名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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今回もすこし長くなってしまったので、三分割してあります。
前編と併せてどうぞ。


第二章・第十一話:暗雲と風雲・中編

 

★☆☆★

 

 

「全滅、だそうだ」

 

 海軍軍令部の中にある会議場では、重苦しい空気が場を支配していた。

 数週間ほど前、沖ノ島に集結中だった深海棲艦隊を掃討すべく、艦娘三個艦隊。およそ四十隻に、護衛艦三隻の大部隊を投入したのだ。

 だが結果は、護衛艦三隻は全て撃沈。艦娘も多くが轟沈、あるいは未帰還となっており、その情報も、瑪瑙所属の水偵が命からがら持ち帰ってきた物だったことからもそのひどさがうかがい知れた。

 

「全滅だと!? あり得ん!! 三個艦隊がこうも簡単にやられるなど!!」

「だが現実に、生きていたのは水偵の操縦手と通信手だけ。加えて、艦娘は大半が生死不明なのだ! 敵は我々の想像を、遙かに超えていたと言うことだろう!!」

 

 室内の空気が『喧々諤々(けんけんがくがく)』と言う表現が似合う様相を示す中で、村田少将は一人、ほくそ笑んでいた。

 

「〈事は全て、思った通りに運んでいるようですね・・・・・・。さて、そろそろ次の生け贄役を決めるとしましょうか・・・・・・〉皆さん」

 

 そうして彼は椅子から立ち上がると、以前と同様に大仰な身振りを交えて述べ始めた。

 

「敵はどうやら、我々の想像を超えている。それだけは、逃れようのない事実です。なのでここは、敵艦隊の正確な陣容を把握するべく威力偵察を行うべきでしょう」

「しかし村田少将。三個艦隊がここまでの被害を受けた以上、敵は相応の規模と見てしかるべきではないかね?」

「ところが、そう言うことだけでは無いんです。これをご覧ください」

 

 芝富参謀長のこの言に対し、少将は一枚のフィルムを取り出して、映写機に挿入する。スクリーンに映し出されたそれは、何かの写真だろうか?

 ヌ級の頭部の様な形の帽子を被った、モノトーンの女性。青白く光る目には生気は無く、一目見ただけでそれが深海棲艦と判る。

 

「先ほどは情報の精査がまだでしたのでお伝え出来ませんでしたが、我々海軍情報部は、これを『正規空母』と見ています」

 

 彼のこの台詞に、再び動揺が走る議場。そして村田少将は、さらに畳みかける様に話し続ける。

 

「新種である以上、ル級と同様に情報が不足しています。改めて申し上げますが、奴らの戦闘力、性能、そして何より艦隊での役割を明らかにするべく、威力偵察を行うべきでしょう」

「だが、これでは二桁艦隊を使わざるを得んぞ」

「第十艦隊を向かわせるべきです。偵察なら、彼の艦隊が適任でしょう」

「だが、それでまた失敗しては・・・・・・」

 

 無理も無いだろう。二桁艦隊に及ばないとは言え、投入したのはいずれも精鋭だ。それが人間の兵や士官だけでなく、艦娘すら一人も戻ってこれなかったとなると、代償を考えるのは当然である。

 だが、彼には一つだけアテがあった。この海軍で唯一、『あらゆる任務を行える艦隊』が存在していることを・・・・・・。

 

「それでしたら、第四十四戦隊を向かわせてはいかがでしょうか?」

「懲罰艦隊をか!?」

「ええ。言い方は悪いですが、体の良い当て馬とするには丁度良いかと。足手まといの艦娘達も、この際まとめて始末できそうですし」

「私は反対だ」

 

 そう言って、一人の将校が反意を示して来た。

 角刈りにカミソリの様な鋭い目をした彼は、この面子の中では比較的年若いが、胸に付けられた徽章の数々は、何の実績も無しにこの場にはいない事を示していた。

 

「そう言えば、第四十四戦隊の指揮官である東郷中佐は、椛山(かばやま)中将の部下だったな」

「ああ。だからこそ、彼奴をこんな作戦で死なせるわけにはいかん」

「ですが、他に手近な艦隊もございませんでしょう? それとも、中将子飼いの第十一艦隊を向かわせますか?」

「しかし・・・・・・」

 

