名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

42 / 70
今回は独自解釈を多分に含みますので、それを踏まえて読んで頂けたら幸いです。

それでは、どうぞ。

(追伸。活動報告に登場人物のまとめを一つ投稿しましたので、興味のある方は私のユーザーページからご覧ください)


第三章・第三話:改二・前編

 

☆★★☆

 

「集まったな。では、作戦を説明する」

 

 単冠湾泊地の司令部施設内にある食堂兼作戦会議室では、副司令官である美桜が指し棒片手に説明を始めている。その一方で、徹心も今回は助言役として同席していた。

 

「哨戒機からの報告に寄れば、モーレイ海で深海棲艦の集団が確認されたとのことだ。よって今回はこれを再度捕捉し、撃滅する。なお、これは未確認の情報だが、奴らはアルフォンシーノ列島の何処かに拠点を作っているという。増援が現れる可能性もあるので、慎重に行動しろ。以上だ」

 

 勝利条件は至極単純。見つけ出して叩き潰すだけ。この光景自体は、パラオ泊地でもよく見られるもので、対深海棲艦作戦の基本でもある。神出鬼没な彼らに対抗するには、それが一番だからだ。

 

「編成だが、旗艦、霧島。次席旗艦、瑞鶴。随伴として朧、高波、朝霜、照月を付ける。残りは待機だ」

「『了解!』」

「上条少佐。こちらからも何隻か出すべきか?」

「総戦力が不明である以上、どうなるか・・・・・・。出来れば、お願いします」

「了解した。巡洋艦隊を付けるとしよう」

「ありがとうございます。それじゃあ皆、頑張って!」

「『はい!!』」

 

 睦実の号令の元、艦娘達は戦場へと赴くために部屋を後にして行く。パラオ艦隊の北の果てでの、最初の戦いが始まろうとしていた。

 

 

――――――

 

 

 単冠湾泊地から出撃して数時間程の距離にあるモーレイ海。アルフォンシーノ列島を取り囲む北極海の一部分を、艦娘達が疾駆していく。

 先頭を行くのは、霧島率いる単冠湾艦隊だ。その後方に、今回は支援艦隊として、足柄旗艦の巡洋艦隊が随行している。

 

「てきえいほそぉーく! 9じのほうこう、きょり5000!! てきせんりょく、15! ルきゅうをちゅうしんとした、すいじょうだげきぶたいです!!」

「情報通りね。瑞鶴、攻撃隊を! 雑魚散らしは任せるわよ!」

「了解! 第一次攻撃隊、発艦始め!!」

 

 瑞鶴が射かけた矢はそれぞれ零式艦戦と天山、彗星へと変化し、捉えた敵艦隊へ向けて飛び立っていく。

 向こうに空母の類いはいなかったのか、攻撃隊は最高の位置取りから魚雷と爆弾を投げつけ、戦闘機隊が空中からの機銃掃射で牽制する。それによって何隻かが派手に吹き飛んだ。

 

「命中確認! 駆逐2、軽巡1大破!」

「トドメを刺しに行くわよ! 高波は左翼から! 右翼、朝霜! 照月と瑞鶴は後方支援! トップは私が取るわ!! 霧島艦隊、突撃ぃっ!!」

《あぁーっ、ちょっと待って!!》

 

 敵艦隊に吶喊しようとした刹那。睦実の呼び止める声が無線から飛び、霧島達は慌ててブレーキを掛ける。

 

「何ですか司令!? 奇襲は初撃が肝心なのに!」

《作戦名を考えるのを忘れてたよ。そうだなぁ・・・・・・『モーレイの微笑み作戦』、開始!》

「・・・・・・はぁ?」

《ちょっとお洒落な作戦名でしょう?》

《あーら、良いわねそれ!》

 

 無線越しに聞こえてきた、まるで冗談みたいな彼らの声に霧島は頭が痛くなる感覚を覚える。

 

「・・・・・・わかりました、『モーレイの微笑み作戦』を開始します。司令、他に何かありますか?」

《作戦を変える。霧島は後退して中衛について、朧と高波と朝霜が前衛。照月はそのままで、瑞鶴は遊撃に回して》

 

 そんな彼の指示に、耳を疑う霧島。それもそのはず、空母は本来単独行動をするべき艦種ではない。これが戦艦であれば話は別なのだが、空母は基本的に接近戦は苦手なため、遊撃に就かせる場合も最低一隻は護衛が必要になるからだ。

