名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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書きたいことを書き連ねていったら、まさかの二万字超えって・・・。

今回は三分割してお送りします。

それでは、どうぞ


第二章・第四話:雲にたゆたう龍の瞳・前編

☆★★☆

 

 

「・・・・・・ツイてないわね」

 

 暗礁地帯の岩陰で敵をやり過ごしつつ、胡粉色の髪の艦娘―雲龍は毒づく。

 彼女は追い詰められつつあった。辛うじて追っ手は振り切ったものの、今度は深海棲艦の群れに遭遇。戦闘もそこそこに、ここまで逃げてきたのだ。

 

「・・・・・・ホント、ツイていないわね・・・・・・」

 

 もう何度目かも判らない毒を吐くと、彼女は島影に沿って移動を続ける。どのみち、護衛のいない空母には、逃げる以外の選択肢はないのだから。

 

――――――

 

「情報通りなら、この辺りの筈だけど・・・・・・」

 

 その一方で、足柄が率いるパラオ艦隊は、ある任務のため、東部オリョール海の捜索を行っていた。

 

「神通、そっちはどう?」

「駄目です。何も・・・・・・」

「長良は?」

「こっちも全然。子猫一匹いなかったよ」

「・・・・・・参ったわね。早いところ見つけないと、今後に支障が出そうだし・・・・・・」

「足柄さーん! いましたよぉー!!」

 

 足柄としては、他の任務もある以上、これ以上時間を掛けるわけにはいかないと思っていた。そのため、一度捜索を打ち切ろうとしたところで、初霜が彼女の元へ駆け寄って来る。

 

「いた? どこに!?」

「この先の入り江です。丁度投錨している、今がチャンスです」

「良ぉーし! それじゃあ、そこまで案内して」

「わかりました!」

 

 足柄の指示の下、初霜の言う入り江へと足を運ぶパラオ艦隊。岩陰から彼女が顔を出して覗いて見ると、そこには深海棲艦の集団が。

 

「ヌ級が2。チ級が3。後は駆逐艦が7隻に・・・・・・ビンゴ! 『荷物持ち』が3!」

「当たりみたいね。摩耶、狙撃できるかしら?」

「おう! ただまあ、こう言うのはアタシより、鳥海の方が得意なんだけどな・・・・・・」

「仕方ないわよ。彼女、今週の秘書艦だもの。あ、肩貸すわね」

「サンキュー、足柄。これなら・・・・・・」

 

 足柄の肩を台座代わりに、摩耶は主砲の狙いを定める。その照準の先には、『荷物持ち』と呼ばれる深海棲艦。大層な識別名が与えられてはいるが、実際の所は背中に箱のような物体がくっついただけの駆逐艦だ。

 足柄達に与えられた任務。それはこの『荷物持ち』をしている駆逐艦級が度々目撃されている、東部オリョール周辺。そこにあると言われている深海棲艦の補給線の調査と、その破壊であった。

 

「・・・・・・いけるッ!!」

 

 摩耶の腕に装備された20.3サンチ連装砲が火を噴く。放たれた砲弾は真っ直ぐに『荷物持ち』へと吸い込まれていき、その黒い体躯を貫いた。

 体内の何かが誘爆したのか、それによって爆散する『荷物持ち』を見て、襲撃に気づく他の深海棲艦達。彼女らは、残る二隻の『荷物持ち』と共に入り江から脱出を図ろうとする。だが、その針路は入り口に展開したパラオ艦隊により、阻まれた。

 

「一匹たりとも逃がさないわ!! 突撃よ!!」

「『了解!!』」

「うへぇ。久しぶりの出撃だからって、張り切りすぎだぜ・・・・・・」

「まあ、こう言うのは嫌いじゃ無いけどね!」

 

 足柄の号令一下、突撃する艦娘達。一応は調査任務の筈なのだが・・・・・・どうも彼女は『荷物持ちがいる=補給線があるのは明らか≒任務達成!』と認識しているようだ。

 自らも長刀片手に駆逐艦をなます斬りにしつつ、魚雷でさらにもう一隻、『荷物持ち』を吹き飛ばす。

 

