名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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今回は前後編に別れていますので、前半と合わせてどうぞ。

ちゃんと戦闘描写が書けているか不安きわまりないですが・・・。OTL

今回からは、後書きに簡単な人物設定を載せていきます。


第十二話:製油所地帯防衛戦・後編

☆★★☆

 

 

「くっ・・・・・・遅かったみたいね・・・・・・!」

 

 先行する形で、パラオから最も近い製油所―へと向かっていた扶桑達の目に、それを攻撃する深海棲艦隊が映る。

 幸いにして、貯蔵タンクへの被害は今のところ出てはいない様だが、ざっと見たところだと前回の戦闘時よりも数が増えている。この調子だと、時間の問題だろう。

 

「各艦、両弦最大戦速! 港を・・・・・・いいえ。人々を守るのよ!!」

「『「了解っ!!」』」

 

 水面を滑走するような巡航機動では無く、文字通り海上を『走る』戦闘機動に切り替えて彼女達は突撃を開始する。

 前衛に水雷戦隊が立ち、後詰めとしてそれ以外の巡洋艦が続く隊形―楔形陣形を取る中で、扶桑は一旦その場に停止する。そして背中の艤装に搭載された主砲の照準を、敵艦隊の最後列にいた駆逐艦―ロ級に合わせた。

 

「山城・・・・・・私に、力を・・・・・・! 主砲、撃てぇっ!!」

 

 そして35.6サンチの大口径弾が一斉に撃ち出され、巡洋艦以下のそれとは比べものにならないほどの衝撃によって、海面に盛大な水しぶきが広がる。

 放たれた砲弾が至近で炸裂し、足が鈍ったところに一発がロ級の土手っ腹に突き刺さった。それによって体内の弾薬に誘爆したのか、爆炎を噴き出しながら爆発四散するロ級。

 

「すごい・・・・・・これが、『仏の扶桑』の実力・・・・・・!!」

 

 その様子は、前衛部隊の目にも在り在りと映っていた。鳥海が感嘆とした台詞を言うが、言葉に出さないだけで全員がほぼ同じ感想だった。

 

「さぁて、私達も負けてられないわよ!! 全艦突撃、白兵戦用意!!」

「は、白兵戦ですかぁっ!?」

「当たり前じゃない。流れ弾が一発でもタンクに命中したら、ドカン!! よ」

「で、でもぉ・・・・・・」

「大丈夫だよ、名取。長良が着いているから!」

「長良ちゃぁん・・・・・・」

 

 背中に担いでいた長刀―四式近接戦闘用長刀を抜刀し、意気揚々と突撃しようとする足柄と、それを聞いてもう何度目か解らない泣き言を漏らす名取。それを他の艦娘。特に、姉妹艦である長良や実直な霞が窘めるのも、もはやお馴染みとなってしまった。

 そうこうしている内に、彼我の距離はもはや回避不能な距離にまで迫って来ている。もはや躊躇う余裕も無い。彼女達は腰や背中、足に差しておいたそれぞれの得物を抜き放つと、一斉に斬りかかった。

 

「喰らえぇっ!!」

 

 その中で真っ先に飛び出したのは、先頭近くにいた摩耶だ。元々血の気の多い性格である彼女にとって、白兵戦は特に好きな戦法の一つだった。その彼女は、まるでバットか木槌でも扱うかのように長刀を振りかぶり、眼前に捉えた雷巡チ級目がけて振り下ろした。

 発見されたばかりのル級を除けば、現状で最も硬い重巡リ級の装甲も斬れると評判の刃が、チ級の肩口に深々と食い込み、深海棲艦特有の、血ともオイルともとれない液体が摩耶の体をまるで返り血の様に染め上げる。

 

「でぇええいっ!!」

 

 それにはお構いなしに強引に刃を引き抜き、その勢いのまま長刀を真横に振り抜く摩耶。人間で言うところの喉の部分を彼女に切り裂かれたチ級は、断末魔の悲鳴を上げる間もなく海面に倒れ、そのまま沈んでいった。

 

「この距離なら・・・・・・行けるかっ!?」

 

