と言っても、時間を掛けた分良いモノになったかというとそれはまた別問題なわけで・・・。OTL
それでは、どうぞ。
「長月、ちゃん・・・・・・?」
廊下を歩いていたら突如として呼び止められた愛宕は今、一人の艦娘と対峙していた。薄緑色の髪に、月の髪飾り。真っ黒なセーラー服風の戦闘装束。長月だ。
「久しぶりだな」
「ええ、本当に。貴女がパラオに懲罰転属になって以来かしら?」
「ああ、そうだな・・・・・・。本当に、久しぶりだよ・・・・・・」
彼女を見る長月の視線は、険悪その物だ。まるで生涯を掛けて見つけ出した仇敵を見るかの如く、駆逐艦としては異常なまでに鋭いそれをぶつけている。
「此所で会ったが百年目だ。出るべきところに出て貰うぞ!」
「出るべき所って、何が?」
「とぼけるな! お前のやってきたこと、司令官にしたこと、忘れたとは言わせん!!」
「・・・・・・はぁっ」
まくし立てる相手を前にして、愛宕はため息を吐きながら答える。
「何の話だか知らないけれど、過ぎたことに何時までもギャアギャアと。まるで子供ね」
「お前にとっては過ぎたことでも、私にとっては終わっていない!!」
「そう言う変なところにこだわるから、子供だと言うのよ。悔しかったら、私がやったという証拠を持ってきなさいな」
「・・・・・・・・・・・・!!」
それを前にして、ぐうの音も出なくなる長月。ヒラヒラと手を振りながら立ち去っていく愛宕の背中を憎らしげに見送ると、彼女は思いきり壁を蹴っ飛ばしていた。それこそ、鉄筋製の壁を蹴破らんばかりに。
「デカくって
☆★★☆
棲地がアルフォンシーノ列島のどこかに存在する可能性は、先日の偵察で大きく高まった。
高度知性保持種の深海棲艦と補給部隊も確認された以上、信憑性は非常に高く、成果としてはまさしく十二分と言えたのだが、それに対してこちらも大きな対価を支払わされた。
春雨と響が中破し、足柄、浦風、飛鷹は大破。特に飛鷹は生きているのが奇跡とも言えるくらい損傷は深刻で、高速修復材を用いても復帰にはかなり時間がかかると見られている。
「泊地の捜索、上手く行って良かったですね」
「ああ、そうだな・・・・・・」
書類整理の傍ら、窓の外を見てみると、千歳達二人が水上機隊を操って瑞穂と模擬戦をしているのが見える。艦上機に対して速度で劣っているのは相変わらずだが、演習と実戦を重ねれば克服出来るだろう。
「・・・・・・仕方ないですよ。提督だって、予想出来なかった事でしょうし」
「だが、また彼女達を危険にさらしてしまった。もっとよく考えなくては・・・・・・!」
「詰めすぎも良くないですよ。『常に余裕を持って、優雅足れ』、でしたっけ? 提督、少し気分転換をされてはどうでしょうか? ここ何日かは、かなり遅くまで起きていらっしゃったようですし」
「そうですよ! 報告書を含めた書類はこっちで用意しますから!」
「・・・・・・しかし・・・・・・」
「しかしも案山子も無いです。偶には部下の進言も聞くのが、良い上司と言うものですよ」
「・・・・・・なら、甘えさせて貰うとしようか」
彼女と、自分の隣の机で書類を片付けていた五月雨に促され、ひとまずペンを置いて士官室を後にした。
この時間だと、食堂はまだ仕込み途中で開いていないだろうから、寝床へ戻ろうと思った時のことだった。
「あら、大佐。ご機嫌よう」
士官室を出て、歩こうとした丁度その時。自分を呼び止める声がする。それのした方を見てみると、目に映ったのは輝くような金髪に、深い青色の戦闘装束。愛宕だった。
「愛宕か。先日の任はご苦労だったな」
「いいえぇ、そんなことありませんわ。大佐の指示に従う様、提督から言われてましたし」
そう言って、まるで花の様に笑う愛宕。だが、何と言えば良いのだろうか・・・・・・。その笑顔は
「それよりも大佐、この後お時間ありますか?」
「ああ、これから部屋に戻るつもりだったから、あるにはあるが・・・・・・」
「それでしたら、これからご一緒しませんか? 丁度私も、提督からお暇を貰ったところでしたし」
ともかくとして予定を聞かれたので、特に隠す理由も無いと判断して教える。すると彼女は、不意に自分の腕に抱きついて上目遣いで頼んできたのだ。
自分の二の腕が、丁度彼女の胸。もっと言えば乳房の部分に重なっているせいか、柔らかい感触に腕が包まれていく。自分にとっては、未知の領域だった。
「どうですか?」
「どう、とは・・・・・・」
