名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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今回は少し冒険しまして、文字通りの未実装、完全オリジナル艦娘を出演させています。

それでは、どうぞ。


第二章・第七話:勇気の賛歌・前編

――――――

 

 

 『強さ』と言われて、諸兄らは何を思い浮かべるだろうか?

 判りやすい物なら財力や権力、少々乱暴だが暴力もそれに含まれるだろう。その一方で、判りにくい物も中にはある。

 これは、その判りにくい『強さ』のお話。

 

「撃ち方、始めてくださぁいっ!!」

「当たれぇっ!!」

「ぽいっ!!」

「やだ、髪が傷んじゃう・・・・・・!」

「長月、攻撃を開始するっ!!」

 

 羽黒の号令一下、駆逐隊が一斉に主砲を発射。赤く光るチ級率いる、深海棲艦の群れに降り注ぐ。

 だがこのチ級は、他者とはひと味違った。何と、自身より装甲の厚いリ級を盾にして突撃してきたのである。

 必然的に、攻撃はリ級に集中する事になるのだが、彼女の装甲は駆逐艦程度であれば耐えられるだけの防弾能力を有している。早々すぐには止まろうとしない。

 羽黒の主砲を足に受けて、それによって転倒したことでようやく止まるが、その時は既にチ級を含め、僚艦は敵を魚雷の射程圏に収めていた。

 

「魚雷・・・・・・!? 回避運動を!!」

 

 羽黒は咄嗟に避けようとするが、もう遅すぎた。

 元々、波が荒れていて航跡が見えにくかったこともあってか、彼女が気付いた時には、すでに回避不能な距離にまで接近を許していたのだ。

 

「きゃぁああっ!!」

「羽黒!!」

「羽黒さん!!」

 

 被弾し、転倒する羽黒。しかも足をやられたのか、すぐには立ち上がれ無い。

 獲物が遂に動けなくなったことを見て、舌なめずりをするチ級。

 ゆっくりと近づいてくる、三度目の『死』を前にして、羽黒は震えが止まらなくなっていた。

 寒さに凍えたかのように、歯を打ち鳴らし、恐怖によって顔が引きつる。それを運んできた相手が、静かに左腕を向けた、その時である。

 

「羽黒、伏せてなさいっ!!」

「えっ・・・・・・?」

「!?!?!?」

 

 彼女にとって馴染みの深い声が響くと同時に、背後から撃ち込まれる一発の砲弾。それは寸分の狂いも無くチ級の胸を貫いていた。

 自らに何が起こったのかも解らぬまま、傷口から黒い炎が広がり、チ級の体はガラス片の様に砕け散った。

 

「大丈夫? 何処をやられたの!?」

「足柄姉様・・・・・・。すいません、足をやられてしまいました」

「仕方が無いわね・・・・・・。艦隊各位、足柄が指揮を引き継ぐわ!! 各艦は二列複縦陣に移行、牽制しつつ後退するわよ!!」

「『『了解!!』』」

 

 砲撃の主は、彼女の姉妹艦にして敬愛する姉の一人、足柄だった。

 羽黒の状態を聞いた彼女は、そのまま指揮権を引き継ぐと、てきぱきと指示を出して艦隊運動を継続させる。その様を羽黒は、何とも言えない気持ちで眺めていた。

 

 

☆★★☆

 

「―では、失礼します。はぁ~・・・・・・」

 

また、やってしまった・・・・・・。

 司令官さんは、私を信じて艦隊を預けてくれたのに、これでもう二回も期待を裏切ってしまった。普通なら、何度も失敗するようでは旗艦を任せてもらえなくなるのが普通なのに、あの人はそれでも、私を信じ続けてくれている。

 期待に応えたい、応えて見せたい。だけど・・・・・・

 

「羽黒、傷は大丈夫?」

「足柄姉様・・・・・・」

 

