名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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(※注意事項)

このパートは、深海棲艦化などの残酷な描写があります。
閲覧の際は、その部分に注意してください。


第二章・第十六話:あ号艦隊決戦・4~黄昏の葬送曲~

☆★★☆

 

 

《てきかんたいの、せんめつをかくにん。さくせんせいこうです!!》

 

 艦橋の中に、通信機越しで妖精の可愛らしい声が響き渡る。

 

「索敵班、そちらはどうか?」

《こちら、索敵艦橋。周囲に敵影はありません。あるのは残骸ばかりです》

「了解した・・・・・・。こちらでも確認した。全艦、直ちに帰投せよ」

 

 終わった・・・・・・。

 殿村閣下の。攻撃艦隊の弔い合戦が。自分達、パラオ泊地の未来を決める戦いが、ようやく終わった。

 

「司令官より、乗組員各位、及び全艦娘に通達。これより、報告のため横須賀へと向かう。この戦い、勝ったのは自分達だ。なお、海域通過の前に起立、敬礼をもって戦死した者達を哀悼の意を示すべし。以上」

 

確かに勝ちはした。だが、失う物があまりにも多すぎた。

 護衛艦三隻分の乗組員と、艦娘数十隻。軍人は一人教育するだけでも長い年月と大量の費用が掛かる。艦隊司令官を務められるだけの才を有する人材ならなおさらだ。

 艦娘にしたって、建造出来る拠点や艦種が不特定である以上、仮に艦隊を再建出来たとしても、同じ陣容にできるかどうかは解らないのだ。

 このまま無為に損耗が増えれば、いずれ連合艦隊は再び崩壊してしまう。それだけは、何としても避けなければならない。

 

「少し外す。艦長、後は頼みます」

「わかりました」

 

 野島少佐に後を任せ、機動甲板へと出る。

 戦闘があった方の弦側に、艦娘や乗組員達が居並び、敬礼―死者への葬送のための左敬礼をしたまま黙祷している。今はただ、祈るとしよう。生者が死者に出来るのは、それしか無い・・・・・・。

 

 

★☆☆★

 

 

 作戦が終わってから半日後。再び日が西の空を赤く染め上げ始める頃。最大限の弔意を示す一九発の空砲と共に、鞍馬は本土へ向けて航海を開始した。

 

「曙さん、ここにいらしたのですね・・・・・・」

「熊野・・・・・・」

「隣、よろしいかしら?」

「ん・・・・・・」

 

 ふと振り返ると、熊野が私のすぐ後ろに立っていた。隣に座っても良いかと聞いてきたので、目線で肯定する。

 

「伊勢さん達は・・・・・・残念でしたわ」

「そうね・・・・・・」

 

 結論を言ってしまえば、仲間達(アイツら)は見つからなかった。熊野と私も、戦闘終了後の捜索に加わったけど、結果は察しの通り。

 見つかったのも、龍鳳が使っていたネクタイと、潮が連装砲に付けてたバッジ。そして殿村提督(クソ提督)の軍帽だけだった。

 それを拾い上げたとき、あたしは思わず涙を流していた。あたしと潮の事、まるで娘か何かでも見る様な感じで接していた彼。

 いつだかは忘れたけど、潮がうっかり本当に『お父さん』なんて言ったときは、腹を抱えて笑ってやったし、伊勢も川内も龍鳳も笑っていて、潮はタコみたいに真っ赤になっていた。だけど、もう二度と見る機会を失ってしまった。

 こうなることが解っていたら、もう少し、まともに接する事も、できただろうに・・・・・・。ホント、馬ッ鹿みたい・・・・・・。

 

「ねえ、熊野・・・・・・」

「何ですか?」

「あたし達、これからどうなるのかしら・・・・・・」

「そうですわね・・・・・・。大方、どこかの拠点に編入、でしょうね」

「あたしはさ・・・・・・。このままパラオに移ろうかなって」

「パラオへ?」

「そ。最前線って話だけど、悪い所じゃなさそうだし。それにしても、さ。皮肉な物よね」

 

