今回は何時にも増して、低クオリティかもしれません。
★☆☆★
『指揮官タルモノ時機ヲ問ハズ、書類仕事ニモ注力シ、余力ヲ以ッテ外敵ト対峙スルベシ』。
誰が言い出したのかは解らないが、部隊を運営するに当たって指揮官の仕事の大半は、部下が安心して暴れる為の下地作りであると昔から言われてきている。それは洋の東西を問わず、徹心の指揮する第四十四戦隊、パラオ艦隊とて例外では無い。
一応、出撃が無い時は艦隊内での訓練や自主練習などが行われてはいるが、時にはのんびりと優雅な時間が流れる事もある。今回は、そんなパラオ泊地の優雅な時間を見てみよう。
―――――――
「ごっはん~♪ ごっはん~♪」
「きょう~の~、ごはん~は~、なんじゃろぉな~♪」
朝。まだ日が昇ってからそう経ってない時間帯。
右手に釣り竿、左手にバケツを持って岸壁を行く二人―夕立と、谷風だ。
パラオを含めた南方方面の泊地は地下資源に恵まれていない場所が多く、燃料や弾薬などは外部からの補給に大きく依存している。それ以外の物資も補給か、パラオの場合は直ぐ近くにあるフィリピンまで
かといって、毎日毎日そうしていては、かかる燃料や時間も馬鹿にならない。なので時折、釣りで食料を調達する仕事が課せられるのである。
「ぽいっ!!」
「あぁら、よっとぉ!」
釣り針に餌を付け、釣り糸を垂らす。後は、獲物が掛かるのを待つだけだ。
「ねえ、谷風」
「ん?」
それまでの間。暇を持て余したのか、谷風に話しかける夕立。
「ここには慣れたっぽい?」
「う~ん・・・・・・そうだねぇ・・・・・・」
彼女のこの問いに対し、谷風は応える。
「まあ、佐世保と比べっと退屈な時もあるけど、それ以外はのんびり出来るから良いよね、ここはさ。海は綺麗で、空気も旨いし。谷風は気に入ったよっ、と!!」
そう言った矢先、手応えがあったのか。勢いよく釣り竿を振り上げる。しかし、針に掛かっていたのは・・・・・・。
「あれま、珊瑚かい」
「うーん・・・・・・これは売り物にならないっぽい」
「かぁ~、張り切って損しちゃったよ・・・・・・」
「二人とも、釣りかい?」
「うん、提督さんから頼まれたっぽい!」
珊瑚の破片を海に投げ捨てると同時に、後ろから響が話しかけて来た。
「ま、始めたばっかでまだボウズだけどね」
「ふむ・・・・・・しかし釣りでは効率が悪いね・・・・・・。よし」
「あれ? 何処行くっぽい?」
そう言って、空っぽのバケツを見せる谷風。それを見て何を思ったのか、脱兎の如くその場を離れる響。夕立が首を傾げていると、今度は箱を抱えて戻って来る彼女。その中には、円筒型の物体がぎっしりと入っていた。
「これって、爆雷?」
「私に良い考えがある」
「考え? どうするのさ?」
「こうするんだよ」
谷風のこの疑問に対し、響は爆雷を海に投げ込むことで答える。
放物線を描きながら海に落ちた、次の瞬間。轟音と共に盛大に水柱が立ち上がった。二人が目を白黒させているのを尻目に、タモを動かす響。
「ハラショー」
「よーし、夕立も!!」
「これなら、大漁間違い無しだね!! よっしゃぁ、行くぞ!!」
響の狙いが理解出来たのか、夕立と谷風も爆雷を投げ始める。早朝のパラオ泊地に、派手な爆発音が断続的に響き渡る。
そして箱一杯の爆雷を投げ終える頃には、バケツに山盛りにしても収まらない様な魚が収まっていた。
「いやぁ、大漁大漁! これならしばらくは良い物が食べられそうだね」
「ハラショー。刺身にフライ、天ぷら。思いつくだけでもかなりの物になりそうだ」