 椛山中将のこの言に対し、村田少将はやんわりと、だが明確に反論を封じ込めに掛かる。

 お互い軍人であり、高級将校である以上、私心は慎まねばならない。彼は、それを利用したのだった。

 

「万一失敗した時の事を考慮するならば、二桁艦隊の被害は士気に大きく影響を与えます。陸の連中や、一部の報道社が煽りに煽った影響がまだ残っていますからね」

「中将。気持ちはわかるが、我々は今戦略を論じているのだ。村田少将の意見も、間違ってはいないはず。私心のみでそれを決めるわけにはいかん」

「・・・・・・了解しました、参謀長閣下」

「では、決まりですね」

 

 そう言って、渋々着席する椛山中将。その顔は、苦虫をダース単位で噛み潰した様な有様であったと、この会議に列席した参謀の一人は後に語っている。

 その後はいつもの様に、多数決で採決を取って、会議は終了した。

 結果は、賛成多数で可決。第四十四戦隊―パラオ艦隊に、沖ノ島への出撃命令が下されることが決定されたのである。

 

 

――――――

 

 

「くそっ・・・・・・!!」

「提督、どうしたのネー!?」

 

 会議を終え、自身の執務室へと戻るやいなや、悪態を突き始める椛山中将。それを見た彼の秘書艦である金剛は、目を丸くしていた。

 

「どうもこうもあるか! 村田の奴、まるで自分が総司令官にでもなった気分でいやがる!! 実戦に出たことも無い様な、諜報畑の人間が戦略を論ずるだと!? 笑えないな!」

 

 連合艦隊では武断派として知られると同時に、決して蛮勇のみで行動しない理性派。要するに、良識のある人物であると彼のことを記憶している金剛にとって、愛する上官のこの様は、自身のそれとかけ離れていたのである。

 

「しかもだ。今パラオにいるのは、せいぜい一個艦隊程度。前回の半分どころか、三分の一にも満たない艦娘しか保有していない! これでは、みすみす死にに行く様なものでは無いか!! こんな事になるなら、あいつを推薦しなければ良かった・・・・・・」

「提督、怒ってばかりじゃ、Accurateな判断ができませんヨー! 紅茶を飲んで、落ち着くネー!」

「・・・・・・済まない、金剛。私がカリカリしていても、しょうが無いな。ありがとう」

 

 金剛の淹れた紅茶を一口すすり、頭を落ち着かせた所で、椛山中将は改めて今回の会議で決まったことを整理する。

 ただ一つ言えることは、彼らにこれまで以上の無理難題を押し付けることになることだ。

 

「それで、テッシンには何と伝えますカ?」

「事実を伝えるしか無いだろう。下手に飾り立てては、不誠実という物だ」

「それもそうですケドー、Realは厳しいネー。母艦無しじゃ、テッシン達は干上がってしまいマース・・・・・・」

「問題はそこだ・・・・・・。現実問題、それなしでは正直立ち行かない規模にまで来ている」

 

 そう。パラオには、艦娘運用のための護衛艦が配備されていないのだ。

 記録の上では一応、設立当初は配備されていたらしいが、懲罰艦隊となったことで没収され、以来運用はされていない。だが、地理的な距離はもちろん、整備や補給の問題を考えるとどうしても護衛艦が必要なのである。

 

「とにかくだ。今使えそうな護衛艦は、片っ端から当たるしか無い」

 

 そう言って彼は紅茶を飲み干すと、椅子から立ち上がって部屋を後にする。

 

「提督、何処へ行くのデース?」

「通信室だ。私のツテで、何とかするしか無いだろう」

「それなら、私も手伝いマース! 単冠湾の霧島にも相談するネー」

「なら、頼んだぞ」

「了解デース!」

 

金剛もまた、彼と共に執務室を出て行く。

 本土では、徹心達の知らないところで、戦いが始まったのであった。

 

 

☆★★☆

 

 

 殿村閣下ら、沖ノ島攻撃艦隊がパラオを発ってから、数週間ほど経ったある日。

 自分―東郷徹心は、羽黒と共に横須賀へと向かう列車の車中にあった。

 