 話題は変わるけど、この戦い、思えば不思議な運命だと言える。

 記録で読んだ限りだと、伊勢に龍鳳、潮と、艦だった頃は沈まずに済んでいる連中が、尽く沈んでいる。

 幸運だとか、技量が高いとか、そんなのはあくまで前世の話。結局の所、重要なのは『今』だと言うことを痛感させられた。

 

「そうですわね。何もかもが変わりましたわ。数年前まで干戈を交えていた米英と、今は手を取り合っている。そして何より、艦娘となってから明らかに変わった人も、いますわね。ですが・・・・・・」

 

 熊野が何か言いかけた、その時だった。不意に、艦の様子が慌ただしくなり始める。最初は敵襲かと思ったけど、どうも様子がおかしい。

 

「ねえ、何があったの?」

《八時の方向に、艦娘らしき集団が確認されました。恐らく、攻撃艦隊の生き残りと思われます》

 

 艦橋に聞いてみた所、電話越しで告げてきた香月中尉の声に、私は良い意味で耳を疑った。

 と言うことは、もしかしたら・・・・・・!!

 

「熊野!」

「ええ、行きましょう!」

 

 こうしてはいられない。動ける艦娘は限られてるから、急がないと!

 けどこの時、私はまだ知らなかった。この発見が、決定的な物になってしまうなんて・・・・・・

 

 

――――――――

 

 

 比較的損傷の少なかった私と熊野を中心に、行動可能な艦娘達が、その集団の元へと駆けつける。

 

「潮ぉっ!!」

「曙・・・・・・ちゃん・・・・・・?」

 

 まず真っ先に目に付いたのは、私と同じ、駆逐艦の仲間だった。深海棲艦に襲われ、轟沈したと思われた仲間達との再会。いくら私でも、泣かずにはいられなかった。

 

「良かった・・・・・・生きてて、本当に、良かった・・・・・・!!」

「曙チゃン・・・・・・あノ・・・・・・私・・・・・・」

「何も言わないで。本当に、心配したんだから・・・・・・!!」

 

 抱きついた状態から少し離れ、私は潮の顔を正面から見据える。そして相手の手を引こうとした、その時だった。

 

「曙チャン・・・・・・」

「何・・・・・・」

「美味イシソウ・・・・・・」

「えっ・・・・・・えぇっ!?」

 

その一言と共に、潮が首筋に食いつこうとしたため、咄嗟に突き飛ばしてしまう。

 するとどうだろうか。彼女の顔の一部が、まるで古びた漆喰の様にぼろぼろと剥がれ落ち、その隙間からはこの世のものとも思えない、虚ろな光を帯びた目が現れたのだ。

 

「曙、離れて!! もう彼女は、『潮』じゃありません!!」

「どういうことよ!? 潮『じゃない』って・・・・・・!」

 

 目つきを戦闘時のそれへと転じさせ、主砲を構える浜風。ちょっと待って、それって・・・・・・?!

 

「トラックにいた頃、一度だけ見たことがあります。彼女は・・・・・・『触媒にされた』んです!」

「触媒・・・・・・? アンタ、それってどういうことなの・・・・・・?」

「有り体に言ってしまえば、深海棲艦を作り出す苗床にされたんです。中身が見えたと言うことは、既にかなり侵食が進んでいる証拠。もうこうなっては、沈めるしかありません・・・・・・」

「そん・・・・・・な・・・・・・」

 

 告げられた事実に、私は耳を疑った。

 やっと再会出来たと思ったら、既に死んだも同然の状態になっていたなど、冗談じゃ無いわ・・・・・・!