 

「正気ですか!? 護衛も無しに空母を一人歩きさせるなんて・・・・・・!!」

《大丈夫。愛宕と一緒に考えたから、間違い無いよ》

「それなら、そんな博打みたいな真似は・・・・・・!!」

《ちょっと霧島。貴女、提督の言うことが信用出来ないの?》

「そう言うことを言っているのでは無くて、現状ではリスクの方が大きすぎると言いたいんです!!」

《そうですけど、それでも上手く行ってきたじゃありませんか》

 

 声を荒げて睦実に抗議する霧島に対し、無線越しに陸奥が冷たい語調で返して来た。彼女は再び反論するが、今度は鳳翔が割り込んで封殺に掛かってくる。

 それを聞いて、霧島は悟った。この場はもうこれ以上、論じても意味が無いことを。

 

「わかりました、これより行動を開始します」

《ああ、そうそう。後詰めで私も出るから、残しといてよ?》

「はぁっ!?」

 

 頭痛が更に酷くなる感覚を覚えながら、憮然として通信を飛ばす霧島。だが、次に陸奥の発した一言に、彼女はまたも耳を疑った。

 確かに彼女は、搭載している41サンチ砲の射程を活かした援護射撃を割り振られることが多い。が、しかし。今から出していたのでは到底間に合わない。そもそも、後詰めとして使うなら最初から付けているはずだ。

 

《それじゃあ、後はよろしく。通信終わり》

「あっ、ちょっと!!」

 

 霧島の止める声も聞かず、一方的に通信が切られる。再び繋げようと試みるが、彼女の船員妖精が敵艦接近を報せてきたので諦めざるを得なかった。

 

「霧島さん、大丈夫・・・・・・ですか?」

「ええ、多分ね・・・・・・はぁ」

「そのっ、木曾さんも最近、お酒の量が増えてきてるって、心配していました。だから・・・・・・」

 

 その様子の一部始終を見ていた緑色の髪の艦娘―高波が、心配そうに声を掛けてくる。それに対し霧島は、優しく彼女の頭を撫でた。

 

「大丈夫、心配しないで。上条司令達も、思いは同じよ。ちょっとすれ違っているだけだから」

 

 そう優しく諭す片手間で、霧島の脳細胞はフル回転しながら現状の打開策を探し出していた。

 

「霧島さん、提督はなんて言ってたんですか!?」

「あぁーっ!! もう我慢出来ねぇ!! 引きずり下ろして、細切れにしてやんよ!!」

「待って! 今飛び込むのは危険かも・・・・・・です!」

 

 明る目の茶髪の艦娘―朧が聞いてくる一方で、銀髪の駆逐艦―朝霜が特攻しようとするのを高波は無理矢理にでも止めに掛かる。

 

「ざっと見たところ、敵戦力は二個戦隊ほど。陸奥さんの到着まで、少なくとも60分は掛かるとして・・・・・・データはアテに出来そうに無いわね。それなら・・・・・・」

 

 そう言って彼女は、胸の前で拳を突き合わせると同時に精神を集中させ始める。すると、その胸を中心にして体が段々と光り始めた。

 

「らしくないけど、速攻よ!!」

 

 

――――――

 

 

「なっ、何が起きてるの!?」

 

 突如として霧島の取った謎の行動に、支援部隊を率いていた足柄は目を白黒させる。

 彼女自身、長きに渡って戦場に身を置いてきたが、この現象は今までに見聞きもしなかった事だったからだ。

 

「戦艦“霧島”、艤装解放ォッ!!」

 

そしてその叫びと共に、光が振り払われる。

 そこにいたのは、確かに霧島だ。いや、正確には、多くの部分が変化した姿で、彼女がそこにあった。

 戦闘装束の外見はほぼ変わらないが、頭に付けている電探カチューシャ。そのアンテナの形が板状ではなく、鳥の羽の様に細かい部品が立っている物に変わっている。そして何より目を引くのは、背中の艤装だ。

 まるで軍艦を模したような形状となり、四本の副腕で保持されていた主砲も、実物の金剛型戦艦と同様、二段重ねになるようにして左右に配置されている。そして一番外側には、盾のような形でバルジが装着されていた。

