ちなみに私は平均化派です。
「・・・・・・まあ、悪くは無かった。直接指揮を執っていたと言うこともあるだろうけど、決して無能では無さそうだ」
・・・・・・何よ、たった一度の出撃で。
夕立達はやる気になってるし、神通達はちょっと傾きつつある。そもそも、あいつが消えたとき、自分たちの力だけで戦っていこうって決めたのに、意味が無いじゃない!
どうせ指揮官なんて、皆同じ。『あの男』みたいに、私達艦娘を道具としか見ていない。いつかあの新任だって、必ず本性を現す時が来る。その時は、絶対に屈しないわよ・・・・・・!
――――――
「今回の作戦は、南西諸島沖の警備任務だ。警備とは言え、場所は外海だ。油断も慢心も、妥協もするなよ」
「『「はいっ!!」』」
次の日の朝。いつものように任務が回ってきたので、あいつが指令書を読み上げている。
私? どうせ行く気も無いし、呼ばれるはずもないからここにいるだけよ。
「・・・・・・最後、六番艦、多摩。以上の編成で行く。何か質問は・・・・・・ないようだな。では、作戦開始。各艦時計合わせ、出撃だ!!」
出撃指示が出され、発進用ドックから彼女達は出撃していく。その中には、昨日はサボった如月と夕立の姿も。
そして、初霜が出ようとしたその時だった。
「きゃあぁっ!?」
四番ドックから、爆発音と彼女の悲鳴が埠頭に響き渡る。
見てみると、彼女の左手の主砲から煙が出ているじゃない!! まさか・・・・・・暴発・・・・・・? 整備の連中、何やってたのよ!?
「す、すぐに人を・・・・・・「初霜、大丈夫か!?」えぇっ!?」
私が初霜の元へ行こうとする前に、あいつがドックの中に飛び込んでいった。って、整備用より浅いとは言え、深さ一
「だめです。やくしつがかんぜんにおしゃかです・・・・・・」
「判定小破か・・・・・・。出撃前からこれでは・・・・・・」
「もうしわけありません・・・・・・。ひごろからきをつけていれば・・・・・・」
「過ぎたことだ。忘れろとは言わないが、今は一刻も早く修理を」
「りょうかいしました!」
私が驚いている内に、初霜は担架で運び出され、そのまま整備ドックへ消えていく。その直後、備え付けの階段を上ったあいつの台詞は・・・・・・
「霞、出られるか?」
この一言だけだった。
「・・・・・・理由は?」
「時刻と泊地内の地形、各種状況を鑑みた結果だ。神通では準備に時間がかかる。長月も、すぐには無理だろう。今現在動けるのは、お前だけだ」
「っ・・・・・・!?」
ほんの一瞬だけど、あいつの目を見てしまった。指揮官として、冷徹な打算をする眼と、一人の軍人として、部下の身を案じる眼を。
聞いた話だと、人間には陰と陽、二つの顔があるという。片方が陰で、その逆が陽。どれだけ取り繕っても、顔の半分は本心が見え隠れする。
こいつも同じだった。なのに・・・・・・なんで・・・・・・何で頼もしく見えるのよ!
「・・・・・・わかったわ。今から用意するから、ドックの注水させといて」
「了解した」
気付いたときには、あいつの命令を了承していた。もしかするとだけど・・・・・・響は、あいつの眼を見たから、応じたのかしら・・・・・・?
「ちゅうすいかんりょうです! いつでもどうぞ!!」
「了解。霞、出るわよ!」
とりあえず、この一回だけは応じてあげる。けど、私の評価は、変えるつもりはない。
――――――
今回は外洋での任務なので、あいつの指揮船はこの場にいない。こういうときは、旗艦を担当する艦娘が指揮を代行することが多い。さて、と。五月雨はどうするのかしら・・・・・・?
「てきかんたいみゆ! 3じのほうこう、きょり2000!!」
「数は何隻ですか!?」
「せいりょく5! うちわけはけいじゅん2、くちく3です!!」
出撃してからしばらくした後のこと。先頭を行く五月雨の船員妖精から、敵艦隊捕捉の報が告げられる。
「皆さん、単縦陣に切り替えてください!!」
陣形が指定されたので、彼女以外の私達はその通りに動く。
二番目に響が付き、そこから如月、夕立、私、多摩の順に続く。最後に、先頭の五月雨が盾を構えて、艦娘式単縦陣の完成。旗艦は沈むと厄介なことになるので、轟沈を防ぐために盾が支給される。これがあれば、致命傷を負っても沈むことは少ない。
「そうたいきょり、1600!!」
「砲雷撃戦、始めてください!!」
有効射程内に入ったことで、砲雷撃戦が開始される。今回は反航戦。お互いの戦列が向き合った状態での戦闘。大きくとも20サンチ程度の中、小口径砲の撃ち合いだけど、当たり所が悪ければ大打撃を受ける場合もある。夜戦でだけど、私は駆逐艦に致命傷を負わされる戦艦型の艦娘を見たことがあるし。
「くっ、このっ・・・・・・!」
「やだ・・・・・・髪が傷んじゃう・・・・・・」
着弾の衝撃で巻き上げられた海水が、水しぶきとなって降り注ぐ。軽巡がいることもあって、さすがに攻撃が激しい。けど・・・・・・
「舐めないで欲しいわね!!」
左手の発射管に魚雷を装填。手近にいた軽巡に照準、射出。向こうは今頃気付いたかのように回避運動を始めるが、もう遅すぎる・・・・・・!
