名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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今回は二分割してあります。前編と併せてどうぞ。


第二章・第八話:勇気の賛歌・後編

 

――――――

 

 

「てきえいほそぉーく! 2じのほうこう、きょり4000!! せいりょく40!!」

 

 友軍と合流したパラオ艦隊は、その足でオリョール海へと移動。第二陣以降の本隊と合流した後、作戦通りに前衛部隊が行動を開始した。

 

「突撃します! パラオ艦隊は、(くさび)形陣形に移行してください!!」

「水雷班、前衛に付くわ! 援護して!」

「判った! 摩耶、左後方に付く!」

「了解、右後方は任せて!!」

 

 水雷戦隊を前に出し、中央に旗艦の羽黒。その後方に摩耶と足柄が付く変型の楔形陣形に移行し、突入を開始するパラオ艦隊。それを見ていたリンガ艦隊も、負けじと行動を開始した。

 

「うっしゃぁっ!! お前ら、びびってんじゃねぇぞ!」

「びびっておりませぬ」

「然り。魔法の呪文がありますので」

「むしろ天龍さんの方がびびってそうに見えます故」

「『凄いぞ、自分』があれば、もう何も怖くない」

「「やめないか、この馬鹿」」

「あぁん」

「漫才も良いけど、戦闘に集中しなさ~い」

 

 そう言いながら龍田は、長刀を背中の艤装に仕舞うと、入れ替わりに主砲を照準。発砲する。

 14サンチ口径の砲弾は、最前列にいた赤いホ級に命中。彼の体勢を崩すが、それだけだった。

 

「あら~? あれが噂の上位種かしら~?」

「ちっ、直撃しても揺らぐ程度かよ。これでル級とかだったら、ぞっとしないぜ」

 

 主砲を撃ちながら、天龍は毒づく。天龍型は、軽巡全体から見れば特別、能力に秀でている訳では無い。それを勘定に入れても、彼女は今後の戦場に危機感を抱かずにはいられなかった。

 

「まったく、下品なものですわね」

「三隈さん、同行しなくて良いのですか? 敵の皆さんはかなりの大所帯らしいですよ」

 

 その様子には目もくれず、三隈と巻雲は戦列から離れ、迂回しようとしていた。巻雲の言うとおり、多数の敵に相対するには密集して連携を取るのがベターではある。

 だが、彼女は国内勤務、それも二桁艦隊の所属というプライドが邪魔をしてそれを認められないでいた。

 

「側面から仕掛けます。戦闘機動に切り替え、突撃!」

「了解です・・・・・・!」

 

 自前の航空甲板から瑞雲を発進させ、観測射撃を行いつつ三隈は吶喊する。右手に持った20.3サンチ連装砲が火を噴き、正確無比な斉射二連でハ級を屠る。

 

「あのバカ、何考えてやがる!?」

「あら~。あくまで別行動のつもりかしら~?」

 

 その様子は、正面からぶつかっている天龍達の目にも映っていた。確かに、側面からの攻撃は有効だ。だが、それはあくまでも双方の連携があって初めてそれが成立するのである。今回の三隈の取った行動は、下手をすれば各個撃破の危険すらあるのだ。

 

〈三隈さん、巻雲ちゃん、大丈夫かしら・・・・・・?〉

 

 羽黒は、胸騒ぎを禁じ得なかった。理由は彼女もよくわからない。が、どうにも嫌な予感がしてならなかったのだ。

 

「何も起こらなければ、良いんだけど・・・・・・」

 

 

☆★★☆

 

 

 屈辱ですわ。栄えある第十二艦隊の一員たる私が、こんな南方の僻地へ出向させられるのみならず、粗暴な水雷戦隊と低劣な懲罰部隊との合同作戦なんて、虫酸が走ります。

 

「みっ、三隈さぁん、これ以上は接近出来ませんよぉっ!」

 

 こちらの意図を見抜いたのか、敵艦隊が弾幕を張ってくる。

 巻雲さんはああ言ってはいますが、彼女は最新の甲型駆逐艦娘。この程度の障害で音を上げるようでは、二桁艦隊の名折れですわ!

 

「もっと接近します! あの人達に、戦果を横取りされてたまるものですか!!」

 

 それに、これは私自身の矜恃の問題でもあります。ここで武勲を立てておかないと、単なる出向が正式な転属になりかねませんもの。そのためには・・・・・・!!

