名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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今回は長くなってしまったので、三分割してあります。
前編、中編と合わせてどうぞ。


第二章・第十二話:暗雲と風雲・後編

 

――――――

 

 

 徹心の下へ、暗号じみた内容の手紙が届いた翌朝。彼を含めたパラオ艦隊の面々は埠頭へと集合していた。

 

「あ、あれじゃないですか?」

 

 長良が指さした方を見ると、水平線の方から船がこちらへ近づいて来るのが徹心に見えた。

 朝日の光を浴びて、軍艦色の船体がゆっくりと港に進入してくる。その甲板の上から、手を振る人影が。

 上陸用のフラップが降りきらない内に、転げ落ちる様にして一人の艦娘が埠頭に降り立つ。

 焦げ茶色の髪に、白と水色のセーラー服を着たその艦娘に、彼は見覚えがあった。

 

「中佐ー!! お久しぶりです!!」

「古鷹!! どうしてここに?」

「はい。話すと、長くなりますけど・・・・・・」

「いやはや、古鷹君はよっぽど嬉しかったんでしょうな」

「艦長! また中佐の指揮下で戦えるんです! 感激してます!」

「ははは、それは何より。ご無沙汰しております、中佐」

「野島大尉! 久しぶりです」

「実を言うと、あれから昇進しましてな。今はこの、試作護衛艦『鞍馬』の艦長です」

「『鞍馬』?」

 

 彼女―古鷹に続いて降りてきた士官―野島少佐と、徹心は固い握手を交わす。しかし彼はそれよりも、少佐から告げられた艦名に首を傾げた。

 

「鞍馬は確か仮称で、建造は中断されていた筈では・・・・・・?」

「記録の上では。ですが、実際は護衛艦の母体となり、その後予備役になっていたのを椛山中将が無理を言って引っ張り出してきたんですよ」

 

 そう言って、鞍馬を仰ぎ見る彼。その目には、船乗りとしてのやる気に満ちあふれていた。

 

「取り敢えず、士官達を紹介しましょう。何人かは、トラックでの顔見知りもいると思いますが」

 

 艦娘らと共に、鞍馬へと乗り込んだ徹心は彼女らに自由行動を許可すると、そのまま野島少佐と共に戦闘指揮艦橋へと上る。

 その途中で、彼は所属している水兵や下士官達に握手を求められるなどして、艦内はちょっとした騒ぎになっていた。やはり、再び共に戦えると言う嬉しさで一杯なのだろう。

 徹心は、一人一人、可能な限り話を聞くなどして交流を図った。

 

「彼らは一様に、中佐の事を慕っておられます。新兵も多いですが、きっとお役に立ちますよ」

「それよりも野島少佐。一体、どうしてパラオまで?」

「いや何。椛山司令長官に頼まれたのですよ」

「椛山閣下に?」

 

 その最中、徹心は野島艦長にここへ来た理由を問うた。すると彼は、笑ってそう答えたのである。

 

「ええ。中佐の力になってやって欲しいと仰っていました。ささ、紹介しましょう。鞍馬の幹部士官です」

 

 戦闘指揮艦橋へと来た二人を待っていたのは、その場に並んだ四人の士官達だった。

 皆年齢はバラバラで、中には女性士官や、明らかに学校を出たばかりの新米までいる。

 

「では、まずは香月中尉から」

「はっ!」

 

 野島少佐に促され、一人の女性士官が一歩前へ出る。

 日本人離れした真っ赤な髪が特徴で、顔つきも日本人と西洋人のそれを足して二で割った様な物だった。

 

「通信長の、香月咲弥中尉です。よろしくお願いします」

「索敵長の天田哲朗。階級は同じく中尉です」

「操舵手の、島村海月少尉です!」

「小倉徹朗大尉・・・・・・。砲雷長であります・・・・・・」

 

 彼女―香月中尉に続いて、他の三人も自己紹介していく。

 天田中尉は、角刈りに丸顔。中肉中背と絵に描いた様な日本人然とした姿で、右隣の香月中尉と比べてもむしろ個性的に見える。

 島村少尉は、肩まで届く長い髪もそうだが、童顔で背も低い。これでセーラー服を着ていたら、女学生と勘違いしてしまう者もいそうな見た目だった。

 小倉大尉はまるで幽霊の様な雰囲気を身にまとっている。体つきこそ健康体だが、徹心の目にはその所為でちっともそうは見えなかった。

 