 

「なっ、何!? 何なの、それは!?」

 

 足柄のこの問いかけに対し、霧島は只一言。

 

「これが、艦隊の頭脳の本気と言う奴です」

 

そうとだけ答えた。

 

「それじゃあ改めて・・・・・・霧島艦隊、突撃ぃっ!!」

「『おー!!』」

 

 彼女の号令一下、単冠湾艦隊は一斉に行動を開始した。

 高波と朝霜が敵を牽制して出来た隙目がけて、霧島は主砲の狙いを正面にいたリ級に合わせる。

 

「距離、速度、良し! 全門斉射ぁッ!!」

 

 そして、発砲。放たれた砲弾は寸分違わずリ級に命中し、彼女の体躯を大きく吹き飛ばす。

 

「―――――!!」

「接近戦とは、良い判断ね。だけど・・・・・・」

 

 主砲斉射の隙を突いて、ト級が飛びかかってくる。対する霧島は、反動制御のために足を大きく開いた状態だったため、直ぐには回避出来ない。彼はそう判断して、突撃したのだ。だが・・・・・・

 

「詰めが甘い!!」

「!?!?!?!」

 

獲物とするはずの相手の思考は、彼を超えていた。

 突如としてバルジが動いたかと思うと、衝撃と共にト級の体が強制的に静止させられる。意味もわからず、拘束から抜け出そうと彼はもがくが、既に遅すぎた。

 

「真っ二つになりなさいな!!」

 

 霧島が力を込めると同時に、歪に二等分されるト級。それを為したのは、巨大な鋏だ。

 ト級の攻撃を察知した彼女は、バルジを変形させると同時に、相手を捕獲。そのまま両断したのである。

 

「す、凄い・・・・・・!」

「あーあ。また霧島無双が始まっちゃったか」

「えっ、瑞鶴さん『また』、って・・・・・・?」

 

 その凄まじい戦いぶりに、パラオ艦隊の面々には呆けて見とれてしまっている者もいる。そこへ手持ちぶさたになったのか、瑞鶴が合流してきた。

 

「あれが“改二”。艦娘の持つ潜在能力を、一時的に解放した姿よ。この状態は本体に凄い負担が掛かる代わりに、上位種どころか、それこそ最近現れた希少種。フラッグシップも片手でひねり潰せる位の戦闘力を発揮出来るようになるわ」

「噂では聞いたことがありましたが、実物は始めて見ますわ。これが、『改二』なのですね・・・・・・!」

 

 瑞鶴のこの言に対し、熊野が感嘆とした語調で感想を漏らす。

 たった一隻で、戦局を一気に自軍側に有利な方向へ傾けた霧島の力。それはまさしく、最高戦力の名に相応しいものだったからだ。

 

《瑞鶴、敵艦隊が後退を始めたわ。追撃の艦載機、お願い出来る?》

「えっ? 提督さんからの指示は良いの?」

《グズグズしてたら応援を呼ばれるわ。現場の判断(・ ・ ・ ・ ・)で、他に報せられる前に片を付けるわよ》

 

 そう言われて、瑞鶴は双眼鏡を取り出して見る。

 そこでは、霧島の苛烈な攻撃を前に、浮き足だって逃げ出している深海棲艦隊と、それらを追い立てる朧達、駆逐隊の様子が見て取れた。

 

「了解。確かに、ほっとくわけにも行かないか。第二次攻撃隊、稼動機、全機発艦!!」

 

 彼女の言うことに納得がいったのか、追加の攻撃隊を発進させる瑞鶴。

 這々の体で逃げ出す敵艦隊目がけて、先ほどよりも苛烈かつ正確に爆弾と魚雷が撃ち込まれていき、程なくして全ての深海棲艦は海底へと叩き落とされていった。

 

「てきかんたいの、せんめつをかくにん! さくせんせいこうです!!」

「作戦終了! 各艦は、損害状況報せ!」

「こんな隠し球があるなら、支援なんていらなかったかもしれないわね」

「ですわね」

「だな」

 

 足柄のこの感想に、相づちを打つ熊野と摩耶。その後は、撃ち漏らしの有無をあらためて確認した後、単冠湾への帰路に就いた。

 だがこの時、泊地では新たな騒動の種が生まれていたことは、彼女らは知る由も無かった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。