『名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~』、南西諸島海域偏突入です
「んっ、んー・・・・・・っ! 今日も良い天気」
現在時刻は、0630時。朝一番で、泊地の正門回りをお掃除するのが私、五月雨の最近の日課なんです。
普段はみんな、私にだけは施設内の掃除をやらせてもらえないから、ちょっと傷ついちゃいます・・・・・・。でも、ここだけは譲れません! 朝の日差しを浴びて、気分を切り替えられるのは、こう言う朝掃除係の役得です!
「フンフン、フフフフ~ン♪ お掃除、お掃除~♪」
竹箒で落ちているゴミを集めて、ちりとりに掃き入れていく。そろそろ一杯になるかな? って、思い始めた直後でした。
「んがっ!?」
「あっ、あれっ!? きゃぁっ!!」
ゴミ箱へ捨てに行こうとした時に何か柔らかいものを踏みつけて、その柔らかいものが動いたから驚いて転んじゃいました・・・・・・。
ゴミも飛び散っちゃいましたし、もうなんでこうなるの・・・・・・。
「うぎゅ~。誰だぁ~、アタシのこと踏み絵にしたのは・・・・・・」
踏みつけてしまったのは、髪がすみれ色の女の人でした。
一升瓶が近くに転がっていたから、たぶん酔っ払いさんでしょうか?
「ごっ、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
「あ"ぁ~、大丈夫というか、何というか・・・・・・」
「はい?」
「もうダメ・・・・・・。う"っ!? おぇぇぇぇぇぇ・・・・・・」
「きゃぁぁぁぁぁあっぁぁぁあぁ!?!?!?!?」
拝啓、大湊の涼風へ。私五月雨は、汚れてしまいました・・・・・・。
――――――
「―・・・・・・と言う訳なんです」
「そうか、それは災難だったな」
結局あの後、人を呼んでその酔っ払いさんを軍医の先生に預けて、私はお風呂に入って着替えた後、提督にこのことを報告しました。
あの戦闘装束、一張羅だったのに・・・・・・。予備も洗濯中だから、今は夕立の装束を借りています。
「しかし、判らないな。どうして正門の前で倒れていたんだ・・・・・・?」
「えっと・・・・・・流されてきたとか?」
「あり得ないな。アルコールは平衡感覚を狂わせる作用もあるから、海や川に落ちたらまず助からない。
加えて、一応パラオは島国だが、立地の都合上泊地の正門は内陸の側を向いている。流されてきたなら、普通は埠頭か海岸で見つかるものだろう」
「・・・・・・それもそうですね。じゃあ、あの人は一体・・・・・・?」
「っ、ふぁ~ぁ。おはようさん、提督」
提督と一緒に考えていたら、今週の秘書艦の摩耶さんが執務室に入ってきました。
「おはよう、摩耶」
「おはようございます!」
「おう。あれ? まだ来てねぇのか?」
『まだ来てない』・・・・・・? 今日はお客様が来る予定でもあったんでしょうか?
「誰かお客様が来るんですか?」
「っと、あぁ。そのこと含めて今から伝えるんだった。提督、軍令部から電文だぜ」
「ああ」
摩耶さんから電文の写しを手渡され、目を通す提督。一体、何が書いてあるんでしょうか・・・・・・?
「で、上はなんて言ってんだ?」
「・・・・・・今日付で一人、空母型の艦娘が来るらしいのだが・・・・・・。摩耶、五月雨、見かけていないか?」
「いや、アタシは見てないぜ」
空母型の艦娘さん・・・・・・。まさか・・・・・・?
