名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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今回は長いので、三分割してあります。

前編と併せてどうぞ。


第二章・第五話:雲にたゆたう龍の瞳・中編

★☆☆★

 

 

「そうか、そんなことがあったのか」

 

 宇野大佐との面会後。入渠棟へと向かった自分は、響達が拾ってきた艦娘―雲龍から話を聞いていた。

 新型電探の試験運用中に、運悪く深海棲艦隊に遭遇。実戦用の装備を殆ど持ってきていなかった所為で艦隊は散り散りに。自身は単独で逃げていたところで、力尽きて例の海岸に流れ着いた、とのことらしい。

 

「ええ・・・・・・。拾ってもらえた事に、感謝するわ。ありがとう」

「それにしても、とんだ場面に出くわしちゃったわね。ねぇ、雲龍」

「何かしら?」

「貴女、実戦経験はあるの? 話を聞く限りじゃ、まるでアレが初陣みたいな事に聞こえるんだけど」

「・・・・・・無いわ」

「は?」

 

 足柄の質問に対し、雲龍が答えるのだが、それを聞いた彼女は酷く間の抜けた声を出す。

 

「何度か演習や模擬戦はやったことはあるけど、実際に深海棲艦と戦ったことは無いわ。ついでに言っておくと、単なる空母だった頃も実戦に出たことは無いわよ」

「・・・・・・信じられないわ・・・・・・」

 

 あの戦闘が事実上の初陣だったと言うことが、足柄には信じられなかったのだろう。

 一度轟沈しているとは言え、彼女は横須賀鎮守府時代、レイテ戦役にも主力の一人として出撃したことがあるベテランだ。そう言った意味では、雲龍がまるで異世界の艦娘の様に見えたのかもしれない。

 

「それはともかくだ。雲龍、貴艦の今後についてなのだが・・・・・・」

「提督、ちょっと良いかい?」

 

 話題を変えるべく切り出した、丁度その時。ノックの音と共に、病室に入ってくる者が。

 意外にも、それは隼鷹だった。暇さえあれば酒を口にしている彼女だが、珍しく今は素面(しらふ)だ。何かあったのだろうか・・・・・・?

 

「悪いけどさ、技術部まで来てくれる? 保住さんがなんかヤバイのを見つけたらしくってさ・・・・・・」

 

 

――――――

 

 

 技術部の一画にある艤装格納庫。そこへ入った自分を出迎えたのは、通夜の様な消沈とした空気だった。いや、消沈と言うのはこの場合正しくないのかもしれない。

 作業机の上には、ミニチュアの艦載機らしき物が置かれているのだが、それを囲む保住主任と、千歳ら母艦型の艦娘達の視線は、静かに怒っていた。

 侮蔑、憎悪、嫌悪。おおよそ人に向けるそれの中でも、取り立てて負の感情が強く込められていた。

 

「提督、来ましたね」

「隼鷹に呼ばれたのだが・・・・・・。一体何が?」

「説明するよりも見た方が早いわよ。はい、これ」

 

 そう言って、千代田がその艦載機を自分に突き出してきたので、手を取って観察する。

 艦載機とは言ってみた物の、ざっと見たところでは、おおよそ航空機とは思えない外見だ。後部には噴射口らしき物が付けられているが・・・・・・噴進砲弾だろうか?

 だが、砲弾だとしたら妙だ。それだったら、主翼も尾翼も、風防も操縦席もいらないはずだ。待てよ、風防・・・・・・?

 

「まさか・・・・・・!」

「ええ、私も噂でしか聞いたことはありませんが。『桜花二二型』。その、艦娘仕様です」

「と言うことは、特攻兵器か・・・・・・」

「おかしな話ですよ、これは」

 

 主任の傍らにいた千歳も、苛立ちを隠すこと無く吐き捨てるように言う。

 

「『あの戦争』でも、大半は疑問視していた代物を、よりにもよって艦娘用の装備に作り替えるなんて・・・・・・。狂っているわ!」

「千歳は、こいつを知っているのか?」

「実際に使ったことはありませんよ。ですけど、これの同類なら使わされそうになったことがあります」

「同類?」

「人間魚雷『回天』。甲標的母艦に改装された時に、使わされそうになりましたよ。それを拒否して上官をひっ叩いたら、翌日にはここへの転属命令です。後は、提督のご存じの通り。艤装もあっちに捨てて来たので、普通の水上機母艦からやり直しですが」

 

 本土にはそんな部隊もあったのか・・・・・・。

 講和条約の締結に合わせて、海軍ではその手の兵器の開発・生産は禁止されたはずだが・・・・・・。どうやら、向こうは向こうで大変らしい。

 

「それで提督、これはどうします?」

「どうするもこうするもないだろう。廃棄するしかない」

 

 これはとんでもない火種だ。下手をすれば、大爆発を誘発しかねない。それ以前に、これに乗っている妖精にも悪いが、それで死なれては、何より艦娘達の夢見が悪くなる。

 

