名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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今回は長いので分割してあります。前編と合わせてどうぞ。

(※2015年3月16日追記 誤字を修正しました)


第十五話:トラック脱出作戦・後編

 

――――――

 

 

 徹心ら、パラオ艦隊がトラック入りした翌日の早朝。司令部施設などが置かれている春島の湾内では、黒金の出港準備が急ピッチで進められていた。

 重要防御区画などの応急修理を済ませ、搭載されている連装砲と噴進砲、高角砲に弾薬が積み込まれていく。缶に火が入れられ、生み出されたエネルギーがタービンを伝って機関が暖められる。

 そして最後に、傷病者や運べるだけの資材と武器弾薬が乗せられ、準備が整った。

 

「副長、発進準備完了です」

「わかりました。黒金、抜錨せよ!!」

「了解! 黒金、抜錨!!」

「機関最大! 進路目標を10時の方向へ取れ! 最大戦速で脱出する!!」

 

 野島大尉の命令を受けて船体を固定していた錨が収納され、朝靄の中を軍艦色の鉄塊がゆっくりと進み始める。それを受けて徹心は、艦内に備え付けられている無線を取って艦隊に話し始めた。

 

「艦隊各位、聞こえるか? この作戦は、前方の敵艦隊をいかに効率よく排除するかが肝要となる。初めての顔合わせになる者も多くいるだろうが、我々の共通の目的のためにも、連携を密にして取り組んでくれ」

『パラオ艦隊、了解です。本隊は右前方に付きます』

『トラック艦隊、承知しました。左前方はお任せください』

「足柄隊は中央の監視。鳥海隊はトラック艦隊の援護に回れ。各艦隊は、相互支援を何時でも出来るよう、相対距離には気を配るように」

『了解よ!』

『わかりました』

 

 この無線というのは、艦娘運用のために作られた道具で、人類と妖精の協同で開発されたものだ。

 小型化されているとは言え、現状では搭載能力の都合上、巡洋艦以上の艦娘にしか支給されていないが、指揮官と直接やりとりすることによる利点は計り知れないものがあった。

 その無線から扶桑と古鷹、そして分艦隊を任せた足柄と鳥海が了解した旨の返事をしてくる。既に準備は整った。

 

「良し。ではこれより、『だ号作戦』を開始する! 全艦、対空、対水上索敵を厳に! 間違いなく向こうから先制してくる、気を抜くなよ!!」

 

 

★☆☆★

 

 

《―ではこれより、『だ号作戦』を開始する! 全艦、対空、対水上索敵を厳に! 間違いなく向こうから先制してくる、気を抜くなよ!!》

 

 無線の向こうから、若干の雑音混じりに東郷中佐の声が聞こえてくる。四個戦隊、数にして20人以上いた艦娘達も、半分は洋上戦闘は不可能。その殆どは碌に動ける状態では無く、私達を除いた残りの半分は、既に海の底。その中には、私の大切な仲間も・・・・・・。

 通信が終わるのを確認すると、水雷戦隊旗艦の五十鈴ちゃんに指示、二列複縦陣に切り替えて前進。

 程なくして、右翼側から聞こえてくる砲声が。向こうも、もう始めたみたいね・・・。

 

「作戦行動を開始します! 水雷戦隊のみんな、前衛をお願い!」

「お任せあれ。四人とも、行くわよ!!」

「砲雷撃戦! 張り切って行きましょう!!」

「攻撃するからね!」

「おっ、けーき良いな!!」

「砲雷撃戦、開始します!」

 

 捕捉した敵艦に照準を合わせ、発砲。壁を作るように展開していた駆逐艦に砲弾が命中し、内一隻が炎を上げながら落伍していく。

 黒金の進路確保は、中央を進む足柄さん達の役割。私達両翼の部隊は敵艦隊を押し戻し、密度を少しでも薄くして少しでも突破しやすくすることが求められます。とは言え、深海棲艦はいつ、どこから増援が現れるのかわからないので、手早く仕上げて母艦の支援に向かわないと。だから・・・・・・!

