名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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このパートでは、オーバードライヴさまの小説「艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー」から、登場人物の一人である「高峰春斗」の名をお借りしています。

引用元の小説のURLは、目次に貼っておきますので、良ければそちらもご覧ください。


第二章・第十七話:あ号艦隊決戦・5~新たな始まりと蠢く影~

 

☆★★☆

 

 

 横須賀までの航海の道すがら。居住区画にある艦娘達の詰め所を覗いて見たところ、そこはまるで通夜の様な雰囲気になっていた。

 無理も無いだろう。かつての仲間を、この手に掛けたのだから。

 帰艦してきた扶桑達から報告を受けたので知ってはいたが、それでもいたたまれない気持ちは抑えきれなかった。

 

「やめておいた方がよろしいかと」

「・・・・・・?」

 

 せめて指揮官として励まそうと思い、中に入ろうとしたところで自分を止める声が。赤い髪に日本人離れした容姿。香月中尉だった。

 

「東郷中佐。無礼を承知で言わせて貰いますが、今は声を掛けない方がよろしいかと、小官は愚考致します」

「なぜだ? 自分は今まで、艦娘達を励まし、共に歩んできた。それが間違っているのか?」

「不快に思われたのでしたら、謝罪します。ですが仲間の、友の死は部外者が立ち入れるものではありません。言い方は悪いですが、今はまだ、互いに傷を舐め合って癒やす時です。

 その後で彼女達が頼ってきたら、改めて頼られればよろしいかと存じます」

「そうか・・・・・・」

 

 完全に失念していた。いくら護国のための英雄として祭り上げられ、今や対深海棲艦作戦だけでなく海軍の主戦力にして抑止力でもある艦娘とは言え、艤装を外せば一介の婦女子と何ら変わらない。

 強靱な精神力も、針の一突きで破裂してしまう風船の様なものだ。下手につつくわけにはいかない。

 

「ですが、加減は弁えてくださいね。女の嫉妬は、蛇の様にしつこく、炎の様に激しいですから」

「・・・・・・忠告感謝する。心に留めておこう」

「部下としてあるまじき発言でした。処罰は後で如何様にも」

「いや、それには及ばない。もしまた何かあったら、頼らせて貰っても良いだろうか?」

「小官でよろしければ、喜んで」

 

 幸いなことに、自分と香月中尉は年も近い。野島艦長や保住主任以外にも、人間の相談役として頼りにできそうだ。

 

 

☆★★☆

 

 

 横須賀鎮守府の港湾区画。

 そこでは、海軍のお歴々が雁首をそろえて、鞍馬の帰還を今か今かと待ち構えていた。その中には、芝富総参謀長の他に、連合艦隊司令長官の田井中元帥。さらには海軍大臣の角川閣下もいらっしゃっていた。

 

「金剛、到着までどれくらいだ?」

「鞍馬の足でSchedule通りなら、もうすぐ着くはずデース」

「そうか・・・・・・」

 

 東郷に出撃命令が下ってから、既に三週間以上。出撃すると言う旨の電報が鎮守府に届いた日から数えても既に十日以上経っている。

 今は亡き殿村から聞いた限りでは、少なくとも約束を違える様な男では無い事は解っていたのだが、万が一という事もありうる。場合によっては、捜索も必要になってくるだろうか。そう思い始めた、矢先のことだった。

 東京湾の、太平洋の向こうから、汽笛の重低音が鳴り響いたのは。

 

「どこの(バカ)ですか!? 無許可に警笛を鳴らすなど・・・・・・」

「報告します!」

 

 私の隣で村田の奴がぼやいているのを脇目に、一人の水兵が駆け寄ってくる。

 芝富閣下と田井中閣下も頷いておられる所を見るに、お二人にはすでに報せたのだろう。

 

「どうした?」

「見張りより報告がありました。大型の護衛艦らしき艦影が、沖合を進んできているとの事です。また、哨戒艇によれば、菊花紋章を舳先に。マストには旭日旗があったそうです」

「・・・・・・!!」

 

と言うことは、まさか・・・・・・

 

「そんな、戻って来たと言うんですか・・・・・・?」

「その様だな、村田少将。単なる当て馬と思っていたのが、実は赤兎馬だったと知った気持ちは、どうだ?」

「いっ、いえいえ。むしろ良かったと思ってますよ。貴重な戦艦型の艦娘をこれ以上失わずに済んだのでしたから・・・・・・」

 

