名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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第二章、南西諸島海域編もいよいよ佳境。原作でも一つの折り返し地点である沖ノ島での戦いです。

それと、今回からはオーバードライヴさまの小説『艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー』から登場人物の名前をお借りしていますので、そちらもよろしくお願いします。

それと、今回は凄まじく長くなってしまったので、いくつか分割して投稿します。それでは、どうぞ





第二章・第十三話:あ号艦隊決戦・1~開戦の花火~

 

☆★★☆

 

 

 古鷹ら旧トラック泊地艦隊と、熊野達攻撃艦隊の残存戦力を編入したその日から、技術部は夜を徹しての作業に追われていた。何せ、熊野達、旧攻撃艦隊の艤装の修理と、新種の深海棲艦に対抗するための武装の開発。その両方をやらなければならなかったからである。

 一応、修理自体は熊野の艤装はほぼ手作業であることを除けば、同型艦の艤装から予備の部品を拝借して事足りているが、それでも擦り合わせに使う時間を鑑みれば、あまり多くは残されていなかった。

 そして東の空が白々とし始める頃。工廠の格納庫には、修理の完了した艤装と、完成した武装。そして緊張の糸が切れて死んだ様に眠る技術者達の姿があったという。

 そこからさらに一日間を置いて、今度は指揮系統の確認や、作戦の微調整。そして少しでも勝利出来る可能性を上げるべく、演習や訓練が絶えず行われた。そして全ての準備を整えた艦隊が、鞍馬に乗ってパラオから出港したのは、パラオに援軍が到着した五日後の事であった。

 

「『八月二十三日。天気晴朗。航海、未だ支障なし。鞍馬はよく働いてくれている』、と・・・・・・」

「中佐、航海日誌ですか?」

 

 その道中でのこと。徹心が日誌を付けていた所、横合いから古鷹が彼に話しかけてきた。

 

「ああ。外洋に出ること自体はあったが、こうして物を書く時間は、無かったからな」

「仰ってくれれば、私が書きましたのに」

「新人の頃からの習慣、と言うより癖みたいな物だ。気持ちは受け取っておく。ありがとう」

「いえ。っと、野島艦長から伝言です」

「何か?」

「『もうすぐ作戦海域に到着しますので、艦橋までお願いします』だそうですよ」

「了解した、直ぐに向かう」

 

 それを聞いて、徹心は筆を置いて自室を後にする。作戦開始の時刻が刻一刻と近づいていることをひしひしと感じながら、戦闘指揮艦橋へと足を踏み入れると、そこの空気はとにかく張り詰めていた。

 多くの士官や兵は実戦経験が少ない者が多いため、これは当然と言えば当然だが。

 

「この調子でいけば、1500時までには海域外縁部に着きそうです」

「榛名達は?」

「先ほど、作戦海域に入るとの報告がありましたので、既に行動を開始していると思います」

 

 島村少尉と天田中尉からの報告を受け、持ってきた海図に目を通す徹心。

 沖ノ島は、この近辺では珍しい大きな環礁のある島で、一時期は海軍の拠点を設営することも計画されていた。しかし、戦局の悪化と深海棲艦の出現によって手つかずとなっていたところを、今回彼らの根城にされてしまった訳である。

 ここを奪還しないことには、いつまた本土へと直接攻撃を、第二の呉事変を起こされるかわからない。横須賀でこの事実を伝えられてからこの方、彼の頭からはそのことが離れられないでいた。

 

「香月中尉、艦内無線を取ってくれ」

「わかりました。どちらへ、おつなぎしましょうか?」

「艦内全体だ。放送をしたい」

「判りました、お待ちを・・・・・・。どうぞ」

「ありがとう」

 

 香月中尉から無線用の受話器を受け取り、指揮官席から立ち上がる徹心。そして彼は、満を持して口を開き、言の葉を紡ぎ出した。

 

「鞍馬の全乗組員の諸君。自分は、第四十四戦隊司令官の、東郷徹心中佐だ。作業中の者は、手を止めなくて構わないので、そのまま聞いて欲しい」

 

 マイクとスピーカー越しに告げられた彼の言葉に対し、ある者は食器を洗いながら。ある者は主砲の掃除をしながら。またある者は、甲板で海風に吹かれながら、耳を傾ける。

 