 続いて攻撃を仕掛けたのは、これが初の作戦参加となる長月だった。

 彼女は駆逐艦ならではの高い機動性を活かし、放たれる砲弾をかわしながら手近にいた軽巡ト級に突進していく。

 ト級は混乱していた。狭差、予測射撃とあらゆる手段を使って攻撃するが、そのことごとくは相手に回避される。砲の性能か、あちらの技術か、それとも単なる偶然か。とにかく、当たらないのだ。

 そして長月は手に持っていた短刀を彼の顔、人間で言うところの眉間の部分に突き刺した。突如として自らを襲う痛みに、訳もわからず狂乱するト級。

 せめて自分を傷つけた相手を道連れにしようと両腕を伸ばすが、直前に長月が飛び退いたことでそれは空しく空を切る。

 

「酸素魚雷の力、思い知れっ!!」

 

 その長月は、飛び退くと同時に両脚の61サンチ三連装魚雷発射管を起動。着水のタイミングに合わせて一斉に発射。撃ち出された六本の酸素魚雷は、ことごとくがト級に命中。大爆発を起こしながらト級は水底へと姿を消していった。

一方で彼女達二人以外の艦娘達の戦いもまた、勇猛で果敢そのものだった。

 響は、艤装に備えられている錨を鎖鎌よろしく投げつけて重巡リ級を拘束。それによってできた隙に合わせて夕立と五月雨が吶喊(とっかん)し、これを撃破。

 神通と足柄は、その手に握られた長刀をまるで手足のように操り、次々と飛びかかってくる駆逐艦や軽巡をなます斬りにしていく大立ち回りを演じてみせている。

 鳥海は他と比べて派手さこそないものの、確実に雑魚を始末していき、名取は名取で涙目になりながらも返す刀で二級を倒している。

 途中からは扶桑も合流し、主砲に副砲を組み込んだ近接砲撃で駆逐艦を粉砕していく。時に至近距離で砲撃を浴び、時に噛み付かれたり殴られたりしながらも、不屈の闘志と不断の攻勢により、戦況は徐々にパラオ艦隊有利へと傾いていった。

 

『この戦い、勝てる』。

 

 誰もが心の片隅でそう思い始めた、その時だった。せめて目的だけでも果たそうと思ったのか、はたまた本能のままに偶然向けたのか、ル級の主砲が貯蔵タンクに向けられたのだ。しかも、ギリギリまで付近の消火に当たっていたのか、防災バケツや消火ポンプを運んでいる作業員の姿もある。

 

「ッ・・・・・・拙い!!」

 

 その事に気づいたのは、若干引いた位置にいた扶桑のみ。他の面子は目の前の敵の相手をするのに手一杯なのか、気づいていない。

 咄嗟に海面を蹴って加速し、ル級の射線に割って入る扶桑。そしてそれと同時に、ル級が発砲。放たれた砲弾は彼女の主砲に命中したが、扶桑はその場から動くこともせず、ル級の前に立ちふさがったのだ。

 それには構わずに、再び主砲を放つル級。

 

「くっ・・・・・・それでも・・・・・・!!」

 

二射目。先ほど被弾した方とは反対側の主砲に命中し、砲塔の一つが射撃不能になる。

 

「だとしても・・・・・・っ!!」

 

 三射目。またしても主砲に命中。今度は装填機構ごと貫かれ、誘爆によって何人かの砲術妖精が海に投げ出された。

 

「私は・・・・・・もう・・・・・・諦めたくないの・・・・・・!!」

 

四射目。二連続で放たれた砲弾は、一発は額を掠め、もう一発が左腕の一部を抉る。

 ル級は、困惑していた。これまで、自身が相手をしてきた艦娘達は、大抵は頭を吹き飛ばされるか、胸に風穴を空けられて轟沈。あるいは、艤装を破壊されて戦闘不能となってきた。現に、今自分の攻撃の邪魔をした者も、以前主砲を破壊して行動不能にした艦娘だった。しかし今目の前に居るそいつは、自らの傷などお構いなしに、自分の前に立っている。

 

「――――!! ――――――!!!」

 