扇状に放った魚雷が命中し、盛大な水柱が上がる。直撃ね。
「てきけいじゅん、ごうちんをかくにん!!」
「良しっ、次っ!!」
どうやら、さっき沈めた奴が敵の旗艦だったみたいね。傍目から見ていても、敵は浮き足立っている。こうなってしまうと、後は簡単。一気に押し潰すだけ。そう思った次の瞬間。
「きゃあっ!!」
「っ!?」
敵の放った魚雷が、雷撃をしようとしていた夕立と響に炸裂する。
咄嗟に反撃しようとするが、既に奴らは後退した後。既に主砲も魚雷も射程圏外で届かない。
「あいつら・・・・・・!!」
「どっ、どうすれば・・・・・・。こんな・・・・・・何で・・・・・・」
「ぼさっとしてないで!! 被害状況の確認と、提督に指示を仰ぐのが先でしょう!?」
「はっ、はいぃ!!」
取り乱しかけていた五月雨を注意し、被弾した二人の様子を見る。
響は致命傷という訳では無さそうだけど、魚雷発射管がひん曲がってる所を見るに判定中破、と言ったところかしら。
問題は夕立。主砲に命中し誘爆した所為か、艤装や戦闘装束だけでなく、本体にも傷が付いている。詳しくはわからないけど、これ以上の戦闘続行は無理ね。
「しれいぶより、へんしんがきました!!」
一方で、司令部から提督の指示が電文で届けられる。内容は・・・・・・
「えっと、『撤収判断ハ、旗艦ニ任サレタシ』。まあ、大破が一人だけなら、当然よね。で、どうするの五月雨?」
一般的に、大破した状態での夜戦突入は、艦娘運用における最大のタブーとされている。砲撃も雷撃もロクに出来ない状態じゃ、撃ってくれって言うようなものだし。ここは一つ、五月雨の英断に期待・・・・・・
「夕立が心配だけど、戦果も欲しい。だけど夕立が心配・・・・・・うぅ~・・・・・・どうすればぁ~」
五月雨の英断に・・・・・・
「戦果、夕立、戦果、夕立、戦果、夕立・・・・・・もぉ駄目~・・・・・・」
切れた。私の那珂・・・・・・もとい、中で決定的な何かが、切れた。
「あ”ーっ、もう!! 何時までウジウジ悩んでるのよ!! 行くなら行く、行かないなら行かない! さっさと決めなさいよ、この万年珍プレー大賞!!」
「ち、珍プレー!?」
「見ていてイライラするのよ、アンタみたいなのは!! それでどうするわけ? 行くの? 行かないの?」
堰を切るかの如く、五月雨にぶつけられる言葉の数々。私の悪い癖だ。ああいう不甲斐ないのを見てると、イライラするのは事実だし。
「でっ、でもこういうのは、よく考えてから・・・・・・」
「それで迷って、また繰り返すの!? 『あの時』みたいに!!」
「・・・・・・!!」
「『もう仲間が死ぬ瞬間を見たくない』、『勝って皆で帰りたい』。そう言ったのは、他でも無いアンタでしょう? それともあの言葉は嘘だったの!?」
「・・・・・・ない・・・・・・」
「何よ? 言いたいことがあるなら目を見て言いなさいな」
「嘘じゃない!! 提督が私を信じて任せてくれたから、なおさらに!!」
「それで、どうするわけ?」
「多摩は夕立と響を連れて先に戻ってて。如月と霞は、私と一緒に敵を追いかけます!!」
遂に耐えかねたのか、反論してくる五月雨。ちょっと泣きそうになってるけど、問題はそこじゃない。やっと、言ってくれた。
「ちょっと厳しいわね。まあ、良いけど」
「了解だにゃ」
「気をつけて欲しいっぽい?」
「ふふっ・・・・・・川内じゃないけど、その言葉、待っていたわ」
「か、霞ちゃんが・・・・・・笑った・・・・・・?」
「明日は絨毯爆撃っぽい?!」
「ハラショー。最近じゃ滅多に見られたかったから、珍しいね。それと五月雨、私はまだいけるよ。主砲は生きてるし、手足も
「うん、ありがとう。妖精さん、司令部に電文をお願いします!」
「ないようはどうしますか?」
「『多摩、夕立ハ後退サセリ。残存戦力ノミデ、夜戦ニ突入ス』、です!」
「りょうかいであります!」