「失礼します。提督、先ほど担ぎ込まれた人が目を覚ましたそうですよ」
「了解した。保住主任、彼女の持ち物に身分が判るものはあったか?」
すると、執務室に来た保住さんから、あの人が目を覚ましたことが告げられました。それと同時に、私達が気になっていた答えも。
「懐を調べたら、ありましたよ。転属辞令と、海軍手帳が」
「そうか・・・・・・。まったく、どういった経緯で・・・・・・」
その酔っ払いさんは艦娘で、私達の泊地に新しく転属してきた人と言うことが、発覚しました・・・・・・。
――――――
「いやぁ~、面目ない! アタシとしたことが、久しぶりに酒に負けちまったよ」
着任初日に酔いつぶれた状態で発見されると言う前代未聞の事に、提督は頭を抱えてしまっています。
確かに、私自身会ったことの無いタイプの人でしたし。
「それで、貴艦の型式と艦名は・・・・・・?」
「商船改装空母、隼鷹でーっす!」
「・・・・・・泊地司令官の東郷だ。貴艦の着任を歓迎する・・・・・・」
この時、提督の顔を少しだけ見ましたが・・・・・・。いつもより眉間のしわが増えていました。
☆★★☆
「商船改装空母、隼鷹でーっす!」
「・・・・・・泊地司令官の東郷だ。貴艦の着任を歓迎する・・・・・・」
正門前で泥酔して倒れていた、そう五月雨から聞いて、自分は確信していた。彼女、隼鷹は間違いなく、懲罰転属だろうと。
「・・・・・・大方、元の所属で酒で問題でも起こしてきたのか?」
「うっ、なぜそれを・・・・・・!?」
「そこの彼女、五月雨から聞いた話しを総合すれば、誰でも判る。加えて、持ち物の中に酒のポケット瓶があったぞ」
「あれま、そこまで・・・・・・」
「とにかくだ。酔いが覚めたら、他の艦娘に挨拶するように。自分からは以上だ」
「了解了解。これからよろしくな、提督!」
取り敢えず必要な連絡をして、自分は五月雨、摩耶と共に医務室を出た。
最もこの時は、隼鷹がこれまで以上の曲者であることは、まだ知るよしも無かった・・・・・・。
――――――
翌日。出撃のため艦隊を埠頭に集めていたときのことだ。
「ラバウル基地から、艦隊に出撃指令が来た。カムラン半島沖に
「提督、ちょっと良いですか?」
「どうした?」
「肝心の隼鷹さんがいないみたいですけど・・・・・・」
点呼を兼ねた編成の発表を行い、いざ出撃と言った所で、千歳から隼鷹の姿が無いことを指摘される。
「・・・・・・集合は1200時だと伝えておいた筈なのだが・・・・・・」
「おーい! その出撃、待っておくれよー!!」
「やっと来たか。遅いぞ、隼・・・・・・鷹・・・・・・」
諦めて彼女無しで作戦開始を指示しようとしたところで、走ってこちらに向かってくる隼鷹。その姿を見た自分は。否、千歳ら他の面子も含めて、開いた口がふさがらなかった。
慌てて着込んだのか、紅色のシャツは襟元が開けており、それによって豊満な胸の谷間が見えてしまっているせいで目のやり場に困る。加えて、手には上着と巻物の様な物。そして、酒を入れる徳利が握られていた。どういう意図かはわからないが、少なくとも今から出撃する格好ではない。
「・・・・・・作戦開始を1220時に遅らせるから、早く身だしなみを整えてこい」
「いや~、ごめんねぇ」
やれやれ、初日からこれでは・・・・・・。先が思いやられるのが転属してきたものだ・・・・・・。
☆★★☆
「いや~、海は広いな大きいなとは言うけど、やっぱりデカイね~」
艦隊がパラオを出てから数時間。作戦領域であるカムラン半島沖までの道すがらでも、隼鷹は酒を呷っていた。
一応、海軍では作戦行動中に飲酒をすることはあったが、それはあくまでも高高度を飛行する航空機搭乗員が、防寒用に飲む程度。隼鷹のような場合は論外だ。
「ねえ、お姉・・・・・・」
「何?」
これには、流石の千代田も不満を千歳にこぼす。
「隼鷹って、一応空母で艦娘よね?」
「それはそうよ。そもそも、水上移動が出来るのは船舶とかを除けば私達艦娘か、深海棲艦くらいだし」