「これなら、提督さんも褒めてくれるっぽい!!」
追加で持ってきた箱や
「敵襲!? 敵はどこ!? 私が一番槍よ!!」
どこからともなく、足柄が鼻息荒く現れたのである。しかも艤装を全て装着し、さらには予備の高角砲と弾薬、加えて長刀を担いだ完全武装状態でだ。
「うげっ!? 足柄姐さん・・・・・・」
「谷風!! ボヤボヤしてないで出撃よ!! 敵は遠距離から攻めてくるわ!!」
「あぁ、いや、その事だけどさ、響の奴が・・・・・・」
そう言って、発案者で主犯格(?)でもある響を呼ぼうと後ろを向く谷風。だが、当の本人はと言うと・・・・・・
「いっ、いないっ!?」
「消えちゃったっぽい!?」
先ほどまで付いてきていたにも関わらず、忽然と姿を消してしまっていたのだ。
「響ちゃんがどうかしたのかしら?」
「あぁ、いや、これは、その・・・・・・」
「夕立たちが釣りをしてたら、響ちゃんが爆雷を使おうって言ってきたっぽいから・・・・・・えっと・・・・・・」
しどろもどろになりながらも、何とか適当な理由を探す二人。その間にも、徐々に二人を見る足柄の目線が険しくなっていく。
「どんな理由か知らないけど、言い訳ばかりする嘘つきは・・・・・・20サンチ砲でポイしちゃうわよ?」
「ぽい~!?」
「ひぃっ!?」
結局このことは徹心の耳に伝えられ、しばらくの間、夕立と谷風の二人は罰掃除が科せられる事になるのだが、それはまた別のお話。
――――――
昼。太陽が天高く昇り、じりじりと焼け付く様な日差しが降り注ぎ始める時間。
泊地の方から朝方の騒ぎを起こした張本人達の悲痛な叫びが聞こえてくる一方で、鞍馬の機動甲板の縁に座り込む艦娘が一人。雲龍だ。
時折海風が吹き、胡粉色のお下げ髪が風に揺れる中でゆっくりと、本の頁をめくる彼女。
「よっ! 何してるの?」
後ろから話しかけられ、振り向く。その視線の先には、隼鷹の姿が。既に出来上がっているのか、頬が若干紅くなっており、手には酒の入ったポケット缶が握られていた。
「いやぁ、最初は甘いだけかと思ってたけど、ラムも存外悪くないねぇ。しばらくは世話になりそうだよ」
「隼鷹、また呑んでたの・・・・・・?」
「まっ、偶には良いじゃ無いのさ、昼間っから呑んでも」
「その『偶には』をほぼ毎日見る気がするのは気のせいかしら?」
「あ、あはは・・・・・・」
苦笑いする隼鷹を脇目に、雲龍は読んでいた本を閉じる。そして側に置いていた煙草盆から煙管を取り出して吸おうとするのだが、葉を詰めたところで火種が消えてしまっている事に気がついた。
「・・・・・・ごめんなさい。火、もらえる?」
「ん? ほいさ」
マッチの類いがあればと隼鷹に聞いたところで、彼女は指を弾いたと思うと指先に紫色の炎が灯る。流石にそれは予想外だったのか、普段はトロンとしている両目を丸くする雲龍。
「ま、これも式神空母のちょっとした応用って奴さね」
「へぇ・・・・・・。私も、出来る様になるかしら?」
「まあ、アタシも艤装無しで出来る様になるまで結構掛かったからね。あんましオススメ出来ないかな?」
「そう・・・・・・。残念だわ」
指先の灯火に煙管を近づけ、火が着いた事を確認してから口に咥えて紫煙をくゆらす。噴き出された煙草の煙が、青空へと上っては消えていった。
「所でさ、さっきは何を読んでたんだい?」
「何って、これ?」
「そうそう」
彼女が煙管から口を離した所を見計らって、口を開く隼鷹。先ほどまで雲龍が読んでいた本について聞いてきた様だ。
「沖ノ島の後で横須賀に寄港した時に、街で買った小説よ。洋書の和訳版で、結構高かったんだから」
