名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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時津風の補給ボイスにメロメロになりかけている俺提督。

白露型押しなのに、陽炎型押しになりそうですわ・・・・・・。

今回は少し長いので前後編に分割しています。


第十一話:製油所地帯防衛戦・前編

★☆☆★

 

 

「南部仏印の製油所が、深海棲艦に襲われていると連絡が入ったんです!!」

「っ!? それは本当か!?」

「はい! 詳しいことは、ブインからの電文に書かれています!」

 

 それはまさに、青天の霹靂と言うに相応しいものだった。

 五月雨の手から、電文の写しを受け取った徹心はすぐさま目を通す。

 

「艦隊をすぐに埠頭に集めてくれ。緊急出撃、急げよ!」

「はっ、はい!!」

 

 五月雨に指示を飛ばした徹心は、そのまま内線電話の受話器を取ってダイヤルを回して技術部を呼び出した。

 

《はい、こちら技術部です》

「保住主任、東郷だ。扶桑に対し、高速修復材の使用を許可する。すぐにでも出せるようにしてくれ」

《了解しました。四〇秒で仕上げて見せますよ!》

「ああ、頼んだぞ」

 

「修復が終わったら、扶桑もすぐに来てくれ」

「・・・・・・わかりました」

 

 通話を終えた彼は、そのまま受話器を置いて扶桑の方を顧みと、集まるように指示だけを出して自らも急いでその場を辞する。彼の出したそれに、扶桑は俯き気味に肯定の意を示すだけだった。

 

 

――――――

 

 

「では、時間も無いので口頭で説明する。よく聞いて欲しい」

 

 製油所地帯まで移動する海上で、徹心は指揮船の操舵をしつつ同乗している艦娘達に状況の説明を始めた。

 

「先ほど、南部仏印沿岸部にある製油所が深海棲艦の攻撃を受け、既に三カ所が大きな被害を被っていると、ブイン基地から緊急の電文が届いた。恐らく、いや間違いなく我々の目標であるル級もそこにいるだろう」

 

 彼のこの言に、艦娘達の表情が引き締まる。これまでの作戦とは違い、対深海棲艦戦闘における防衛作戦は確実な撃破が求められる。

 彼らは自らの身の安全を顧みること無く、ただただ妄信的に破壊と殺戮を繰り返す存在であることが理由の一つだ。事実、大破し行動不能になった筈の駆逐艦が特攻し、自爆。戦艦型の艦娘があわや轟沈しかけるという事態も他の艦隊では起きている。

 『窮鼠(きゅうそ)猫を噛む』と言うことわざがあるが、その窮鼠が猫どころか虎をも噛み殺しかねないのが奴らの実態なのだ。

 

「そこで我が艦隊は、パラオから最も近い所にある大和石油の製油所へと急行。敵艦隊を迎撃する。だが距離の都合上、自分が直接指揮を執るのは困難だろう。そこでだが・・・・・・扶桑」

「はい、何でしょうか?」

「自分に代わって、前線で指揮を執って欲しい。できるか?」

「えっ・・・・・・?」

 

 そう言って、肩越しに扶桑を見やる徹心。その彼女は困惑した顔を向けていた。

 

「一つ・・・・・・質問してもよろしいでしょうか?」

「構わない。何でも言ってくれ」

「では、伺いますが・・・・・・。どうして、私に?」

 

そして彼に対し、扶桑は胸の中を渦巻いていた疑問を投げかけた。

 

「どうして、とは?」

「そのままの意味です。私は以前の出撃で、提督の仰るとおり、わざと大破して帰ってきました。本来であれば指揮どころか、出撃する資格も無いはずです。それなのに、私を選んだのは、なぜですか?」

「ふむ・・・・・・」

 

扶桑の投げつけたそれに対し、しばしの間考え込む徹心。そして操舵の手を止めて彼女に告げた。

 

「部下を信頼するのに、理由が必要だとでも言うのか?」

「えっ・・・・・・?」

 

それを聞いて、更に困惑する扶桑。徹心はさらに続ける。

 

「以前話したことの続きになるが、今のお前はパラオ艦隊の一員だ。艦隊は、信頼無くして戦果を上げることはできない、と言うのが自分の考えだが、そのためにはまず自分達、提督が部下を、艦娘達を信じなければならない。例え最初は一方的でも、信じ続ければいつかは『信頼』と言う種が芽吹き、やがて『絆』と言う大輪の花を咲かせる。その最初の一歩を、歩ませてはくれないか?」

「そう・・・・・・ですか・・・・・・」

 

そして彼は振り返って扶桑の方を見やると、穏やかにそう言った。それを聞いて、考え込む彼女。

 今、彼女の頭の中では過去と未来が天秤に掛けられていた。失敗を恥とし、歩みを止めるか。それとも失敗を糧とし、過去を乗り越えて進むか。しばし間、指揮船の中は艦娘達の息づかいだけに支配される。そして・・・・・・扶桑は顔を上げて答えた。

 

