名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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今回も二話構成です。前編と併せてどうぞ。


第二章・第十九話:華と雑草・後編

 

★☆☆★

 

 

 いよいよやってきた、第十一艦隊水雷戦隊との模擬演習の日。私―浜風は武者震いが止まらなかった。

 私がかつて身を置いていた、第十八戦隊以上の精兵達が身を置いている艦隊だけに、相手取るに不足は感じない。その演習が開始されるまでの間。装備の確認を終え、試し打ちの許可を貰おうと思った矢先のことでした。

 私の前に、その彼女は立っていた。

 まるで氷の様な冷たい色をした長い髪に、黒いチョッキとスカートを身につけた人物。

ここにいると言うことは、十中八九艦娘。それも、私のよく知っている者。

 

「あら、誰かと思えば旧一七駆の浜風さんじゃないの」

「初風・・・・・・?」

 

 『初風』。かつて、旧第十六駆逐隊に所属していた駆逐艦の名だ。

 無表情、無愛想、無感動と同じ姉妹艦である不知火と似ている点は多いですが・・・・・・少なくとも、こんな皮肉めいた語調で話すことは無かったはずです。

 

「久しいですね。最後に会ったのは・・・・・・確か、マリアナだったかしら。今日はよろしく・・・・・・!?」

「・・・・・・」

 

 握手を求めて手を差し伸べたと思ったら、彼女は無言で、その私の手を払いのけたのだ。

 

「気安く触らないで、懲罰艦隊(ようなしれんちゅう)が生意気に」

「何ですって・・・・・・?」

「聞こえなかったかしら? この初風に、エリートたるこの私に、触るなと言ったのよ」

「・・・・・・!!」

 

 私の事を見る彼女の目は、酷く冷たい光を帯びていたことを、今でも記憶しています。同時に初風が、変わってしまっていたことも・・・・・・。

 

「国内勤務だから少しはマシかと思っていたけど、まさか海外。それも、パラオに飛ばされるなんてね。随分落ちぶれたものじゃない、ねぇ?」

「それでも私は、東郷提督に恩があるから。行き場の無い私や、磯風達を拾って貰った恩が」

「へぇ、随分慕ってるじゃない。一体どんな手で調教(きょういく)されたのかしらね」

「っ! 私は、あくまで艦娘として働いているだけです! 大佐とはそんな関係じゃ・・・・・・!」

「ま、良いけどさ。・・・・・・ん」

「? 何ですか?」

「解らないの? 早く消えなさいよ。目障りだわ」

「貴女、この後に及んで・・・・・・ぐっ?!」

「ふん・・・・・・」

 

 彼女に詰め寄ろうとした、その時でした。私の腹に、彼女の拳がめり込んでいたのは。

 

(すてごま)(すてごま)らしく、温和しく言うことを聞きなさい。それじゃ」

「浜風!」

「大丈夫かい!?」

 

 彼女が去った後。騒ぎを聞きつけた十七駆の仲間が駆け寄ってくる。

 

「大丈夫、大したことじゃありません・・・・・・」

「ったく、初風の奴あんなに突っ慳貪な奴だったかね?」

「最近、戦力整理で第十一艦隊に移ったと聞いていたが・・・・・・酷いものだな」

 

 元々は、ああいう行動に出る様な艦娘では無かったことを知っていただけに、磯風も谷風も、そして私も。去りゆく初風の後ろ姿を何とも言えない気持ちで、見送るしかありませんでした・・・・・・。

 

 

☆★★☆

 

 

「良い天気だ・・・・・・」

「そうですね」

 

 私―磯風言に対し、私の傍らに腰掛ける艦娘が応える。

 焦げ茶色の髪は肩に掛からない程度の長さでバッサリと切りそろえ、頭には水上電探の発信器であるラッパ状の部品と、受信機である箱の様な部品がくっついている。

 服装は白のセーラー服なのだが、小柄な所為もあってスカートは履いておらず、まるでワンピースの様な状態になっている。

 彼女は、雪風。同じく陽炎型の姉妹艦にして、私のかけがえのない朋友(とも)の一人だ。

 

「そう言えばこんな空だったな。『あの日』も・・・・・・」

「・・・・・・そう、ですね」

 

 かつては共に最前線を駆け抜け、最期はこの沖縄の海へ向かう最中に果てた私達。

 まさかあの時は、私自身が輪廻転生を体験する羽目になるとは思ってもいなかったが、浜風や、ここにはいないが霞や初霜と再会できた時は、柄に無く歓喜したことは今でも覚えている。