「それにしても、どうしていきなり呼び出しなんて・・・・・・。普通ならラバウルなのに、わざわざ横須賀まで」

「確かに、妙だな」

 

 羽黒の疑問ももっともだ。泊地は例外なく、上位の基地―パラオの場合はラバウル基地―の管轄であり、呼び出しは本来はそれらへ出向く様言われるのが普通だ。

 だが今回は、向かう様言われたのは横須賀。つまり、連合艦隊総司令部が置かれている鎮守府にだ。

 舞鶴、佐世保と並んで、二桁艦隊の一つである第十一艦隊の根城でもあるそこは、最重要拠点の一つ。普通は、海外拠点の司令官を呼びつける様な所では無い。

 

「・・・・・・『虎穴には入らずんば虎児を得ず』。行ってみるしかないだろう」

「はい・・・・・・」

 

 とにかく言えることは、自分達に何か重要な。それも、ラバウル(クッション)を置けない様な事を伝える必要がある。それだけは、間違い無いのだから。

 そこから数時間ほど揺られた後に、着いた先の駅で迎えの兵士が車と共に待っていたので、それに乗り換えてさらに数十分ほど。

 ようやく自分達は、横須賀鎮守府の門をくぐることが出来ていた。

 

「ここも変わらないな・・・・・・」

「―シーン・・・・・・!!」

「司令官さん、『前の』私も、ここに所属していたんですよね・・・・・・?」

「ああ。だが、君は君だ。過去は学ぶもので、引き摺るものではない」

「はい」

「テッシーン!!」

 

 羽黒と話しながら、総司令部のある中央棟へと向かう道すがら、所属していると思われる水兵や下士官、士官達が軽く会釈してくる。自分もそれで応えながら歩みを進めているのだが・・・・・・。

 

「さっきから自分を呼ぶ声がするのだが・・・・・・気のせいか?」

「えっ? 私には、何も・・・・・・」

「テッシィィィンッ!!」

「!!」

「えっ、何!?」

 

 声のした方向を振り返ると、誰かが走ってきているのが見える。

 スカートが榛名の色違いであることを除けば、基本的な服装は同じだ。茶色の長い髪をなびかせて、満面の笑みで吶喊してくる彼女を、自分は知っていた。

 

「Burning・・・・・・Loooooooooove!!」

「おぅわぁっ!?」

「司令官さん!?」

 

 情熱的な抱擁と突撃で、自分の体は背中から地面に押し倒される。

 そう言えば、五月雨は比叡の事を『太陽の様な人』と表現していたが、こういうことを言うのだろうか・・・・・・。

 

「テッシーン! 久しぶりネー!!」

「・・・・・・やっぱり君か、金剛。相変わらずだな」

「Yes!! 徹心がパラオへ行って、もう毎日気が気で無かったネー!」

「・・・・・・司令官さん」

 

 彼女―金剛は、自分の腹の上に乗ったまま、くねくねとしながら言う。元々惚れっぽいところがある事は知っていたが、ここまでこじらせるほどだったか?

 それと羽黒。自分をそんな目で見ないで欲しい。自分と金剛は、決してやましい仲では無い。それだけは断言する。

 気まずくなってきたところで、一人の士官が歩いてきた。

 殿村閣下とは異なり、武術家の様な引き締まった体つきに、胸に付けられた略章の数々。間違い無い。

 

「椛山中将!!」

「はっはっは! 相変わらず、艦娘に好かれる奴だな、貴様は」

 

 椛山則武(かばやまのりたけ)中将。自分がパラオに転属する前、第十一艦隊に所属していた頃の上官だった方だ。

 正面からの力攻めだけでなく、時には奇計奇策も活用する智将。殿村閣下は上官としてのお手本なら、彼は指揮官として、自分がお手本にしている方でもある。

 

「ご無沙汰しております。しかし、第十一艦隊は?」

「ああ、貴様がパラオに転属してからすぐ、第一艦隊の司令長官職を拝命してな。金剛は私の秘書艦としてだけでなく、総司令部直属艦隊に栄転だ」

「と言っても、私以外に三人くらいしかいない、小さな艦隊デース。滅多に出撃しないから、退屈ネー・・・・・・」

「それは、おめでとうございます。それで今は誰が?」

「今は秋満と長門が切り盛りしている。秋満の奴は、この前昇進と一緒に期待されての就任だ」

「秋満大佐がですか。後でお祝いの品と、行きたいところですが・・・・・・」

 

