名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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第一章を『始まり』。第二章を『逆転』と敢えてテーマ付けするならば、第三章のテーマは『心と闇』です。

徹心達、パラオ艦隊の次なる戦いの舞台は北方、アルフォンシーノ列島に移ります。

新たな仲間。新たな艦娘。そして、『意外な』敵。物語も再び動き出します。

それでは、どうぞ。




第三章・北方海域編
第三章・プロローグ


――――――

 

 北方、アルフォンシーノ列島。ユーラシア大陸と、北米大陸の北の境界線とも言えるこの島々もまた、かつて大東亜戦争で激戦が繰り広げられた場所だ。

 その最西端、日付変更線が西の直ぐ側を走っているアッツ島の沖合を、艦娘の集団が進撃していた。

 先頭を行く艦娘は海軍色(ネイビーブルー)をしたワンピース風の戦闘装束に身を包み、同色のベレー帽と黒縁眼鏡を掛けている。その後方から追従する艦娘達も、海軍色の他にクリーム色の装束を着ているが、大本のデザインは同じだ。

 彼女達は、連合艦隊の所属では無い。アメリカ合衆国連邦海軍第1001任務部隊麾下、第110駆逐隊。それが彼女達の部隊名だ。

 

「相変わらず、ここいらは霧が濃くて嫌になっちゃうわ・・・・・・」

 

 その内の一人。着ている装束と同じくクリーム色風味の金髪(クリーミィブロンド)の艦娘―マハン級駆逐艦のリードがぼやく。

 

「第一アビサルフリートの連中、こんな冷凍庫みたいなとこに好き好んで来るとは思えないわ」

「気を引き締めろ、リード。敵はどこにいるか解らないのだぞ」

「ここ最近、ソロモン方面で新種のアビスシップが出現しています。いつこの辺りにきても可笑しくないわ」

 

 そのリードを叱るのは、海軍色の方を着た茶髪の艦娘―フラッサーだ。長姉である桃色の髪の艦娘―マハンと共に、駆逐隊のまとめ役を任されている。

 

「それに、私達が彼らを捕捉しなければ、第二のマンハッタン・クライシスを起こされるかも知れません。脅威レベルは、開戦時とは比べものにならないほどに上昇しています」

「わかってる、わかってるって、もう! フラッサーもマハンも大げさすぎだよ・・・・・・」

 

 そう言ってリードは手持ちぶさたになったのか、懐からチューインガムを取り出して食べようとしたその時だった。

 

「アラート!! レーダーに反応あり!!」

 

最後尾を進んでいた黒髪の艦娘―ショーの水上電探が、敵影を捕らえたのだ。

 一般に、攻勢に秀でている日本とは逆に、アメリカの艦娘は手堅く、粘り強い戦いを得意とする者が多い。特に電探、レーダーなどの索敵や対空火器の技術は他国よりも抜きん出ていた。

 その優れた索敵能力によって敵影を捕らえたのだが、それは幸運とも不運ともとれるものだった。

 

「随伴艦多数。中央には・・・・・・えっ、何・・・・・・?」

「ショー、報告は正確に」

「中央の艦影は・・・・・・拠点型のアビスシップです!!」

 

 彼女が叫ぶと同時に、濃霧のカーテンを切り裂いて砲撃が飛ぶ。

飛んできた砲弾は隊列の隙間を抜け、ショーのすぐ前にいた僚艦に直撃、粉砕した。

 

「ひっ!?」

「ケイス!!」

「脅威レベル、最大。全艦、後退を!!」

 

今、静かだったはずの北の果てで。新たな戦いが始まろうとしていた。

 

 

――――――

 

 

 北方海域、単冠(ひとかっぷ)湾泊地。千島列島のほぼ中央、択捉島に位置するこの拠点は、同じく千島列島にある幌筵(ぱらむしる)泊地と共に、大湊警備府麾下の前線司令部として機能していた。

 単冠湾自体は、元々は艦隊が停泊するための設備などは無かったが、艦娘の運用開始に伴い、トラックと同様に大幅な改装が施されて現在に至る。

 しかし実際の所は、南方、西方、及び南西諸島海域を重視する戦略構想の影響もあってか、連合艦隊の中では比較的後方の、のんびりと出来る拠点という認識がなされていた。

 その一画にある、見取り図には無い地下室。その中にある部屋の一つで、一人の艦娘が両手に手枷を填められ、壁に吊されていた。

 

「言ったわよね? 提督に一定以上、近づいては駄目って」

「必要な事務連絡があったってのに・・・・・・それも駄目なのかよ!!」

 

 激高する彼女に対し、その目の前に立つ別の艦娘が、顎に手をやりながら言う。これが普通の部屋で聞いたのならば、世の男達は少なくとも関心を寄せるであろう甘い美声も、今は凍えるような冷酷さを帯びていた。

 

「そう言うのは、私か陸奥ちゃんに渡してって言ったの、忘れたの?」

「そんなこと聞いて・・・・・・!!」

「聞き分けの悪い子には、お仕置きが必要みたいね」

「ひっ・・・・・・やめろ――!!」

 

 麻布を引き裂くような悲鳴が、地下の廊下にこだまする。それを背中で聞きながら、地下を後にする人影が。

 その彼女のほほからは、一筋の雫が流れ落ちていた・・・・・・。

 

 

 

 

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