名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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だいぶ間が空いてしまい、申し訳ないです。
分割するほどではありませんでしたが、今回は少し長めです。


姉様改二確定おめでとうございます!!


第十三話:南洋、燃ゆ

☆★★☆

 

 

 南国特有の日差しが照りつける南太平洋の海。その海を駆け抜ける艦娘達の姿があった。先頭を行くのは、パラオ艦隊随一の足自慢である長良。その後詰めとして、夕立と五月雨、名取が続く。

 戦列の最後尾から追従するのは扶桑だ。だが、彼女の装備している艤装は以前とは違うものに変わっていた。

 特徴的だった35.6サンチ連装対艦砲は4基8門から3基6門に減らされ、新たに左手には盾のような形の板―航空甲板が握られている。

 過日の製油所地帯防衛戦にて、扶桑は艤装がほぼ全損しただけでなく、四肢の一部を失うという轟沈してもおかしくないほどの損傷を負ってしまっていた。

 

『どうせだったら、強化改造してしまいましょうか!』

 

修理には相当な時間が掛かると思われていたが、技術部を預かる保住瑞穂女史のこの一言によって、扶桑は航空戦艦へと生まれ変わったのだ。それに合わせて義手だった左手も含め、四肢も完全に復元している。

 

「こちら長良、敵艦発見!」

「了解よ。各艦は戦闘機動に切り替え、単縦陣を維持。砲戦の用意を!」

「『了解!』」

 

 敵艦発見の報を聞き、五月雨達に指示を出す傍らで航空甲板を構える扶桑。中央部分に設けられたハッチが開き、内蔵されていた水上機がせり出してくる。

 現れたのは、零式水偵を元に急降下爆撃能力を付与された新型水上機、瑞雲だ。水上機のため、専門的な仕事は本職の艦上機に劣ってはいるものの、偵察から対潜哨戒、対艦攻撃に簡単な防空戦闘まで。航空機に求められる一通りの事をこなせる高い汎用性が特徴で、艦隊では重宝されている。

 その瑞雲が、妖精達の手作業でカタパルトへと運ばれていく。

 

「ずいうんいちばんき、はっしんじゅんびかんりょうです!」

「おなじくにばんき、はっかんよろし!」

「わかりました。発進、お願いします」

 

合図と共にカタパルトから撃ち出され、飛び立っていく二機の瑞雲。それから程なくして、先行する二番機が敵艦隊を捉えた。

 

「かくごはいいか、きょうだい?」

「いつでも。おれはできている! いちばんき、ばくげききどうにはいります!」

「にばんき、とっかんします!」

 

 攻撃開始の連絡を母艦である扶桑に伝えると、二機の瑞雲は急上昇を始める。そして、敵艦隊をほぼ真下に捉えると、そこから一気に急降下し始めた。今頃になってそれに気づいた駆逐艦達が、対空砲火を張り巡らせるがもう遅い。

 

「つりはいらねぇ、とっときやがれ!」

 

 拘束が解除され、重力に従って一目散に飛んでいく爆弾。その内の一発は外れたものの、二発目がハ級の尾の部分に命中し、損害を与える。

 敵の戦列に空母は無し。彼女達を邪魔する者は、いなかった。

 

「こちらずいうんたい、せいくうけんかくほ!」

「了解。そのまま上空から牽制を続けて」

 

 制空権確保の報せを聞き、その場に停止して精密射撃体勢を取った扶桑は、瑞雲隊からの座標報告を元に主砲の照準を合わせる。

 

「位置予測・・・そこね・・・!」

 

そして、発砲。僅かに時間差を空けての、斉射二連。

 一発目は、敵艦隊の先頭を行くリ級に命中。咄嗟に構えた左腕を吹き飛ばす。それによって体勢が崩れたところで、二発目が着弾した。

 防御も回避もする間もなく、砲弾の直撃を受けたリ級の体は上半身が粉々になり、残された下半身もそのまま水没していく。

 

「良し、戦闘開始!」

「突撃するっぽい!」

「頑張ります!」

「ぅう~・・・・・・」

 

 先ほど沈んだリ級が艦隊のまとめ役だったのだろうか。目に見えて浮き足立つ深海棲艦達に長良率いる水雷戦隊が突撃していく。

 まずは挨拶代わりに、長良が先ほど被弾していた二級を狙撃し、これを撃破。夕立と五月雨も連携が板に付いてきたのか、一撃離脱で軽巡へ級を翻弄する。

 名取はあまり積極的では無いが、それでも一応攻撃はしているあたり、自覚はまだあるのだろう。程なくして、さんざんに痛めつけられた敵艦隊は、這々の体で逃げ出していった。