 

「悪く、思わないでください!!」

 

 側面から突っ込んできたリ級の攻撃を盾で防ぎ、押し戻してそのままそれを叩き付ける。怯んだところで、肩の主砲を照準し、発砲。頭を吹き飛ばして仕留めることができました。

 

「隙を見せました! 各艦、斬り込みますよ!!」

「『了解(です)!!』」

 

でもこれは、ほんの序の口に過ぎません。敵はまだまだ、たくさん残っている。

 例え傷つき、仲間の後を追うことになっても、一隻でも多くの敵を葬ってから追わせて貰います・・・・・・!!

 

 

☆★★☆

 

 

 トラックからの脱出作戦―『だ号作戦』が始まってから、数時間ほどが経過しようとしていた。

 単なる巡航移動なら、護衛艦の最大戦速に合わせて並走するだけで済むのだが、今回は敵艦隊の相手をしながらの行軍である。そのため、どうしても足は遅くならざるを得ず、彼が当初予想したよりも時間が掛かっていた。

 

《扶桑です。響さんが補給の許可を求めています。行かせても大丈夫でしょうか?》

「問題ない、許可する。駆逐隊は、補給に行った者の抜けた穴を、埋めるように行動しろ! 千歳と千代田は瑞雲隊を収容した後、第二次攻撃に移れ! 準備ができ次第、各個の判断で出してくれて構わない!」

《千歳、了解です!!》

《千代田、了解! 艦載機のみんな、派手にやっちゃって!!》

《こちら足柄! 戦艦ル級、討ち取ったりぃっ!!》

「戦果報告と武勇伝は後でゆっくり聞いてやる! 今は目の前の敵に集中しろ!!」

 

 めまぐるしく変化する戦況を予測し、矢継ぎ早に徹心は指示を出していく。現段階では大きな齟齬こそ見られていないが、戦力の総数で言えばかなりギリギリの戦いを強いられているのが現状である。

 彼自身の心情を代弁するならば、かなり焦っている上に苛ついている。だが、それによって指揮官が浮き足立つとそれが全体へと波及し、最悪の場合総崩れとなってしまう。

 それだけは何としてでも避けねばならないため、徹心は決して焦りも苛立ちも表に出さないようにしていた。

 

「索敵要員より報告! 敵艦、本艦の背後へ回ろうとしています!!」

「両弦機銃射手、迎撃を急がせろ!!」

「大尉、例の策を実行に移します。格納庫に指示を出してください」

「わかりました。しかし、艦娘達から見れば、冷徹極まりないですな」

「それだけ、自分たちはギリギリの戦いを強いられているんです。彼女達の文句は、後で聞きますよ」

 

ここで敵艦隊が、護衛の隙を突いて黒金の背後へと回ろうとしていた。

 黒金に限らず、現在連合艦隊に配備が進んでいる護衛艦―刃金型の後部船体には、艦娘の発艦用カタパルトと水上偵察機の駐機台が備えられた機動甲板しか無く、利根型重巡と同じで武装は殆ど無い。

 艦娘運用に特化した故の弊害だが、この『だ号作戦』の要は、むしろその後部甲板にあった。

 

「行動可能な艦娘は、主砲の発射用意を。何時でも撃てるようにしておけよ・・・・・・!」

 

 

――――――

 

 

 その機動甲板の上には名取と、トラック所属の艦娘達が縁に並んでいた。いずれも、損傷が酷く洋上戦闘が出来ない者ばかりだったが、何も攻撃そのものが出来ない訳では無い。

 徹心はそこに目を付け、艦娘そのものを砲台代わりにしたのだ。これなら、死角となる後方にも火力を指向できる上に、戦力不足をある程度は補える。

 

「え、えっと・・・・・・皆さん、構えてください!」

 