五月雨に乗り込んでいる船員妖精が電文を打っている間、私達は装備の再点検。
右手の連装砲は、まだ砲弾は残っている。左手の魚雷の方は、さっき1セット使ったから、残り一射分だけ。念のため、腰に下げてる短刀を鞘から抜いて具合を見る。
大分高くまで昇った太陽の光を反射して、鈍く光る刀身。三式近接戦闘短刀。主砲や魚雷が使えないような、超至近距離での戦闘を想定して開発された、白兵戦用の武器だ。最悪、こいつを抜くことになるかもね。
――――――
日が水平線の下に没し、辺りを照らすものは月と星の明かりのみ。夜の海は、昼のそれとはまた違う表情を見せている。
その真ん中にポツンと浮かぶ名も無き島の影に、奴らはいた。
「良かった・・・・・・まだ逃げられてないみたい」
「とは言え、敵はあいつらだけとは限らない。応援を呼ばれる前に撃破することを提案するよ」
「じゃあ、1、2の、3で行くよ? 用意は良い?」
「何時でも良いわよ」
「こっちも、大丈夫だわ」
岩礁の影に身を隠しつつ、静かに接近する私達。
「1、2の・・・・・・3ッ!!」
そして、五月雨の合図と共に一斉に飛び出す私達。真っ先に仕掛けたのは、意外にも如月だった。
「見蕩れていたら・・・・・・やっちゃうわよ?」
彼女は、駆逐ロ級に肉薄。右手の12サンチ砲を構え、発射する。それによって体勢が崩れ、反応の遅れるロ級。だが、彼女の攻撃はこれだけでは無かった。
「今、如月が、楽にしてあげる・・・・・・!」
すかさず、左手に持っていた12.7サンチ連装砲をポイントし、叩き込む。牽制と本命を間髪入れずに一気に撃ち込む、「連続砲撃」と呼ばれる技術をやってのけたのだ。それによって脇腹に破孔を作られたロ級は、そこから炎を吹き出して沈んでいった。
「やるわね。でも、私だって!」
こちらも、負けていられない。海面を滑るようにして私は前進し、敵集団に吶喊する。目についたのは……軽巡ホ級。先ほど夕立に魚雷を撃ち込んでくれた奴だ。
「やられたらやり返す。特に、仲間がやられたとあれば、ね。だから……」
残っている魚雷は、残り一斉射―四本。それらを全て、発射する。それも、今度は必殺の意味を込めて、一点集中の形だ。
発射する瞬間、ホ級ギクシャクと回避しようとするが、遅すぎる。
「死ねば良いのにッ……!!」
魚雷は全弾命中。白っぽい不気味な色のバケモノは、木端微塵となったらしくその場にはボルト一本浮いてこなかった。
残りの駆逐艦連中も、五月雨と響が仕留めていたし、作戦は成功ね。
「てきかんたいのぜんめつをかくにん! さくせんせいこうです!」
「作戦完了ですね。お疲れ様でした!」
――――――
「よくやってくれた。整備と補給が済んだら、ゆっくり休んでくれ」
「『「はいっ!」』」
執務室での作戦終了の報告が終わり、五月雨達は艤装を預けにその場を後にしていく。私も、そうしようとした時だった。
「霞」
あいつから声をかけられたのは。
「・・・・・・何?」
「君が自分のことを良く思っていないと言うことは判る。君が、『指揮官』を信用していないことも。だが、先任の提督と自分は違う。それだけは解っていて欲しい」
あいつの顔は真剣その物だった。と言っても、会ってそう時間が経ってないから、普段どんな顔なのか知らないけど。
「・・・・・・わかったわよ。とりあえず、あんたの指示には従うわ」
「そうしてくれると助かる」
「勘違いしないで! 何時までもサボってたら、示しが付かないと思っただけよ!!」
「・・・・・・理由はどうでも良い。動いてくれることが重要だからな」
響の言う通りね。少なくとも、「アイツ」とは違う。それこそ、天と地にくらいには。もしかすると、指揮官に命を預けようと思ったのは、本当に久しぶりかもしれない・・・・・・。
「そろそろ建造してみたらどう?」
「驚いたな――」
「―ご迷惑をお掛けしないよう、頑張ります」
次回。「建造」。戦争は、一期一会の連続か。