 

「上位種を討ち取って、私の力を証明しなければ!!」

 

 今度の標的は、ホ級の上位種。先ほどは龍田さんの主砲を弾いていたから、用心に越したことはありませんわ。ありったけの砲火を、あれに叩き込みます!!

 

「み・・・・・・クマッ!!」

 

 先ずは一発。相手の針路を塞ぐ牽制射撃。のんきなことに、ホ級は気付いていなかったらしく、鼻先に砲弾が降ってきたことで自身が狙われている事をようやく理解した様ですわ。

 

「トドメを刺して上げますわ!!」

 

 二発目を放とうと引き金を引いた刹那。私の主砲が、爆ぜた。一瞬何が起きたのか、思考出来なかった。

 そしてそれが、リ級の上位種が狙撃したことが原因だと判ったときには、既に遅すぎましたわ。

 

「ぐっ!?」

 

 通常のそれとは段違いの速さで踏み込まれ、爪で斬り付けられる。咄嗟に航空甲板を盾にして防ぎましたが、表面には大きな引っ掻き傷ができてしまい、使い物にならなくなる。

 甲板を投げ捨てて、空いた左手で抜いた短刀を突き立てる。だけど・・・・・・

 

「そんな・・・・・・!?」

 

短刀の刃は通らないどころか、音を立てて折れてしまう。私がそれに動揺したことが、決定的な隙になってしまった。

 リ級の凶弾が、私の体に突き刺さり、痛みのあまり膝を突いてしまう。

 

「三隈さぁんっ!!」

 

 遠くの方では、巻雲さんが私の名を必死に叫んでいる。彼女も、もう長くは保ちそうに無いでしょう。その一方で、私の息の根を止めるべくリ級が突進してくる。

 嗚呼、どうしてこんな・・・・・・。お願い・・・・・・見ないで・・・・・・。沈む所なんて、誰にも見られたくは無いの・・・・・・。

 覚悟を決めて、目を伏せたその時。聞こえてきたのは、肉を貫く音では無く、金属と金属がぶつかり合う音。

 

「何・・・・・・が・・・・・・?」

 

 おそるおそる目を開けると、私の目の前で、足柄さんの妹がリ級を突き飛ばしていました。

 

「これ以上・・・・・・やらせません!!」

 

 

☆★★☆

 

 

「三隈さん!?」

 

 運が良かったと思います。三隈さん達が不意討ちを食らったことに、気づけたのは。

 主砲も甲板も壊され、短刀も弾かれている以上、あれは上位種と見て間違い無い。だけど、私一人が出て行ったところで、何が出来るのかしら・・・・・・。

 ううん、違う! 私にだって、やれることはあるはず・・・・・・!

 

「凄いぞ・・・・・・自分・・・・・・!!」

「あっ、おい羽黒!!」

 

 松ちゃん達に教えて貰った魔法の呪文を胸に、私は海面を蹴って加速する。既にリ級は、三隈さん目がけて突っ込んできている。

 後ろから天龍さんの止める声がするけど、聞いていたら、間に合わない・・・・・・!!

 

「お願い、間に合って・・・・・・!!」

 

 まるで周りが遅回しになるような感覚を覚えながら、とにかく遮二無二に走る。そして相手は、今まさに腕を振り下ろそうとしていた。もう躊躇っている余裕は、無い!!

 

「やぁああああああっ!!!」

 

 勢いのまま、体を丸めて肩からぶつかり、リ級を突き飛ばすことで三隈さんを助けることが、出来ました。後は、戦うだけ・・・・・・!

 

「これ以上・・・・・・やらせません!!」

 

 

☆★★☆

 

 

 リ級を張り倒した羽黒は、三隈と巻雲の安全を確保するべく行動を開始した。被弾した二人の安全を確保するべく、自身は深海棲艦隊へ接近していく。

 

「凄いぞ自分! 凄いぞ自分! 凄いぞ・・・・・・自分!!」

 

主砲を連射しながら先ほどのリ級に突進していく羽黒。着弾時に生ずる水柱で相手の視界を遮り、同時に背中に背負っていた長刀を振りかざす。

 そして、水柱が収まると同時に長刀を振り抜いた。狙ったのは、急所である胸やのど元ではなく、すねの部分。即ち、足下だ。

 元々長刀という武器は、リーチを活かして『薙ぐ』ための武器であり、太刀や槍とは異なる使い方もできる。それは長刀を模して造られた、『四式近接戦闘長刀』でもさほど変わらない。

 艦娘である羽黒が、武術としての薙刀術を知っていたかどうかはわからない。だがそれでも、彼女は長刀の長所の一つを活かして攻撃したのである。

 

