名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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今回も複数のパートに分かれていますので、最新話リンクから来た方はご注意願います。それでは、どうぞ。


第三章・第八話:霧中行軍・3~霧の激戦~

 

★☆☆★

 

 

 所変わって、再び海域南西のアルフォンシーノ廻廊。本来なら寒さと霧でしんと静まり返り、音を立てるものは波くらいしか無いであろうこの海。だが今、この海で起きているのは、激しく、そして喧しい命の遣り取りだ。

 

「敵駆逐艦、接近!!」

「撃って撃って撃ちまくりなさい! 電探でも何でも、とにかく当てるのよ!!」

 

 激しい砲火を縫うようにして、米軍兵士達を乗せた天燐丸が全速で進むのを、叢雲率いる第一駆逐班は必死に援護していた。

 

「きゃぁっ!」

「如月!? ったく、冗談じゃ無いわ!!」

 

被弾の衝撃で転倒した如月を庇いながら、曙は毒づいた。

 

「何処の馬鹿よ!? あたし達の場所をバラしたのは!!」

「無駄口を叩く暇があったら応戦しろ! 死にたいのか!?」

「んな訳無いでしょ、緑頭!!」

 

叱責する長月に言い返しつつ、応射する。先ほどからこれの繰り返しだ。

 

「1じのほうこう、てきせっきん!」

「まっずっ・・・・・・!!」

 

 不意に、彼女の船員妖精が警告を発してくる。見ると、丁度船の進行方向上に黒い影が集まってきているのがわかる。

 

「何・・・・・・あれ・・・・・・!?」

 

影の正体に、彼女は驚きを隠せなかった。駆逐艦級の深海棲艦を模したような兜を被った群集団。これだけならまだ、曙の不器用な脳細胞でも理解出来る。だが問題はその大きさだ。

 大型犬ほどもあると言う駆逐艦よりも小さい。いやそれどころか、自身の膝上まであるかないか程度の、まるで赤子同然の異形が霧をかき分けて飛び出してきたのだ。

 

「キャハハ・・・・・・キャハハハハハ・・・・・・」

「アソボォ、アソボォヨォ・・・・・・」

「キャハハハハハ・・・・・・」

「っ! 全艦、不明艦に集中砲火!! あれは・・・・・・拙いわ!!」

 

 まるで深淵から聞こえてきたような、おどろおどろしい笑い声を聞くや否や、叢雲が檄を飛ばす。それを受けて、共に随伴していた長月、響と共に曙は主砲を照準、発砲する。しかし・・・・・・

 

「外した・・・・・・!?」

「違う、避けた(・ ・ ・)んだ!!」

 

放たれた砲弾は、その深海棲艦を掠めるようにして明後日の方向へ飛んで行ってしまう。そうしている間にも、彼らは突撃を止めようとしない。その先にあるのは・・・・・・

 

「天燐丸が!」

「接近するのよ! 近づけばどんな奴でも当たるわ!!」

 

 そう言って叢雲は、槍を振りかざして針路に割って入ろうとする。だが、次の瞬間。

 

「叢雲、左だ!!」

「えっ・・・・・・!?」

 

彼女の針路に割って入る別の影。その姿は両腕が肥大化しており、一瞬、叢雲はリ級あたりが突っかかって来たのかと思った。だが・・・・・・

 

「っつあっ!!」

 

 飛び出してきたそれは、叢雲目がけて拳を(・ ・)突き出してきたのだ。咄嗟に、左腕の魚雷管を盾にして防いだ物の、装甲がひしゃげて使い物にならなくなる。

 

「重巡!? 舐めんじゃないわよっ!!」

 

 彼女はそう啖呵を切ると同時に、槍を薙いだ。穂先が掠めた事で、相手の仮面の様な顔面に真一文字のような傷が付けられる。

 

「私の前を遮る(おろかもの)め・・・・・・」

 

だが、攻撃はまだ終わっていなかった。

 そこから更に叢雲は、破損した魚雷管を投擲。それを見た謎の深海棲艦は、両肩の主砲を発射。魚雷管を迎撃する。放たれた砲弾は寸分違わず命中し、装填されていた魚雷が誘爆したことで寒空に大輪の花が咲く。

 起死回生を狙った一撃は無力化した。彼がそう思っていた矢先のことだ。彼の者の体に、銀の刃が突き立てられていたのは。そう、叢雲はあの爆発を目くらましにして背後へ回り、背中から串刺しにしたのだ。

 

「沈めっ!!」

 

そこから間髪を入れず、零距離で主砲を放つ叢雲。

 反動と爆炎、飛び散った砲弾の破片が彼女の体を傷つけるが、構うこと無く収められたありったけの砲弾を撃ちまくった後、弾切れと同時に相手の背を蹴っ飛ばして槍を引き抜いた。だが・・・・・・まだ彼は終わらなかった(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 背中を砲撃によってズタズタにされながらも彼は振り返り、振り向きざまに右肩の主砲を再び発砲する。

 

「っ、っ・・・・・・!!」

「叢雲ちゃん!!」

 