 その彼女の指示を受け、それぞれ使える武装を構える艦娘達。主砲が使える者は主砲を。副砲しか使えない者は副砲を。いずれも使えない者は機銃なり爆雷なりを構え、中には航空機用の投下爆弾を手に持つ者もいた。

 その彼女らが獲物を狙う猟犬のように眼下の海面を見つめる中、後方から叩こうと数隻の深海棲艦が回り込んできた、まさにその瞬間。

 

「う、撃ち方、初めてください!!」

 

名取の号令一下、一斉に攻撃が開始される。

 一般に、戦闘では上からの攻撃が圧倒的に有利とされている。戦車だろうと軍艦だろうと、真上はどうしても脆い作りになっており、そこに爆弾を落とされれば最悪一発でお陀仏である。加えて、上方は生物にとっても死角になりやすいため、奇襲効果も見込めるのだ。

 深海棲艦達は、まさか護衛艦(デカブツ)の後ろがこれほどに危険であると思いもよらなかったのだろう。真上から投げ込まれた爆雷が先導していた軽巡へ級に命中し、それによって怯んだ瞬間。今度は主砲の集中攻撃を受けて、彼は忽ちスクラップにされてしまう。

 一方で別の集団が、ならばと言わんばかりに真後ろから仕掛けようとする。だが・・・・・・

 

「攻撃開始! 撃ちまくるにゃ!!」

 

 今度は格納庫の口を開けさせて待機していた、多摩達他の艦娘による弾幕の歓迎を受けて後退。うっかり側面に回ったことで、名取らの攻撃を受けて沈んでいった。

 

「弾切れ! 再装填!!」

「弾が無くなったわ! 次のを持ってきて!!」

「今持って行きますから、待ってください!!」

「弾が切れた人から、順次取りに行ってください! 抜けた穴は、私が埋めます!」

 

 換えの砲弾を要求する声があちこちから発せられ、戦闘に参加出来ない艦娘や人間の整備兵達が弾薬の入った箱を抱えて縦横無尽に走り回っては、戦闘中の艦娘達に弾薬を配っていく。

 

「絶対に、生きて帰るんだニャ!!」

「こっ、ここが正念場です。みんな、頑張ってください!」

「「『『おー!!』』」」

 

 今、この瞬間だけはパラオもトラックも関係なく、皆が『生き残る』と言う一つの目的のために一致団結していた。

 

 

――――――

 

 

 トラック諸島の海上に、陽光がさんさんと照り始める。平時であれば、蒼い海と珊瑚礁とが織りなす美しい光景に目を奪われるであろうこの海だが、現在は炎と砲声と、硝煙の臭いによって支配されていた。

 戦闘開始から既に数時間ほど経ち、黒金は艦娘達の奮闘に助けられて遂に春島の湾外へと脱出に成功する。しかし、深海棲艦隊にも意地があるのか、それとも本能のままなのか、戦力を再編して黒金を包囲せんとしていた。

 そのため、安全圏まであと少しと言うことで、彼らは足止めを喰らっていた。

 

「撃てぇっ!!」

「てーっ!!」

「撃て、撃てぇっ!!」

 

 扶桑の号令一下、重巡達が主砲を一斉射し、敵の前衛を切り崩しに掛かる。しかし、制空権が敵側に有利な状態のため観測射撃が出来ず、やむなく目視で砲撃をしているが、命中弾は先ほどよりも大きく減っていた。

 それでも敵艦を撃破してはいるが、脱落したそばから他の深海棲艦がその穴に入り込み、一向にその陣容を打ち破れなかった。

 

「くそっ・・・・・ヌ級を始末しないとじり貧だぞ!!」

「魚雷も主砲も使えないッぽい・・・・・」

「後退してください! 今突っ込むのは危険です!!」

 

 それもあってか、敵の張る弾幕によって神通ら水雷戦隊も接近を妨害され続けていた。特に、中距離以遠にいる軽空母ヌ級とその艦載機が厄介で、艦隊に回避運動を強要させ、後衛らも正確な攻撃ができないでいた。