「わかりました。その大任、果たしてご覧に入れます」

「ああ、頼む。信じているぞ。では、全艦時計合わせ、出撃だ!!」

「『「了解!!」』」

 

 『信じている』。もしかしたら、彼女はずっと、この一言を待っていたのかも知れない。そう考えた徹心は、出撃指示を出す。作戦を成功させ、必ず彼女達が生きて帰ってくると信じて。

 

 

――――――

 

 

 南部仏印こと、フランス領インドシナ半島はその名の通り、かつてフランスの植民地でもあったアジア有数の製油所地帯である。深海棲艦の出現によって大東亜戦争の決着がうやむやになったため、現在は産業特区として各国が共同で管理していた。

 その半島の沿岸部にある製油所の一つ、大和石油原油精製所に鳴り響く、休憩時間の到来を告げるサイレン。

 時刻は丁度お昼時。午前中の仕事を終えた作業員達が弁当を広げ、世間話に花を咲かせている。碌な娯楽も無い南方の僻地では、食事と談話が何よりの楽しみであり、それは彼らとて例外ではなかった。

 

「それでな、俺の女房が・・・・・・―」

「そっ、それは傑作ですね・・・・・・っ!!」

「わ、笑いすぎて腹が・・・・・・!」

 

 頭に白髪が目立ち始めてきている老作業員―乙石も、その楽しみを享受している一人だ。豊富な経験と人徳から、周りから『おやっさん』と呼ばれている彼は、この区画で働く作業員達のまとめ役の様な役割を担っていた。

 

「それはそうと、今はだいぶ海に出るのが楽になったよな。えっと確か、かん・・・・・・」

「『艦娘』だろう。以前ここにも、軍の広報活動でちんまいのが来ていたな」

「ああ、それそれ! あの子達が軍に加わるまでは、漁船一隻出すのに物々しい護衛が付いていたから窮屈で仕方が無かったらしい」

「けどよぉ、個人的には女子供に戦いを任せるような事は不安でしかねぇんだよな・・・・・・」

「おいおい、それは女性蔑視とも取れるぜ。戦争で人手が足らなくなって、今じゃあっちらこっちらで女が働いている世の中なんだからよ」

「軍も積極的に採用を進めているらしいからな。今じゃ、女の提督もいるとか?」

「女提督か・・・・・・。おやっさんはどう思います?」

「あん、俺か?」

 

 どうやら、話題はいつの間にか艦娘に関する事へと移り変わっていたらしく、一人の若い作業員に質問を振られる乙石。

 

「そうだな・・・・・・適材適所、と言うのを当てはめるなら女が軍人になることも有りだろう。だが・・・・・・」

「だが・・・・・・?」

 

少しの間考えた後、そう答える乙石。首をかしげる同僚を見て、彼は間を置いて続ける。

 

「できることなら、誰も戦争で死なずに済むのが理想だな。ましてや、俺の娘や孫と同じくらいの年格好の娘子は、なおさらにだ」

「まあ、それが一番ですよね」

「そうっすね。戦争はやらないに越したことは無いっすよ」

 

 乙石の意見に、彼らは概ね賛同している様だ。東南アジアはかつての戦争で陸海問わず激戦が繰り広げられた場所であり、その悲惨さは彼らの記憶に鮮明に焼き付いている。乙石自身も、戦争で肉親を失った身であり、その台詞には言の葉では言い表せない重みがあった。

 

「さて、湿っぽいのはこれくらいにして飯の続きだ。早いところ食っちまおうぜ」

「それもそうっすね。やっぱ飯は団らんしながら食べるのが一番っすよ!」

「ハハ、そいつは俺も同感だ。悪かったな、あんな空気にしちまってよ」

「それよりおやっさん、今日の午後の作業は・・・・・・」

「ん? ああ、今日は確か・・・・・・」

 

 空気と話題を変えようと、彼らが食事の続きを食べようとした、その時だった。何かが爆発したかのような爆音が、乙石達のいる貯蔵タンク付近に。否、製油所の敷地全体に轟いたのだ。

 

「何だ・・・・・・事故か?」

「変だな・・・・・・今の時間はどこも操業はしてない筈だが・・・・・・うぉっ!?」

 

 彼らが訝しむのをよそに、再び響く爆音。それも、今度は衝撃波のおまけ付きでだ。それから間を置かずして、敷地内に設置されているスピーカーからけたたましいサイレンが発せられる。それも、ただのサイレンでは無かった。

 まだ人と人とが争っていたころの悲劇と恐怖。彼らの体にすり込まれたそれらを、記憶の奥底から呼び起こしたのだ。

 

「まさか・・・・・・敵襲!?」

「そんな、ここにまでバケモノが来たっすか!?」

「慌てるんじゃねぇ! すぐに防空壕へ逃げっぞ!! ノブとヤスはこのことをみんなに知らせるんだ!!」

「わかりました!」

「っす!!」

 

『少なくとも、自分たちにできる最良のことはそれしか無い』。

 そう考えた乙石は仲間に檄を飛ばすと、自らは他の仲間と共に走り出した。

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