 咄嗟に回避しようとする叢雲。それによって砲弾は辛うじて急所を外れはしたが、一発が右手を貫き、槍を取り落としてしまう。それを好機と見たのか、両の掌から魚雷らしき物を打ち出そうとする新型。さらに運の悪いことに、彼の背中越しに天燐丸目がけて突撃を続ける小さい方の新型が彼女の目に映った。しかもその手には、黒光りする円筒型の代物が。

 

「そんな・・・・・・!」

 

 天燐丸との彼我の距離は、既に回避不能なほどにまで縮まっている。体当たりするにせよ何にせよ、深海棲艦の攻撃に対して通常の船舶は無力だ。

 

「止めてぇっ!!」

 

 叫んでどうにかなるような状況でも無い事は、叢雲自身が一番良く判っている。だがそれでも、彼女は声を出さずにはいられなかった。だが無慈悲にも、小さい方の新型はその筒を投げつける体勢に入っている。万事休すかと思われた、その時だった。

 

「邪魔じゃけぇ!!」

 

 可愛らしい声色と裏腹に、物騒な広島弁が響くと霧の向こうから浦風が現れたのだ。彼女は左手の連装機銃を構えると、狙いは最小限にして発砲する。

 

「ギッ!? ギィイイイ!?」

 

 普通は、深海棲艦相手には牽制程度にしかならない機銃だが、件の新種は装甲が極端に薄かったのか。たった数発、機銃弾が命中しただけで火の玉となった。それを見た大きい方の新種の動きが、一瞬だが止まる。

 

「そこ退けやぁっ!!」

 

そしてその一瞬を、彼女は見逃さなかった。両足の太ももに付けられた主砲を指向し、即座に発砲する。撃たれた相手の方は、その大きな両手をかざして防御する。だが、それによって視界がふさがってしまい、浦風が同時に放っていた魚雷を見逃してしまう。

 

「!?!?」

 

彼が気付いた時には既に遅く、魚雷は寸分違うこと無く彼の両足を吹き飛ばし、海底へと叩き落とした。

 

「大丈夫ですか!?」

「第二駆逐班、援護に来たよっ!」

 

 新種が両方とも撃破されるのと同じくして、浜風ら他の級一七駆の面々も合流してきた。

 

「ええ、何とかね。何人か被弾したみたいだけど」

「その『何人か』には、貴様も入っているのか?」

「私は大丈夫よ。これくらい唾付けとけばなお・・・・・・っ~!?!?」

 

被弾した叢雲を気遣って磯風が声を掛けてきたのだが、彼女はそうではないと否定する。しかし、直後に腕を襲った激痛が彼女の顔を歪ませた。

 

「それの何処が大丈夫なんだ。無理をせずに天燐丸で休んでいろ」

「大丈夫だって言ってるでしょう!」

「丸腰で戦うつもりか? 見たところ魚雷も無いようだが・・・・・・」

「・・・・・・」

「あの、仲間を思いやるのは良いことなんですが・・・・・・磯風」

「何だ?」

「それ、貴女が言えたことかしら?」

「・・・・・・」

 

 磯風の指摘に対し、黙りこくってしまう叢雲。だが、磯風の悪癖(?)を知っている浜風がそれを指摘したことで彼女も黙りとなってしまった。

 

「はいはい、茶番は後々! 集まって頂戴!」

 

とそこで、後方の安全を確保したのか、霞が高波達六十二戦隊の駆逐艦達を引き連れて合流してきた。

 

「取り敢えず、状況を報告して頂戴」

「前衛班だが、すでに敵は撃退している。今は村雨達が針路啓開中だ」

「こっちも、護衛対象は今のところ無事よ。ただ、気がかりな点があるわね」

「例の、ちっこい連中の事?」

「ええ」

 

彼女からの問いかけに対し、叢雲は頷くことで答える。

 

「そっちにも出てきているなら、話は早いわね。小さい上にすばしっこいから、注意が必要だわ」

「そっちは後でアイツに報告するとして・・・・・・問題はこの先ね」

 

 霞の気がかりとなっている問題。それは廻廊を抜けてから、合流地点までの道中だ。

 

「既に捕捉されている以上、第二波がいつ来ても可笑しくないわ。もしかすると、廻廊の外で待ち伏せされる危険もあるわね」

「となると、急いだ方が良さそうじゃな」

「そう言うこと、もう無線封鎖どころの話じゃ無いわ。速度を上げて、一気に駆け抜けるわよ。村雨達にも伝えて頂戴、密集隊形を取るわ!!」

「『『了解!!』』」

 

 

――――――

 

 

「敵艦隊に奇妙な動きあり、か・・・・・・」

 

 一方その頃。徹心が直接指揮を執っている陽動部隊は最終の攻撃隊を収容した後、合流場所としてあらかじめ指定した海域の座標へと移動していた。その最中においてぽつりと、徹心の口から言の葉が漏れ出す。

 

「妙な動き、ですか?」

「ああ。木曾からの報告によれば、敵の後衛部隊が後退する兆しを見せていたらしい。まさかとは思うが、こちらの狙いに気付いたのだろうか・・・・・・?」

「そうでしょうか? 多分偶然ですよ」

 