「――――!?」

 

 これはリ級にとっても、これは予想外の事態であった。何せ、頭から振り下ろしてくるか、横薙ぎに振り回してくるものだとばかり思っていたのが、実際には完全にノーマークだった下半身を狙われたのである。驚かずにはいられなかった。

 足捌きを阻害するように刃が繰り出され、次第に動きが粗雑になっていく。

 そして遂に、リ級は足をもつれさせて転倒したのだが、それが彼女の命運を分けた。

 

「やぁあああっ!!」

 

今度こそ、大上段から長刀が振り下ろされ、白刃が脳天から食い込んでいく。

 

「次です!!」

 

 リ級を仕留めたことを確認し、周りを見渡す羽黒。彼女を脅威と見たのか、他の深海棲艦が続々と集まってくる。

 接近戦と言うこともあって駆逐艦級が大半だが、かなりの数だ。

 

「五倍の相手だって・・・・・・支えて見せます!!」

 

 その言葉を合図にしたのか、駆逐艦達が一斉に飛びかかってくる。体当たりしてきたイ級を避け、突進してきたロ級を石突きではじき飛ばす。

 そして、反対側から飛びかかってきたハ級に対しては横薙ぎに長刀を振るって両断した。だが、その時である。

 

「っ!?」

 

 彼女の死角から二級が急襲。彼女の左腕に噛み付いたのだ。そこから更に、チ級の主砲が彼女に突き刺さり、それによって彼女が長刀を取り落としてしまう。

 

「きゃぁっ!!」

 

 逃げることも出来ず、四方八方から砲撃され、なすすべも無くなぶられる羽黒。さらに運の悪いことに、度重なる被弾で、本来であれば耐えられるはずのイ級の主砲一発で膝を突いてしまう。それをチャンスと見たのか、赤く光るチ級がゆっくりと彼女へと近づいてきた。

 ヒトならざるモノが一歩ずつ、死を運んでくるその様は、奇しくも以前の戦いと全くと言って良いほど同じ状況だったのだ。

 

「あっ・・・・・・あぁっ・・・・・・!」

「・・・・・・」

 

 ニヤリと、口角をつり上げて笑いながら、右手の主砲を向けるチ級。それを目の当たりにし、恐怖のあまり目を背ける羽黒。その次の瞬間である。

 

「―――――!?」

「えっ・・・・・・・?」

 

一発の砲声が響き、砲弾がチ級の肩を貫いていたのは。何が起こったのか。確かめるべく後ろを向いた羽黒。その視線の先には、右の太ももに付けられた主砲を向ける、三隈の姿が。

 

「三隈さん・・・・・・!?」

「勘違いしないでくださいまし! 目の前で沈まれたら、こちらの夢見が悪くなりますわ! 早いところ終わらせて、本隊に合流しますわよ!!」

「巻雲も、お手伝いします!!」

「二人とも・・・・・・はいっ!!」

 

 悪態を吐きながらも、三隈は続けざまに左太ももの主砲を発砲し、敵を振り切ったのか、巻雲もそれに続いて砲撃する。それを見た羽黒も、主砲の再装填を済ませて海面を駆け出した。

 

 

――――――

 

 

 結論から言ってしまえば、作戦は成功に終わった。もっとも、時間を掛け過ぎた所為で、扶桑達本隊と合流。その後で叩いた結果だが。

 そして母港まで帰る道すがら、羽黒は三隈に、肩を貸していた。艤装の大半が破損しており、大破していて自力での航行ができなかった為である。

 

「あの・・・・・・」

「はっ、はい?」

「どうしてあの時、助けてくれたんですか・・・・・・?」

 

 ふと羽黒に対し、三隈は問いかける。その問いかけに対し、彼女はそっぽを向きながら答えるた。

 

「えっと、あの時は夢中になっていて・・・・・・。助けなきゃって、思っていて・・・・・・」

「要領を得ませんわ。これだから懲罰部隊の艦娘は・・・・・・」

 

『でも・・・・・・』と言って、三隈は続ける。

 

「少し、見直しましたわ。貴女には、『勇気』がありますもの」

「『勇気』、ですか・・・・・・?」

「そう、『勇気』ですわ」

 

 そう言って、胸に手を当て、彼女は静かに話し始めた。

 

「自らの身を顧みずに、あんな態度を取ってしまった私であっても助けようとした。その『勇気』に、私は敬意を表しますわ」

「そんなっ! 私は、ただ、夢中になっていただけで・・・・・・」

「うふふっ」

 