 どうだかな。あのにやけ気味の面も今はなりを潜め、悪い意味で破顔しそうなのを必死に押さえつけているのが見え見えではないか。額には青筋も浮かんでいるくらいには隠せていない。

 

「しかし、これだけの功績を挙げた部隊を、いつまでも懲罰艦隊としておくのはいかがなものだろうか?」

「それについては、私も同じ事を考えていました。何らかの形で、海軍省から音沙汰があるでしょう。流石に、無碍には出来ないでしょうし」

「でしょうな」

「それにしても、椛山中将がこれほどの才能を見いだすとは・・・・・・」

「ああ。名前も同じ『東郷』だからか、もしかしたら亡き東郷司令長官の生まれ変わりかもしれん」

「いや、竹中半兵衛の、諸葛孔明の再来かもしれませんよ―」

 

 周りの将官連中も、パラオが。第四十四戦隊の存在がいよいよ無視出来ない存在になってきたことに、気付いたようだ。

 東郷。貴様という奴は、やはり本当にただ者では無かった様だ。貴様という存在が呼び水となって、きっと歴史を動かすことになるだろう。今はまだそうでは無いだろうが、いつの日かきっとその時がくる。私は、そう考えずにはいられなかった。

 

 

★☆☆★

 

 

 

「―以上が、当作戦の最終報告となります」

 

 三個艦隊を返り討ちにした深海棲艦隊の殲滅と、棲地となりかけていた沖ノ島の奪還。これまでの歴史上、類を見ない一大決戦は、人類の。パラオ艦隊の勝利に終わった。

 それを踏まえた諸々の報告を、徹心自ら参謀本部にて行っていたのである。

 

「いやはや、椛山中将が見込んだだけの事はある。良くやってくれた、東郷『少将』」

「『少将』? そこまで一気に昇進する覚えは・・・・・・」

「南部仏印沿岸の、製油所地帯の防衛。戦艦ル級の撃破。バシー島での上位種の発見。オリョール海での深海棲艦掃討。そして今回の沖ノ島での活躍。ここまでやって置きながら、何も報いないのでは筋が通らない。これは、我々参謀本部の総意だ」

 

 そう言って芝富参謀長は頷き、他の参謀達もそれに賛意を示す。だがこれに対し、徹心の示した反応は彼らの予想を外れたものだった。

 

「失礼ながら、受け取ることはできません」

「何故かね? 立身出世を望むのは、貴官も例外では無いと思っていたのだが」

「任官したての頃でしたら、喜んで受け取っていました。ですが、これらの功績はいずれも艦娘の、部下達の献身があったからこそ為し得た成果です。

 自分はあくまでも、指揮という形でそれを後押ししただけに過ぎません。賞賛されてしかるべきは、むしろ彼女達かと、思案する次第です」

「むぅ・・・・・・」

 

先ほどまで静まっていた会議場に、喧噪が戻る。軍令部は徹心を、次代を担う若き英雄に、悪い言い方をすれば三個艦隊を喪失したと言う過失から国民の目を逸らす広告塔としての役割を持たせるつもりでいた。

 だが、彼のこの態度によって、思惑通りに行くのは難しい雰囲気が漂い始めていた。

 

「・・・・・・でしたら、こう言うのはどうでしょうか?」

 

 その雰囲気を打破しようとしたのか、村田少将が口を開いた。

 

「東郷中佐に対しては、一階級昇進と勲三等・赤蓬莱勲章。艦娘達に対しては、勲五等・子安貝勲章を叙勲。加えて、懲罰転属してきた者にはさらに懲罰恩赦を出す、と言うのは。これなら、それぞれ不満が出ることは無いかと」

「おお! それなら角も立たないな」

「ふむ、それもそうだな。皆はどうだろうか?」

 

 そう言って、議場を見渡す芝富参謀長。反対する者は、いなかった。

 

「では、正式な通達は追って書面で行う。それまでは、第四四戦隊全将兵ならびに艦娘に対し、全弦上陸を許可する。以上だ」

「小官の我が儘を聞いて頂き、感謝します」

「貴官はこの戦いの、最大の功労者だ。少しくらいの我が儘は、聞いてやるのが年長者の務めだよ。では、解散」

 