 もはや訳もわからず、半ば狂乱して主砲を放つル級。狙いもへったくれも無い、唯々目の前の邪魔者を排除する一心での攻撃だ。嵐のように砲弾が撃ち出され、次々と扶桑の体へと吸い込まれていく。

 五射目。一発が帯の様な艤装部分を破壊し、さらに言うことを聞かなくなっていた彼女の左腕をもぎ取った。

そして、六射目。

 

「きゃぁああっ!!」

 

一発の砲弾が太ももの辺りに命中。右脚を吹き飛ばされ、大きく体勢を崩してしまう扶桑。

 一般に艦娘の弱点は、実寸大の艦艇では艦橋と機関部に相当する頭と胸の二カ所だが、実は足も狙われると困る部分なのだ。ここを破壊されると艦娘は浮力を維持できなくなるだけでなく、その場から移動することもままならなくなる。

 一応、味方に曳航して貰えば助かる可能性はあるものの、戦闘の真っ最中にそうなってしまうともはや生存は絶望的で、自決か、味方に雷撃介錯してもらうか、浮き砲台となって敵と刺し違えるしか選択肢が無くなってしまうため、非常に危険なのだ。

 

「扶桑っ!!」

 

 扶桑が狙われている事にようやく気づいた夕立が、ル級の注意を逸らすべく主砲を放つ。しかし、駆逐艦の小口径砲では戦艦であるル級の装甲には傷一つ付かず、逆に主砲で反撃されてしまう。

 

「雑魚は片付けたわ! ル級に砲火を集中させなさい!!」

「はいっ!!」

「このっ・・・・・・扶桑さんから離れろぉっ!!」

 

 随伴艦の掃討が終わった他の面々も合流し、足柄の号令一下、一斉に攻撃を開始する。それによって、体勢が崩れるル級。だが、即座に立て直して手近にいた名取目がけて主砲を発砲した。

 

「きゃぁっ!!」

 

 放たれた砲弾は腰の艤装に備えられていた魚雷発射管に命中し、爆発。装填されていた魚雷に誘爆したのか、艤装が大ダメージを受け海面に倒れ伏す名取。

 

「てんめぇっ!!」

「こうなったら、やるしか無いわね!!」

 

 それを見た摩耶と足柄は互いに目配せすると、最大戦速で突撃。長刀を振りかぶってル級の主砲を斬り付ける。だが・・・・・・

 

「げっ!?」

「嘘でしょっ!?」

 

 甲高い音と共に、折れてしまう長刀の刀身。それを見た二人は、今度は二人がかりでル級の両腕を掴んで動きを封じ込めた。

 これを好機と見たのか、鳥海が雷撃の指示を飛ばす。

 

「今です! 各艦、雷撃用意!!」

「でっ、でもそれじゃ足柄さん達が・・・・・・!!」

「大丈夫よ! 魚雷の一発くらいじゃ沈まないわ!!」

「アタシは摩耶様だぜ! 重巡の防御力、嘗めんなよ!!」

 

 それに対して躊躇する五月雨だが、足柄達の言葉を聞き、意を決して魚雷発射管を向ける。

 

「照準合わせ! 目標、戦艦ル級、よーく狙って・・・・・・てーっ!!」

 

合計で10隻分以上の魚雷が一斉に放たれ、砂糖菓子に群がる蟻のごとくル級に殺到する。その一方で足柄と摩耶も、至近距離からの機銃で攻撃に加わる。

 命中、そして爆発。盛大な水柱が立ち上がり、先ほどまでの攻撃の分も加わってル級は海面に膝を突く。

 

『自分が格下相手に沈められる』

 

その事実にル級は激高し、まとわりつく雑魚を振り払おうと両腕を振り回す。

 

「のわっ!?」

 

 右腕を掴んでいた足柄は何とか踏ん張りはしたものの、左腕を捕らえていた摩耶は振り飛ばされ、海面に張り倒される。そして、自由になった左腕の主砲が彼女に向けられた、その時だった。

 

「!?!?!?」

 