 金剛の衝撃の所為で忘れるところだった。自分がここまで呼び出された理由を、調べなければ。

 

「この召喚状を書かれたのは、中将ですか?」

「・・・・・・鋭いな、その通りだ。ここでは拙い、場所を移すぞ」

「はっ・・・・・・」

 

 

――――――

 

 

「単刀直入に言おう」

 

 場所を椛山閣下の執務室へと変え、自分は閣下から事のあらましを告げられていた。

 

「沖ノ島へ向かった殿村艦隊含む三個艦隊は、全滅した」

「そんな・・・・・・! 何があったと言うんですか!?」

「これを見てくれ。口で説明するよりも、こっちの方が早い」

 

 そう言って閣下は、長机の上に何枚か写真と書類を広げる。写真の方には、ヌ級と似た様なものが写っている様だが・・・・・・。これは、まさか・・・・・・!

 

「人間の体、ですか・・・・・・?」

「そうだ。生き残りの証言によれば、こいつはヌ級を遙かに上回る数の艦載機を出してきたらしい。このことから、軍令部はこれを『正規空母』と見ている。これを含めた、圧倒的多数の敵艦隊の前に、敗れ去ったのだ」

 

 なるほど・・・・・・。ここへ来て、また新種の深海棲艦と言う訳か。

 しかし、これだけでは中将が自分をここへ呼び寄せた理由としては薄い。一体何のために・・・・・・。

 

「これを受けて、参謀本部は第四十四戦隊に。パラオ艦隊に、沖ノ島への出撃命令を出すことが決定された。今日明日にでも、ラバウル経由で指令書が届くだろう」

「自分達にですか!?」

「ああ、その通りだ」

 

 彼はそう言って、金剛の淹れた紅茶を口にする。

 鼻をくすぐってくる香りの芳醇さからして、今では貴重な上質の葉を使っているように思える。

 

「閣下。一応伺いますが、援軍は?」

「・・・・・・本来ならラバウルなりブインなりから、一個艦隊くらいは付けて然るべきなんだろうが・・・・・・駄目だった。パラオの存在が無ければ、レイテもソロモンも、米軍の好き勝手に作戦(こと)を運ばれたかもしれんというのに。恩知らず共が・・・・・・」

「そうでしたか・・・・・・」

 

 やはり、懲罰艦隊と言うことが思っていた以上に足かせになっている様だ。

 上層部は自分達を、よく言えば試金石。悪く言えば、捨て石にしようとしているらしい。さてはて、どうしたものか・・・・・・。

 その後もいくつか情報のやりとりをして、その日は解散という運びになった。

宿へ戻ったら、件の新種の対策を練らなくては・・・・・・。

 

「とにかく、私のツテで何とか合流出来ないかを打診し続けてみる」

「・・・・・・お願いします」

「それと東郷」

「はい?」

「死ぬなよ。こんなつまらん作戦で、貴様は死ぬべきでは無い男だ。そのためにも生きて、直接私に報告しに来い」

「・・・・・・肝に銘じておきます」

 

 去り際に閣下が仰ったこの言葉が、胸に残る。無論、そのつもりですよ。椛山閣下。

 自分を信じて、命を預けてくれる艦娘(なかま)も含めて、死ぬわけには、行きませんから。

 

 

★☆☆★

 

 

 一方で、徹心と羽黒が横須賀へと向かっていた頃。パラオでは、ちょっとした事件が起きていた。

 

「担架急いで! 修復槽の用意は!?」

「すでに、かんりょうしています!」

「それなら、損傷の酷い子から放り込んでいって! 装束は、場合によっては破いても構わないから!!」

「りょーかいです!」

「です!」

 

 と言うのも、泊地の裏手にある砂浜に、艦娘が打ち上げられていたのである。それも一個戦隊、数にして七人もの艦娘がだ。

 一人二人くらいなら、戦列から落伍しただけの可能性も考えられるが、それがこれだけの数がまとめて流れ着くのは異常事態である。しかも・・・・・・

 