 

「てっき、ちょくじょう!!」

「っ、と危なっ!?」

「たく・・・・・・嫌なこと思い出させないでよ!!」

 

 急降下してくる艦載機の攻撃を回避し、霞は背面艤装の、長良は手首に付けられた機銃で相手を追い払う。爆撃も雷撃も徐々に精度を増してきており、確実に追い込まれつつあった。

 

《これでは埒があかないか。黒金より艦隊各位。これより、四式弾を用いた支援砲撃を行う。着弾地点付近の艦は、直ちに退避せよ。繰り返す。着弾地点付近の艦は、直ちに退避せよ》

 

 徹心からのこの命令を受け、艦娘達は牽制射撃もそこそこに後退していく。それを好機と見たのか、深海棲艦隊の前衛が彼女らを追って突出し始めた。その次の瞬間・・・・・・

 

《目標、敵右翼艦隊! 仰角合わせ・・・・・・てぇっ!!》

 

黒金の主砲が一斉に発射された。

 撃ち出された砲弾は上空で炸裂し、それによって大量の金属片と焼夷弾がばらまかれる形で海面へと降り注ぐ。爆発の衝撃で破片が体に突き刺さり、炎で視界を奪われた前衛艦隊は大混乱に陥った。

 

《良し、今だ! 全艦隊、両弦最大戦速!! 敵艦隊、右翼側の戦列を強行突破する!!》

「『『了解!!』』」

 

 そのタイミングを見計らって、艦隊は全速力で走り始めた。一方で深海棲艦隊も立ち直りつつはあったが、主砲を乱射しながら突撃してくる艦娘(えもの)達の気迫に押され、道を空けるか、直撃弾を受けて行動不能にされていき、それらで出来た花道を黒金の巨大な船体が通り抜けていく。

 さらに黒金は主砲だけで無く、両弦に搭載された高角砲や、船体のほぼ中央に配された対艦噴進砲を撃ちまくって艦娘達を援護することも同時に行っていた。

 そして遂に、後一歩で戦線の突破が成し遂げられる地点にまで来た、次の瞬間。

 

「敵艦、発砲体勢!!」

「っ、拙い!!」

 

ル級の放った主砲の一撃が、後部甲板に直撃したのだ。

 

「にゃにゃっ!?」

「ふぇっ!? も、燃えてる!? たっ、助けてぇっ!!」

 

 幸いにして、甲板上の艦娘達は突入前に艦内へ収容していたので、犠牲者こそ出なかったが、着弾の余波で甲板に穴が空き、さらには火災が発生する。

 手の空いた人員が総出で消火活動を行うが、火の回りが早くすぐには消し止められそうにない。だが、危機はこれだけではなかった。

 

「索敵班より報告! 二時の方向、距離1800の地点に敵影見ゆ! 敵の増援です!!」

「くっ・・・・・・規模はどの程度だ!?」

「距離が遠く、詳細は不明です!」

 

 戦いのにおいを嗅ぎ付けてきたのか、徹心達が恐れていた増援が、現れてしまったのだ。出現地点も、現在地から南南東の方向。ラバウルまでの予定航路上にである。

 無傷ならともかく、現在の黒金は被弾時の損傷が元で速力がやや下がってしまっている。振り切ることは、困難だった。

 

〈前には増援艦隊、後ろには追いすがる追撃部隊。艦は損傷、戦力も不足。ここまで何もかもが、上手く行きすぎていたのか・・・・・・〉

 

徹心が覚悟を決めようとした、その時だった。

 

《・・・・・・金・・・・・・すか? 黒金、聞こえますか!?》

「!?」

 

 不意に、艦娘用の無線から、鈴の音のような声が発せられる。徹心の耳には、それがパラオ、トラック、両艦隊のものでは無いことは判ったが、どこの誰かまでは理解が追いつかなかった。

 