「今現在、自分達が向かっている沖ノ島は、海域内に多数の深海棲艦が集結しつつあり、先日はそれを撃つべく攻撃艦隊が派遣され・・・・・・全滅している。少なくとも、奴らはこちらの倍近い戦力を持っていると見て、間違い無いだろう」

 

 これに対し格納庫では、その攻撃艦隊の艦娘達がその時の悔しさを、悲しさを、無念を思い出していた。怒りに打ち震え、あるいは涙を流して。

 

「それに対し、こちらは艦娘がせいぜい一個艦隊程度。駆逐隊の扱い次第ではもっと増えるが、それでも総数は変わらないことと、敵よりも少ないことに変わりは無い。最悪、艦隊全滅もあり得るだろう。だが、自分が。東郷徹心がいる限り、そのような筋書きへは決して歩ませない」

 

 この時徹心は、柄にも無く酔っていた。と言っても、酒にでは無い。今こうして、自分の手による選択次第で、仲間の、部下達の命運を握っているという、この状況にである。だが彼は、そんなことはおくびにも出さずに演説を続けた。

 

「奴らは確かに強い。能力もあるし、何より物量差は歴然だ。だが自分達には、知恵がある。信頼出来る、仲間がいる。それこそが、自分達の武器だ。それこそが、勝利の鍵だ。自分の命は、今より君たちに預ける。だから君たちも、自分にその命を預けて欲しい。共に暁の水平線に、勝利を刻もう!!」

 

 彼がそう言って締めくくった直後。艦内は、瞬く間に歓声に包まれた。

 乗組員達は、皆口々に徹心を讃え、中には一生彼に付いていくような旨の事を言い出す者もいる。大なり小なり、彼の元で戦うという決意は、これで固まったのである。味方の士気は、最高潮に達しようとしていた。

 

「凄いな、彼」

「ええ、その通りです。椛山中将が、中佐の事を買っていらしたことも、判る気がします」

「同感。自分の答えに、改めて納得した」

「おや、そうでは無かったのですか?」

「アレはあくまで、艦長の顔を立てただけだ。最も、今はそっちを選んで良かったと思っているが」

 

 その様を、端から見ていた野島艦長と小倉大尉。特に大尉の方は、改めて、彼と共に戦う決意をした様だった。

 

「中佐、いやさ、司令官。そろそろ」

「ああ、始めよう。総員・・・・・・合戦用意っ!!」

「総員合戦用意!!」

「総員、合戦用意! 艦隊は、直ちに出撃をお願いします!!」

 

 彼の口から出陣の言が飛び、鞍馬の艦内はさらに騒がしくなる。

 

「最終確認、始まるわよ!! 急げぇっ!!」

「『応!!』」

 

 保住女史の号令一下、鞍馬の整備員達が一斉に艤装の準備に取りかかる。大半は目の下に隈が出来るくらい疲労しているが、それでも手抜きをすること無くテキパキと進められていく。

 

「よろしくお願いします!」

「おう! 期待してるぜ、戦果をよ!!」

「ふぇぇっ!? こっ、来ないでぇっ!!」

「あぁっ、もう! もっと落ち着いてやってください!!」

 

 容姿端麗な美女美少女達を、ツナギやタンクトップ姿の屈強な男達が取り囲む様は、街でなら官憲が声を掛けても可笑しくない光景だが、一応彼らは軍人で、整備員である。断じてやましい気持ちはない。

 

「燃料充填、良し!!」

「ねんりょうじゅうてん、よし!!」

「弾薬装填、良し!!」

「だんやくそうてん、よし!!」

 

 彼らと、専門の妖精達の熟練した技術もあって、ものの十分足らずで艤装の準備が完了。艦娘達は、それらを背中や全身に纏っていく。

 

「司令官。全艦、出撃準備完了です」

「了解した。・・・・・・艤装拘束解除! 全艦、抜錨せよ!!」

 

 準備を終えた事を告げられた彼は、再び受話器に向かって号令を出す。

 それを受けて、整備用の拘束が整備員達の手で解かれ、後方にあるエレベーターへと艦娘達は歩みを進める。

 

「それにしても、こうして同じ隊で出撃するのは、いつ以来でしたか・・・・・・」

「確か・・・・・・バタビアだったか? それ以来じゃないか?」

「その時は、うちは整備中じゃったよ」

「そうだっけか?」

「レイテでも一緒に行った記憶が無いから・・・・・・下手をすると、艦だった時代にまで遡るかもしれんな」

 