 

「扶桑さん、追撃しますか?」

「いいえ、戦果としてはこれで十分よ。さあ、帰りましょう」

「わかりました!」

「や、やっと終わったぁ・・・」

 

 勝負は決した。そう判断した扶桑は長良達に撤収の指示を出すと、発進していた瑞雲を収容してそのまま共に帰路へと就く。

 彼女が加入したことで、パラオ艦隊は着実に精兵への道を歩みつつあった。特に、その長射程が役に立った場面も一度や二度では無く、瑞雲の配備もあってめきめきと頭角を現しつつある。

 徹心は、最初はこのことを賞賛していたが、彼女は大抵、

 

「これは私だけでは無く、艦隊の仲間がいてくれたから掴めた勝利です。褒めるなら、私よりも先に他の子をお願いします」

 

と、返すことが多かった。

 決して傲らず、謙虚の心を持って邁進していく姿には、もう過去の死神然とした面影は感じられなかった。

 

 

★☆☆★

 

 

 扶桑達を送り出した頃とほぼ同時刻。パラオ泊地が待望していた、新規着任の艦娘が自分の元へ挨拶に訪れていた。それも、一度に二人もである。自分としては一人でも配備されれば御の字と思っていたが、予想に反してこの人数だったため、内心では安堵していた。

 その艦娘達だが、彼女らは彼女らで変わった艦種だった。一人は一纏めにした銀色の長い髪、もう一人は栗色の髪を肩に掛かる辺りで切りそろえた髪型が特徴で、二人とも金糸での装飾が入ったお揃いのチョッキに、同じ色の額当てを身に付けている。ほぼ同じ戦闘装束と言うことは、直系の姉妹艦なのだろう。そう思わせる服装だった。

 

「本日付で、パラオ泊地に着任いたしました。水上機母艦、千歳です。よろしくお願いします」

「同じく、千代田です。よろしくお願いします」

 

 『水上機母艦』。

 航空母艦が艦上機の運用を専門とするのに対し、こちらはその名の通り水上機の扱いを得意としている。本体の戦闘力は低いが、これを活かせばより多様な戦術をとれるだろう。

 

「こちらこそ、よろしく頼む。泊地司令官の東郷徹心だ。母艦型の艦娘はまだ貴艦らだけだから、期待している」

「はっ!」

「ああそれと、楽にして良いぞ。いつまでも張り詰めていては、今後に支障が出る」

 

 根が真面目なのか、先ほどから肩肘を張る千歳とそれに倣っている千代田に対し、休むよう指示する。

 

「解りました。ふぅ・・・・・・」

「つ、疲れたぁ・・・・・・」

「それにしても、そこまで緊張させてしまったのか?」

 

それを受けて、各々肩の力を抜く二人に対して問うた。

 

「気むずかしい方だとお伺いしていましたので、失礼の無いようにと思っていましたが・・・・・・杞憂だったみたいですね」

「むぅ・・・・・・」

 

 自分は、そんな人相に見られていたのだろうか・・・・・・?確かに、兵学校時代は生活態度にも気を遣っていたが、適度に息抜きはしていた筈だが・・・・・・。

 

「まあ、とにかくだ。まだまだ陣容は薄いから、君たちは貴重な戦力だ。頼りにさせてもらう」

「ええ。私で良ければ、微力を尽くさせていただきます。ほら、千代田も」

「う、うん。提督、よろしくね」

「ああ、よろしく頼む。長旅で疲れているだろうから、今日の所はゆっくり休んでくれ。自分からは以上だ」

「解りました。それでは、失礼しますね」

「失礼しました」

 

 そう言って、二人は執務室を後にしていった。敷地の案内は・・・後で初霜あたりに任せておくとしよう。人当たりの良い彼女なら、適任だろう。

 

 

☆★★☆

 

 

『普通の姉妹以上』

 

 私、水上機母艦千代田が姉の千歳に向けている感情を、以前の同僚達にはそう例えられていた。

 確かに、長いこと離れて戦っていたし、やっと一緒に戦えるようになったと思ったらレイテでの陽動作戦で私もお姉も沈んでしまった。

 それから何年か経って、今度は艦娘としてお姉と一緒に戦うことになったんだけど・・・・・・。

 

「また水上機母艦からかぁ・・・・・・。はぁ・・・・・・」

 