「これで・・・・・・お終いっ!!」

「――――――!?」

 

 長良の放った14サンチ砲がチ級の額を貫き、同時に放っていた魚雷が炸裂。海底へと叩き落とす。程なくして、敵艦隊の撃破を終えたパラオ艦隊は、その入り江を調べ始めたのだが・・・・・・

 

「・・・・・・あっちゃぁ。ちょっと派手にやり過ぎたかしらね」

「三隻とも木っ端微塵、ネジ一つ残ってないじゃねぇか!」

「これ、始末書で済むのかしら・・・・・・」

 

 結果は惨憺たるもの。摩耶の言ったとおり、『荷物持ち』はいずれもバラバラに粉砕されてしまっており、情報に出来そうな物は何一つ残っていない。

 その後も、他の深海棲艦残骸や、入り江の周辺などを調べたが、補給線に関する詳しい情報はついぞ得られなかった。足柄も諦めて、撤収指示を出そうとしたその時。今度は響が彼女の元に寄ってきた。

 

「足柄、あそこの砂浜に艦娘が倒れていたよ」

「艦娘が? どうしてまた・・・・・・」

「判らないが、先ほど神通が戦闘の跡を見つけただろう? たぶん、それじゃないかな」

「ほっとくわけにも行かないわね。長良、響ちゃんを手伝ってあげて」

「了解っ!」

「それにしても、最近厄介ごとばかりが転がり込んでくるわね、ウチの泊地には・・・・・・」

 

 長良達二人が戻ってくるまでの間、足柄は独りごちる。南海の空は、いつものように太陽の光が照りつけていた。

 その様子を、彼女達の死角から覗く陰が二つ。

 一つは、パラオ泊地が保有している物と同じ型の指揮船。もう一つは、栗色の髪を後頭部でまとめた、白と茶色のセーラー服を着た艦娘―敷波だった。

 

「この辺りに逃げた筈なんだが、よりにもよって他の艦隊と鉢合わせとは・・・・・・。敷波、あれがどこの連中か判るか?」

「えっと、ちょっと待って・・・・・・。フクロウの部隊章てことは・・・・・・ああ、第四十四戦隊だわ、あれ」

「と言うことは、懲罰艦隊の連中ですか・・・・・・。これは好都合。正規の艦隊だったらどうしようかと思いましたが、いくらでもやりようがある」

「ねぇ、司令官・・・・・・」

 

その敷波が、指揮船に乗っている彼女の司令官に問いかける。

 

「本当に、あたし達のやってる事って、正しいのかな・・・・・・。普通に戦うんじゃ無くて、『あんなモノ』を使ってまで、敵を倒すことが、さ・・・・・・」

「何だ、そんなことですか」

 

司令官は肩すかしを食らったのか、憮然として答える。

 

「貴女がそのことを考える必要は無い。深海棲艦を倒すのが、艦娘の使命でしょう?」

「そりゃまあ、そうだけどさ・・・・・・」

「だったら、余計な事を考えない方が良い。『犠牲は小さく、戦果は大きく』。戦争の基本です」

 

――――――

 

「それで、提督。彼女は誰か判った?」

 

 艦隊が謎の艦娘を連れて泊地へ戻って来た翌日。執務室にて足柄は、彼女の正体について徹心に聞いていた。

 

「いや、所属を示すような物は何も。部隊章も付けていなかった」

「そう・・・・・・。それにしても、参ったわね」

「何がだ?」

「また榛名みたいに、新しく『顕現』した艦娘だったら、どうするつもりなの? さすがに二隻目は、ラバウルも見逃してくれなさそうだし」

「そうだな・・・・・・」

 

 書類に署名と押印をしながら、彼は続ける。

 

「ひとまずラバウルに引き渡して、その後で元の所属へ返す。飼い犬みたいに、拾った物をホイホイ貯め込む訳にもいかないからな」

「あら? 隼鷹の事を『思わぬ拾い物をした』と言ったのは誰かしら?」

「あれは言葉の綾というものだ。別に、そう思っていた訳じゃ無い」

「ふぅん。まあ、好意的に受け取っておくわ」

「失礼します」

 