「この件に関しては、箝口令を敷く。これは、自分達だけの秘密だ。良いな?」

 

 自分のこの言に対し、彼女達は無言で頷く。同期の一人が『戦争という物は、自分の命を盆に載せる博打だ』と言っていたが、あいつは同時に、こうも言っていた。

 

『だがな。勝っても負けても失うだけなら、それはもう博打じゃない。単なる無駄だ』

 

 

――――――

 

 

 結局、雲龍の一件は、差し支えない程度の情報を伏せた上でラバウルへと報告したのだが、先方から思いも寄らぬ命令が送られてきた。

 

「『原隊判明までの間、正規空母型艦娘・雲龍は貴艦隊の預かりとし、練成に努めさせよ』、か・・・・・・」

「実験部隊所属とは言え、実戦経験が無いから、妥当な所かしら?」

 

 足柄の言うとおりだ。

 深海棲艦の物量は非常に厄介な物で、『合衆国海軍の実働戦力を全て合わせても、奴らの方面艦隊にすら及ばない』、『一匹出てきたら、一〇〇匹は潜んでいると思え』と言ったように、笑えない冗談まで流布している始末だ。

 そのため各国で様相を異にするものの、概ね艦隊の練度と戦術に大きく依存する形となっている。要するに、人材を遊ばせておく余裕が無いのだ。

 それ故、雲龍のような高性能ながらも実戦経験の少ない艦娘の練成は、急務と言えた。

 

「足柄。雲龍は今、どうしている?」

「隼鷹達と一緒に演習中よ。本格的な航空撃滅戦の訓練が出来るって、はしゃいでいたわ」

「そうか・・・・・・」

 

 彼女にそう言われて窓の外を見ると、確かにやっている。

 五月雨達が対空火器を向けながら、迫り来る艦爆や艦攻からの攻撃を回避・・・・・・しようとしたら五月雨が途中で転んで集中攻撃を受けて撃沈判定、か・・・・・・。心なしか、雲龍も嬉しそうだ。

 だが・・・・・・彼女も、いつまでもここへいられる訳では無い。

 ラバウルによって元の所属が確認されたら、パラオを離れる事になる。それだけは、逃れようのない事実だ。

 

「それよりも足柄、例の調査の方はどうなっている?」

「多摩達がバシー島で見かけた、赤く光る深海棲艦ね? そっちは今、千歳達が探し回ってるわ。万一に備えて、榛名と神通が護衛に付いてる」

 

 これと同時に、パラオへと下されたもう一つの命令。それが足柄の言ったとおり、新種の深海棲艦の調査任務だった。

 通常深海棲艦は、目などの発光部分が青白い光を帯びているが、多摩達の証言によると、それらが赤く光る個体がいたと言う。

 戦闘能力も他と比べて高く、魚雷が直撃したにもかかわらず、撃破できなかったとのことだ。もしその個体が大量に出現した場合、今後の作戦に支障が出かねない。

 

「何にせよ、詳細は千歳達の帰還待ちね」

「ああ。場合によっては、雲龍の実戦投入も視野に入れねばならない」

「本気なの? もし彼女が沈んだら、責任はこっちが持たされるのよ!?」

「無論、そのつもりは無い。あくまでも、保険としてだ」

 

 そう。ヌ級もまた、赤く光る個体が現れることは、十分に考えられる。

 もしそれが現実の物のなったら、ここにいる千歳や千代田、隼鷹だけでは対応しきれないだろう。

 その時は・・・・・・!

 

 

☆★★☆

 

 

 私の名は雲龍。

 ここの提督達には伏せているけど、所属はブイン基地兵装実験戦隊。パラオにこうして身を置いているのも、一時的な措置に過ぎない。

 

「良し、第二小隊は全機雷装。相手の針路に回り込んで」

「来るなら来なさい!!」

 

 そして今、私はここの軽空母―隼鷹に誘われて、駆逐隊の防空演習に付き合っている。

 私が発進させた艦攻隊や艦爆隊による攻撃を、様々な動きで彼女達は回避していく。ただ単に平行移動や之字運動をするだけでなく、その場で跳んだり、海面を蹴って進行方向とは真逆の方向に避けたり、時には機銃や爆雷で魚雷を迎撃されることもあった。

 白兵戦の訓練にも力を入れているみたいだし、ここの提督は、艦娘独自の戦術を模索しているのかしら? 私は実戦経験がからっきしだから、良くは判らないけど、これだけは言える。

 

「普通じゃ無いわね。提督も、艦娘も・・・・・・」

「んあ? 雲龍、何か言ったかい?」

「あ、ううん。何でも無いわ。ねえ、隼鷹」

「何だい?」

「隼鷹は今、幸せ?」

 