 艤装として身に付けていたのは水上機用のカタパルトと格納庫だけ。後から聞いた話だと、私達姉妹は何度も改装された結果、本来の姿が曖昧になってしまい、その影響で最初の形である水上機母艦になったらしいんだけど、詳しいことは解っていないみたい。で、その私はお姉と一緒に『寄せ集め艦隊』と渾名(あだな)されているパラオに転属することになったんだけど・・・・・・。

 

「ふぅん、意外と設備は整っているみたいね」

 

実態は私が抱いていたパラオ泊地とは異なっていた。

 建物には修繕が加えられていて、それなりに拠点としては見栄えがするようになっている。もっとも、私達を案内してくれた駆逐艦の子。確か、初霜だっけ? の話だともっとボロボロだったらしいけど。

 

「あら? あっちでは訓練をやっているみたいね」

 

 お姉が指さした方では、水雷戦隊が訓練に励んでいる。長刀を持っているのもいるから、やっているのは白兵戦の訓練かしら?

 

「はぁ~。白兵戦なんて、意味が無いと思うのに・・・・・・。第一、空母機動艦隊の戦術を確立したのは連合艦隊だし、遠距離攻撃の重要性はどこよりも解っているはずなのに」

「まあ、そう言う考え方もあるけどね。けど、最後にカギを握るのは近接戦闘だと思うわよ。現に索敵にしたって、電探はあるけどあくまで補助。結局は人間の索敵手か、私達艦娘か、妖精さんの目が頼りだし」

 

 お姉が言うのなら、そうなのかしら・・・・・・? 確かに、どれだけ機械が発達しても、最終的には人の手が介される。そのこと自体は否定しないけど、やっぱり母艦としては、遠距離攻撃の方を重点的にやっていきたい。

そして何より・・・・・・

 

「それよりもお姉。いつか空母に改装されたら、今度こそ一緒に航空隊を飛ばそう!」

「うふふ、そうね。私も、千代田と一緒に飛ばせるのが楽しみだわ」

 

あの時は結局果たせなかった、私達姉妹の航空戦。お互い姿形は変わっちゃったけど、それだけは、絶対に譲れないんだから。

 

 

☆★★☆

 

 

 連合艦隊トラック泊地。元々はパラオと同様、大東亜戦争時代の前線基地の一つで、かつては空襲によって大きな被害を受けた拠点である。現在は各種設備が最新鋭のものに取り替えられ、ショートランド、リンガ、ブルネイと並ぶ対深海棲艦拠点として戦略的に重要な位置を占めている。

 そのトラック泊地の第一次警戒線を越えて、深海棲艦隊の侵入が確認されたのは午前十時頃の事であった。

 

「総員、緊急戦闘態勢を取れ!!」

「敵艦隊、機雷原を突破! 第二次警戒線に達しつつあり!」

「艦隊を出撃させろ! これ以上の侵入を許すな!!」

「司令部より、艦隊各員へ。これは演習では無い。繰り返す、これは演習では無い!」

 

 敵襲に対応すべく、嵐のような様相を示すトラック泊地司令部。パラオの様な懲罰部隊ではなく、正規の艦隊と言うだけあって設備も人員も多少は余裕があった。にも関わらず、この様な状態である。

 

「それで、敵の規模はどの程度だ?」

「確認した限りでは、駆逐艦級が数十隻、巡洋艦級が十数隻。軽空母級が数隻。それから・・・・・・戦艦級も複数確認されているとの事です・・・・・・!」

「噂のル級か・・・・・・。パラオの連中、仕留め損ないおって・・・・・・! すぐにラバウルへ報告しろ! 来援要請、急げよ!!」

「はっ!!」

 

 泊地を預かる壮年の提督から指示が下り、幕僚達の動きもより具体性を増したものとなる。

 だが、その時である。何かが司令部の屋根を突き破り、閃光と共に爆発する。遮蔽物もほぼ無いところで生じた爆風は、司令室の中を無茶苦茶に破壊してしまった。

 後に残されたのは、爆心地の床に開いた大穴と、その周辺で痛みに悶絶する人だった肉塊達。たった一撃で、トラック泊地の司令部機能はほぼ壊滅状態に陥ってしまったのだ。

 これのあおりを喰らったのは、出撃準備をしていた艦娘ら実働部隊だ。所属している艦娘の多くは、未だ出撃準備の最中で、そこへ司令部被爆の報である。中には、既に出撃して各個の判断で応戦している者もいるが、多勢に無勢で押され気味であった。

 

「だ、誰か指揮を!!」

「提督は!? 司令部の被害はどうなの!?」

「て、敵が来ます!」

「片っ端から撃ちまくれ!!」

 

殆どの戦隊が混乱している中、由良率いる第三戦隊だけは何とか組織的戦闘を維持していた。

 