「第四十四戦隊司令官の、東郷徹心だ。皆、よろしく頼む」

「艦長・・・・・・少し、よろしいでしょうか?」

「何ですか?」

「私達は・・・・・・死ぬのでしょうか・・・・・・?」

「大尉! 縁起でも無いことを言わないでください!!」

 

 徹心も名を名乗り、四人と握手を交わしていた所、小倉大尉が口を開く。その口から出てきた言の葉に対し、香月中尉は怒りを顕わにした。

 

「まだ作戦は始まったわけじゃ無いんですよ! 死ぬか生きるかなんて、やってみなければわかりません!」

「だが・・・・・・送り込まれた艦隊は・・・・・・全滅した。勝てる見込みは無い・・・・・・」

「それは違うぞ、小倉大尉」

 

 そう言って、彼の言葉を遮る徹心。

 

「確かに、戦争は数だ。だがそれは、適切な戦術と的確な戦略があって初めて成立する。いくら数が多くとも、それ頼みの戦いしか出来なければ、それは精強とは言えない」

 

『それに・・・・・・』と前置きを置いて、徹心はさらに続ける。

 

「寡兵が大軍を打ち負かす事例は、洋の東西を問わず少なくない。だったら、可能なはずだ」

「大尉。こう言ってはアレだが、中佐の事。信じてはくれないか? どうせ英雄になるなら、武勲を立てて凱旋しようじゃないか」

「判りました・・・・・・。貴方の運命に、相乗りしましょう・・・・・・」

「ああ、よろしく頼む」

 

 最後に言われた野島少佐のこの一言が決め手となったのか、不敵な笑みを浮かべて賛同する小倉大尉。

 艦橋から朝日がさんさんと差し込む中。徹心は彼とも握手を交わして、互いを認め合った。

 

「それでは、作戦会議を始めるとしよう。艦長、トラックから移ってきた艦娘を呼んでください。泊地の会議室に集まります」

「了解しました」

 

 

☆★★☆

 

 

「あ、いたいた」

 

 提督さんが艦長さん達とお話ししに行っている間、私達は適当に艦内の見学をしていました。

 今まで、乗ったことのある船と来たら、パラオまで行くときに乗った指揮船や黒金くらい。私達や深海棲艦の皆さんが現れるまで、あの戦争で戦っていた軍艦に乗ったことは、無かったから。

 長良ちゃんと一緒に、機動甲板に出てきたら、そこには見覚えのある髪型の子が。

 

「久しぶり、五十鈴。元気にしてた?」

「長良、それに名取も。久しぶりね」

 

 五十鈴ちゃんや、ここにはいませんが叢雲ちゃんや古鷹さんと会うのは、トラックでの作戦以来。だけど、あれからいろいろな事がありすぎて、まるで遠い昔の事のようにも思えます。

 

「それにしても、あれからどうしてたの?」

「あ、それは私も・・・・・・気になる・・・・・・」

「そうねえ、話せば長くなるんだけど・・・・・・」

 

 そう言って五十鈴ちゃんは長良ちゃんの質問に答え始めた。

 

「トラックは戦力再編ってことで艦娘の総入れ替えが行われたのよ。暁と子日は、そのまま残留って事になったんだけど、巡洋艦以上の艦娘全員と、一部の駆逐艦は本土に留め置き。で、暇していたところに出向って形で、椛山中将に声を掛けられたって訳。最も、応じられたのは私と古鷹、叢雲に浜風と谷風だけだけど」

「それでも充分よ! 今の私達には、戦力が足りないもの!」

 

 長良ちゃんの言う通り、今は戦力が足りてない。だから、一個戦隊分、五隻の艦娘が来てくれるのはとても嬉しかった。

 

「五十鈴、ここにいたのね。泊地の会議室に集合だそうよ。中佐が作戦会議をするみたい」

「了解よ。さて・・・・・・」

 

 話し込んでいると叢雲ちゃんが私達を呼びに来ました。提督さんが召集を掛けてきたと言うことは、いよいよ始まるんだ・・・・・・。

 

「しっかりしなさい。中佐が言ってたわよ、『名取は要所要所で頼りになる』って」

「えっ、本当・・・・・・?」

「ええ、本当」

 

 提督さん、私の事を・・・・・・褒めてくれてたなんて・・・・・・。

 

「えへへ・・・・・・」

「やれやれね・・・・・・」

 

 

★☆☆★

 

 

 パラオ泊地司令部内にある、大会議室。

 普段は作戦会議に使用している会議室よりも一回り大きなそこに、パラオ所属の艦娘と、元トラック所属の艦娘が勢揃いしていた。

 