顎に手をやる彼に対し、睦実はそう言った。

 

「いくら深海棲艦の物量が無限に近くたって、体内にため込める燃料や弾薬には限りが有りますし。考えすぎも良くないと思いますよ」

「ぬぅ、だが・・・・・・」

「大丈夫ですって。愛宕や陸奥も僕と同じ見解ですし」

「・・・・・・待て、愛宕と同意見、とは?」

「そのままですよ。難しいことは、愛宕と陸奥に任せていますから」

 

 思考の海に徹心が潜行しようとした所で、彼は睦実の発した台詞に反応を見せる。この時彼は、以前長月から話された内容を思い出していた。

 

『あいつは司令官を誑し込んで、自分がやってきたことをほぼ全部私に押し付けて、自身は何食わぬ顔をして人事異動で北方へトンズラ! 人間だったらどんなによかったことか・・・・・・!』

 

そう。長月に濡れ衣を着せ、高飛び同然にその真犯人が北に異動したと言う話を。

 

「少佐」

「なんでしょうか?」

「この際だからはっきりと言わせて貰うが・・・・・・。貴官は、愛宕達の事を信頼しているのか?」

「・・・・・・!?」

 

徹心のこの一言に何か思う物があったのか、睦実はギョッとしたような動きを見せる。

 普通、艦娘と提督。基、艦隊指揮官との信頼関係は、深ければ深いほど良いとされている。しかし、どちらも聖人君子で無い以上、どうしてもすれ違いは生じてしまう物。彼は睦実と、愛宕か陸奥。あるいはその両方との間で静かなわだかまりがあるのでは無いかと推測していたのだ。

 

「し、信頼ですか? それはその・・・・・・」

「彼女達には心がある。例え完全に開くことは無くとも、ある程度は解っている筈なのだが・・・・・・」

「で、ですけど愛宕は最初の秘書艦ですし、陸奥や鳳翔さん達も気心が知れてますし・・・・・・・」

「『知っている』と『解っている』は別だぞ?」

「あっ、あの、えっと・・・・・・」

「自分が言えたことでは無いが、君はまだ若い。だから―」

 

 狼狽える彼に諭すように、徹心は話そうとしたその時だった。

 

「司令官、失礼します!」

 

一時的に席を外していた香月中尉が、慌てて戦闘指揮艦橋に入ってきた。いつもは沈着な表情から殆ど変わらないそれが、珍しく焦りが顔に出ている。それを見て彼は、ただ事では無い事を直感した。

 

「中尉、どうした?」

「天燐丸からの、緊急の暗号電文を受信しました!」

「天燐丸から? 無線は、向こうは封鎖している筈じゃ・・・・・・」

「考えられる可能性は二つだ、少佐。一つは単純な命令違反。もう一つは・・・・・・そうしなければならないような事態が起きた可能性」

「そんな・・・・・・!」

「中尉、内容は何と?」

「あっ、はい」

 

青ざめる睦実を横目に、徹心は思考を切り替えながら香月中尉に問う。

 

「『桶狭間にうつけ者あり』。それを二度、三度となく繰り返しています」

「っ、やられた・・・・・・!」

「なっ、何がですか!?」

「敵が此方の意図に感づいた様だ。木曾の言っていた後衛部隊の移動も、増援として戦力を抽出するためと考えれば辻褄が合う。こちらの戦力は駆逐艦だけ、非常に危険な状況だ」

「でっ、ですけど廻廊の中はそう簡単には・・・・・・」

「少佐、奴らは『深海』棲艦だ。こちらの知らない航路を知っている可能性もある。中尉、格納庫に繋いでくれ」

「はっ!」

 

 徹心の言っていることが理解出来たのか、睦実の顔がさらに青ざめる。いくら練度が高くとも、絶対的な性能差は埋めるのは難しい。ましてや駆逐艦だ。大半の深海棲艦に対しては不利な戦闘を強いられる事は明白だった。

 

「とにかく、急ぎ対策を練らなければ。保住主任、聞こえるか? 行動可能な戦力は?」

《今ですか!? 重巡と戦艦の皆さんは、もう大半は艤装を外してしまいましたよ!?》

 

中尉が繋いだ無線の奥で保住主任が慌てた様子で受け答えするのを聞いて、徹心はすぐさま選択肢を変える。

 

「なら、軽巡は出せるか? 誰でも構わない」

《それでしたら、あまり時間はかかりませんけど・・・・・・》

「なら出すんだ! 急がせろ!!」

《は、はっ!! 直ちに用意します!!》

 

 上官が珍しく語気を荒げたのに驚いたのか。いつもの砕けた語調では無く、まるで新兵のような返事を返して通信が終わる。

 

「大佐・・・・・・」

「少佐、話は後だ。とにかく今は、一刻も早く合流するべきだ」

「・・・・・・はい」

 

そう話す徹心の額に、冷や汗が流れる。ここへ来て戦いは、暗礁へ向かって突き進み始めていた。

 

 

 

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