 

「聞きましたよ、沖ノ島の事。艦隊はその・・・・・・残念でしたね」

「ああ。たまに思うよ、なぜ私と浦風だけが生き残れたのか、と・・・・・・」

「たぶんですけど、磯風にも幸運の女神が付いていたと思いますよ」

「そうか。しかし、判らないものだな」

「何がですか?」

「私達以外。あの戦闘で轟沈した艦娘の事だ。特に潮、伊勢、龍鳳。記録の上では、呉事変まで単なる艦艇でいられた連中が尽く沈んでいる。それとは逆に、報われなかった過去を持つ艦娘達がパラオでは活躍している」

 

 そう。曙の奴が以前話していたことを聞いたことがあるが、この戦争は『あの』戦争とは何もかもが違っている。

 支配者が米軍から深海棲艦に移っただけで、大東亜共栄圏の制海権は失陥していたのには変わりは無く、真っ先に南方及び南西方面の奪還を進めた点は同じ。

 ところがパラオに着任してから調べたところ、所々が矛盾。いや、逆転しているとも言える現象も起きていたことがわかったのだ。

 重巡の中では特に優れた武勲をかつて上げていた、旧第六戦隊の『衣笠』。

 『幸運の空母』とあだ名され、中盤の機動部隊を支え続けた『瑞鶴』。

 旧式ながらも奮戦し、同型艦の中では最後に果てた『水無月』。

 欠陥戦艦の烙印を押され、最期は嬲り殺しにされた『扶桑』。

 開戦から僅かしか生存出来なかった『如月』。

 空母としての活躍の機会はほぼ無く、最期も決して報われたとは言えなかった『雲龍』、『千歳』、『千代田』。

 幸運だった者達は早々に水底に消えるか、実戦の機会が少ない国内拠点に押し込められる。逆に不遇の日々を送っていた者達は、最前線で戦う機会と、生還出来るだけの技量を備えつつある。

 過去の焼き直しかと思っていたが、どうやらこの戦い。勝手が違う物になりそうな事は、間違い無いだろう。

 

「『行雲流水(こううんりゅうすい)』、ですね」

「なんだ、それは?」

「中国のことわざですよ。『雲は行き、水は流るる』。一定の形が無く、種々に移り変わる事の例えです。過去は記録と記憶という形で決まった形がありますが、未来はどうなるかは神様でもわかりませんから」

「そうか・・・・・・そうだな」

「磯風。どうか、死なないでください」

「ふっ、愚問だな。雪風、かく言う貴様も・・・・・・」

 

 『死ぬなよ』と言おうとした、その時だった。不意に、言い争う様な声が聞こえたので、その方向を見る。そこには何かされたのか、腹を押さえてうずくまる浜風と、それを見下ろす初風の姿が。

 

「浜風!」

「大丈夫かい!?」

 

 彼女が去るのを見ながら、浜風の元へと駆け寄る。

 

「大丈夫、大したことじゃありません・・・・・・」

「ったく、初風の奴あんなに突っ慳貪な奴だったかね?」

「最近、戦力整理で第十一艦隊に移ったと聞いていたが・・・・・・酷いものだな」

 

 元から無愛想なところもあったアイツだが、少なくとも身内に乱暴狼藉を働く様な女では無かったはず。雪風の言う通り、未来がどうなるのかはわからないものだ・・・・・・。

 

 

☆★★☆

 

 

 太陽がそろそろ最も高く上がろうとする頃。美ら海(ちゅらうみ)には不釣り合いな号砲の音が響き渡る。

 それを合図に、パラオ艦隊と第十一艦隊、双方の水雷戦隊による演習がいよいよ開始された。

 

「てきえいほそぉーく!! 8じのほうこう、きょり4000!!」

「来ましたね・・・・・・! 名取さん!!」

「はっ、はい! 水雷戦隊の皆さん、複縦陣に移ってください!!」

「『「了解!!」』」

 

 陣形を整え、戦闘機動を取りながら前進するその様は第十一艦隊の面々も既に捉えていた。

 

「二水班各位、準備は良い?」

「初風、何時でもいけるわ」

「天津風、問題なし」

「雪風も、いつでも行けます!」

「はいはーい、時津風もいけるよー」

 

 焦げ茶色の髪の艦娘―能代が移動しながら点呼を取る傍ら、彼女と似た服装の軽巡型艦娘、阿賀野は余裕綽々と言った態度で向こう側を見ていた。

 

