(追伸。活動報告に登場人物のまとめを一つ投稿しましたので、興味のある方は私のユーザーページからご覧ください)
(さらに追伸。次回の内容と一致しなくなってきたので、後書きを差し替えました。この場を借りてお詫び致します)
☆★★☆
『異様と異常と、嫉妬と享楽をとまとめてぶち込んだ魔窟』。
私―瑞鶴がここ単冠湾泊地に転属してきたその日。次席旗艦の木曾から聞かされた例え話だ。
「翔鶴型航空母艦、妹の瑞鶴です。よろしくお願いします」
「君が噂の“幸運の空母”だっけ? 話は鳳翔さんから聞いてるよ」
「いえ、そんな・・・・・・。ただ、一生懸命やってきただけですから」
あの日。艦娘として海軍に保護された時、私が聞かされたのは、今の世界の現状。
深海棲艦とか言うバケモノが世界中の海で無差別に船や港を襲っていて、その数は私達連合艦隊どころか。連邦海軍、ロイヤルネイビー、ドイツ国防海軍、その他諸々全ての海上戦力を合わせてもまだ足りないと言う。
最初は背筋が凍るかと思ったけど、それと同時に胸がすくような気持ちだった。さんざ七面鳥七面鳥と言ってきた連中が、無数の狼に食い散らかされるその様を思い浮かべて。
『肌の色が違うとか、話す言葉が違うとか、そんなことは今論ずるべきでは無いだろう? 同じ赤い血が流れていて、同じ心を持っていれば、それは皆、仲間だ。仲間を悪く言うようでは、この先保たないぞ』
だけど、最初の配属先で出会った興田提督は、そんな私の目を覚まさせてくれた。
それ以来、私はずっと戦って来た。顔も知らない
だからあの日。『最初の』私が沈む時も、不思議と後悔は無かった。私の幸運で、他の皆が生き存えるなら。そう言う最期も悪くは無いのかな、って・・・・・・。
それから何年か経って、『二回目の』私が目覚めたのは、横須賀の工廠。
そこでは、赤城さんや加賀さんを始めとする、旧第一機動艦隊を主力としている第十一艦隊に配属される筈だったんだけど、新種の深海棲艦が増えてきた影響で、三ヶ月と経たずに私は第五艦隊麾下の第六十二戦隊に転属となった。
短い間だったけど、熱心に指導してくれた一、二航戦の先輩達の教えを胸に頑張っていこう。そう思っていたんだけど・・・・・・。
「貴女、どうして待てなかったの?」
「えっちらおっちら来られた所で、逃げられて増援を呼ばれるのがオチです。連合艦隊旗艦を経験されているのでしたら、ご理解を」
第六十二戦隊。通称、単冠湾艦隊は古参の艦娘と、今の提督さんが着任してから配属となった艦娘とで真っ二つに割れていた。
その中でも特に気が短くて、厚げ・・・・・・もとい、派手好きな陸奥さんと、総旗艦の霧島とが今もこうして口論している。
「大体こう見えても、足回りには自信があるのよ? 気が早すぎだわ」
「三十ノットも出ない時点で、高速とは言えないわね」
「巡洋戦艦と一緒にしないでよ、メガネヤクザ」
「禄に実戦に出られなかった、投錨娘よりは、マシでしょう?」
「貴女・・・・・・!!」
今にも一触即発、最悪の空気だわ。とにかく、ここは新参とは言え私が制しないと。
「まっ、まあまあ、とにかく作戦成功して良かったじゃないですか! 陸奥さんも、もし出撃して空振りだったら燃料とか無駄遣いになるし、上条提督も良くは思わないかなぁ、なんて・・・・・・」
「まあ、それもそうよね・・・・・・」
「そうですよぉ! それに、霧島の判断も間違ったものじゃ無かったし、『終わりよければ総て好し』って言うじゃ無い!」
「・・・・・・しょうが無い、ここは瑞鶴の顔を立てましょうか」
やーりぃっ! お互い冷静に戈を収めてくれそうね。
それにしてもこの感じ。もしかして私と加賀さんを仲裁する時の赤城さんや翔鶴姉も、こんな感じだったのかな? そう考えると、なんか懐かしいな・・・・・・。
「瑞鶴さん、ご無沙汰してます」
「バタバタしてたけど、久しぶりだニャ・・・・・・」
感傷に浸っていたら、後ろから話しかける声が二人分。多摩と、神通だった。二人の横には、五月雨や響を始め、私がパラオで顔見知りだった艦娘達もいる。
「お久しぶりです!」
「っぽい!」
「思っていたより元気そうじゃ無いか」
「おほー! 五月雨に夕立、相変わらず見たいね。長月ももう少し愛想良くすれば良いのに」
「Born this way。今更変えるつもりも無いさ」
うんうん、変わりが無いようで何よりだわ。あれ? でも何か、人数がだいぶ変わってないかしら? 巡洋艦以上の艦娘も、大半は知らない顔だし。
「あのさ、比叡達はどうしたの? あれから随分経つけど、恩赦で別のとこ?」
「・・・・・・ふん」
怪訝に思って霞に聞いたところ、彼女が指したのは天井・・・・・・いえ、空? まさか・・・・・・!