 執務室を出た後で、足柄姉様に話しかけられました。

 いつも余裕を持って、優雅な立ち居振る舞いをする私の、一つ上の姉。普段は気遣いも出来て、戦いの時は真っ先に吶喊して、必ず戦果を上げて帰ってくる。レイテ戦役でも、かなりの武勲を立てたと聞きます。

 他の二人の姉も、往々にして凄い人たちで、自慢できる姉です。

 一番上の妙高姉様は、索敵も砲撃も雷撃も、白兵戦も事務作業もこなせる才媛。

 二番目の那智姉様も、戦隊旗艦として着実な戦果を上げられる武人として、その名を馳せていました。

 だけど私には・・・・・・何も無い。妙高姉様の様に、副官として司令官さんを支えることも出来ず、那智姉様の様なリーダーシップも無く、足柄姉様の様な戦闘意欲も無い。

 臆病なだけで何も出来ない、『横須賀の妙高四姉妹』、その末っ子として並び称されていた『最初の私』とは、似ても似つかぬ紛い物・・・・・・。

 

「羽黒? 大丈夫なの?」

「はい・・・・・・大丈夫です、からっ・・・・・・!」

「あっ、ちょっと、羽黒!?」

 

 そう思っていると、途端に自分自身が嫌になってきて・・・・・・。私は、逃げるようにその場を後にしてしまいました。

 まただ・・・・・・。また、やってしまった・・・・・・。

 あの時、足柄姉様は私のことを心配してくれていた筈なのに、私はそれに気付かずに、逃げてしまった。

 

「はぁ~・・・・・・」

 

もう何度目か判らないため息を吐いたと思った、その直後でした。

 

「あっ・・・・・・!」

「えっ、きゃぁっ!?」

 

 角から出てきた誰かに、ぶつかってしまいました。その拍子に、その人が持っていた道具も辺りに散乱してしまう。

 

「ごっ、ごめんなさい!」

「大丈夫?」

 

 ぶつかった相手は、扶桑さんだったみたいです。運んでいたのは艤装の部品や工具類。これって、触媒でしょうか・・・・・・?

 

「怪我は無いみたいね。良かったわ」

「あっ、あのっ、あのっ・・・・・・!」

 

 そう言えば、扶桑さんは確か『仏の扶桑』と呼ばれる実力者だったはず。だとすれば、聞くしか無い。

 

「どうすれば、強くなれるんですか!? 教えてください!」

 

 

★☆☆★

 

 

「どうすれば、強くなれるんですか!? 教えてください!」

 

 保住さんの手伝いの途中で、運悪く誰かとぶつかったと思ったら、その相手―羽黒さんからこんなことを言われました。今ひとつ、飲み込めないわね・・・・・・。

 

「えっと、羽黒さん?」

「はい」

 

 羽黒さんの事だから、たぶん戦闘に関することだと思うけど・・・・・・。とりあえず、聞いてみないことには始まらないわ。

 

「どうして、強くなりたいと思ったの?」

「実は・・・・・・」

 

 場所を埠頭に移して、羽黒さんは話し始める。曰く、提督の期待に応えられず、二回も任務を失敗してしまったこと。そして、足柄さんを含め、自身の姉達に対して劣等感を感じ、それのせいで憂鬱(ゆううつ)に。

 それを解消するために自身を鍛えようと考えていたら、たまたま私とぶつかって、それで私に聞くことを思いついた、とのこと。

 

「扶桑さんは、舞鶴で『仏の扶桑』と呼ばれていたんですよね? どうしたら、そこまで強くなれるんですか?」

 

 『仏の扶桑』、ね・・・・・・。その渾名で呼ばれるようになるまで、山城と一緒にがむしゃらにやってきたのが、懐かしいわ。

 だけどあの日、私は無力だった。大切な妹一人守れずして、何が『仏の扶桑』か。悲しくて、情けなくて、とことん無茶をしてきた。

 自分から鉄火場に飛び込むことも、敵の攻撃を避けずに全て受けたことも。単騎駆けならぬ、単艦駆けも何度もやったわね。そして生きて帰ってくる度に、私の身も心も、どんどん荒んでいった。西村提督や、艦隊の仲間達にも、心配ばかりを掛けさせてしまった。