 

「曙チャン・・・・・・セッカく会えたンダかラ・・・・・・一緒二、行Koう・・・・・・」

 

 一歩、また一歩と、歩み寄る度に。潮の体は剥がれ続け、中から少しずつ白と黒に彩られた体躯が覗き始めている。

 恐怖を駆り立てるその光景に、私は腰を抜かしてしまう。

 

「あ・・・・・・あぁ・・・・・・」

「ネェ、曙チャン・・・・・・ドウシテ、怖がルノ・・・・・・? 私だヨ・・・・・・潮ダよ・・・・・・?」

 

 潮の姿を借りた『ナニカ』の手が、頬に触れようとした直後だった。彼女の胸を、刃が貫いたのは。

 

「何・・・・・・デ・・・・・・?」

「伊勢・・・・・・?」

 

 体の構成を維持出来なくなったのか、その『ナニカ』は消滅し、その背後には折れた軍刀を構える伊勢の姿があった。

 

「伊勢!!」

「ごめん、曙・・・・・・。こうするしか、無かったわ・・・・・・」

「伊勢、それよりもアンタ・・・・・・」

「まあ、私達も大なり小なり、似た様な状態かな?」

 

そう言って彼女は、装束の上衣を開けさせる。

 彼女の胸元には、水疱とも膿疱とも付かない球体が張り付いていたのだ。しかも生きているかの様に、時折脈打つ様な動きも見せる不気味な代物が。

 

「これって・・・・・・」

「深海棲艦の触媒・・・・・・。言っちゃえば、種みたなものね。あいつら、鉄くずとか死体とかに植え付けて、どんどん仲間を増やして行っているみたいだわ。多分だけど、他の艦隊でもこうなってると思う・・・・・・」

「なんて言うか、さ・・・・・・解るんだよね・・・・・・。段々と、私が私で無くなっていくのが・・・・・・。今だって、潮みたいにならないよう必死に堪えてるんだから・・・・・・」

「鈴谷・・・・・・」

 

 痛々しい仲間の姿に、私は目を背け、熊野も直視出来ないでいる。出来ることなら、こんな事は起きて欲しくなかった。

 出来ることなら、見つけられて欲しくなかった・・・・・・!

 

「龍鳳・・・・・・」

「雲龍さん・・・・・・。判らないものですね。『あの時』とは、逆ですから・・・・・・」

「そうね・・・・・・。あれは、私が見送られる側だったわね・・・・・・」

 

 確か龍鳳と雲龍は、僚艦として出撃した過去があったわね。あいつ、無表情な様に見えて、全然違うじゃ無い・・・・・・。こっから見ても、悲しんでるのが丸わかりよ。

 

「皆さん・・・・・・お願いがあります。私を・・・・・・私達を・・・・・・」

 

 そして龍鳳は、まるで消え入るかの様に、最期の願いを彼女らに告げた。

 

「殺してください・・・・・・」

「そう・・・・・・。なら、動かないで。一撃で決めるわ」

「雲龍さん、何を!?」

 

 それを聞いて、錫杖を構える雲龍を見て、狼狽する熊野。だが彼女は、淡々と反論した。

 

「このまま放っておいたら、いずれ彼女達は深海棲艦になってしまう。ならいっそのこと、楽にしてあげるべきよ」

「ですが、まだ助かる可能性は・・・・・・!!」

「確かにあるかもしれない。けど、確証が無い以上それは取れないわ。きっと提督も、そうするでしょうし」

 

 出来ることなら、私だって仲間を介錯する様な事はしたくないし、やりたくない。けどこうなった以上、もうアイツらは・・・・・・!

 

「なら、少しだけ待って」

 

けどその前に、最後の約束。果たさせて貰わないとね。

 

「川内」

「何、曙?」

 

 既に海面に倒れている川内に話しかける。体中に付けられた弾痕や切り傷が、彼女の死闘を物語っていた。

 

「あたしとの約束。覚えてる?」

「夜戦・・・・・・だっけ? まだ夜じゃ無いけど、良いよ。やったげる」

 

そう言って起き上がった川内は、残されていた短刀を抜き、私も主砲を構えた。

 しばしの静寂の中で、波の音と互いの息づかいだけが支配し始めた、その時。

 

「!!」

「・・・・・・!!」

 

互いに一歩、駆け出した。

 私が主砲を連射し、川内はそれを時に短刀で弾くなど最低限の動きで躱しながら、徐々に互いの距離を詰めていく。

 

『良い、皆?』

 

 その中で、頭の中ではかつての記憶がフラッシュバックしていた。

 

『夜戦の極意は、一撃必殺。急所目がけて、一息に撃ち込むのよ』

 