「アンタが沈んだ後、『あのクズ』の所為で沈められたわ。愛宕以外は、今のところ会ってないわね」
「そんな・・・・・・」
彼女の答えに、私は一瞬言葉を失った。そんな、嘘よね・・・・・・?
「長月がアンタの分も位牌を作ってたわ。もっとも、生きてるって判った以上、戻ったら処分しないとだけど」
「そっか・・・・・・。で、あのスットコドッコイは?」
「半年以上前に首を切られたわ。で、今は東郷徹心が新しく指揮してる。もう会ったでしょう?」
「ナルホドね。大体解ったわ」
まあ、あれだけ貴重な艦娘。それも、戦艦一隻に空母二隻も沈めてれば、誰が見てもいい指揮官とは思えないから、当然ね。
「それで、提督の指揮はすっごいんですよ! 私達、三倍以上の敵を撃退できたんです!」
「ダー。正直言って、沖ノ島は生きた心地がしなかったよ」
「でも、今こうして愚痴を言えるのも、司令官のお陰ね」
響や初霜、如月の評価を聞く限りでは、指揮官としてだけでなく人としても優れているらしい。加えて、あの細面ながらも男前の顔つき。天は彼に二物以上を与えたのかしら?
「さて、と。取り敢えずゴタついていたからできなかったけど、後で顔合わせも兼ねて集まりましょう! 他の面子も、皆に紹介したいし」
とにかく今は、肩の力を抜いた方が、良さそうだわ。
★☆☆★
出撃前。私と東郷提督が霧島達と会談していた談話室にて。単冠湾艦隊の古参組と、パラオの主立った艦娘とが一堂に会していた。
「霧島と瑞穂はもう会ったから知っていると思うけど、まずは水雷班からね」
瑞鶴がそう言って促し、彼女の隣に座していた巡洋艦娘が起立する。
深い緑色の髪に白い帽子を被り、白いセーラー服風の戦闘装束を着ているが、似た服装の多摩と異なり、下半身はスカートだ。
「木曾だ。球磨型軽巡の末番艦で、そこにいるニャンコの妹分だ」
「多摩は猫じゃ無いっていつも言っているニャ」
「やることなすこと猫っぽいくせに、それでもまだ否定してんのか、多摩姉」
「多摩は多摩だニャ」
「・・・・・・とにかく、よろしくな」
「それじゃあ、次は私ですね」
木曾が再び座った後、今度は明るめの茶髪の艦娘が立ち上がる。
彼女の隣に座っている人物―朧と比べると背も高く、体つきも女性らしい丸みを帯びた物だった。
「秋月型防空駆逐艦、二番艦の照月よ。防空戦闘からネズミ輸送まで、何でもこなしちゃうんだから!」
彼女―照月ははきはきとした口調で自己紹介する。その際、一部を憎らしげに凝視する者がいたことは、余談である。
「珍しい事もあるものだな。二桁艦隊に優先配置されている秋月型が、国内の範疇とは言え最前線拠点にいるだなんて」
「えっと、それなんだけど・・・・・・」
長月からのこの問いかけに対し、少し恥ずかしそうに答え始める照月。
「実は私、ここへは出向ってことになっているの。元々は本土にいたんだけど、実験目的でここへ来たんです」
「なるほどな。てっきり懲罰かと思ったぞ」
「あ、それは私も思ったわ」
「ふぁぁ!? わ、私、何も悪いことしてないですよ!?」
「・・・・・・冗談だ」
長月と、さらに如月の反応を誤解したのか、照月は慌てふためく。その遣り取りに、周囲からは思わず笑みがこぼれた。
「夕雲型駆逐艦の、高波、です・・・・・・」
「アタイは朝霜。同じく夕雲型さ。よろしくな!」
