今回は独自設定のオンパレードでもありますので、併せて表記しておきます。
――――――
事の発端は、今から小一時間ほど前に遡る。
第四十四戦隊が着いて早々に戦闘になってしまったこともあって、艦娘同士の顔合わせの後で、改めて首脳陣が協議することになった。そのため、双方の艦娘には待機と言う名の休暇が与えられていた時の事。
その日は珍しく単冠湾の海には晴れ間が覗いており、高波は埠頭まで弁当片手に歩いていた。
陸地からの眺めも良いそこは、彼女にとってお気に入りの場所だ。
「よっこいしょ、っと」
繋船柱の上に座り込み、包みを開こうとしたその時だ。それと無しに海の方を見ると、海面に漂う『何か』が視界に入った。
不審に思った彼女は、包みを持ったまま埠頭の突端まで走る。
「流木・・・・・・かも・・・・・・!?」
最初はそう思っていた彼女だが、見える範囲にまで近づいた所で絶句する。
クリーム色の服を着た、見知らぬ少女。このご時世、しかもこの環境下となれば、思い当たる可能性はそう多くない。
「たっ、大変かもぉっ!!」
大慌てで彼女は格納庫へと駆け込み、艤装を持ち出して漂流物ならぬ漂流者の元へと駆けつける。そして少女の直ぐ近くまで来て、再び驚いた。
背中に背負われた、船体を模したと思われる背嚢は艤装。右手に持っていた残骸らしき物は、主砲だろうか。それらを少女が身に付けているとなると、答えは一つしかない。
「司令部、聞こえるかもですか?」
《こちら司令部。どうされましたか?》
「かっ、かっ、艦娘が流されてきたかもです!」
《・・・・・・はい?》
持ってきた無線機で事の報告をするが、応答した通信手からは間の抜けた返事しか返ってこなかった。
「だから、艦娘が埠頭に浮かんでいたんです! 直ぐに応援が欲しいかも・・・・・・です!」
《わかりました。直ちに手配します》
「う・・・・・・ん・・・・・・」
「どっ、どうしよう・・・・・・このままじゃ、沈むかも・・・・・・!? 沈まないで!」
通信を終えた直後。その少女。もとい、艦娘が身じろぎする。
この場に漂っていては、いずれ沈んでしまうかもしれない。そう思った高波は、彼女を羽交い締めのようにして持ち上げると、そのまま発進ポートへ向かって移動を始める。その途中、急遽出てきた朧と朝霜が合流したので、三人がかりでそのまま泊地へと担ぎ込んでいった。
――――――
そして時間は、救助を終えた朧が愛宕達に知らせに行ったところまで戻る。
件の駆逐艦娘は現在、修復作業が行われているのだが、問題は彼女の持ち物だった。
「この認識票、間違いありません。米軍のものです」
身に付けていた物の中にあった認識票が、彼女の身元を明らかにしたのである。
戦時国際法。と言うよりは軍事協定と言った方が良いのかも知れないが、外国籍の艦娘を保護した場合、本国との連絡が付くまで現地に留め置かれるのが通例とされている。
このことは、多国籍艦隊での作戦。特に、現在も欧州同盟軍と深海棲艦の戦闘が続いている大西洋戦線でよく用いられている他、過去に連合艦隊も、レイテ戦役で多く適用されて来た。それ以来の事例である。
「大佐。こう言うとき、大佐ならどうされますか?」
「そうだな・・・・・・普通なら、外務省経由でアメリカに問い合わせるべきだろうが・・・・・・恐らく無理だろう」
睦実からの質問に、徹心は答える。
「駆逐隊の行動記録は軍機なのは言うまでも無い。加えて、中部太平洋は深海棲艦の勢力圏だ。一朝一夕には、まず不可能だ」
「ですよね・・・・・・。仕方が無いか。愛宕、彼女が目覚めるまでは、とりあえず泊地に留めて置いて。事情を聞かないとだし」
「うふふ、わかりました」
この遣り取りを見ていた霞は、得も言われぬ不安感の様な物を覚えた。
言葉では言い表すことは出来ない、漠然とした感情。だがそれが何を意味するのかまでは、彼女には知る由も無かった。