 気恥ずかしさのあまり赤面しながら俯く羽黒。その様が琴線に触れたのか、三隈の顔がほころぶ。

 

「結局のところ、そう言うモノですわ。ああ、それと。私、三隈と申します。貴女は?」

「羽黒です。妙高型重巡洋艦姉妹の、末っ子です・・・・・・」

「じゃあ、『ハグロン』ですわね」

「はっ、『ハグロン』!?」

「ええ、『ハグロン』」

 

 そうして、お互い自己紹介がようやくできたのだが、ヘンテコな渾名を付けられて、羽黒の顔は二重の意味で紅潮してしまっていた。

 その様子を、後方から見守っていた天龍達リンガ艦隊。彼女らも彼女らで、一様に無事を喜んでいた。

 

「ったく、あいつ見た目の割に冷や冷やさせやがるぜ」

「無茶の度合いでなら、天龍ちゃんも負けてないけどね~」

「ばっ、それは違うっての!」

「とにかく、松ちゃん達はある意味お手柄ね~」

「「「ありがとうございます」」」

「うふふふ、息もぴったりね~」

 

 そう。可能性の話だが、もし松達が羽黒に助言していなかったら。いや、羽黒か松達、そのどちらかがこの作戦に参加していなかったら、どうなっていたことか。天龍の方は判っていないようだが、龍田は何となくだが感じていた。

 

「天龍ちゃんも、もぉ~少し可愛げがあれば、良いんだけどね~・・・・・・」

「ん? 何か言ったか、龍田?」

「ううん、なんでもないわ~」

 

 

☆★★☆

 

 

「では、失礼します」

 

 オリョールでの掃討作戦が終わった次の日。私は、作戦の報告書を司令官さんに提出して、執務室を後にしました。今度は期待に応えられた事に、司令官さん、喜んでくれましたし。

 

「あら、羽黒・・・・・・。お疲れ様」

「足柄姉様・・・・・・」

 

 執務室から出た直後。再び、足柄姉様と鉢合わせしてしまう。これまで少し避けちゃっていましたけど、せめて、一歩くらい・・・・・・。

 

「あのっ・・・・・・」

「何かしら?」

「今度、私に稽古を付けてください!」

 

 言ってしまった。私が弱い事は、勝利に貪欲な足柄姉様は、許容してくれないと思っていました。だけど・・・・・・

 

「お安いご用よ! 何なら、今からでもする?」

「えっ・・・・・・?」

 

 予想に反して、姉様は二つ返事で受けてくれました。一体、どうして・・・・・・? 私は、『最初の』重巡型艦娘羽黒と似た『ナニカ』のはずなのに・・・・・・。

 

「どうして、って顔をしているわね。理由は簡単よ」

 

 そう言って人差し指を立てながら、続ける足柄姉様。いつもの、私が『記憶している』、足柄姉様の笑顔が、そこにあった。

 

「貴女が、私の妹だからよ。文句あるかしら?」

「なっ、ないです・・・・・・」

「んっ、よろしい! それじゃあ、戻ったら早速始めましょう!」

「・・・・・・はいっ!!」

 

 そう言って、走って行く彼女を、私は追いかけます。少しだけですけど、姉様の事が判った様な気がする。少し、回り道でしたけど。

 

「このまま、全ての戦いが終わってしまえば良いのに・・・・・・」

「どうしたの、羽黒ー? 置いてっちゃうわよー!!」

「まっ、待ってくださーい!」

 

 私は『羽黒』。妙高型重巡洋艦姉妹の末っ子。

 私は私。それ以外の何者でも無い。過去も現在も受け入れる。それが、私の『勇気』だから・・・・・・。

 




「―敵です!」

「―馬鹿な、数が多すぎる・・・・・・!!」

「―殿が必要でしょう?」

「―何か・・・・・・何か形見を!!」


「―俺の武運の鉱脈も尽きたか・・・・・・」


次回、『沖ノ島、血に染めて』。

悲劇と惨劇は、忘れた頃にやってくる・・・・・・。


【登場人物紹介】

『多摩』

神通と同様に、徹心が着任した当初から所属している軽巡の一人。
猫のような思考回路だが、初出撃の時には自主的に参加していたり、夕立には敵買うな助言をしたりなど、意外と真面目な一面も。
同時に、トラックやバシー島では熱い一面も見られた。
元の所属は、不明。姉妹艦である球磨は佐世保、北上はタウイタウイに所属している。
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