主砲の発砲音と同時に、後ろから胸を貫かれるル級。

 攻撃の主を探そうと振り向いた彼女の視線の先には、夕立に助けられながら残った主砲を向ける扶桑の姿が。砲口からは、発砲した証である硝煙が漂っている。

 ル級は、理解した。自分の敗北と、何度目かも解らなくなった死の訪れを・・・・・・。

 

「アリ・・・・・・ガト・・・・・・ウ・・・・・・」

 

そしてル級は、最期の台詞と共に膝から崩れ落ち、そのまま海底へと姿を消していった。

 

「勝った・・・・・・の・・・・・・? 私達?」

 

 ほんの少しの間を空けて、誰かがぽつりと呟く。

 

「勝ったんですよ、私達!! 守れたんです!!」

「本当に、私達が・・・・・・やったの!?」

「当然の結果よ! だって私、足柄がいるんだもの!!」

「あったり前だろ! アタシは摩耶様だぜ!」

「勝利勝利、大勝利!! 最っ高の響きよね!!」

「ハラショー。嫌いじゃ無いな、こう言うのは」

「ねえ、あれを見て!!」

 

 すると、初霜が岸壁の方を指さして叫んだ。その先には、岸壁に立つ製油所の作業員や職員の姿が。万歳三唱をする者。感極まって涙を流す者。互いに抱き合って喜びを分かち合う者。皆それぞれが、歓喜に沸いていた。

 

「成し遂げたのね、私達・・・・・・。夢でも幻でも無く、現実に・・・・・・」

「うん! やったね、扶桑! でも・・・・・・左手が・・・・・・」

「大丈夫よ。こっちの手は義手だから。それよりも行きましょう、夕立さん。仲間の所へ」

「っぽい! ・・・・・・? ねえ扶桑、あれは何?」

 

その様子は、少し離れた場所にいた扶桑と夕立の目にも映っていた。

 そして、合流しようとしたその時。二人の目の前の水面が蛍火のように光ったと思うと、何かが浮かび上がってきた。

 

「これは・・・・・・山城の・・・・・・?」

 

それは、扶桑にとってはなじみの深いものであった。

 軍艦だった頃。度重なる近代化改修により、まるでバベルの塔の様な外観となった艦橋部分。それを模したと思われるかんざし。艦娘となってからは自らの、そして自らの半身だった存在の、愛用の品だった。

 

「すごいすごい! これを使えば、山城? を建造できるっぽい!」

「山城を・・・・・・?」

 

 夕立のその言葉を聞いて、扶桑の脳内にこれまでの思い出がフラッシュバックする。共に日本の造船工廠で誕生し、日本の別名を与えられ、将来を期待された軍艦時代。

 そして、姉妹艦である山城と共にスリガオの海に沈み、時を隔てて艦娘として生まれ変わってからは護国のためにしゃかりきに働いたかつての日々。

 それら一つ一つを噛み締めながら、彼女はそのかんざしを大事に懐へとしまい込んだ。

 

「ねえ、夕立さん」

「何々?」

「このことは、他の人たちには内緒にしてもらえるかしら?」

「んー、どうして?」

 

 扶桑の話を聞いて、子犬のように首をかしげる夕立。扶桑はそれを見て、静かに話し始めた。

 

「確かに、これを使えば山城は建造できるかもしれないわ。だけどあの日、スリガオで一緒に保護されて、一緒に戦ってきたのは『閻魔の山城』、その人だけなの。それに・・・・・・」

 

そして彼女は、少し間をおいて続ける。

 

「いつまでも過去にこだわっていては、天国の山城に笑われてしまうわ」

「うん! 夕立、みんなには黙っとくっぽい!」

「ふふ、今回ばかりは、その口癖も頼もしく思えるわね。さあ、行きましょう。みんなの所へ」

「はーい!」

 

 そう言って、夕立の肩を借りながら仲間達の元へと歩み始める扶桑。その顔は、以前よりも少しだけ晴れやかに、夕立の目には映っていた。

 

 




・人物紹介
〈東郷徹心〉
パラオ泊地に着任した若き提督。階級は中佐。
最初は艦娘達に反目されていたが、徐々に絆を深めていく。

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