 その中途で、磯風ら旧第十七駆逐隊の面々は、久方ぶりの協働出撃を前にしても緊張していなかった。もとより、最前線で戦ってきた陽炎型駆逐艦である四人からしてみれば、こう言うのは日常の一部なのだろう。

 

「素数を数えて・・・・・・1、3、5、7・・・・・・」

「さみちゃん、それ素数じゃなくて奇数だから・・・・・・」

「大丈夫、夕立は?」

「もっちろん! 素敵なパーティが楽しみっぽい!!」

 

 一方で、五月雨達旧第二駆逐隊はと言うと、五月雨がかなり緊張してしまっていた。

 ここまで大規模な作戦行動は、レイテ戦役以来の者も多い。いくら場数を踏んでも、そういうときは得てしてあるものだから。

 

「皆さん、そろそろ出ますよ。準備は良いですか?」

「がっ、頑張りましょう!」

 

 彼女らを旗艦として率いるのは、神通と名取だ。艦娘の運用が始まってからも、水雷戦隊の旗艦には軽巡が据えられる事は変わらぬ伝統だ。

 

《針路良好。第二、第三水雷班、出撃お願いします》

「了解しました」

「りょっ、了解です!」

 

 エレベーターが上がりきり、機動甲板上を吹きすさぶ海風が、彼女達の頬を撫でる。こうして最前線の、最前衛で戦うことに、神通は柄にも無く高揚していた。

 彼女がカタパルトに足を乗せると、油圧の力で足首が固定され、射出のための力が溜められていく。

 

「第二水雷班、旗艦神通! 出撃致します!!」

「第三水雷班、名取、でっ、出ます!!」

 

 カタパルトが発進管制官の手で操作され、彼女らの体躯は勢いよく海へと投げ出される。空中で器用に姿勢制御し、着水と同時に最大巡航速でその場から離れていく。

 

「さて、私達も行きましょうか」

「ねえ、磯風」

「何だ?」

 

 それを確認した後、駆逐艦達もカタパルトへと足を運ぶ。射出を待つ中で、村雨が磯風が話しかけてきた。

 

「この戦闘が終わったら、どうなるのかしら?」

「さてな・・・・・・。大方、どこかの艦隊に編入されるだろう」

「そっか・・・・・・」

「どうした?」

「出来ることなら、五月雨達と一緒にいたいんだけどね。あの子、すぐドジ踏むから」

「さっ、最近は直ってきたんだから!」

「でも夕立、五月雨が良く転ぶのを見たことあるっぽい」

「うぅ~・・・・・・」

「面白いことしてるんだねぇ、パラオは」

「うふふふ。ええもんじゃね、仲間は」

「そうね。これが私達の持ち味でもあるし」

 

 待機中だった五月雨や谷風ら、他の駆逐艦達も、その会話の中に入ってくる。その様を、浦風と浜風は和やかな目で見ていた。

 

「その気持ちはわからんでも無いさ。だが・・・・・・今は目の前の作戦に集中しよう。話はその後だ」

「それもそうね」

《続いて、第二、第三駆逐班。出撃願います》

「「『了解!!』」」

 

 決意を新たに、前傾姿勢を取る。官制を担当する水兵が旗を振る。射出可能の合図だ。

 

「第二駆逐隊、村雨! 行っきまーす!!」

「第十七駆逐隊磯風、推参!!」

「五月雨、行きます!!」

「第十七駆逐隊浜風、出撃します・・・・・・!」

「駆逐艦夕立、出撃よ!!」

「谷風! 出撃するよ!!」

「白露型五番艦、春雨、出撃します!」

「浦風、出撃じゃ!!」

 

 次々とカタパルトが操作され、神通と名取が射出された方と同じ側から出撃していく駆逐艦型の艦娘達。彼女達は、先行していた旗艦の二人と合流すると、そこから楔陣形を展開。後から来る本隊に先行して進撃していった。

 

《続いて、第一、第二戦隊。出撃お願いします》

「了解しました」

 

 それから程なくして、再びエレベーターが動作し、艦娘達が機動甲板へと姿を現した。

 出てきたのは、巨大な艤装を背中に背負った扶桑を中心に、足柄、羽黒、摩耶、熊野が随伴する第一戦隊と、鳥海を中心に多摩、五十鈴、曙、霞が護衛として付いた第二戦隊だ。

 