「ふふん! 今を時めくパラオ艦隊でも、さいしんえーけーじゅんの阿賀野は負けないんだから!」

「よっ! 阿賀野姐さん、その意気ッス!!」

「頑張りましょう!」

 

 それに合わせて、錆色と紫色の髪の駆逐艦娘―夏潮と萩風がはやし立てる。その様を、駆逐班旗艦である陽炎は頭が痛くなる感覚を覚えていた。

 

「上艦がアホの子過ぎて辛い・・・・・・不幸だわ・・・・・・」

「陽炎お姉ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫だから・・・・・・はぁ・・・・・・」

「てきかんたい、はっぽうしてきます!」

「敵!? 阿賀野さん!!」

 

 索敵を行っていた妖精からの報を受け、阿賀野に報せる陽炎。だが・・・・・・

 

「だいじょーぶ、だいじょーぶ! この距離なら当たりっこないわ!!」

 

 信じられないことに、阿賀野は巡航機動のままかつ、仁王立ちの体勢で一切回避運動をしようとしなかったのだ。実際、放たれた砲弾は左右に逸れているが、それでも何発かは至近に落ちてきており、かなり危なっかしいことに変わりは無い。

 そして案の定、陽炎が危惧していた事が起きてしまった。

 

「てきかんはっぽう、きます!!」

「だいじょーぶだか・・・・・・」

「ちょくげきします!!」

「ふぁっ!?」

 

 運悪く、パラオ艦隊の戦闘を行く名取が放った模擬弾が顔面に直撃。致命的打撃とされ、撃沈判定が下されてしまった。

 

「はぁ・・・・・・。第一駆逐班は二水班に合流。指揮下に入るわよ」

「わかりました」

「りょーかーい。はぁ・・・・・・ああいうのが上司だと、苦労するッス・・・・・・」

 

 それを見て、ちゃっちゃと能代達に合流する事を決めた第一駆逐班の面々。結局彼女らも、陽炎と考えていたことは同じだったようだ。

 

 

★☆☆★

 

 

 私は最初から彼女が、浜風が気に入らなかった。

 保護された場所も、私はブーゲンビル島沖。彼女は日本にほど近い坊の岬沖。必然的に、私が最初に配属された先は南方の僻地、タウイタウイだった。

 艦だった頃の私のいた第二水雷戦隊の旗艦、神通とも再会出来たのはある意味僥倖だった。だけど・・・・・・

 

『華の二水戦ね・・・・・・過去の遺物か』

 

 最初に会った時のこの台詞。その主である最初の司令官に敵意を抱いたのは、ある意味必然だった。

 予科練出の司令官(アレ)では手に負えないと上に印象づけるためにも、私は武勲が欲しかったし、その為にはそれこそ思いつく限りの事をやった。

 単艦で突出するのは日常茶飯事。時には袖の下を渡して戦果を融通してもらって、その後ひっそりと合法的に口封じもしてきた。

 レイテ戦役もくぐり抜け、ブーゲンビル攻防戦でも生き残って過去を振り払い、神通が戦力整理でタウイタウイを離れてからも、武勲を求めてきた。

 そしてようやく本土の部隊。それも、最精鋭と謳われる第十一艦隊第二水雷班へ栄転した、その矢先だった。浜風(アイツ)の所属していた艦隊が解体となり、彼女はそのままパラオへと移った事を知ったのは。

 パラオ泊地、第四十四戦隊。他の拠点から等しく離れた、南方海域における最前線基地の一つ。人員や艦娘の損耗の激しい懲罰艦隊だったと言うことも、その時に。

 私は国内勤務。それも、二桁艦隊の一員に選ばれたエリート。彼女は海外勤務。それも、明日をも知れぬ最前線の一兵卒。浜風に当初抱いていた対抗心が愉悦と優越に変わるまで、大した時間は要さなかった。

 そして来た、私の属する艦隊と、彼女の属する艦隊との演習の日。私の視界の中には、陣形を保ちながら突進してくるアイツの姿が。

 

「主砲構え! 撃ちぃ方ぁ、始めぇっ!!」

「来なさい、ド三流。格の違いって奴を教えてあげる・・・・・・!」

 

 手に持った第一主砲と、艤装の第二主砲を照準。時間差を空けずに解き放つ。

 この調子なら、同航戦かしらね?