臙脂色のワンピースに白い上着というお揃いの戦闘装束。高波は濃緑色の髪をした気弱そうな見た目に対し、銀髪の方。朝霜はいかにも自信満々と言った様子だ。
「朝霜~、元気してたみたいで何よりね」
「よっ、霞! 柄姉も久しぶりだな!」
「相変わらずみたいね、アンタも」
「あのっ、二人は知り合いかも・・・・・・ですか?」
「おう! 艦だった頃の付き合いさね!」
彼女と私と、足柄。そんでもって、今はここにいないけど大淀と清霜は艦だった頃、私の僚艦をしていた過去がある。瑞鶴がいたから多少は慣れたつもりだったけど、こんな所で再会したのは、良い意味で予想外ね。
「アタシは朧。曙とは、昔一緒だったことがあるから、詳しくはそっちに」
「って、投げてんじゃ無いわよ!!」
で、最後は曙の姉妹艦である朧。言葉遣いは静かなんだけど、頬の絆創膏とかのせいで見た目はかなり腕白にも見える。
その後は、私達も名乗って互いの自己紹介を終える。意外だったのは、響と朝霜が顔見知りだった事かしら? 高波は何か、神通や羽黒と馬が合いそうだったし。
「まあ、とりあえずはこんなとこかな? それで、現状なんだけど・・・・・・」
一通り話し込んでいた所で、瑞鶴がこの泊地が置かれている今を説き始めた。
一年前。つまり、瑞鶴がここへ転属してくる半年ほど前、定年で退官した先任の司令官に代わって赴任してきたのが、今の上条少佐だと言う。
聞くところによれば、彼は兵学校を飛び級で卒業すると言う異例の速さで任官され、僅かな期間でここまで出世したという。ただそれを含めて、彼とその取り巻きには、きな臭い話が絶えないらしい。
「で、私と阪元大尉とで何とかしたい所なんだけど、
ぱっと話した限りだと、彼女は良識的だと思ったんだけど、瑞鶴曰くそうでもないらしい。多分だけど、総旗艦の立場上、プライドが無意識の内に邪魔してしまっているのかしら?
だけどこの状況って・・・・・・
「・・・・・・似ているわね」
「ええ、その通りだと思う」
私の言を瑞鶴は肯定し、他の仲間―東郷大佐がパラオに来る前からいた連中―も頷いて答える。
興田提督が退任して、『アイツ』が着任した後のパラオと。いいえ。指揮官である人間の方では無く、艦娘の方が怪しいという点じゃ、ある意味こっちよりも最悪だわ。
部屋の中の空気が重く、そして暗くなり始めたその時だった。
「はいはい、重っ苦しいのはお終い! それよりも私、気になってることがあるのよ!」
和気に飢えた(?)狼・・・・・・もとい、足柄がその場を払拭しにかかる。ガサツな癖に、意外と気が利くのかし・・・・・・。
「霧島のアレ! どうやったら出来るようになるの!?」
「アレ、って・・・・・・改二ですか?」
「そう!! いくら私でも、射程外から撃たれるのは嫌だわ。でもそれが有れば、今まで以上の強敵と戦えるようになる!! 手出し出来なかった相手も倒せるようになるわ!!」
訂正。やっぱり足柄は足柄だったわ。だけどそれは彼女だけでなく、他の面子も気になっている事だった。
瑞鶴が言うには、一時的に限界以上の力を発揮出来るようになるって、話だったけど・・・・・・。
「それじゃあ・・・・・・私の主観で良ければ」
「構わないわ!」
「そうですね・・・・・・。まず、声が聞こえてきたんです」
「声・・・・・・?」
説明を始めてから最初に発せられた単語に、私は首を傾げる。
「そう。『力なき智を望むか?