 

「そうね・・・・・・羽黒さんには、大切なものはあるの?」

「大切なもの、ですか・・・・・・?」

 

 だけど私はこのパラオで、ようやく立ち直れることができた。

 あの日、東郷提督が私のことを信じてくれたお陰で、今の私がある。あの人の為なら、どんな戦場でも戦える気がするわ。

 だから、提督の『信頼』を護る為に、私はここにいる。そのことを含めた話しを、羽黒さんは聞き入っていました。

 

「私は・・・・・・」

「まだ見つかっていないなら、ゆっくり探せば良いのよ。私だって、一朝一夕に見つけられた訳じゃ無いもの」

「・・・・・・はい」

 

 そう言って、彼女と別れようとしたその時でした。敷地内に、召集命令を伝えるサイレンが鳴り響いたのは。どうやら、話はここまでみたいね・・・・・・。

 

「扶桑さん・・・・・・!」

「ええ、出撃命令ね。羽黒さん、行きましょう!」

「はいっ・・・・・・!」

 

 

☆★★☆

 

 

「はい・・・・・・大丈夫です、からっ・・・・・・!」

「あっ、ちょっと、羽黒!?」

 

 逃げるようにその場から去って行く妹の様を見ていた私は、内心複雑だった。

 

「あの時の事、まだ引き摺っているのかしら・・・・・・?」

 

 羽黒が実質三度目の誕生を迎えたあの日、よりにもよって私はあんな事を言ってしまったことを思い出した。

 

『貴女、ホントに羽黒なの?』

『えっ・・・・・・?』

『髪型とかはそっくりなんだけど・・・・・・何かこう、違和感があるのよね。私の知ってる羽黒と比べて』

 

 結局あの後、提督に叱責されたから彼女には謝罪したけど、それ以来羽黒との間に溝のようなものが出来た気がする。

 『最初の』彼女は、言うなれば私達三人の性格をそれぞれ混ぜ込んだ様な子だった。

 妙高姉さんのように真面目で、那智姉さんのように凜々しくて、そして私のように・・・・・・えっと・・・・・・闊達(かったつ)な子だったわ。

 駆逐隊の子達からも慕われていて、大抵の人から好かれていた彼女も、レイテ戦役の内の一海戦、第二次マリアナ沖海戦で海底に消えた。

 生き残った駆逐隊の一人、神風によると、自分達をかばった際に受けた攻撃が致命傷になったと言う。最期の最後まで、艦だった頃と同じ生涯だった。

 だけど、今のあの子は・・・・・・。

 

「って、私が湿っぽくなってどうするのよ。提督みたいに、あの子を信じなさい、足柄っ!」

 

 そうよ、そう。人格は違っても、彼女は私の妹であることに変わりは無い。たくさんの奇跡を経て、ようやく巡り会えたんですもの。

 そう思って、歩き出そうとした直後。召集命令を伝える、サイレンの重低音が敷地に響き渡る。

 どうやら、次の出撃が来たみたいね。腕が鳴るわ!!

 

 

――――――

 

 

「集まったようだな。では、作戦を説明する」

 

 司令部施設内にある会議室。そこに居並ぶ艦娘達を前に、提督が説明を始めた。

 

「君たちも知っていると思うが、例の赤く光る深海棲艦に関する続報だ。これまでの調査の結果、これらの個体を『上位種』、国際呼称を『エリート』と定めることが上層部で決定された」

 

 他の個体と比べて数が少ない分、相応に戦闘能力も高い。『選りすぐり(エリート)』とは、よく言った物ね。

 

「今回の作戦は、その上位種に関わるものだ。先日、友軍の潜水艦隊が東オリョール海にて、深海棲艦の群れと遭遇した」

 