 

「次弾装填、次は当てるわよ!」

 

 既に互いに戦闘機動に切り替え、徐々に回避が不規則になっていく中で降り注ぐ砲弾が幾つもの水柱を上げる。

 私達も、能代の指示で之字運動を展開。それらをかいくぐりながら徐々に距離を詰めていく。

 

「魚雷投射、開始!」

「逃がさないんだから!」

「「それぇー!」」

 

 相対距離が300を切ったところで、魚雷管を跳ね上げ、照準。撃ち出す。相手の真下で炸裂すれば、必殺級の一撃となる、筈だった。

 

「・・・・・・っ!? 何で撃てないのよぉっ!?」

 

 射出しようとしたその瞬間、金属を叩く鈍い音が魚雷管から鳴ったと思うと、魚雷は中途半端な位置でぶら下がってしまっていたのだ。

 すぐさま確認したところ、管の真横。魚雷の射出角を決める部分に亀裂が入ってるじゃ無い!? しかも、亀裂があった部分は右から二本目の部分。これでは、魚雷同士が干渉して上手く撃てない。

 でも、一体どうやって?

 まさか・・・・・・!

 

「当ててきたっての・・・・・・!? こんな距離で動きながら、魚雷管へ正確に・・・・・・!?」

 

 確証はない。けど、私にとってはそれだけで充分すぎた。

 今まで抱いてきた優越感はガラガラと音を立てて崩れていき、これまで以上の劣等感が入れ替わりに心を蝕んでいく感覚を覚える。

 

「ド畜生が・・・・・・!」

「ちょっと、初風!? 隊列から離れないで!!」

 

 邪魔になった魚雷を引き抜いて投げ捨て、主砲を乱射しながら吶喊する。狙うは浜風一人。初撃で致命傷を負わせてやる!! 後ろから天津風の止める声が聞こえるけど、知ったことじゃないわ!!

 

「浜風ぇっ!!」

「っ!?」

 

 私が突っ込んでくることに気付いたのか、向こうも主砲で迎撃してくる。それらをかいくぐりながら、私は主砲を投げ捨てて、短刀を振り抜いた。

 一閃。一太刀で彼女の左手に握られていた機銃を弾き、その勢いのまま押し出していく。

 

「くっ、この!」

「遅いのよッ!!」

 

 咄嗟に突き出された拳を躱し、距離を空ける。そして再び突進しようとした、その時だった。

 後方から響く、三つの砲声。そして告げられる、艤装破損と戦闘不能の判定。

 振り向くと、私に主砲を向ける磯風、浦風、谷風の姿が。

 

「そんな・・・・・・なんで・・・・・・!?」

 

 嵌められたの・・・・・・? エリート(わたし)が、落ちこぼれ(あいつら)に・・・・・・?

 この事実を前にして、私の矜恃は粉微塵に吹き飛ばされた。そして私の心の中で、劣等感に憎悪の念が加わるまで、そう時間は掛からなかった。

 

 

★☆☆★

 

 

「そこまで! この勝負は後日、判定といたします。互いに、礼!!」

「『『ありがとうございました!!』』」

 

 日も沈み掛ける頃。茜色に染め上げられた美ら海に号砲が鳴り響き、審判を務めていた三隈から終了が宣言される。

 

「つ、疲れたぁ・・・・・・。当分は敵に回したくないよ」

「確かに、少々貰いすぎたか。これは早く治しておかなければな」

 

 谷風のこの言に対し、左手をぶらつかせながら言う磯風。その左腕は何度も模擬弾を受けたのか、痣だらけになっていた。

 

「まったく、磯風はもう少し自愛してください」

「ほうよ。半端な損傷が、一番危ないんじゃけぇ」

「なに、その時はその時だ。腕がもげようとも、足がもげようとも、首一つになっても戦うさ」

「それに付き合わされる身にも、なって欲しいわぁ・・・・・・」

 

 そう言った他愛の無い会話をしながら、夕陽が差し込む廊下を行く四人。

 

「ん・・・・・・?」

 

 その最中、ふと視線を横に移す谷風。その先―建物の間にある中庭で、お互い向かい合っている二人の人影が。

 片方は相手よりも背が高く、後頭部にリボンらしきものが見える。

 

「アレ、神通じゃないかい?」

「ほんまじゃ。もう片っぽは・・・・・・初風かん?」

「? 何だか様子が変ですね?」

「ちょっと様子を見てみようよ」

 

 換気のために開けられていた窓に近づき、四人は聞き耳を立て始めた。

 

「・・・・・・に来る気は、無いと言うのね?」

「ええ」

「一応聞いとくけど、理由は?」

「実際にあの人の指揮の下で戦えば、きっと解ると思いますよ」

「またそれ? 昼間の浜風もだけど、皆東郷提督、東郷提督と・・・・・・。そんなにアレが魅力的なわけ?」

 