 あたしと潮が、殿村艦隊に配属されたばかりのころ。水雷戦隊の旗艦を務めていた川内(ヤセンバカ)に寝ているところを叩き起こされたのは。まるで子供の様に笑っていたあいつの顔を、今になって思い出す。

 

『きゅ、急所をですか・・・・・・?』

『そう。変に加減すると、相手はかえって苦しんでしまう。だから一思いに、ね』

 

〈急所目がけて、一息に・・・・・・!〉

 

 鬼気迫る表情で、突進してくる川内。その中で一カ所だけ、明らかに守りが甘いところがあった。

 

「っ・・・・・・!! うわあぁああああああああああああ!!!!!」

 

 遂にお互いの距離が一息も無いくらいに近づいた所で、主砲を相手の胸元に押し当て、接射距離で発砲する。

 放たれた砲弾は、減速すること無く彼女の体を貫いていた。

 

「ははっ・・・・・・良いじゃん。・・・・・良いよねぇ、こう言うの・・・・・・。好き・・・・・・だ・・・・・・なっ・・・・・・!」

 

 胸に風穴を空けられ、倒れ伏す川内。主砲に装填されていたのは実包だったから、間違い無く致命傷だろう。

 まさか、一番最初の大物食いが、味方の艦娘だったなんて・・・・・・。ホント、碌なもんじゃないわ・・・・・・。

 

「・・・・・・夜戦の極意、覚えてたんだ・・・・・・」

「冗談じゃ、無いわよ・・・・・・。夜更けにいきなり叩き起こされて、忘れろってのが難しいっての・・・・・・!」

「うんうん・・・・・・良い後輩を持てて良かったよ・・・・・・。曙・・・・・・また、夜戦しよう・・・・・・」

 

 その一言を最後に、川内の体はこの世から消滅した。あたしの知っている川内型軽巡一番艦の川内は死んだ。あたしが・・・・・・この手で・・・・・・!!

 

 

☆★★☆

 

 

「伊勢・・・・・・」

 

 私の目の前には、苦しそうな表情で跪く義妹の姿があった。

 

「たはは・・・・・・。扶桑にだけは、こんな情けない姿は見せたくなかったんだけどね・・・・・・」

 

 伊勢。本来なら、私と山城―扶桑型戦艦の三番艦として誕生するはずだった超弩級戦艦。だけど、艦だった私達は構造上に重大な欠陥を抱えていて、それらの改良を行った結果全くの別物になってしまった。

 艦娘となっても、その関係は変わらなかった筈だったのに・・・・・・。

 

「一体、どこで変わったのかしら・・・・・・」

「ホント、ね・・・・・・。あのさ、扶桑」

「何かしら?」

「実を言うとさ、私。扶桑達に嫉妬してたんだ・・・・・・」

「え・・・・・・?」

 

 ふと、伊勢が自虐的に話し始めた。『嫉妬していた』・・・・・・? どういうことなの?

 

「過去にとらわれず、国のためにしゃかりきに働いて、いつの間にか二つ名まで付けられるほどに武勲を上げていた。それに比べて私は・・・・・・。呉事変まで生き残れたって理由だけで、殆ど国内に留め置かれてこの有様・・・・・・。レイテ戦役でも、重要な作戦にはあんまし参加出来なかったし」

「・・・・・・!」

 

そう、だったのね・・・・・・。

 今までずっと、私は伊勢と、ここにはいないけど日向に対して、どこか劣等感の様な物を感じていた。けどそれは、彼女も同じだったなんて・・・・・・。

 

「だからせめて、貴女の手で、終わらせてちょうだい・・・・・・」

「ふそうさん・・・・・・」

「・・・・・・妖精さん。一番主砲回頭、徹甲弾装填。・・・・・・彼女を、楽にしてあげて・・・・・・!」

「りょーかいです・・・・・・」

 

 重苦しい音と共に主砲塔が旋回し、ぴったりと照準を合わせる。そして、振り下ろした掌と共に主砲が放たれた。

 

「・・・・・・ありがとう」

 