 足柄が意味深な笑みを浮かべて始めたところで、ノックの音が執務室に響く。それと共に、鳥海がドアを開けて入ってきた。

 

「司令官さん、ブイン基地の方がお越しです」

「ブインから?」

「はい。どうしますか?」

「・・・・・・良し、会おう。応接室に通しておいてくれ」

「わかりました」

「提督、待って。私も立ち会うわ」

 

 鳥海がその場を辞した直後、同行を希望する足柄。何か含むところがあるのか、いつもの余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な笑みは無かった。

 

「多分だけどあの子、その艦隊から逃げてきたんじゃ無いかしら?」

「逃げてきた?」

「提督も兵学校で習ったと思うけど、あの戦争では、本来想定されていなかった役割をこなさざるを得なかった艦もあったことは知ってるわね?」

「ああ。ビキニ環礁海戦を最後に、対深海棲艦戦闘に通常の艦を主戦力として用いなくなってからは、そう言うのは無くなったと聞いているが」

「ここから先は、私の推論も入るのだけど・・・・・・」

 

 そう言って彼女は、自身の考え出した仮説を述べ始める。

 要約するならば、艦娘となってからも本来の役割が果たせず、それを上官に強要された結果、反発して飛び出してきた可能性がある、と言った所である。今でこそ艦娘達の間には明確な役割分担が浸透しているが、それでも艦娘の数は有限である以上、どうしても他の仕事をやらされる者達も多い。

 

「ざっと艤装を見た限りだと、たぶん彼女は空母だわ。空母ともなると、結構根深かったりするわよ。主に二つの理由で」

「二つの理由?」

「一つは、『最後まで報われること無く、使い潰された空母』。もう一つは、『そもそも軍艦としてすらも働けなかった空母』。どっちも深刻よ。今活動中の連中は、ほぼ全員がこのいずれか。あるいは両方に起因する傷を、理性その他で強引にねじ伏せている状態だもの。だから、気をつけた方が良いわよ。場合によっては、墓穴を掘ることになるから」

 

 そう言って、足柄も執務室を後にしていく。後に残された徹心も、今し方処理しようとしていた書類に判を押すと、居住まいを正して応接室へと向かった。

 

 

☆★★☆

 

 

「お忙しいところすいません。ブイン基地麾下、兵装実験戦隊司令官の宇野進一大佐です」

 

 応接室にて、件の人物―宇野大佐と対面したとき、自分は直感した。彼は間違いなく、『腹の中に何か抱えているだろう』と。

 以前、トラック泊地救援を自分達に指示しに訪れた占部大将と比べると、愛想笑いが下手くそに見えたのが、その理由だ。傍らに立つ足柄も、同じ事を考えているのか、その心情は複雑なのだろう。それでも顔に出さない辺りは、轟沈したことがあるとは言え、古参の重巡と言った所か。

 

「第四十四戦隊司令官の東郷徹心、地位は中佐です。それで・・・・・・何の用件ですか?」

 

色々と含むところはあるが、まずは彼の目的を明らかにしなくてはな。若干遜る(へりくだる)語意を含めて、自分は切り出す。

 

「実はですね。私の配下の艦娘、雲龍を見かけませんでしたか? 過日の戦闘で行方不明になってしまって」

「雲龍・・・・・・? 知らない名前ですね」

「またまたご冗談を。中佐の噂は、ブインにまで聞こえてきますよ」

 

 胡散臭さと嫌みたらしさを混ぜ込んだような笑顔で続ける宇野大佐。顔全体では笑っているようだが、どうも能面の様な、貼り付けたような笑顔。やはり彼は、少なくともこちらを同列とは見ていない様だ。

 

「海軍兵学校本科を主席で卒業。特に戦略、艦隊運用戦術に優れ、盤面を用いた模擬戦闘では五十連勝。現在もそれは破られていない。卒業後に配属された旅順軍港にて、深海棲艦の襲撃をかいくぐって、軍民合わせて三万人近くを無事、本土へと送り届ける。その際に四人の駆逐艦型艦娘を指揮し、その手際と功績から付いた渾名は・・・・・・『旅順の英雄』」