 そう言って彼は、指し棒でオリョール海の海図を指しながら続ける。

 

「幸い、捕捉される前に離脱出来たのだが、報告に寄れば推定戦力比は、五対一。最低でも三十隻近い数の敵が集まっていたという」

 

 三十隻、ねぇ・・・・・・。私が鉄底海峡で仕留めた分艦隊が確か七隻くらいだから・・・・・・

 

「一人頭、五、六隻でお釣りが来るわね」

「足柄、いくら何でも無謀が過ぎるぞ。全員が全員、君のような能力を持ち合わせてはいないのだからな」

 

それもそうだったわね。わかっているわよ、それくらいは。

 

「続けるぞ。今回集結したこの集団を、自分はオリョール海における、全ての深海棲艦が集まった物と見ている。これを受けて、軍令部からラバウル経由で、我が艦隊に掃討作戦の指令が下った」

「ねぇ、提督! 先鋒は私にやらせてちょうだい! ねぇ!!」

 

 掃討作戦・・・・・・腕が鳴るわね。これはまた武勲を上げるチャンスだわ!

 

「悪ぃが足柄、今度の先鋒はアタシが貰うぜ?」

「いーえ! 提督はきっと私を選ぶわ。洗練された体躯に重武装。極限まで追求された機能美。何より、私には実績があるもの。譲る気は無いわ!」

 

 先鋒は、私達艦娘にとって最高の栄誉なんですもの! 勝利を掴み取るためには、是非とも成功させたいわ! 摩耶なんかには、渡す物ですか!

 

「ケッ、『飢えた狼』がよく言うぜ。カチコミ掛けるばかりが戦いじゃねぇっての。提督、先鋒はアタシがやるぜ!」

「何言ってるの、私よ!」

「アタシだ!」

「私よ!!」

「アタシだっての!!」

「二人とも、それくらいにしろ」

 

 提督が流石に止めに入ってきたので、一時休戦する摩耶と私。

 何か、今までに聞いたこと無いような、ドスのきいた声だったわね・・・・・・。駆逐艦の子達も驚いてるし・・・・・・。

 

「済まない、取り乱した様だ。この作戦はリンガ泊地、及びラバウル基地の艦隊との、協働作戦となる。話を戦術に戻すが、まず第一陣として、重巡と水雷戦隊の混成艦隊を投入。敵前衛を撹乱し、後衛を牽制する。続いて第二陣として、戦艦と空母による遠距離部隊を投入。この段階での、完全撃破を目指す。もし取り逃がした場合は、第三陣として高速編成の部隊を投入。残敵を掃射する」

 

 提督が示したのは、手順としては標準的な漸減(ぜんげん)作戦。第一陣を担当する部隊は、真っ先に敵艦隊に斬り込むのが、その役割だわ。

 第二陣の水上打撃部隊や空母機動部隊と並ぶくらい、それの旗艦を任されることはとても名誉な事なのは、さっきも言ったとおり。

 私や摩耶以外の候補となると、鳥海か榛名かしら? 扶桑は総旗艦だから第二陣だろうし、隼鷹達母艦組はそもそも接近戦は苦手だし。

 

「第一陣だが、それには・・・・・・」

「あのっ、あのっ、司令官さん!」

 

 不意に提督の台詞を遮って、羽黒が椅子から立ち上がる。意外ね。自己主張が苦手そうなあの子が、そう言う行動に出るだなんて。

 

「どうした、羽黒?」

「第一陣の旗艦ですが、私にやらせてください!!」

「羽黒、お前・・・・・・」

「何度も失敗したことは、承知しています。だから、私にもう一度だけやらせてください、お願いします!!」

「・・・・・・わかった。君の意志を尊重しよう」

 

 そう言って、深々と頭を下げる彼女。それを見た提督は無言で頷いて、ただそれだけ、答えた。

 

「聞いての通りだ。第一陣は、旗艦羽黒。次席旗艦に足柄。随伴に長良、響、五月雨、如月の編成とする。第二陣は、旗艦に扶桑。次席旗艦を雲龍。随伴に千歳、千代田、隼鷹、初霜を付ける。残りの艦は、第三陣だ。出番があるまでは、第二陣の直掩に当たれ」

 

 編成が発表され、提督は居住まいを正して椅子から立ち上がる。制帽のつばに触れていると言うことは、これで決定と言う訳ね。

 ふふっ、今から武者震いしてきたわ・・・・・・!!