「霞ちゃん、大丈夫?」
「いっ、いえ。大丈夫です」
睦実が不安そうな目で見て来たので、頭を振って否定する霞。
一瞬、四人の目つきが険しい物になったことも、彼女は気付かないでいた。
――――――
「しかし、外国の艦娘か。高波の奴も余計な事を・・・・・・」
「まあ、そこは仕方が無いわよ。あの子優しいもの」
「そうですよ。こればかりは、私も賛同していますし」
会議室を後にした四人は、いつものようにおしゃべりしながら、いつも集まっている部屋へと戻ってきた。
「で、さっきの話の続きだけど・・・・・・」
「あの駆逐艦の事か?」
「違うわよ、霧島を消す方法。私に良い考えがあるわ」
するとよからぬ事を思いついたのか、蠱惑的な笑みを浮かべる陸奥に、他の三人が注目する。
「耳を貸して。やり方は・・・・・・ゴニョゴニョ・・・・・・」
「・・・・・・ふむ、なるほどな」
「上手く行けば、旗艦として劣悪であることの烙印を押せますし、他の拠点へ移らせる事も出来る。一石二鳥ですね」
「でしょう? 仮に後者が無理だとしても、総旗艦の座から引き摺り下ろされるのは確実ね」
「だが、切り捨てられる可能性は?」
「その可能性は低いわね。彼女、ああ見えて結構責任感強いから」
「その案、乗ったわ! それじゃあ、あの子が目を覚ましたら作戦開始ね・・・・・・!」
切欠としては小さな。だが、大きな物が蠢こうとしていた。
★☆☆★
どうして、こうなったんだろう・・・・・・。
普通なら今頃は、基地に戻ってストーブを囲って。クラムチャウダーやコーヒーを飲みながらお姉ちゃん達と一緒に過ごしていたはずなのに・・・・・・。
「タッカーぁっ!!」
「走れぇっ!! ショー!!」
どうして、こうなってしまったんだろう・・・・・・。
普通なら交代の駆逐隊と代わって、もうすぐ本国に戻れるはずだったのに・・・・・・。
「きゃぁっ!? ばっ、爆発しちゃう!?」
「各艦、
どうして、こうなったの・・・・・・?
どうして? どうして? どうして? どうしてッ!?
「
「ブレイク!!」
もうどれだけ自問自答してきたのか解らない。だけど今、足を止めたらケイスや、タッカーみたいな目に遭う。それだけは解る。それに、艦載機が出てきたと言うことは、敵の中に間違い無く母艦がいる事も。
「このままじゃジリー・プアーだわぁっ!!」
「どうする、マハン!?」
「仕方がありません。あの島に逃げ込みましょう!」
魚雷と爆雷をばらまきながら、近くに見えた島へと針路を取る。
運が良いことにその島は大小二つあり、小さい方の影へと逃げ込んだ事で私達は難を逃れることができた。
「ふう・・・・・・。誰がやられましたか?」
「ケイスとタッカーが。多分だけど、助からないわね」
「被害状況は・・・・・・言うまでも無いですね」
ある程度落ち着けるようになったので改めて見てみたけど。私達はもう、ズタボロだった。
主砲は殆ど撃ち尽くしてしまったし、魚雷は弾切れ。私は、まだ
「すまない、もっと早く動いていればこうは・・・・・・」
「無理はしないで。いくら私達FGが丈夫でも、十分重傷です。とにかく、休めるところを探しましょう。そこで手当を」
「・・・・・・世話を掛けるな・・・・・・」
とにかく今は、フラッサーの手当をするのが先。私とリードでカバーしながら上陸しようとしたその時だった。
「おい! そこで何をしている!?」
霧を隔てて、男の人の声がする。カチャリ、と言う音もしたから恐らく銃を持っているのかも・・・・・・!?
「貴様らは誰だ!? 所属と階級を言え!!」
「待ってください! 私は、連邦海軍第1001任務部隊麾下、第110駆逐隊所属。駆逐艦マハンです!」
「駆逐隊・・・・・・? 海軍か!?」
マハンが大声でこちらの身分を明かすと、霧をかき分けて声の主が私達の前に現れた。
黒い髪に黒い目。掘りの浅い顔立ちだから・・・・・・アジアの人かな?