何というか、要領を得ないと言うか・・・・・・。私達艦娘自体、良く判らない所が沢山有るけど、彼女のそれは飛び抜けてわからない。現に、足柄と摩耶みたいな喧嘩っ早い連中だけで無く、神通や名取みたいに聡い艦娘達も頭に疑問符が浮かんでいる。
ただ少なくとも本人曰く、『日々の精進を怠らなかった結果』と言うことだけは、事実の様だわ。
「これは仮説ですが、皆さんにも平等に素質はあるってことですよ」
「そうよね! よーし、漲ってきたわ!! 摩耶、長良、早速演習行くわよ!!」
「おいおい、いきなりかよ!?」
「良いね! そう言われた後だと、こっちも俄然気合が入るよ!!」
まあ、解らないなりに突き進もうとしているのは悪いことじゃないけど。
勢いよく席を立った三人が、部屋を出ようとしたその時だった。
「ふわぁあっ!?」
「きゃっ、何!?」
入り口の方で、間の抜けた悲鳴が聞こえてくる。何事かと思って見に行ってみると、足柄と、小さな女の子がぶつかったらしい。
その黒髪の彼女は防寒用の外套の下は何も着ていないのか、素足が見えていた。
「いつつ・・・・・・貴女、何処の子? ここは関係者以外立ち入り出来ない筈よ」
「あっ、あのっ、あのっ・・・・・・」
「んあ、まるゆじゃねぇか。どうしたんだ、そんなところで」
彼女の正体だが、頭の上から木曾が呼びかけた事で意外なほど早く解った。けど、“まるゆ”って命名規則はどの艦種にも当てはまらない様な気が・・・・・・。
「紹介するぜ。こいつはまるゆ。陸軍からウチに出向している艦娘だ。ダチもいないから、俺が面倒見ている」
「はっ、初めまして。特殊潜行輸送艇のまるゆです」
なるほど、陸軍の所属だったのね。それなら聞かない名前なのも納得だわ。とりあえずここは、そこの話を聞くのも悪くなさそうね。
★☆☆★
霞達が単冠湾の古参組―西沢派と顔合わせをしている一方で、愛宕ら上条派も別室で雁首を突き合わせていた。
「で、どうする?」
湯飲みに入れられた緑茶を一口すすって、日向が口火を切る。
「どうするって、何が?」
「霧島だ」
彼女は陸奥の問いに素っ気なく。それでいて不機嫌そうに答える。
「あのままでは、パラオの連中を味方に付けるぞ」
「確かに積極的に交流していますけど、さほど問題ないのでは無いでしょうか?」
「艦隊その物はね。けど問題は、東郷徹心よ」
そう言って愛宕が取り出したのは、書類の束だ。鳳翔はそれを手に取り、何頁か中を覗く。
「兵学校第七十七期卒業生主席。旅順軍港駐在武官、第十七戦隊作戦参謀、第十一艦隊次席幕僚。そして横須賀鎮守府司令部付き士官を経て、第四十四戦隊司令官に就任。懲罰部隊ながらも多くの功績を挙げているわ。特に有名なのは、先のあ号艦隊決戦ね。それで所属している艦娘に恩赦を勝ち取っている」
「それは私も知っているぞ。“軍神の再来”だとか何とか、もてはやされているらしい」
「そして何より、艦娘の扱いに長けている。長門姉から聞いたことがあるわ」
「それもあるけど、問題は『あの』高峰春斗が同期なのよ」
「“蝮の高峰”か・・・・・・。厄介な奴と一緒になったものだ」
「しかも、お互い今も親交があるという話よ。そんでもって、阪元大尉も彼らと同期」
「なるほど。確かに、由々しき事態ね。けど、提督はいざこざを望んでいないわ」
「問題はそこですよね・・・・・・」
ああでもない、こうでもないと。次々と出てくる悪巧みの相談に、四人は頭を悩ませる。徹心にはもちろんのこと、他の艦娘。そして何より、直属の上官である睦実にさえまだ知られてはいないが、彼女達は皆脛に傷のある者達ばかり。とてもでは無いが、人様に自慢出来るような事は何一つしてきていなかった。
「じゃあ、どうするの? 消すことは出来なくとも、合法的に彼女を遠ざける方法があるの?」
「あればこんな所で顔を突き合わせていないだろう?」
「実力で引き摺り下ろそうにも、改二には誰も勝てないわよ」
「でしょうね・・・・・・」
そうして、部屋の中は沈黙で支配される。意見がまとまらないことを悟った愛宕が、解散を告げようとしたその時だった。
「愛宕さん! 提督が呼んでいます!! 開けてください!」
ノックする音と一緒に扉越しに、朧の声が室内に響く。愛宕は、他の三人を見る。どうやら、お互い機を見ていた様だ。
「今開けるわ。どうしたの、騒々しいわね」
「そっ、それが・・・・・・」
よほど慌てていたのか。扉の向こうの朧は肩で息をしていた。しかも額には玉の汗が浮かんでいる。
ぶしつけな訪問者に不満を覚えながらも愛宕は問うたが、相手から返ってきた言葉はそれまでの思考を帳消しにするには十分過ぎた。
「あ、アメリカの駆逐艦が、流れ着いたんです!!」
「―手に余ります」
「―受けると言ったのは僕だ!―」
「もとより、覚悟の上です」
「―我に策あり、よ」
次回。「海を渡って、波間を超えて」
奇跡。それは、狂いの許されない機械か