 

そして、若干芝居じみた所作で、彼はそう締めくくる。

 

「第七十七期生の中でも特に期待され、相応に応えてきた貴方がなぜ、こんな辺鄙(へんぴ)なところで懲罰艦隊の指揮官に収まっているのか。私は不思議でなりません」

「貴方は、何が言いたいのですか・・・・・・?」

「つまりですよ。それだけの成績を収めた貴方が、これまでに就役していた艦の名前を忘れるはずが無いと言いたいんですよ。機密中の機密として秘匿されていた、大和型三隻を除いてね」

 

 なるほど、そう来たか・・・・・・。認識を改めるとしよう。この男、思っていた以上に狡猾だ。

 

「わかりました、正直に話しましょう。マル急計画の下、全部で三隻が建造・就役した航空母艦。その雲龍は、作戦行動中に喪失。同型艦である天城と葛城は、呉事変で大破着底。いずれも、その後の『大掃除』で艦娘として保護されており、現在も連合艦隊に所属。とりあえず、自分が知っているのはこんな所です」

「ええ、概ねその通りです」

 

 そう言って宇野大佐は、一枚の紙を懐から取り出す。描かれていたのは、人相書きだ。

 穏やかな顔つきの、髪の長い女性で、髪型は手弱女(たおやめ)よろしく、編み上げる形で一本にまとめている。髪の色は・・・・・・となりに『胡粉色』と書かれていた。『胡粉色』・・・・・・? ああ、そうか。響達が拾ってきた彼女。あれが雲龍なのか。

 だが、虫の知らせか何かは知らないが、どうにも嫌な予感がして成らない。ここは一つ、ぼかしておくか。

 

「判りました。こちらでも、探しておきましょう」

「ありがとうございます! それでは、失礼しますね」

「何かあれば、取り敢えず連絡します。 足柄、大佐を正門までお送りしてくれ」

「わかりました!! 大佐、どうぞ」

「ああ、感謝する。では・・・・・・」

 

 足柄と共に、彼が部屋から退出するのを見計らって、自分は長いすに再び腰を下ろす。

 

「また、厄介事が転がり込んできたか・・・・・・」

 

窓から見える空は、とても青かった。

 

 

☆★★☆

 

 

『兵装実験戦隊』。

 ブイン基地司令部直属のこの部隊の存在意義は、新兵器の稼働データ収集にある。

 艦娘用の新型主砲や電探、艦載機などを試験運用し、それによって得られた情報を分析。そしてそこから更なる改良を加えていくのが、その役割だ。

 

「ねぇ、提督。雲龍さんは見つかった?」

 

 その実験戦隊の指揮官である宇野大佐の執務室にて、彼の秘書艦―軽空母型の瑞鳳が問うてきた。

 

「はぐらかされてしまいましたよ。ですが、彼は堅実ではあっても、賢明ではなさそうですねぇ」

 

『誤魔化すのが下手でしたし』、と。彼は言う。

 

「それに、判る範囲で所属している艦娘達も調べましたしね。随行していた足柄は、横須賀鎮守府時代に轟沈の後、建造配属。総旗艦の扶桑は、命令違反で舞鶴から左遷。それ以外にも、大なり小なり問題を抱えている者ばかり。とても興味深いです」

「興味深いってさ、『アレ』を使うことについても?」

「ええ、その通りです。何かと責任を押っ被せられる懲罰艦隊なら、色々と無理難題(ゆうずう)が効きそうですし・・・・・・!」

 

 そう言って、狂気に満ちた笑みを浮かべる宇野大佐。いや、彼だけでは無い。彼の目の前にいる瑞鳳もまた、同様の笑みを浮かべていたのだ。

 

「提督ぅ。新兵器って良いよね、やっぱり♪」

「ええ、ええ、良い物ですよ、兵器というのは。引き金を引く。(ボタン)を押す。ペダルを踏む。たった一つの動作で、それ以上の命が消えるのですから・・・・・・!」

 

 だが、彼らは気づいているのだろうか。消えていく命の中には、『味方』も含まれている事が・・・・・・。

 

 

 

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