……」

 

「それ関係あんのか?10番(刃金)はパワーに関しちゃかなりのもんだぜ。まぁただそれ以外は微妙だし、シュートも勇気の奴を抜けるほどじゃねぇな」

 

 

 

各々が観察していた選手の情報を出し合っていく陽花戸中イレブン。彼らが初めての相手とやる時、それぞれが観察しやすい選手を観察して情報を共有するのはよくやるやり方であり、彼らなりのルーティンみたいなものでもある。

 

 

「………ちょっと陸井、聞いてんの?」

 

「……ア?あぁ、大丈夫だよ。気にすんな」

 

 

 

そんな中、いつもならここに率先して参加するエースストライカーの陸井が一言も発さない事に疑問を抱いた文月が話し掛ける。

 

が、陸井はどこかイラついたような雰囲気で気にするなと言う。どう見ても大丈夫ではないが、下手に追求しても仕方ないと思った文月は再び話し合いに参加、情報を共有していく。

 

 

 

「………よし。他にはないかな」

 

 

 

情報を一通り聞いた立向居が全員に尋ね、それぞれが頷いて肯定の意を示す。それを確認した立向居は1度全員の目を見てから、最後に自分たちの司令塔へと目をやる。

 

 

 

 

「問題ないよね、萌黄さん」

 

「もっちろーん!あの子の癖も、一通り見れたしね〜」

 

 

 

深い新緑を思わせる髪の彼女は、キャプテンにケラケラと笑いかけながら軽く言う。今までの情報、そして自分の確認したことを頭で纏めた萌黄は、各ポジションに軽い指示をだす。

 

 

 

「取り敢えず試合中にもっと細かく言うけど、まずDFは10番(刃金)の方を重点的に警戒ね!ペンギン帽子の彼もいい選手だけど、シュート技はまだ持ってないみたいだし。あんまりたっちむーばかりに負担かけないでよ〜?」

 

「誰に物言ってんだ、残念ゲームメイカーさんよぉ?」

 

「残念言うな!!……まったく、MFのみんなは必殺技での突破よりも素早く動いてパス繋ぐの意識して。んで、FWはチェイン禁止ね。さっきの2番(秋雨)ちゃんの技は荒があると逸らされるけど、個人技なら逸らせないと思うから!」

 

 

 

木倉がおちょくるようにそう言うが、この司令塔への信頼は確かなもの。去年のチームでも、新チームになってからも、彼女の指示に救われたことは少なくない。

 

 

 

「あ!後、あの9番(燈咲)ちゃんの対処は私に任せて〜。あの子のやり方も読めてきたし、癖も見えたし!『兎狩り』はお任せあれ〜!」

 

 

 

燈咲は優秀な司令塔だ。しかし、優秀故に付け入る隙もある。そう笑う萌黄を見て、立向居は一度手を叩いて全員の意識を自信に向ける。

 

 

 

 

「………さて!みんなもさっき陸井が点取った後の神楽中を見てたよね?彼らは本気で俺達に勝つためにぶつかってきてくれている。それならこっちも手加減無しでやるのが礼儀だ………無茶なプレーは許さないよ、栄作」

 

「……わぁーってるよ。なんでもねぇから心配すんな」

 

「ならいいけど。………さて!そろそろ試合が再開する。みんなポジションについて!」

 

 

そう立向居が指示を出すと、全員が返事をしてポジションに着く。立向居自身、ゴール前に戻ると、先程の話し合いの中で発せられた言葉を反芻する。

 

 

 

 

 

『GKは口だけで大した事ないが』

 

 

 

 

「…………俺たちのサッカーを、全力を見せてあげる。だから君の実力を………君のサッカーを見せてくれ」

 

 

 

同じ人を目標にする者として。同じ人に憧れた一人の男として、首にスカーフを巻いた彼に向けて小さく呟いた。

 

 

 






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