 

「説明は以上だ。全艦時計合わせ、出撃!!」

「『『了解!!』』」

 

 

☆★★☆

 

 

「あら、あれじゃ無いかしら?」

 

 艦隊がパラオを発ってから数時間後。リンガ艦隊との合流地点に、艦娘らしき集団がいることを、如月が発見した。

 

「随分遅かったじゃねぇか」

 

 その中心にいた巡洋艦娘は、ある種異様とも言える容姿だった。

 短く切りそろえた黒い髪に、猫の耳のような頭部艤装。腰の部分に主武装である単装砲が二基くっついた本艤装があしらわれ、手には刀を持っている。

 鋭い金色の目が特徴的だが、片目には眼帯が付けられており、両方とも同じ色かはわからない。その巡洋艦娘は、肩に担いでいた得物を納めると、羽黒達の方へ近づいていった。

 

「オレの名は天龍。この艦隊を預かってるモンだ。フフフ、怖いか?」

「・・・・・・はぁ」

「怖くないな」

「悪人には見えないね」

「むしろ、可愛い?」

「ハラショー」

 

 彼女の自己紹介に対し、最初にリアクションした羽黒から順に、摩耶、足柄と来て、最後に如月にトドメを刺される様に言われた巡洋艦娘―天龍はずっこける。

 

「おいっ!! オレの何処が怖くないってんだよ!」

「しょうがねえだろ、もっと怖い連中見てきてるんだからよ、アタシらは」

「・・・・・・それもそうか」

「天龍ちゃ~ん?」

「だっ、誰ですかっ・・・・・・!?」

 

 不意に天龍の背後に立つ影が一つ。濃い紫色のおかっぱ頭が特徴的な艦娘なのだが、貼り付けた様な笑顔に羽黒は警戒心を顕わにする。

 

「何だ、龍田か。脅かすなよ・・・・・・」

「うふふふふ。天龍ちゃんの驚く顔を見たかったんだけどぉ、こっちの子の方が驚いちゃったみたい」

「ったく、しょうが無い奴だな・・・・・・。紹介するぜ、龍田だ。オレの相棒で、ここの次席旗艦」

「羽黒です。第一陣の、旗艦として参りました」

「初めまして、龍田だよ~。天龍ちゃんが迷惑掛け無かった?」

「いっ、いえ、そんな・・・・・・」

「あのなぁ・・・・・・」

 

 互いに自己紹介し、握手を交わす羽黒と龍田。その様を見つつも、彼女ら以外に僚艦が見当たらないことに、足柄は疑問を抱いていた。

 

「そう言えば、他の艦娘はいないの? いくら何でも、二隻は少なすぎるんじゃないかしら?」

「それなら心配いらねぇよ。おーい! 松、竹、梅、戻ってこい!」

 

 それを受けてか、天龍が呼びかけると、偵察から戻ったのか、三隻の駆逐艦娘達が戻って来た。それぞれが濃い緑色、若竹色、淡紅色の髪であることと、顔つきが微妙に違うことを除けば殆ど同じ外見だった。

 煙突と、一基ずつの連装砲と魚雷発射管をまとめた艤装を背中に背負い、右手に単装砲を装備。紺色のセーラー服風の戦闘装束に至るまで、何もかも一緒だったのである。

 

「「「お呼びでしょうか、天龍さん」」」

「応。お前ら、パラオの艦娘に自己紹介だ」

 