「それを差し引いてもあれは酷いと思う」
「おいおい、そりゃあんまりだって、千代田~」
「きゃっ!?」
その最中に、いきなり千代田に隼鷹が抱きついてきて、それによって可愛らしい悲鳴を上げてしまう彼女。
長身の麗人(と呼べる容姿かは微妙だが)と、小柄な美人の構図。字面だけを見れば絵になるが、実態は麗人の方は大虎状態である。これでは麗しさもへったくれもない。
「ちょっと隼鷹さん、隊列を崩さないで! 第一巡航隊形の空母は隊列中央が定位置のはずよ!?」
「まあまあ、硬いこと言いなさんなや。まだ敵は出てきていないしさ。あんまし張り詰めてっと、保たないぜ?」
「だからこそです。ミッドウェーみたいに、どこから敵が来るか判らないわよ」
「油断は大敵、だニャ・・・・・・」
「その敵にしたって、遊弋してる言ってもどうせ威力偵察だろうしさ。気楽に行こうよ、気楽にさ」
「それを決めるのは旗艦の私だし、そうするのも斥候に行って貰っている初霜ちゃん達の報告を待ってからよ」
「へいへい、わかりましたよ・・・・・・」
不満げにそう返した隼鷹。旗艦として以前に艦娘として、千歳は頭痛が酷くなるのを感じていた。
――――――
千歳ら本隊の方でちょっとした押し問答が繰り広げられている頃。斥候として先行していた初霜と長月は、半島沿岸の岩陰に身を潜めていた。
「いたか?」
「ええ、いますね。駆逐艦が8、軽巡雷巡が5、重巡が3に・・・・・・」
「ヌ級もいるな。それに・・・・・・くそっ、ル級もいてくれるとはな」
双眼鏡から目を離し、敵戦力の内訳を伝える暗号電文を打つ長月。その間にも初霜は、何か他に動きが無いか目をこらし続ける。
「えっと、暗号電文『呂布は陣にあり』、っと・・・・・・」
「何ですか、それ?」
「盗聴されて解読されるのを防ぐための暗号、だとさ。詩的にして難解にするのは判るが、解釈がズレたらどうするんだか・・・・・・」
「でも、悪い考えでは無いと思いますよ。身内でやりとりする分には」
「同感だ。こう言うのは仲間内だけにして欲しいものだ・・・・・・。で、だ。今来ている一個戦隊だけで、アレを倒せると思うか?」
「無理でしょうね。ル級がいなければ、まだやりようはあるんですけど・・・・・・」
再び双眼鏡をのぞきつつ長月は問い、初霜はそれに対して否定的な見解を述べる。
現状で出撃しているのは、直接戦闘能力の低い水母と空母を含める編成。戦うのは危険だと判断した長月は、本隊と合流を提案しようとした、その時だった。
「・・・・・・? 何だ・・・・・・風切り音・・・・・・?」
「っ、あれを・・・・・・!」
頭上で妙な風切り音が聞こえたので、その方向を見る二人。その方向には、まるで獲物を探す蝿のように飛ぶ銀色の物体が。深海棲艦の偵察機だ。
「拙いな、気づかれたか・・・・・・! 仕方ない、初霜。本隊に合流要請、連中と一戦交えるぞ!!」
「わかったわ。無線封鎖解除、暗号電文『ハチノス ツツカレタ』!」
「りょうかいです!!」
初霜の船員妖精が暗号電文を打っている間、長月は自身の主砲―12サンチ単装砲の弾倉を確認する。
シリンダー型の弾倉内に、弾丸は八発全て装填されている。予備の弾薬も十分。何時でも戦える状態だ。
「右! 砲雷撃戦用意ッ!!」
「見てなさい・・・・・・!!」
岩陰から飛び出した二人は、接近しつつ主砲を放つ。それに気づいた深海棲艦達も、それぞれ主砲で応戦。それによって戦端が開かれた。
「そこだっ!!」
長月が両手に持った12サンチ単装砲を発砲し、放たれた砲弾が突撃する二級の鼻先に着弾する。
しかし、有効射程外からの駆逐艦の砲撃では、同じ駆逐艦であっても大した打撃にはなっていないようだ。
「てきこうくうたい、せっきんしてきます!」
「迎撃する! 機銃の操作、任せるぞ!!」
「りょうかいです!」
その最中に、接近してくる深海艦載機。敵艦隊の後方に陣取っていたヌ級の物だ。
それを見た長月が檄を飛ばし、搭乗している船員妖精が機銃座に着いて対空射撃を開始。彼女自身も12サンチ砲を上空に撃つ。