 話し合うべき事を終え、列席していた将校達が退室し、徹心もまたその後に続いてその場を辞する中、村田少将だけは違う方向へと歩みを進めていた。

 鎮守府の敷地内、その中でも殆ど人が近寄らない外れの掘っ立て小屋。彼が扉を潜った先には、一台の電信機と、電話機が置かれていた。

 村田少将は電信機の電源を入れ、受話器を手にとってダイヤルを回す。

 

《―私だ》

『これはご無沙汰しております。村田です』

 

 数回ほど呼び出し音が鳴った後、彼は話し相手に対し名乗る。それも、普通なら日本語の筈が、国際公用語―英語でである。

 

『ご注文の通り、連合艦隊の力を殺ぐことには成功しました。ですがその代わり、英雄が一人生まれてしまいましたが』

《まあ、それでもよかろう。かのアーサー王も、最期は部下の裏切りによって伝説に終止符を打ったのだからな。英雄譚は、この手の話に尽きんよ》

『それでしたら、私もけしかけた甲斐があったというものです。では、そろそろ・・・・・・』

《うむ。ミスター村田、今後も我々の為に働いてくれたまえ》

Yes,my precious(ええ、よろこんで)。それでは』

《ああ、また頼むぞ》

「さて・・・・・・と。精々上手く踊ってくださいよ、名無しの英雄さん・・・・・・?」

 

通話を終え、受話器を置いて電信機の電源を切る。

 一仕事を終えて、天井を眺めながら独りごちる村田少将。その表情は、上を仰いでいる所為で伺うことは出来なかった。

 

 

☆★★☆

 

 

 沖ノ島での激闘から帰還してから、数日後。

 これから、自分達第四十四戦隊への叙勲式典がある中で自分、東郷徹心は何をしていたかというと、軍令部の敷地内にある講堂、その控え室にいた。

 今の服装は、いつも着ている二種軍装の白い詰め襟姿ではなく、黒のフロックコート。早い話が礼装である。

 

「それにしても、お前がここまで一足飛びに出世するとは思ってもいなかったぞ」

「たまたま運が良かっただけだ。着任するのが一日ずれていれば、こうはならなかっただろう」

「よく言うぜ。盤面演習で一回も勝たせてくれなかったくせに」

「卒業間際に一回勝てただろう?」

「ありゃ『戦術的』勝利だ。戦略的には、大敗も良いところだぜ。お陰で俺は、艦隊指揮官の道を諦めちまった」

「それで選んだのが査察官の仕事か。父上も元は警官だったし、ある意味天職じゃないか・・・・・・高峰」

 

 襟元を整え、振り向いた先にいたのは一人の男。

 年かさは自分とほぼ同じ。一見すると飄々としているようにも見えるが、それは上辺だけの彼に過ぎない。

 蓋を開けてみれば、悪知恵とそれを活かした駆け引きの巧さで右に出る者は無いと言われている海軍軍令部査察官。そして自分と同じ、海軍兵学校第七七期卒業生。

『高峰春斗』。それが彼の名だ。

 

「よせやい。人の弱みを握って、生きたまま臓物引きずり出すような仕事だぜ? ただまあ、組織の健全性を―」

「『―保つ為には、汚れ役も必要』、だったか?」

「その通りだ。だからこそ、今では選んで良かったと思ってる」

「失礼します。東郷大佐、そろそろお時間となりますので、お願いします」

 

 高峰との会話が弾み始めた所で時間が来たのか、従卒が呼びに来た。

 

「了解した。それじゃあ、また」

「おう。今度は、坂本や藤永辺りを誘って遊びに行こうぜ」

「また座敷遊びか? 今は情勢が情勢だから自粛するべきだろうに・・・・・・」

「まあ、それくらいの役得は許してもらえるさ。んじゃ、あばよ」

「ああ」

 

 二言三言交わし、高峰と別れた自分は従卒の後に付いて廊下を進む。

 会場へと近づくにつれ、恐らく壇上に立っているであろう者の演説が少しずつ聞こえてきた。

 

「それでは、紹介しましょう。この作戦の最大の功労者である、第四四戦隊司令官。東郷徹心大佐です」

 