 殆ど語勢を変えること無く、全く同じ台詞をしゃべる三人の駆逐艦娘。まるで人形の様なそれを見て、足柄は少し言葉に詰まった。

 

「リンガ泊地第二戦隊所属、松型駆逐艦一番艦、松です」

「同じく、竹です」

「梅です」

「あ、足柄よ。よろしくね」

「あの、天龍さん、この子達は・・・・・・」

「ああ、こいつらもパラオと似たようなモンさ」

 

羽黒からの問いかけに対し、天龍は静かに話し始めた。

 最後の量産型駆逐艦である松型と橘型―丁型駆逐艦は、造られた時期が時期なだけに、多少数が余っていた。それもあってか、艦娘が保護されるまでの間に行われた対深海棲艦作戦に投入されたのだが、大半はそのまま帰ってこれず。

 その事を繰り返した結果、艦娘となった大量の丙型駆逐艦が連合艦隊に保護されており、戦力整理も兼ねて海外に送られる者が増加。松達三人も、そう言った形でリンガへと送られた艦娘だという。

 

「ぽこじゃか造っておいて、いざ数が余ったらすり潰されるかもしれない最前線へとぶち込みやがる。以前は国内にいたんだが、今じゃ本土にいるのは、戦艦重巡空母を除けば、最新鋭かつ、ある程度の戦闘力のある陽炎型と夕雲型に、秋月型。それと阿賀野型くらいだぜ」

 

 憤懣(ふんまん)やるかたなし、と言える様子で天龍は愚痴を(こぼ)す。彼女は彼女で、思うところがあるのだろう。

 

「後はラバウルの連中が来れば、第一陣は揃うんだが・・・・・・」

「お待たせいたしましたわ」

 

 数刻後。ラバウル基地から出撃してきた艦娘達が彼女らに合流してきた。

 先頭を行く艦娘は複数の主砲に、左肩から水上機用の航空甲板を下げている。

 もう一人随伴していた方は駆逐艦だろうか。薄桃色の髪に眼鏡を掛け、臙脂色のワンピースの上から白い上着を羽織った、やや幼い外見の艦娘であった。

 

「ったく、誰かと思えば三隈と巻雲じゃねぇか」

「相変わらず、随分と失礼な方ね」

「初めまして!」

「あのっ、羽黒です・・・・・・よろしくお願いします」

「巻雲です。よろしくお願いしますね!」

「・・・・・・」

 

 合流してきた艦娘―三隈に対し、憮然として答える天龍。どうやら仲が悪い様だが、このままでは始まらないと、羽黒は挨拶しようとする。巻雲の方は応じたのだが、三隈はそれを、はっきりと判る形で無視した。

 

「あっ、あのっ・・・・・・!」

「気安く話しかけないで頂けます?」

「えっ・・・・・・?」

「懲罰部隊が、ラバウルに出向している身とは言え、第十二艦隊所属の私に、気安く話しかけないでと言ったの。聞こえていましたか?」

 

 それでも声を掛ける羽黒に対し、彼女はそう言ってのけた。言われた事が飲み込めなかったのか、それとも飲み込めたからこそなのか、二、三歩後ずさる羽黒。

 

「ちょっと! その言い方は無いんじゃ無いの!?」

 

 彼女の態度に対し、足柄が声を荒げて抗議する。

 彼女の言葉を借りるなら、『勝利のためなら障害は少ない方が良い』、と言った所だろうか。いや、それ以前に相互に軋轢を生んでは、普通の戦闘もおぼつかないだろうと、彼女は判断したのだ。

 

「あら? 誰かと思えば、旧第五戦隊の足柄さんじゃありませんか。こんなところで何をしていますの?」

「何を、って、今の私はパラオ所属よ。それがどうかした?」

「そうですか・・・・・・落ちたものですわね」

「何ですって!?」

 

 足柄のこの詰問に、三隈は大仰に身振りを交えて言い放つ。それが琴線に触れたのか、足柄は怒りを剥き出しにして詰め寄った。

 