「既に顔合わせは済んでいると思うが、改めて自己紹介を頼む。それじゃあ、古鷹から」

「はい、私からですね。古鷹と言います。重巡洋艦の良いところ、沢山知ってもらえたら嬉しいです」

 

 取り敢えず、最初に促された古鷹が起立。名乗り始める。そして彼女に続いて、五十鈴らも自己紹介を始めた。

 

「五十鈴です。水雷戦隊の指揮はお任せ。全力で艦隊を勝利へ導くわ」

「叢雲よ。中佐とは、以前旅順でも指揮された事があるわ。まあ、よろしくね」

「谷風だよ。これからお世話になるね!」

「駆逐艦、浜風です。これより、第四十四戦隊の指揮下に入ります」

「かぁっ! 相変わらず硬いねぇ」

「たっ、谷風!? 何をするんですか!?」

「こっちはものっくそ柔らかいってぇのに・・・・・・」

 

 浜風が自己紹介を済ませたと思ったら、不意討ちで彼女の胸部装甲を鷲づかみにする谷風。

 小柄な彼女の手で変形する果実を前に、何人かの視線が険しい物になるが、当の本人は何処吹く風だ。

 

「・・・・・・悪ふざけはこのくらいにして、だ。では、状況を確認する。まず、椛山閣下から頂いた情報によると、敵の総戦力は百隻を超える大艦隊だという」

 

 そう。物量だけでなく、問題の敵は能力も高いことが予想される。

 二桁艦隊に及ばないとは言え、相応の実力者がそろった艦隊が三個。それが全滅しているのだ。最悪の場合、その差を覚悟で挑まなければならない。

 

「布陣に関しては、情報が少ないので不明だが、恐らくは待ち伏せを想定しての物だろう。そこで今回の作戦だが、まず艦隊を二手に分ける」

「中佐、ちょっと待って!」

 

 作戦の説明を始めた所で、それを遮る形で五十鈴が口を開く。

 

「それって、攻撃艦隊が取った戦術と同じじゃ無い! どういうつもり?」

「・・・・・・あれは手としては間違っていなかった。だが、その方法は間違っていた。死者に鞭を打つのは不本意だが、彼らの失敗はまず、攻撃に時間差を付けてしまったことだ」

 

そう言って、駒を動かしながら説明を続ける。

 置いた駒は、全部で三つ。先の攻撃に使用された青金、瑪瑙、蘭銅に見立てた駒だ。それに対し、敵の駒は全部で二十個ほど。その内、十五個を青金と瑪瑙に。残りの五個を蘭銅が置かれた場所へと振り向けた。

 

「敵を追い立てて、撃破するというこの戦術には、大きな欠点がある。敵の兵力がこちらを上回っていた場合、時間を掛け過ぎると各個撃破されてしまう危険があるからだ。だからこそ・・・・・・こうする」

 

 今度は、駒の配置を先ほどとは逆にする。蘭銅の部分は、艦娘の集団を示す小さな駒に置き換え、逆に大きな駒は全て、敵の本隊へと振り向ける形だ。

 

「本隊と別働隊とでは、重要度の差は言うまでも無い。その本隊の方に、乾坤一擲の攻勢を掛ければ、必然的にそれを押し返すべく、注意がそちらへ向く。その隙に、背後から少数の部隊で奇襲を仕掛け、撹乱。隊列を寸断し、各個撃破する。仮に実行するとして、割り振りは・・・・・・―」

 

 更に説明を続けようとしたところで、会議室のドアが開けられた事でそれは遮られた。中に入ってきたのは、先ほど救助された艦娘―熊野だ。

 片腕を三角巾で吊り、彼方此方に包帯を巻いた体で松葉杖を突きながら、徹心の下へと歩いて行く彼女。

 

「中佐・・・・・・その作戦、私も。いえ、私達も戦力に加えてください!!」

「熊野・・・・・・」

「私達は、アイツらに仲間を・・・・・・家族を・・・・・・提督を殺されました。せめて私達の手で、(かたき)を討たせて、ください・・・・・・!!」

「っ、大丈夫か!? 衛生兵! 彼女を頼む!!」

 

 その言葉を最後に、彼女は床に倒れる。

 駆けつけてきた衛生兵の手で連れてかれたのを確認すると、再び説明を始める。

 

「できる限り隠密性を保つため、別働隊は高速編成とし、無線は完封。分離する地点も、かなり離れた場所になる」

 

