名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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やるべきことも終わった。
後は、祈るだけ・・・・・・。


第二話:出撃

『出世競争に敗れたエリート』。私、響が彼に抱いた第一印象はそんな感じだった。

 眉間にしわの寄った仏頂面に、軍人としては少し長めな黒い髪。この熱い中でも、きっちりと制服を着ている辺り、真面目そうな人柄がうかがえる。

 苛立ちを抑えるためだろうか? 先ほどいきなり飴をかみ砕き始めたのには、少々驚いたが。

 そして今、旗艦である五月雨が先行して発進した後、私の出撃準備が進められている。

 私が今いるのは、第一埠頭内にある発進用ドック。普段は空っぽで、よく妖精達がバレーボールに興じているが、こうして出撃するときには注水され、外海への入り口となる。

 

「つづいてひびきさん、はっしんどうぞ! ごぶうんをおいのりしています!」

 

 管制塔から許可が下り、最後に弾薬の積み込みと、両足の推進機関を確認。全て問題なし。整備妖精の腕には感心させられる。

 

「了解。機関最大、響、出撃する」

 

 ゲートが開かれ、外海へと躍り出る。

 数分後、遅れてきた多摩と、指揮船に乗った提督が合流し、作戦海域へと向かう私達。ここまでは順調。獣同然の深海棲艦でも、さすがに拠点の目の前にはそう多くは現れない様だ。途中、偵察に来ていたと思われる駆逐ロ級と出くわしたが、集中砲火を受けてあっさりと沈んだ。

 ここまで問題なし。羅針盤も正常に機能している。何事も無く終わるかと思ったその時だった。

 

「てきかんみゆ! 11じのほうこう、きょり2200!!」

 

 私の頭の上で見張りをしていた船員妖精が、前方を航行する敵艦隊を発見したのだ。

 

「敵か? 数は!?」

「せいりょく4! うちわけは、けいじゅん1、くちく3!!」

「暗号電文打て! 戦闘準備! 各艦は単縦陣を維持しつつ前進せよ!!」

「りょーかいです!」

「です!」

 

 提督がてきぱきと指示を出し、それに従って私達は隊列を組み直す。先頭が旗艦の五月雨。殿が、一番射程の長い多摩。真ん中に私の配置だ。

 幸い、向こうはまだこちらに気付いていない。主砲は既に装填済みだ、何時でも撃てる。

 

「そうたいきょり、1800!!」

「各艦、撃ち方用意!!」

 

 彼我の距離が徐々に詰まっていき、私の12.7サンチ連装砲の射程圏が近づいていく。そして・・・・・・

 

「っ、撃てぇっ!!」

 

 距離が1500を切ったところで、一斉に放つ。

 砲弾の雨が、深海棲艦へと降り注ぎ、奇襲を受けた彼らは面食らったらしく、隊列に乱れが生じる。その内の一発が、駆逐艦に直撃し、爆発した。

 

「ちゃくだんかくにん! くちく1、たいは!!」

「距離を詰めつつ、第二射に移行しろ! 一気に封殺する!!」

 

 奇襲のショックから立ち直ったのか、深海棲艦達も反撃してきた。やられるわけにはいかないので、こちらも五月雨達と共に攻撃を続行する。

 止むことを知らない、砲撃の応酬。何発もの砲弾が、海面に着弾する度に盛大な水柱が立ち上り、一部は至近弾となってこちらの身を少しずつ削っていく。

 

「ひゃあっ!?」

 

 拙いな。先ほどの至近弾で、五月雨が小破したようだ。戦闘に支障は無いレベルだが、無視できる訳でも無い。とは言え・・・・・・

 

「次で終わらせるけどね」

 

 魚雷発射管は、既に装填済み。後は、提督の指示を待つばかりだ。

 

「敵も弱ってきた。こちらは何時でも撃てる」

「私も、問題無しです!」

「にゃあ。こっちも、大丈夫」

「良し。各艦、雷撃戦用意!!」

 

 そして、待ちに待った命令。私達駆逐艦が、大型艦艇をも沈めうる武器の使用するときが来た。

 発射管の狙いを定め、引き金を引く。勢いよく躍り出た魚雷達は、白い軌跡を水面に描きながら海中へと姿を消す。そして一拍おいて起きる、大爆発。最後まで奮戦していた敵も、今のを受けて沈んだようだ。

 

「てきかんたいのぜんめつをかくにん! わがほうのひがい、けいびなり!」

「了解した。警戒態勢解除。各艦、帰投せよ」

 

 どうやら、今の艦隊が最後の敵だったようだ。相手が弱かったとは言え、こちらの被害は五月雨が小破したことを除けばほぼ無傷。

 少なくとも彼は先任の無能な提督とは、一味違うようだ。

 

「了解。響、これより帰投する」

 

とりあえず、このことは今回サボった彼女達にも伝えておこう。もしかしたら、明日はマシになるかもしれない。

 

――――――

 

「それで、どうだったの?」

 

 帰還した後、装備を整備妖精に預けた直後のことだった。

 霞達、今回出撃しなかった艦娘達が詰め寄ってきたのだ。どうも口ぶりから察するに、今日のことを聞いてきているらしい。とりあえず、任務中の一連の戦闘と、彼の采配を事細かに説明した。

 

「・・・・・・まあ、悪くは無かった。直接指揮を執っていたと言うこともあるだろうけど、決して無能では無さそうだ」

「んー、それだったら、言うこと聞いても良いっぽい?」

「夕立ちゃんがそう言うなら、私も、行っても良いかしら?」

「私もそうするわ。それに、明日提督に謝ってこないと・・・・・・」

 

 夕立と如月、初霜は行く気になったみたいだ。駆逐艦はここの戦力の大半を占めるから、同じ艦娘としてもありがたい。

 

「えっと・・・・・・私は、まだ答えが出せそうに無いです」

「私も同感だ。偶然かもしれないからな」

 

 神通と長月は回答を保留。二人はここへ来て長い方だからか、今ひとつ材料が足りないと判断したようだ。

 で、肝心の霞は・・・・・・

 

「ふーん・・・・・・行きたければ行けば。私は行かないけど」

 

 まだ拒否を貫く腹積もりのようだ。まあとりあえず、一先ずは定数を満たせたんだ、安心して提督に報告できる。

 『あの提督』がいた時は、それこそ昼も夜も無い生活だったけど、『彼』は間違いなく、信頼できるし、この泊地を変えてくれる。安心したら、何だか眠くなってきた。今日は、グッスリ眠れそうだ・・・・・・。




「きゃぁあっ!!」

「-大丈夫か!?」

「了解―行くわよ!!」

次回、「意地」。

彼女の撃つ銃は、その言葉がよく似合う。
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