「『横須賀の妙高型四姉妹』と来れば、粒ぞろいと言われる第十一艦隊の中でも精鋭として知れ渡っていましたわ。それが二隻沈んで、巡り巡ってその二隻が懲罰部隊に配属されている。これを凋落と言わずして、何と申し上げれば良いのやら。これでは、他の艦娘の方達が可愛そうですわね」

「貴女ねぇっ!!」

 

 その一言を聞いた彼女は、三隈の胸ぐらを掴み上げて激高する。頭一つ分、足柄の方が大柄なため、三隈は引っ張られるようにして持ち上げられる。

 

「私の事はどう言っても構わないわ。だけど、姉さん達や羽黒を、仲間を侮辱するようなら、許さないわよ!!」

「許さなかったらどうする気ですの? 仮に貴女が手を出さなくとも、こちらの匙加減次第で貴女を解体(ばら)す事も出来ましてよ?」

「・・・・・・っ~!!」

「足柄、止せ!! 三隈もやめろっての!!」

「・・・・・・ふんっ」

 

 遂に我慢の限界が来た彼女が、拳を振り上げたところで、見かねた天龍が仲裁に入る。渋々、足柄は手を放すが、不満を隠すことも無くその場を離れる。それは、三隈も同じだった。

 

「全く。お洋服が破れたらどう責任を取ってくれるのかしら」

「でも、今のは三隈さんも・・・・・・」

「巻雲さんは黙っていてください」

「はっ、はい・・・・・・」

 

 苛立ちを見せる彼女を巻雲は心配するが、一喝されて黙りこくってしまう。その様を見せつけられた羽黒は、頭を抱えていた。

 

「こんな状態で、大丈夫なのかな・・・・・・」

「「「羽黒さん」」」

「なっ、何?」

 

 それを見ていた松達三人が、彼女に話しかけて来た。先ほどの足柄と同様、動揺しながらも羽黒はそれに答える。

 

「不安な時には、魔法の呪文」

「魔法の呪文?」

「然り。天龍さんが教えてくれた」

「これを唱えれば、忽ち元気に。夜の生活もご安心」

「「馬鹿、それはウチの司令官でしょ」」

「ばれたか」

 

 ボケる梅に対し、松と竹が突っ込む所為で、まるで漫才のような掛け合いになる三人の会話。その様を見ていた彼女の顔に、思わぬ笑みがこぼれる。

 

「ふふっ。松ちゃん達って、仲が良いのね」

「然り。私達は三人で一人」

「それが駆逐隊です故」

「欠ける訳にはいかんとです」

「ぷふっ・・・・・・!」

「「「何か可笑しいのですか?」」」

「そっ、そうじゃなくって・・・・・・くふふ・・・・・・」

 

 我慢出来ずに、噴き出してしまう羽黒。それを見ていた三人は、揃って首を傾げるのを見て、彼女はまた笑う。

 

「ごっ、ごめんなさい。それで、魔法の呪文って何を言えば良いの?」

「松、天龍さんは話して良いと?」

「然り。天龍さん曰く『艦娘魂に境なし』につき」

「教えても良いのでは?」

 

互いに顔を突き合わせて、相談する三人。そして結論が出たのか、羽黒の方を向き直って言った。

 

「「「『凄いぞ自分』」」」

「『凄いぞ自分』?」

「然り」

 

 一瞬、彼女らの言ったことが理解出来なかったのか、三人の言ったことをオウム返しする羽黒。

 

「空元気でも、百回出せば本元気」

「自分を鼓舞する、勇気の出る呪文です故」

「これさえ唱えれば、ピストルで戦艦も沈められる」

「「だから無理だって」」

「わはー」

「凄いぞ・・・・・・自分・・・・・・」

 

また漫才を繰り広げる松達を見ながらも、羽黒の頭の中ではその言葉がぐるぐると渦巻いていた。

 

 

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