「いよいよ戦場(いくさば)ですわね・・・・・・」

「熊野さん・・・・・・あの・・・・・・」

「ええ、判っていますわ」

 

 カタパルトの準備が進められる中で、熊野に話しかける羽黒。

 

「戦場で真っ先に死ぬのは、蛮勇と無知の者から。だからこそ、冷静に動かねばなりません」

「だっ、だけど・・・・・・鈴谷さん達の事は・・・・・・」

「無論、諦めていません。可能なら、直ぐにでも探しに行きたいですもの。ですが、武門の一員として私情を挟むわけにはいきませんわ。それは彼女も、解っている様ですし」

 

 今は生きているかも判らない仲間の一人。その姉妹艦の事を思い出す熊野。その事を報せたときも、彼女は毅然としてそれを受け止めていた事を。

 

「熊野さん・・・・・・。頑張りましょう!」

「ええ、よろしくてよ」

《第一戦隊、出撃お願いします》

「重巡熊野、推参致します!!」

 

 発進官制から告げられ、発進体勢を取る。それと同時に、彼女はカタパルトで撃ち出されていく。

 波をかき分け、水面を疾駆する彼女の目には、決意の光が浮かんでいた。

 

 

―――――――

 

 

「全艦、出撃完了しました」

「良し、本艦も後に続くぞ。機関最大。最後尾の第四戦隊との相対距離を、7300に保ちながら追従する」

 

 全ての艦娘が出撃し終えた直後。徹心の出したこの命令に、艦橋の者達は疑問符を思い浮かべる。

 本来なら護衛艦は後方へと退避し、旗艦もしくは次席旗艦から送られてくる戦況報告を元に逐次指示を出すのが通例である。護衛艦が『司令艦』と呼ばれる所以でもあり、彼の考えはこれまでの艦娘運用の基本からは外れる事だからだ。

 

「お言葉ですが、司令官。それは本艦を危険に晒すことになるかと」

「その通りだ。だがそれでは、どうしても時間差が生じてしまう。できるかぎり、それを小さくしたい」

 

 香月中尉の疑問も最もだ。

 鞍馬の基準排水量は、護衛艦への設計変更が行われた段階で一万二千トン。最初から護衛艦として作られた刃金型よりも大型なため、被弾面積も当然広く、狙われやすい。

 だが裏を返せば、大型であることは索敵、特に目視可能な範囲が広くなることにも繋がる。

 

「戦局を素早く把握することが出来る様になれば、その分指示を早く出せる。無論、危険は承知の上だが、そうでもしなければこの戦い、勝つのは難しい。解ってくれないか?」

「・・・・・・了解しました」

《こちら索敵艦橋! 一時の方向、距離12000に敵影見ゆ!!》

「来たな・・・・・・。では、始めるとしよう。司令部より第四戦隊へ。予定通り、空戦隊を出撃させろ」

《こちら雲龍、了解よ。言われたとおり三分の二は艦戦にしてきたけど・・・・・・》

「ああ。足りない分は、水中から行かせる」

《判ったわ》

 

 索敵班からの報告を受け、徹心からの指示が雲龍ら、第四戦隊に通達される。それに合わせ、空母三人は次々と艦載機を発進させて行く中で、千歳と千代田だけは様子が違った。

 

《こちら千歳。甲標的隊、準備完了です!》

《こちら千代田。何時でもいけるわ!》

「良し、出せ!」

 

 彼女達の両足には、鳥かごの様な部品が付けられており、その中に三隻づつ。合計で六隻の特殊潜航艇、“甲標的”が収められている。その甲標的達の拘束が解かれ、そのまま海中へと飛び込んでいった。

 千歳型は甲標的母艦としての運用実績もあり、徹心はそれを活かすべく、今回彼女達に改造を受けることを指示したのである。

 

「空戦隊、潜航艇隊、発進完了です」

「了解した。司令部より、第一、第二戦隊へ。主砲の有効射程に入り次第、直ちに攻撃を開始せよ。空戦隊は、そのまま制空権の確保に専念。対艦攻撃実施の有無は、空母各艦の判断に任せる」

《第一戦隊、了解しました》

《第二戦隊、了解です!》

《第四戦隊、了解よ》

 

 彼の指令を受け、真っ直ぐに敵艦隊へと向かっていく艦娘達。後に、『沖ノ島海戦』と呼ばれる戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。

 

 

 

 

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