「失礼した。私は、海兵隊第四観測隊のリー軍曹だ。君たちが救助部隊か?」
「救助・・・・・・?」
だけどその人―リー軍曹さんは私達のことを何かと間違えているみたい。これって、まさか・・・・・・
「いえ、私達も今し方アビサルフリートに追われて、ここまで辿り着いたんです」
「そうか・・・・・・いや、済まない。もうかれこれ、3ヶ月近く缶詰だったからまさかと思ったが・・・・・・」
「缶詰? ここは一体何処なんですか?」
不安を隠しきれずに、マハンが再び問う。それに対し、軍曹さんからの答えは私達をさらに追い込むには、十分過ぎた。
「アルフォンシーノ列島のど真ん中。キス島だ」
“キス島”。戦略的な価値が低く、誰も見向きもしないようなこの島も『あの戦争』で日本の人達が占領していた。
それを包囲して、干からびるのを待っていざ突入したら、残っていたのは犬が二匹と、『ペスト患者隔離中』と書かれた看板だけだったと言う。まるで冗談みたいなホントの話が起きた舞台。そう私は聞いたことがあります。
「それで、せっかくだからと上はここを観測基地としていた訳なのだが・・・・・・3ヶ月前から急激に連中が活発化し始め、結果として補給を立たれた私達はかつての日本と同じ状態に陥ってしまっている」
基地。と言っても、元々日本軍が使っていた洞窟をそのまま利用しているだけの施設の中を、軍曹さんが歩きながら説明してくれている。
食料も殆ど無く、燃料も弾薬もごく僅か。なけなしのそれも、大半は暖房と対空砲に回されている。それが、今のキス島の実情でした。
「本国から救助も来ず、我々ももう限界に近い。いや、もとより飛び石作戦の対象になっていた島だ。最初から救助などするつもりも無いのだろう・・・・・・」
「そんな・・・・・・馬鹿な!! 合衆国は、自由と平和と正義のために戦っている! 志を同じくする者を、見捨てるわけが無いだろう!!」
「けどさぁ。それって結局、ワスプだけの理屈じゃない? 軍曹みたいな
彼の話を聞いて、激怒するフラッサー。彼女の言うことも解るけど、リードの考えも一理あるような気がした。
「そうですね。同じ赤い血が流れているのに、何と浅ましいことか・・・・・・」
「ねえ、軍曹。ちょっと聞きたいんだけど」
「何か?」
「ここって、どんな人がいるの?」
その彼女が、軍曹さんに何か聞いている。『どんな人』? それって、どういうこと?
「人員の大半は黒人とアジア系だ。日系人もいる。白人は、連隊長代理を含めた数人ほどだ」
「よっしゃ。それなら話は簡単だよ」
「リード、何か考えがあるのですか?」
「アジア人のことは、アジア人に頼めば良いって事。こっから西に行けば、何処にぶち当たると思う?」
西・・・・・・? 確か、太平洋を囲んでいるのは東のアメリカ大陸と、西側のユーラシア大陸の筈。だけど、それと何の関係があるのかしら・・・・・・?
「解ってないなぁ。マジモンのジャパニーズがあっちにいるじゃないの」
「まさか、日本にですか!?」
「そう」
リードの考えはこう。
ここから西南西の方角には千島列島という島々があり、そこには一つだけ帝国海軍―日本の拠点があると言う。そこまで行けば、多少時間が掛かっても本国へ帰るアテがあると言う。
「それに、今のジャップはあの時の贖罪からか、傷病兵は国を問わず可能な限り受け入れているって話を聞いたことがあるからさ。それに賭ける」
「危険すぎる! 敵戦力も、アレが総てとは限らないんだぞ!」
「だからこそだよ」
「待ちなさい、リード」
そう言ってリードは踵を返して海に出ようとした所で、マハンが彼女を呼び止めた。
「貴女、エンジンブロックに大穴が空いていたはずでしょう?」
「大丈夫だって。霧と岩陰に隠れながら行けば、見つかりはしないさ。それに、マハンだって、ガスはスッカラカンでしょ? フラッサーは怪我してるし、動けるのは・・・・・・」
「あっ、あのっ!」
そう、そうよ。辛うじて無傷に近いのが、ここにいるじゃ無い・・・・・・!