 普通じゃ無いと言えば、この艦隊もだわ。

 連合艦隊第二艦隊麾下、第四十四戦隊。古くは今から十年以上前に設立された、艦娘の運用を専門とした部隊。

 パラオ泊地を根拠地とするこの艦隊は、これまで通常兵器との混成運用が主体だった艦娘の運用理論に変革をもたらした、精鋭部隊。

 今は舞鶴に司令部が置かれている、第十艦隊の前身となったこの部隊も、時代と共に艦娘の質は低下していき、今では『懲罰艦隊』と陰で揶揄される日陰者集団。

 だけどここの艦娘達は、決してそのことに悲観していない。流石に、懲罰で転属してきている人たちはそれほどでは無いけれど、それでもその事でふて腐れている者は無く、皆活き活きとしている。

 

「まあ、アタシはここへ来てそう長いわけじゃ無いけどさ。少なくとも、不満は無いかな?」

 

 私の質問に、徳利を片手に応える隼鷹。・・・・・・真っ昼間から呑んでて良いのかしら・・・・・・?

 

「酒は旨いし、提督は割と寛容だし。まあ、流石に仕事中に呑んだら怒られたけどね」

 

 そう言って、彼女は苦笑いする。それはまあ、当然だとして。彼女の屈託の無い笑顔は、そう思わせるには充分だった。

 

「私も、ここへ配属されれば良かったわ・・・・・・」

「最初からかい? 無理無理! ここへぶち込まれるのは、よっぽどのことをしないと!」

「たとえば?」

「例えば、って・・・・・・。そうだなぁ・・・・・・雲龍だったら、提督を爆撃すれば飛ばされるんじゃ無いの? クハハァッ!」

「・・・・・・よしてよ、冗談は。そのくらいにして、そろそろ再開しましょう」

「へいへい。まあ、例え話だからさ、忘れて良いよ」

 

 ともかくまだ演習の時間は残っているから、早いところ終わらせて提督に報告しないとだし。

 それにしても爆撃、ね・・・・・・。良いことを聞いたわ。

 

「っと、艦隊が帰ってきたみたいだね。およ・・・・・・?」

 

 ふと遠くを見ると、こちらに向かって航行する影が四つ。千歳達だと思うけど、何だか様子が変・・・・・・?

 

「ちょっ、これは拙いよ・・・・・! 千代田の奴、大破してる!!」

「えぇっ・・・・・・!?」

 

 近くまで寄ってきたので判ったけど、茶髪の水上機母艦。確か、千代田だったかしら? 彼女が神通の肩を借りながら戻って来たときに、私は言葉が出なかった。

 砲弾の直撃を受けたのか、艤装の右半分は右腕と一緒にごっそりと無くなっており、装束もぼろ切れ同然になってしまっている。

 判ってはいたけど、これが、戦いの現実・・・・・・。

 

「千代田、しっかりして! すぐに修理してもらえるから!!」

「ぅ・・・・・・ぅん・・・・・・」

「担架急いで! 早くッ!!」

「は、はいっ!!」

 

 千代田が担架に乗せられて、入渠棟へと運ばれていくのを見届けた後も、彼女の涙は止まらなかった。

 第一印象でしっかり者だと思っていた千歳が、ここまで感情的になっているなんて・・・・・・。やっぱり、辛いのね。

 

「榛名! 千代田は大丈夫なのか!?」

「提督。ええ、既にドックへ」

「そうか、間に合ったか・・・・・・。良く無事で戻った」

「ですが・・・・・・榛名は、また守れませんでした・・・・・・」

「気にすることは無い。艤装と戦闘装束は消耗品、君たちが無事に戻れば、大勝利だ」

 

千代田が運ばれていったのと同時に、提督が埠頭へと走ってきた。

 そう言えば、宇野大佐は、こうして駆け寄ってくる事は、全然無かったわね・・・・・・。

 あぁ、そうか・・・・・・。仲間を失うことが一番辛いのは、他でもない提督なのね。一人で、命を背負わねばならないのだから・・・・・・。

 

「―・・・・・・今のところ判ったことは、以上です」

「了解した。となると、時間が惜しいな。すぐに攻撃すべきだろうが・・・・・・」

「私の攻撃でも、装甲を抜くことが出来ませんでした・・・・・・。最低でも重巡並みの火力が無いと、厳しいです」

「神通でも駄目か。となると、できる限り火力と精度を高める方向で―」

「それだと索敵機の数が・・・・・・。制空権も考慮しないとですし―」

 

 その提督は、榛名と神通から得た情報を元に、簡単な作戦会議をしている。顔は既に、指揮官のそれに戻っているから、たぶんこっちが作っている方なのかしら?

 だけど彼の作戦は、正確な砲撃が必要である以上、索敵だけでなく制空権も重要になってくる。

 今いる隼鷹と、千歳だけでは不安だし・・・・・・。ちょっと待って、『制空』・・・・・・?

 

「ねえ、皆」

「『?』」

 

 そうだ・・・・・・どちらもこなせる艦娘なら、ここにいる・・・・・・!

 

「その作戦だけど、私も戦力に入れてもらえるかしら?」

 

 この雲龍なら、それができる・・・・・・。いいえ、やってみせる・・・・・・!

 

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