 砲弾が命中する寸前。彼女の表情は、とても穏やかなものに、見えた気がした・・・・・・。

 

 

★☆☆★

 

 

 仲間をこの手に掛ける。それは私、熊野にとっては経験の無いことでした。殿村提督も、できればそういう事態には遭いたくないと仰っていましたが、今ならその理由がわかる様な気がします。

 

「ごめんね、熊野・・・・・・。また面倒掛けさせちゃって」

「鈴谷・・・・・・どうしてこんな」

「龍鳳は逆転してたけどさ、こっちは場所が違うだけでまんまじゃん・・・・・・。だからさ、嬉しくも思ってるんだよね」

「えっ・・・・・・?」

「生まれ変わっても、熊野と一緒に戦えて、こうして死ぬことが出来るってのがさ・・・・・・」

「そんな・・・・・・!!」

 

『死ぬこと』が『嬉しい』、ですって?

 

「馬鹿な事を言わないで! 私がどれだけ悲しい思いでここにいるのか、解っていますの!?」

「そんなの・・・・・・解っているに決まってるじゃんッ!! 私だって、できれば熊野と一緒に生きて、活きて、逝きたいよ!! だけど・・・・・・だけどぉっ・・・・・・!!」

 

 私の台詞に、怒りで表情を豹変させ、さらに号泣する鈴谷。私と彼女は比較的長い付き合いですが、それでもこんな表情を見せるのは初めてでした。

 それだけ思い詰めていたことを知ったことも・・・・・・。

 

「それでも、また一緒にいられなくなると思うとさぁっ! 私・・・・・・私・・・・・・!!」

「鈴谷・・・・・・」

「お願い熊野・・・・・・。私を・・・・・・殺して(おわらせて)。苦しませないで・・・・・・!」

「・・・・・・解りましたわ」

 

 もはや、これ以上の言葉は無用の様ですわね。私は軍刀を抜いて、彼女の首筋に当てる。

 

「何か、言い残すことは?」

「・・・・・・『齢十年、一睡之夢。一期之栄華、一杯之茶也』・・・・・・」

「それって・・・・・・」

「私なりに改変してみたんだけど、どう?」

「・・・・・・っふ。何て句ですの・・・・・・? 私なら・・・・・・もっと、良いのを詠みますわ・・・・・・!」

「なはは・・・・・・お嬢サマには敵わないかぁ・・・・・・。熊野、曙のこと頼んだよ」

「ええ、お任せください・・・・・・!」

 

 私が軍刀を振り下ろす直前。鈴谷の顔は、満面の笑顔を浮かべていました・・・・・・。

 

 

☆★★☆

 

 

 砲声と、肉を斬る音が間を置かず、立て続けに夕暮れの海に響く。前者は扶桑。後者は多分だけど、熊野かしら。二人とも、辛いでしょうに・・・・・・。

 

「ごめんなさい、手間を掛けさせてしまって・・・・・・」

 

 けど今、私自身もその辛い思いの仲間入りをしようとしている。私の目の前には、かつての僚艦で、朋友でもあった龍鳳の痛々しい姿が。

 左腕は食い千切られたのか、何も通す物が無い袖がヒラヒラと、海風を受けてなびいていた。

 

「良いのよ。言い出したのは、私だから」

「ですけど・・・・・・」

「何も言わないで、言わせないで。別れが辛くなるだけだわ」

「・・・・・・はい」

 

 私と彼女との間に、言葉は要らない。私にとって、最初で最後の相棒だった彼女。

 あの時は、目の前で『空母としての』雲龍が沈むのを見届け、そして今は私に見送られようとしている。

 

「全機雷装。目標、空母龍鳳・・・・・・」

 

 艦載機達のエンジン音が、彼女への葬送の歌の様にも聞こえる。後は急所に命中させれば、苦しむこと無く逝かせられる。

 

「攻撃、開始」

 

 魚雷が命中する瞬間の彼女の顔を、私は今でも覚えている。

さようなら、龍鳳。

さようなら、朋友(ポンヨウ)

さようなら、私の、最期の人・・・・・・。

 

 

 

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