「伝令役は、私がやります!」
「ショー!?」
「断言する、無茶だわ」
「無茶でも無理でも、動けるのが私だけなら、私が行く! プロペラントは、まだ余裕があるから!」
「・・・・・・まあ、良いんじゃ無いの?」
マハンは案の定反対してきた。だけど私にとって意外だったのは、言い出しっぺだった筈のリードが賛成してくれたことでした。
「今までマハンのスカートから出てこられなかったのが、ようやっと自分の意思で動こうとしている。その気概を買ってやろうじゃないの」
「・・・・・・そうだな。現実として、一番余裕があるのはショーだ。彼女が行くというのなら、仕方有るまい」
「フラッサー!? 貴女まで・・・・・・」
フラッサーも同意したのを見てマハンも折れたのか、肩をすくめるような仕草をする。
「わかりました。ショー、決して無茶をしないで」
「はいっ・・・・・・!」
その後再び霧が濃くなるのを待って、私はひっそりとキス島を後にしたことまでは、覚えています。
だけど日付変更線を越えた辺りで、敵に見つかってしまってから先。どうやって辿り着いたのかまでは、解りませんでした・・・・・・。
★☆☆★
「―・・・・・・私が話せるのは、これくらいです・・・・・・ごめんなさい」
単冠湾泊地の入渠施設。そこから、件の駆逐艦が意識を取り戻した事を報せられた自分達は現在、その駆逐艦―ショーから話を聞くことができていた。
所々片言になりながらも、絞り出すようにして語った彼女の顔は、とても辛く、悲しいものだった。
「ねえ、提督。彼女を助けてあげましょう」
「陸奥?」
「だって、彼女の話に寄ればキス島には友軍がいるって話じゃ無い。いつぞやの私達と、同じように」
「そ、それは僕も“キス島の奇跡”は資料で見たから知っているけど・・・・・・」
「だからこそよ! 尚更、助けがいるわ!!」
陸奥の熱弁を前にして、押され気味になる少佐。やはり子供だからか、彼女のような艦娘を御するのには、まだ慣れていないようだった。
「提督。陸奥ちゃんは義憤で言っていると思うけど、それを抜きにしても、これを成功させれば、提督の名声は高まる筈だわ」
「そうですよ。提督の事を見くびっている木曾さん達を見返す、好機です」
「まあ少なくとも、手柄にはできるだろう。それも、後世まで自慢出来る類いの」
「待ってください、私は反対です」
愛宕と鳳翔、日向も彼女の意見を推す中で、一人だけが反対する声を上げる。霧島だ。
「確かに、人道的に見るならば救助は必要でしょう。ですが、彼女の話を聞く限りでは大多数の深海棲艦によって島が包囲されているのは確実です。下手にのこのこ出て行っては、
「友軍を見捨てると言うの!?」
「見捨てるとは、一言も言ってません。今はリスクが大きすぎると、そう言いたいんです」
忽ちの内に、険悪な空気になってしまう室内。やはり瑞鶴から聞いたとおり、この泊地は一枚岩では無い。だが、霧島の話にも一理ある。
今回自分達第四十四戦隊が北へ向かった理由の一つに、北方で陸上拠点型の深海棲艦らしき存在がある。詳細は不明だが、ショーの話に出てきた艦載機。いやさ、航空機は恐らく、そいつの持ち物である可能性が高い。万全を期する必要が、あるだろう。
「・・・・・・わかった。僕に任せてくれ」
しばしの思案の末、少佐は結論を下す。自信ありげな様にも見えるが、瑞鶴から聞いた話では、以前の出撃の際、思いつきで作戦を変えたという。今ひとつ、不安要素が拭いきれない。
「必要な事があれば、協力は惜しまない。何でも言って」
「ありがとうございます!」
とにかく今は、自分達も準備だけは整えておくべきだろう。次に来たる戦闘は、一筋縄では行かなさそうだ。
★☆☆★
「さて、先ずは第一段階完了か・・・・・・」
「ね? 私の読み通りでしょう?」
所変わって、再び愛宕達がたむろしている一室。自身の策が上手く行ったこともあって、陸奥はしたり顔だ。
「ですけど、まだ成功するとは限りませんよ。よくよく考えたら、軍令部が首を横に振れば、陸奥さんの策はオジャンじゃないですか」
「そっ、その時はその時で別の手を考えるわよ!」
「全く・・・・・・。霧島の言うことも間違ってはいないな」
「はぁ!?」
「はいはい、喧嘩は止める。今はまだ伏せ時よ」
それを見かねた愛宕が、手を叩いて止めに掛かる。
「いざとなったら、私が何とかするから。今は待ちましょう」
「それもそうですね。今夜は、のんびり美味しい物を食べて飲んで待ちましょう」
そう言って鳳翔が戸棚から取り出したのは、洋酒だ。
中身は統制のラム酒では無く、ワイン。それも、本場ヨーロッパ産の物だ。
「あら、それ。どこで手に入れたの?」
「実はちょっとばかり、背広の方をつついたら」
「・・・・・・詳しくは聞かないでおこう。それより、良いのか?」
「何がです?」
「私達のしていること、提督にバレたら事だぞ」
「ああ、それですか。なら、良いことを教えてあげますね」
出所を察した日向が、怪訝そうな表情で彼女に聞く。それに対し鳳翔は、いつもの柔和な笑みとは真逆の、影のある笑みを浮かべながら答えた。
「