「小説ねぇ。どんな内容?」
『お陰で、煙草の量を減らす嵌めになったわ』と漏らす彼女に、再び問う隼鷹。
「ある小さな国の軍隊のお話。無実の罪で名前を奪われた主人公と、その仲間達が活躍するんだけど、彼らの戦いは記録に残らない。それでも彼らは、名前を取り戻すため、記憶に残る戦いを続ける、と言う筋書きよ」
「無実の罪で、か・・・・・・。何か親近感湧くねぇ」
「ちなみに、本物の犯罪者も端役だけど出てくるわよ。貴女みたいにお酒で問題を起こした人も」
「うへぇ、やぶ蛇だったか・・・・・・」
「他にも、最愛の妹を亡くした少数民族の兵士に、余命僅かな狙撃手。愛故に別れを受け入れるしか無かった衛生兵。それぞれに物語があるんだけど・・・・・・まあ、そっちは
一服吸い終わった後、灰吹きに灰を捨てて、再び本を読み始める雲龍。
「そう言えば、今日は日本人街でお祭りがあるらしいわね。浜風達が外出許可を取り付けていたわ」
「祭りかぁ。懐かしいねぇ・・・・・・」
「・・・・・・」
「何さ、まるで常習犯でも見るような目で」
「何でも無いわ。・・・・・・はぁ・・・・・・」
――――――
泊地の敷地内でも殆ど人が寄りつかない、官舎の裏手。その片隅に、その小屋はあった。
小屋の前にはゴザが敷かれ、長月がそこに座って工具片手に木片と格闘している。
「後は、ここを削って・・・・・・よし、完成だ」
短刀を使って木目に合わせて表面をそぎ落としていき、最終的に出来上がった物は、台座の上に木の板が建てて乗せられている様な形をしていた。
「えっと、潮と伊勢、川内に鈴谷。龍鳳と東雲に・・・・・・後は・・・・・・」
彼女が作っていたのは、位牌だ。この小屋には、徹心がパラオに転属してくる前の司令官。御門邦生の無謀な指揮によって命を落とした艦娘達の名が刻まれた位牌が置かれている。
木材を削っただけの簡素な代物だが、それでも位牌は位牌。少しでも慰めになればと思ったのが、作り始めた切欠だ。そして今、彼女が作っていたのは、攻撃艦隊の中で、少なくとも名前の確認出来た艦娘のそれだった。
そうして次に作る位牌の銘を考え始めていたその時。不意に視線を感じて、背後を見やる長月。『誰だ?』と問いかけようとした所で先んじて、その主が建物の影から現れた。
「曙? どうしてここへ?」
「ク・・・・・・じゃない。東郷提督から聞き出したのよ。演習場にいなければ、官舎の裏を探してみろって」
「あいつ、余計な事を・・・・・・まあ、良いか。隠すつもりもなかったからな。それで、何か用事か?」
「まあ、ちょっとね」
そう言って、かつての仲間達の位牌に手を合わせる曙。
「位牌、ありがとね。これのお陰で、アイツらを忘れずに済みそうだし」
「単なる自己満足だ。それに、今回ばかりは指揮官の責任でも無いからな。純粋に、鎮魂のためだ」
再び木片を手に取り、長月は短刀でそれを削り始める。
「世間では、英雄や守護神としてもてはやされる時もあるが、新しい『自分』が建造されれば、それは程なくして忘れ去られてしまう。だからこそ、こうして形にすることで思い出せるようにしているんだ」
「ふぅん・・・・・・」
彼女の言葉を聞いたからなのか、曙も短刀を手にとって木片を削り始めた。
「アタシも手伝うわ。一人じゃ大変だろうし」
「・・・・・・好きにすると良い。さっきも言ったが、勝手に始めた事だからな」
「ありがと」
そこで会話が終わり、後は木を削る音だけがその場で奏でられる。その二人を見ているのは、少なくとも今は太陽だけだった。