 肩をすくめる初風に対し、神通はさらに続ける。

 

「他にも理由はあります。提督は、艦娘(わたしたち)ときちんと『向き合って』くれています。単なる兵器ではなく、心を持った『人間』として。『戦力』ではなく、『部下』として遇してくれていますから」

「随分と、歩抜けた事抜かす様になったわね」

「・・・・・・!」

「『鉄砲玉』とあだ名される位に活躍していた貴女に倣って、私だって努力してきた。なのに現実はどうなのよ? 旧式で、ポンコツで、死に損なったロクデナシで立たずの連中率いて。御山の大将でも気取っているつもり? あっちで旗艦になれなかったのがそんなに悔し・・・・・・っ!?」

 

 まくし立てる様に反論する初風の頬が、無言で叩かれる。

 叩いた張本人である神通の表情(かお)は、前髪に隠れて彼女からはうかがい知ることは出来ない。だがふるふると震えているその様は、明らかに怒りを表していることだけは理解出来た。

 

「謝ってください・・・・・・!」

「何よ・・・・・・」

「あの子達に、謝ってください!! 旧式であっても、艦娘である事に変わりはありません! その一心で、彼女達は戦っている! それを侮辱する資格は、貴女にはありません!!」

 

 激高する神通。初風もまた激しい口調で言い返す。

 

「アンタに・・・・・・アンタに何が解るって言うのよ!! 雑草に、華の何が!! 精鋭部隊に、負けと失態は許されないのよ!! 完璧で無くちゃ行けないのよ!! それが理解出来るの!? 『今の』、貴女に!?」

「初風さん・・・・・・」

「さようなら。次戦う時が来たら、今度は容赦しないわよ」

 

 この台詞を最後に踵を返し、その場を立ち去っていく初風。その場に取り残された神通の背中が、何やら寂しげに四人の目には映っていた。

 

「・・・・・・さて。盗み聞きは感心出来ませんね」

「ありゃ、ま。バレてたかぁ」

 

 今気付いたのか、それとも既に気付いていたのか。ともかく、神通にその事を指摘されて物陰から出てくる谷風達。

 

「まったく、一人二人ならともかく、四人も一カ所に固まっていたらバレバレですよ」

「私は止めようとしたんですが・・・・・・」

「かく言う浜風もノリノリだったよね?」

「・・・・・・」

「そうですか。それじゃあ、そろそろ戻って休みましょう。拠点に戻るまでが、演習ですよ」

「了解です」

「あーいよ」

「了解だ」

 

 神通はそう言って、目元を拭う様に手を動かし、彼女の後に続いて歩き出す四人。その中で、浦風が一人、神通に近づいて来た。

 

「神通さん」

「何ですか?」

「ホンマは、泣きたいんじゃろ?」

「・・・・・・何のことですか?」

「長い付き合いじゃぁ無いけど、うちにゃぁわかるんじゃ。仲間との決別(わかれ)は、辛いもんがあるから」

 

 相手にそう言われて、彼女はすこし俯く。

 

「そう、ですね・・・・・・。やっぱり、辛いです。タウイタウイにいた頃の仲間でしたから、彼女は」

「ほうか・・・・・・。じゃが、うちは嬉しかったよ」

「えっ?」

「うちらパラオの事で、怒ってくれた。そればっかしで充分よ」

「・・・・・・ありがとうございます。少し、楽になれました」

「何のことだか。うちは、うちが思うた事を言ぅただけじゃて」

「そうですか・・・・・・。そうですか・・・・・・」

 

 茜色の光の中で、神通は少しだけ、笑顔が明るくなったかの様に、浦風の目には映っていた。

 

 

 

 




「ごっはん~♪ ごっはん~♪」


「ここをこうして・・・・・・」


「―なるほど」


「では一曲、しばしのお付き合いを・・・・・・」


次回。『パラオ泊地の優雅な日常』


偶には、戦場を忘れるのも悪くない


〈登場人物紹介〉

『如月』

徹心が着任した当初から、パラオに所属している艦娘の一人。

戦闘中に髪の毛を気にするなど、今ひとつ戦士としての自覚に欠けているものの、戦闘に際しては果敢に敵に向かっていく気概も見せる。

開戦から僅かな間しか生存出来なかった過去もあってか、言動と裏腹に責任感の強さを見せる時も。

元の所属は不明。
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