「叢雲、三日月、初雪。みんな大丈夫!?」

 

 両手の14サンチ砲で二級を撃ち抜きながら、僚艦の安否を問う由良。

 

「叢雲、問題なし!」

「三日月、被弾しましたが、支障はありません!」

「もうやだ、帰りたい・・・・・・」

「文句をたれる暇があるなら、まだ行けるじゃ無い。初雪もいるわよ」

 

三人とも返事があったので、どうやら無事のようだ。

 四人は互いに連携しながら応戦を続けるが、数の上での不利は否めず、徐々に追い詰められつつあった。

 

「それで、司令部からの指示は?」

「さっきから問い合わせてるけど、全然だわ。連中、何やってんのよ!!」

 

 片手に持った、電探マストを模した槍でイ級を串刺しにしつつ叢雲は毒づく。深海棲艦の出現以降、艦娘の指揮や編成は戦隊、もしくは艦隊を預かる提督の趣味趣向が反映されることが多くなっていた。

 たとえば、甲という提督が指揮する艦隊は機動力を重視した高速編成、乙という提督は空母を中心とした遠距離先制攻撃特化、丙という提督なら対艦砲戦重視と言った具合にだ。

 このトラック泊地の場合、地理的にラバウルを始め他の拠点が近場にあることなどから、戦艦や正規空母と言った重量級の艦娘よりも、駆逐艦や巡洋艦、潜水艦と言った補助戦力を重点的に配置していた。今回はそれが仇となったのである。

 ヌ級の航空攻撃自体は、配置されている軽空母だけで何とかなったが、それと呼応するかのようにル級やリ級と言った高火力の深海棲艦による攻撃に晒され、トラック所属の殆どの艦娘はリスクの大きい接近戦を余儀なくされていた。

 

「てっき、ちょくじょう! きゅうこうかしてきます!!」

「えっ!?」

 

 その戦闘の最中、三日月乗り組みの船員妖精が敵機襲来の報を告げる。見ると、銀色のイカの様な形をした物体―深海艦載機がこちらへ向かってきていたのだ。

 

「各艦、対空戦闘用意!!」

「『了解!』」

 

それを受けた由良の号令一下、対空火器を向ける彼女達。

 対空戦闘には機銃やそれ向けの砲、高角砲を用いるのが通常だが、あいにくと由良がたまたま装備していた12.7サンチ連装高角砲を除けば後は機銃のみ。その機銃にしても、高速で飛行する航空機の撃墜はほぼ不可能なのは、艦娘であっても同じなのだ。それでもやらないよりはマシと考え、弾幕が張り巡らされる。

 機銃弾が翼端を掠め、何機かは叩き落とされるが、殆どの敵機が弾幕をかいくぐって猛禽類のように襲い掛かって来る。

 そして次の瞬間。機体の中央に懸下されていた筒―推進砲が火を噴いた。

 放たれた無誘導弾は真っ直ぐに第三戦隊へと降り注ぎ、着弾時の爆発で次々に水面に水柱が立ち上る。

 

「きゃぁっ!!」

「由良ッ!!」

 

 その内の一発が、由良の背面艤装に命中。射撃中だった12.7サンチ連装高角砲を吹き飛ばされ、体勢を崩してしまう。そして、そうなるのを待ってましたと言わんばかりに、他の深海棲艦が彼女に殺到した。

 駆逐ロ級に体当たりされ、さらに軽巡ト級に単装砲ごと右腕を噛み砕かれ、苦痛に顔を歪める由良。それでも、無事な左手の単装砲で相手を撃ち抜き、残された僅かな武装で応戦する。その最中、金属を叩くような音が単装砲から発せられた。

 

「弾切れ・・・・・・!? だったらッ・・・・・・!!」

 

使い物にならなくなった主砲を彼女は投げ捨てると、空いた手で三式短刀を抜刀して敵艦に斬りかかる。

 だが、その彼女目がけて無慈悲にも砲弾が撃ち込まれた。

 

「っ・・・・・・!!」

 

腹部に風穴を空けられた由良の目からは、光も生気も消え失せ、そして・・・・・・

 

「由良!!」

「由良さん!!」

「隊長・・・・・・!」

 

そのまま崩れるように倒れ伏し、彼女の体は海底へと消えていった・・・・・・。

 




たまに起きるオーバーキルって、こんな感じだと思うんですよね

・人物設定
〈五月雨〉
徹心がパラオ泊地に着任した際、最初に出会った艦娘。
明るく前向きで、彼のことを真っ先に受け入れた。元大湊警備府所属
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