運悪く砲弾の直撃を受けた敵機は火の玉となって墜落していくが、殆どは弾幕をかいくぐって肉薄してくる。
無誘導弾が至近距離で炸裂し、まき散らされた水しぶきと弾丸の破片で少しずつ削られていく中で、長月は初霜に呼びかけた。
「くっ・・・・・・初霜ッ! 大丈夫か!?」
「大丈夫です! それにしても・・・・・・嫌な光景ね・・・・・・!」
それに対し、自らも両手の主砲を乱射しながら答える初霜。二人の脳裏には、場所こそ違えどかつての軍艦としての記憶がフラッシュバックしていた。
長月はコロンバンガラ島で座礁した時の。そして初霜は、文字通り世界の歴史そのものを変えた、『あの戦い』の記憶が、明滅しながら過ぎ去っていく。
「でも、坊の岬に比べたら序の口だわ!」
「ああ。この程度で答えていては、睦月型の名折れだ!」
敵は艦載機だけでは無い。敵機の迎撃を機銃射手の妖精に任せ、二人は接近中の敵艦隊を一瞥。戦闘を開始した。
――――――
「せっこうより、あんごうでんぶんじゅしん! 『ハチノス ツツカレタ』!!」
「了解よ。すぐに水上機隊を・・・・・・!」
「あー、ちょいと待ってくれる?」
長月達が敵艦隊と交戦を開始したことは、千歳ら本隊にも既に伝えられていた。彼女はすぐさま瑞雲を出そうとするが、それを止める艦娘が一人。隼鷹だ。
「どうしたんです?」
「敵さんの中には空母がいるのがわかったんだろ? だったら、どうあがいたところで
「そっ、それは・・・・・・」
千歳には彼女の言わんとしていることが痛いほどに理解出来た。
瑞雲は確かに汎用性は高い。敵に航空兵力が無ければ、十全にその能力を活かすことができる。だが、どう足掻いたところで所詮は水上機でしか無いのだ。離着水のためのフロートは、航空機同士の巴戦においては致命的な足かせとなりうる。先のトラックでの戦闘で、彼女はそれを思い知らされていた。
「それじゃあ、そっちはどうなのよ? 何か策でもあるわけ?」
まるで千歳の心情を代弁するかのように、千代田が苛立ち混じりに隼鷹へ詰め寄る。
それに対し隼鷹は只一言。
「だからアタシを提督は選んだんだよ」
そうとだけ答えると、腰の艤装に引っかけていた巻物を取り出して留め紐を解いた。
巻物の中身には上から見た航空甲板の様な絵と何やら摩訶不思議な呪文が書かれており、これまでに無い異様さを醸し出している。
航空母艦型の艦娘の多くは、弓を用いて艦載機の元である矢を射出する。それはどうやら共通認識らしく、旧一航戦、二航戦だけでなく、五航戦から一部の軽空母も含めて大半はこの形式を取っている。
だが、彼女。飛鷹型航空母艦二番艦の隼鷹は、それらとは異なっていた。
「航空攻撃による援護だから、艦攻に、露払いのための艦戦。確か戦艦もいるって話だから、死角狙いで艦爆も混ぜて、と・・・・・・」
直前まで見せていた酔っ払いの顔はなりを潜め、徐々に艦娘として、戦う者の顔へと変わっていく彼女。ブツブツと考えを口に漏らしつつ、懐から航空機の様な形の紙人形を取り出すと、広げた巻物に並べていく。
「神州詔勅、悪鬼覆滅、急急如律令!!」
その一言と共に、巻物を持つ手とは逆の手に薄紫色の炎が点り、彼女はその指先で五芒星を中に描く。
すると、巻物は独りでに宙へ浮き、紙人形達はそれぞれ九六艦戦と九七艦攻、九九艦爆へと変身したのだ。
「本当は天山とか、流星とか欲しかったんだけどねぇ・・・・・・。まあ、無い物ねだりしてもしょうが無いか。攻撃隊、発艦しちゃって!!」
そして隼鷹の号令一下、実寸大の航空機と同じように次々と飛び立っていく。その速さは、瑞雲とは比べものにならないくらい速かった。
「ほれ、ぼさっとしてないで。奴さんの艦載機の数も判らないんだし、援護頼むよ」
「わ、判ってます! 千代田、瑞雲隊を出すわよ!」
「うん! 各機、発進して!!」
隼鷹に促され、千歳と千代田も自前のカタパルトから瑞雲隊を発進させていく。