万雷の拍手と共に、演説台へと向けて歩みを進める。上った後でふと、席の方を見ると、中央の何列かにパラオの艦娘達がまとめて座っていた。

 総旗艦である扶桑を始めとする巡洋艦以上の者達は、女性士官用の制服である第四種軍装に身を包み、五月雨ら駆逐艦達はいつもの戦闘装束の上から白いチョッキを羽織っている。

 式典の時はどうするのかと思っていたが、なるほど。『艦娘は、兵士であり、兵器である』と言う標語が海軍で設定されているが、これはそう言うことだったのか。

 こうしてみると、艤装の無い艦娘はやはり普通の『人間』と変わらないようだ。

 

「それでは、大佐。演説を」

「はい・・・・・・。コホン」

 

 さて、指揮官としてここに呼ばれた以上演説することは聞かされていたが・・・・・・いざ直面すると緊張してしまう。これなら、艦隊指揮をしていた方がまだ気楽だな・・・・・・。

 

「ご紹介に預かりました、東郷徹心です。まず最初に、自分がここまで来られたのは、自分一人だけの力ではありません」

 

 思えば着任して以来。パラオでは常識の通じないことの連続だった。

 ぼろぼろの拠点に、大半はやる気の無い艦娘達。彼女達を何とか説き伏せるなりして、ようやく真っ当な活動が出来る様になった艦隊。

 何より、一度は絶望の淵に叩き落とされていた者が再び希望を取り戻し、自分のために戦ってくれた事に、今では本当に感謝している。彼女達がいてくれたからこそ、困難な作戦も完遂出来た。

 

「謙虚すぎると言われてしまえばそれまでですが、事実として自分のこれまでの職務は、彼女達艦娘と、人間の将兵の皆さんの助力が無ければ完遂することは不可能なものばかりでした。だからこそ、自分は部下との『信頼』を、何よりも大切にしていこうと思っています」

 

 そう、そうだ。実際に海に出て、深海棲艦と戦うのは今では艦娘達だ。その艦娘達の艤装を万全の状態で使える様に手入れするのは、専門の妖精と熟練した技官達だ。

 だからこそ、今の艦隊は指揮官と彼女達との『絆』が重要になってくる。

 ある者は『情愛』と言うだろう。ある者は『従属』と言うだろう。言葉で飾ることに、意味は無い。そこにあるのはただ一つ、『信頼』だ。

 

「軍人として、国家と国民の財産を守る。それは当たり前のことです。ですが、私達『人間』が持てる力は、たかが知れています。皆さん、自分の隣に座っている人の顔を見てください」

 

『信頼』の花は、多くの手を経て咲く物。あの時扶桑に言って聞かせた事を思い出しながら、さらに続ける。

 

「その者の背中を守ることは、そこから家族、友人、思い人を守る事へと繋がり、それが沢山繰り返されれば、やがては国家を、国民を守る事へと繋がる。その小さな一歩を、これからも仲間達と共に歩む事をここに誓って、所信表明の演説に変えさせて頂きます。ご静聴、ありがとうございました」

 

 演説を終え、最敬礼をした直後。会場から、割れんばかりの拍手が巻き起こった。

ここから、始まるんだ。

 自分達、第四四戦隊の。パラオ艦隊の本当の戦いは、ここから・・・・・・!!

 

 

 




「―きゃぁっ!!」

「こんな・・・・・・何で・・・・・・」

「―あの子達に、謝ってください!!」

「―何が解るというの・・・・・・雑草に、華の何が・・・・・・!!」


次回、『華と雑草』。

影と光は表裏一体。どちらかが消えれば、もう片方も消える・・・。


〈登場人物紹介〉

「扶桑」

摩耶、鳥海と同時期にパラオへと懲罰転属として配属された艦娘。

かつては「仏の扶桑」と呼ばれるほどの人格者で、武勲の持ち主だったが、妹の山城の轟沈が原因でやさぐれてしまう。

配属当初は触れれば壊れてしまう様な、幽鬼の如く雰囲気を纏っていたが、旧南部仏印での戦闘を切欠に、立ち直ることができた。

現在は航空戦艦として、パラオ艦隊の総旗艦を務める事が多い。

元舞鶴鎮守府第十艦隊(新西村艦隊)旗艦。
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