「村雨! しっかりするっぽい!」

「春雨も、目を開けて!!」

「くぉら、磯風ぇっ! いつまで寝てるつもりよっ!!」

 

数日前、パラオを発った沖ノ島攻撃艦隊の面子であれば、尚更だ。

 技術部を預かる保住瑞穂は、手の空いている艦娘や妖精達総出で引き連れて、彼女達の救助に当たっていた。その一方で、こうして一部の者達は顔なじみの艦娘を叩き起こそうと躍起になっているのである。

 

「ごめんなさい、助かったわ」

「お礼は後でゆっくり聞くからさ。今は無理すんなって、飛鷹」

「・・・・・・お酒は無しでお願い」

「あいよ」

 

 その内の一人。元丸川艦隊所属の飛鷹は比較的軽傷だったので、今はこうして、姉妹艦であり、親友でもある隼鷹と共にその様子を見ていた。

 

「それにしても、一体何があったんだい? あんなに沢山いた艦娘が、たった七人しか生き残れなかったなんて」

「それに関しては、話せば長くなるわ。こっちの提督、東郷中佐も交えて、改めて」

「ああ、それだけどさ。提督なら今は横須賀行きの船の上だよ。しばらくは戻ってこれないさね」

「そう・・・・・・。丁度、入れ違いだったみたいね」

「飛鷹・・・・・・」

「大佐の敵を討たないとなのに・・・・・・。こんな所で、のんびりしてはいられないのに・・・・・・!」

「ったく、貯め込み過ぎだって」

「っ、たっ!」

 

 徹心の居所を尋ねた所、返ってきた答えに驚き、そして肩を落とす飛鷹。それに対し隼鷹は、その項垂れた肩をひっぱたいて言った。

 

「『急いては事を為損じる』。こう言うのは、どっしりと構えておく物だよ」

 

 

――――――

 

 

「・・・・・・そうか、そんなことがあったのか。とにかく、無事で良かった」

「はい・・・・・・」

 

 数日後。パラオへと戻って来た徹心は、留守を預かっていた扶桑から、報告を受けていた。

 

「あの、提督・・・・・・。沖ノ島への出撃命令があったのは、本当ですか?」

「・・・・・・事実だ」

 

 扶桑の問いに対し、徹心は只一言だけ答える。その背中からは、焦燥感がにじみ出ているかの様に、彼女の目には映っていた。

 

「増援の要請もあちこちにしたが、指揮系統の都合上、誰も受けられなかった。今から建造しても、間に合わないだろう・・・・・・」

 

 執務室の中を、重苦しい空気が支配する。

 以前にも、困難な作戦を押し付けられる時はあった。が、彼は適切な作戦を組み、何より艦娘達がその信頼に応えようと奮起したお陰でここまでやってこられた。

 だが今回は、その全てを総動員しても不可能と言わざるを得なかった。

 

「どう考えても、現有戦力では轟沈無しでの成功が見込めない。これでは・・・・・・」

「提督・・・・・・私は、構いませんよ」

「扶桑?」

「私は、提督のお陰でまた戦える様になりました。その恩義を返せるのなら、惜しくはありません」

「駄目だ。許可・・・・・・いや、許容出来ない。艦娘を犠牲にしてまで成果を挙げていては、御門邦生と同じだ。自分は、奴とは違う」

「提督・・・・・・」

「・・・・・・すまない、これは個人的な意見だ。さて、指揮官としてはどうするものか・・・・・・」

 

 そう言って、ポケット瓶から出したあめ玉を口に放り込む徹心。

 味付けされた糖分の塊を、口内で弄びながら考えていたその時。執務室のドアをノックする音が鳴った。

 

「どうぞ」

「失礼します。提督宛てのお手紙を、持って参りました」

 

 そう言って、中に入ってきたのは神通だった。

 徹心は彼女から手渡された茶封筒の封を切ると、入っていた便箋を取り出して目を通す。

 

「『コウノトリが揺り籠を運ぶ。明けの八つ、赤子を受け取られたし。 椛山』・・・・・・。ははっ」

「提督、どうされましたか?」

「ここに異動してくる前の上官からだ。どうやら天は、まだ自分達に味方してくれているみたいだ」

 

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