そして航空隊が敵艦隊の出鼻を挫き、長月と初霜が無事に本隊へと合流するまで、さほどの時間は要さなかった。
――――――
「皆、良くやってくれた、感謝する」
千歳ら偵察隊が帰還した後、徹心はすぐさま鳥海を旗艦にした攻撃艦隊を編成。瞬く間に出撃させ、敵艦隊を撃滅することを成功させた。
ここまで円滑に事を運ぶことが出来た功労者として、彼女らをこうして労っていたのである。
「私なんて・・・・・・。正直、本職の空母との差を思い知らされましたよ」
「ホント。早いところ練度を上げて、私達も空母になりたいわ・・・・・・」
謙遜する千歳に対し、千代田は悔しさを滲ませている。無理も無い。彼女ら二人だけでは、無事に帰れるかどうかも怪しいことを、隼鷹の力によっていともたやすくやってのけられたのだから。
「まぁ、大したことないけどさ。けど、意外と行けてんだろ、アタシ? 結構、艦載機能力も高いしさ?」
「自信を持つのも良いが、持ちすぎるといずれ足下を掬われるぞ」
『へへん!』、と得意げに鼻を鳴らす隼鷹を、徹心は窘める。
連戦連勝が続くと気が緩み、そこから敗北の連鎖が始まることも十分にあり得る事は、皮肉にも彼ら連合艦隊が近年では最たる例であることを、彼は十分理解していた。それ故の事である。
「まぁ、偶には成果を誇っても罰は当たらないって。これがさ」
「駄目とは言わないが、常識の範囲内で頼むぞ」
手に持っていた徳利を掲げる彼女を見て、徹心は多少呆れながらも、そう釘を刺して執務室を後にした。
「さて、と。ささやかだけど、祝勝会と行こうかね?」
どうやってしまっていたのか、そう言って懐からぐい飲みを取り出す隼鷹。数は全部で三つ。彼女はそれらに徳利の中の酒を注ぐと、その内の二つを千歳と千代田に手渡した。
「ほんじゃぁ、乾杯! 二人も飲みなよ」
「それじゃあ、遠慮無く頂きますね」
「い、良いのかなぁ・・・・・・こんなところで・・・・・・」
隼鷹からぐい飲みを受け取ると、千歳はそれに口を付けたが、千代田は少し躊躇った。それのおかげか、目線の先の呑兵衛がイヤらしい笑みを浮かべていたことに、彼女は先んじて気がついてしまった。
「飲んだね? それじゃあ、アタシらは晴れて共犯者、って訳だ」
「・・・・・・っほっ!? 隼鷹さん、謀りましたね!?」
「もう。好意だからってお姉はホイホイ受け取りすぎよ」
「まぁ、良いじゃ無いのさ。それよりも、さ。同じ艦隊に務める仲間なんだから、よそよそしいのはちょっとね」
そう言って、ばつの悪そうにほほを掻く隼鷹。彼女なりに艦隊に馴染もうとしている事を感じ取った千代田は、ぐい飲みに口を付けると、そのまま注がれた酒を飲み干した。
「これで、私も共犯者ね」
「お! いける口じゃないか、千代田も」
「千歳お姉の妹だもん、これくらいはね!」
「飲んじゃった後で言うのもアレですけど、隼鷹さん、今後はこう言うのは駄目ですよ」
「わーってるって。ばれたら今度こそ
「ふふ、それもそうね。じゃあ改めて・・・・・・よろしくね、隼鷹」
「私も。これから頑張っていこう!」
「応ともさ!」
そう言って笑みを浮かべながら差し伸べられた二人の手を、隼鷹はしっかと握りしめた。母艦型の艦娘同士の友情が、ここに芽生えた瞬間だった。
そして三人は、場所を千歳の部屋に移して酒盛りを続行するのだが、そのせいで泥酔して翌日の出撃にそろって遅刻してしまったのは、また別のお話。
「―全力で参ります!!」
「―問題は・・・・・・」
「―こんな艦娘、『見たことが無い』ですよ・・・・・・!!」
次回、『無垢なる戦艦』。
真の幸運は、在ることか、果てることか・・・・・・。
【登場人物紹介】
〈霞〉
パラオ所属の艦娘の一人。現状では、一番型が新しい艦娘でもある。
当初は徹心の指揮に不信感を持っていたが、現在は一応指示は聞くようになっている。
艦娘となったころからパラオに所属しており、レイテ戦役や第二次鉄底海峡攻防戦にも出撃経験があるほか、これまでの泊地司令官を知る数少ない人物の一人である。