 そう。奇襲は迅速な兵力の移動と展開が求められる。

 アウトレンジ攻撃が出来るならばそれに越したことは無いが、敵の陣容を考えると、航空戦力には正直な所余裕は無い。ならば、足自慢をそろえた高速編成しか無いのだ。

 

「振り分けだが、榛名を旗艦とし、随伴に長良、響、叢雲、初霜の計5隻とする。残りは全て、本隊へと振り向ける。沖ノ島海域に到着次第、作戦開始だ」

「『『了解!!』』」

「野島少佐は、詳細を鞍馬の乗組員に伝達してください。水雷班旗艦と、重巡以上の艦娘は、各自準備にとりかかるように。説明は以上だ」

 

 大まかな段取りが決まったところで、会議はひとまず終了。その足で入渠棟へと足を運ぶ。

 病室の前で数度、戸を叩き、入室を許されてから中へと入った。

 

「皆、具合はどうだ?」

「中佐・・・・・・。ええ、おかげさまで、だいぶ良くなったわ」

 

 自分からの問いにまず答えたのは、飛鷹だ。幸い、一番損傷が軽かったこともあって既にぴんぴんしている。

 だが一方で、熊野の様に傷と疲労が酷い者もいた。特に、黒髪の駆逐艦―磯風は、担ぎ込まれたときには右手が欠損していた。

 今でこそ、腕自体は元通りになっているが、復帰には時間がかかりそうだ。

 

「そのまま聞いてくれ。君たちに質問、いや、意思の確認をしたい」

「提督さん。そりゃぁ、どがぁなことか?」

「ああ。実は、熊野がこの作戦に志願した。君たちにも、参加の意思はあるか?」

 

 この一言によって、彼女達に動揺が走る。あの戦場が、どれだけ危険なものなのかを、彼女達は身をもって知っている。それ故の反応であることは、容易に想像が付いた。

 

「本来であれば、こう言うことは言うべきでは無いだろう・・・・・・。どんな答えでも、自分はそれを尊重するつもりでいる」

「・・・・・・するわ」

「?」

「私は、参加するわ」

 

 艦娘達が互いの顔を突き合わせ、相談事を張り巡らせる中で一人。すみれ色の髪の艦娘―曙はいの一番に、明確に意思を示してきた。

 

「アイツと、川内(ヤセンバカ)と夜戦する約束が、残っているのよ!! それ以外にも、理由なんて掃いて捨てるほどあるわ!!」

「曙の言う通りだ。奴らは僚艦だけではない。青金の乗組員の、艦長の、米沢司令の仇敵だ。ならば、答えは一つ。中佐、私も参加するぞ」

「わっ、私も、志願します! 丸川司令官は、私の恩人なんです!」

 

 磯風に続き、桜色の髪の艦娘―春雨も参加を表明する。気弱そうな見た目に反して、彼女の目には決意の炎が燃えている様に写った。

 

「こうなったのも、何かの縁じゃ。うちも参加するけぇ」

「そうね。それに、今の私達は幽霊みたいな者だもの。何処へ行こうと、勝手でしょう?」

「ええ。中佐、これが私達の答えよ」

 

 飛鷹も村雨も浦風も、やる気満々の様子。どうやら、既に参加することは決定事項の様だ。

 やれやれ・・・・・・

 

「どうやら杞憂だったみたいだな。協力に、感謝する」

「水くさいこたぁ無しじゃよ、『提督さん』」

「『司令官』、よろしくお願いします!」

「ああ。共に戦い抜こう」

 

 これで戦力は確保出来た。後必要なのは作戦と、運否天賦のみ。後者がこちらに向いてくれる様、今出来ることを、するしか無い。

 

 

 




「―・・・・・・合戦用意!!」

「―出撃致します!!」

「―このままじゃ保たねえぞ・・・・・・!」




「貴女の命は要りません・・・・・・。首だけ置いて、逝きなさい・・・・・・!!」


次回、『あ号艦隊決戦』。

勝利の美酒と敗北の苦汁。味わうのは、どちら?


〈登場人物紹介〉

「足柄」

風祭水雷戦隊との演習の直前に、建造配属された重巡洋艦型の艦娘。

「横須賀の妙高型四姉妹」の一人として、レイテ戦役を始め数々の武勲を立ててきたが、横須賀沖での戦闘で轟沈している。

明るく豪快な性格で、その高い戦闘技術で前衛部隊の中心となっていく。

元横須賀鎮守府所属
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