「こちら、黒金。貴艦の所属と艦名を述べよ」

 

 その通信の意味を察したのか、通信士が無線に対し返答する。

 

《こちら、ラバウル基地第二艦隊、第二戦隊旗艦、航空母艦葛城です。これより、貴艦隊の離脱を援護します!!》

 

―――――

 

「―――これより、貴艦隊の離脱を援護します!!」

 

 そう言って、通信用の受話器を艤装にしまい込む空母型艦娘―葛城。

 太ももまで届く、焦げ茶色の長いブーツに、どことなく龍を思わせるスカートと上衣。そして緑色の装甲板があしらわれた戦闘装束に、空母特有の艤装である航空甲板と、矢立型の格納庫。そして、発艦に用いる長弓を身に付けていた彼女は、その矢立から矢を一本取り出すと、弓へとつがえた。その鏃には、艦載機を模した紙人形が。

 弦が引き縛られ、飛び立つための力が最大限にたまったところで上空へ向け、矢を放つ。

 

「さあ、やるわ! 攻撃隊、発艦始め!!」

 

 放たれた矢は、途中で目映く光ったと思うと、ミニチュアサイズの戦闘機―六機編成の零式艦上戦闘機一個編隊へと変化し、深海艦載機の編隊に巴戦を挑み始める。

 さらに葛城は、先ほどとは別の矢をつがえると、今度は水平に撃ち出した。

 矢は、今度は五機の九七艦攻となり、海面すれすれを飛行しながら懸下されていた航空魚雷を投下する。

 大きさこそ、艦娘達が搭載している61サンチ魚雷と比べると爪楊枝の様な物だが、それでも魚雷は魚雷。軽巡駆逐の様な装甲の薄い艦が相手なら、十分すぎるほどの攻撃力である。

 

「今です! 水雷戦隊各艦、突撃!!」

「了解! みんな、行くよ!!」

「睦月の本気をみせるにゃー!!」

「え~、めんどい・・・」

「ボヤボヤしてないで、行きますよ!」

 

 葛城の指示の下、長良型軽巡の鬼怒が真っ先に前進し、その後を睦月、望月、白雪の駆逐隊が追従していく。先ほどの航空攻撃で足回りを破壊された深海棲艦は動けなくなり、それによって出来た隙を、彼女達に突かれて次々と沈められていく。

 

《黒金よりパラオ、トラック各艦へ。もう一踏ん張りだ、最後まで気を抜くなよ!》

「『『了解(です)!!』』」

 

 攻撃のショックから立ち直ったパラオ・トラック混成艦隊も迎撃へと合流。ほどなくして、深海棲艦隊は作戦海域から一掃され、黒金は再びラバウルへと針路を取って進み始めた。

 

 

★☆☆★

 

 

「・・・・・・やっと着いたか・・・・・・」

 

 日が沈みかける頃、自分たちがトラック泊地を立ってから実に半日以上経ってから、黒金はようやくラバウル基地へと入港することが出来た。

 出港するときにはまだ黒光りしていた装甲も、あちらこちらに焦げ跡やヘコみが付き、すっかり歴戦の風格を漂わせつつある。

 現在は横付けされた艦から、負傷者らを基地の医療施設へと移す作業が行われている真っ最中であった。自力で歩ける者もいれば、仲間の肩を借りたり、担架に乗せられて運ばれていく者も多数いる。

 艦娘達も損傷の酷い者から順次、入渠施設へと担ぎ込まれていく中で、自分は見覚えのある銀色の髪を見つけた。艤装を外しているが、間違いない。彼女だ。

 

「叢雲! そこにいるのは、叢雲か!?」

 

 その銀髪の主は、自分の声を聞いて振り返る。つり上がった目尻に、整った顔立ち。吹雪型の、叢雲だった。

 

「久しぶりだな」

「ええ、こっちこそ久しぶりね東郷中尉。いえ、今は中佐だったかしら?」

「ああ。今は、パラオ泊地の司令官職を務めている。今回は、トラック艦隊の救出を命じられて来たんだ」

「救出ですって・・・・・・?」

 

 自分自信の近況を話した途端、彼女の顔はみるみる色を変えていく。不機嫌そうな仏頂面が、憤怒に染まっていった。

 

「なんで・・・・・・なんでもっと早く来てくれなかったのよ!?」

「叢雲・・・・・・?」

「アンタ達がもっと早く来ていれば、死なずに済んだかも知れない連中がたくさんいたのよ!! 由良も、嵐も、親潮も・・・・・・アンタ達のせいで!!」

「叢雲さん、もうそれぐらいにして」

 

駆け寄ってきた古鷹の制止する声も聞かず、叢雲はさらにまくし立てる。

 

「古鷹・・・・・!? アンタだって、加古をこいつのせいで沈められたでしょう!? なのに何で平然としていられるのよ!?」

「由良さんや加古達を殺したのは深海棲艦です。中佐はそれとは無関係です!!」

「どうしてそんなかばい立てするのよ!? まさか・・・・・・こいつと寝・・・・・・っ!?」

 

 不意に、埠頭に乾いた音が響き、周囲で作業をしていた兵士達が何事かとこちらを見てくる。その音の正体は、古鷹が叢雲のほほを張った音だった。

 

「いい加減にして。生き残れた以上、何をするべきか判っていないの?」

「アンタ・・・・・・」

「私だって、本音を言ってしまえば何かに当たり散らしたいんだよ。でも、そんなことをしても、加古は戻ってこない。建造にしても、弾薬が誘爆して木っ端微塵になってしまったから、直接の触媒もあるか怪しい・・・・・・。だから、加古の分も生きないといけないの!! 明日も、明後日も、それからも!!」

「・・・・・・っ!!」

 

 叢雲本人も、自分がやっていることが間違いだと言うことは、薄々判っていたのだろう。だがそれでも、『納得』が出来なかった。だから、自分に突っかかって来た。

 もし自分も、仲間を失うことがあったら・・・・・・。

 

「・・・・・・ごめんなさい。アンタに当たるのは、お門違いだったわね・・・・・・」

「いや、気にすることは無い。自分たちの到着が遅れたのは事実だ。言い訳はしない」

「そう・・・・・・。それじゃあ、機会があったら、またどこかで会いましょう」

 

 そう言って、叢雲は古鷹と共にその場を立ち去っていった。その背中には、仲間を失った悲しみが、どことなく漂っていた。

 

「提督、ラバウル基地司令官がお呼びです。作戦完了の報告をするようにとのことです」

「ああ、今行く」

「提督・・・・・・泣いていたんですか?」

「自分が・・・・・・?」

 

 五月雨にそう言われたので、目元に手をやると、僅かに湿り気を帯びていた。いつの間に自分は、涙を流していたのだろうか・・・・・・?

 

「なあ、五月雨」

「はい、なんですか?」

「もし、自分たちがもっと早く来ていれば、どうなっていただろうな・・・・・・」

「提督・・・・・・?」

「・・・・・・いや、何でも無い。すまないな、五月雨。早く報告を終わらせて帰ろう、自分たちの帰るべき場所(はくち)へ」

 

こうして、自分たち。パラオ艦隊の最初の激務は、終わりを迎えた。

 後に残されたのは、大切なものを失った悲しみと、海鳥の鳴き声だけだった・・・・・・。

 




渾作戦も終わり、二隻目の大和を入手した俺提督。

お前じゃ無い、欲しいのは武蔵だ。ビスマルクもオイゲンちゃんのために出さないと行けないし、いずれ来るレイテ・マリアナのイベントに備えて大鳳も・・・。
やること多くて大変だぜ・・・。


〈響〉
徹心がパラオに着任した際に最初に出会った艦娘。
どこか達観している様子だが、責任感は強い。
元の所属は不明。


(※2015/03/02 誤字修正)
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