「うふふふふ。モテていそうで、意外と初心な所もあるんですね大佐は。もちろん、これだけではありませんわ。見るのも触るのも、もしよろしければ・・・・・・
胸に腕を押し付けさせたまま、つま先立ちになって愛宕が囁いてくる。
蠱惑的な、理性を蕩けさせるような声。普通ならあっさりと二つ返事で了承してしまうだろう。
「愛宕、自分の身を安売りするものではないぞ・・・・・・」
「あぁら、私は価値ある売り物だと思っていますよ? 最初からこう言えるのは・・・・・・大佐だけですから・・・・・・」
ひねり出した反論も躱され、彼女がさらに迫ろうとしたその時だった。
「愛宕さん? 少しよろしいでしょうか?」
愛宕の背後。つまり、自分の視線の先から、黒髪の艦娘―瑞穂が話しかけてきたのは。事務仕事の依頼だろうか、その手には書類の入った茶封筒が握られている。
「ちっ・・・・・・。何かしら、瑞穂さん?」
「あ、はい。提督から、書類の承認をお願いしますとのことです。出向の艦娘さんが、明日来られるようですよ」
「珍しいわね、こんな時に? まあ良いわ、処理して置くわね。ごめんなさい、大佐。そう言うことですので失礼しますね」
「あ、ああ・・・・・・」
そう言って彼女は瑞穂の手から封筒を取ると、その場から立ち去っていった。
瑞穂が来た瞬間、舌打ちの様な音が聞こえたのは気のせいだろうか・・・・・・?
「あぁ、そうだ。瑞穂、少し良いだろうか」
「何でしょうか、大佐?」
「君は、愛宕達の事をどう思っている?」
そう言えば、瑞穂とはあまり話した事が無かったな。この際だから、彼女にも愛宕のことを聞くとしよう。霧島と瑞鶴からはある程度聞けていたが、温厚そうな彼女だとどうなるのか・・・・・・。
「・・・・・・そうですね。大事な、お仲間だと思っています。霧島さん達はあまり良い印象を抱いていないみたいですけど、私はあの噂も本当は違うんじゃ無いかしら、って。時々考えるんです」
『噂』・・・・・・? そう言えば長月も、ラバウル時代の同僚に罪をなすりつけられたと言っていたが、まさか・・・・・・
「瑞穂、その事なんだが・・・・・・」
「でも、時々思うんです。愛宕さん達を見ていると、その内取り返しの付かないことをしてしまうのではないか、と・・・・・・」
「・・・・・・取り返しの付かないこと?」
喉まで出かかった台詞を押しとどめて、自分は瑞穂の話に耳を傾け続ける。
「はい。でも、同じ菊花紋章を今上陛下より賜った身ですから。もしそうなってしまいそうになったら、私は止めようと思います。味方を失うのは、嫌ですから」
「そうか。ありがとう、有意義だったよ」
「いえ、お休み前にお邪魔してしまったみたいでしたね。ごめんなさい、失礼致します」
「ああ」
一通り話したいことも話し終えたのか、一礼して瑞穂もその場を去って行った。
色々と気になることは沢山有るが、今は休むとしよう。無理をして体を壊してしまっては、それこそ本末転倒だ。高峰から届いた手紙にも、査察部の配下を向かわせるとあったから、その時にでも報せるとしよう。
☆★★☆
「単冠湾へようこそ。僕が司令官の、上条睦実です。よろしくお願いしますね」
翌日。単冠湾泊地は、新たに出向してきた二名の艦娘を迎え入れていた。艦種こそ駆逐艦と潜水艦ではあるが、中央からの転属と言うことで期待感も高まっている。
「不知火です。ご指導、ご鞭撻、よろしくです」
「伊号8番潜水艦、ハチです。提督が呼びやすいなら、ハッチャン、でも良いですよ」
二人の内、一人―不知火は極めて礼儀正しく。もう一人―ハチは柔らかく礼をする。その後は簡単な自己紹介を済ませ、着任の挨拶は終了。
そして二人は、泊地を案内するという陸奥の提案をやんわりと断ると、その足で士官室―徹心の居る部屋へと向かっていった。
「失礼します。東郷大佐、いらっしゃいますか?」
「ああ、入ってくれ」
「はっ」
戸を叩き、入室を促された二人は部屋の中で徹心と対面していた。
「自分に何か用事だろうか? 二人は本来、単冠湾側の筈だが・・・・・・」
「表向きは、ね。ですけどその実態は、違うんですよ」
「違う?」
「自己紹介が遅れました。海軍軍令部査察部、駆逐艦不知火です」
「同じく、ハチです。よろしくお願いしますね」
「査察部? と言うことは、君たちが・・・・・・」
「はい。高峰大尉から、よろしくするようにとのことです」
二人の本来の肩書きを聞いて、少し驚いたような表情を見せる徹心。傍らにいた霞と叢雲も、これは予想していなかったらしく、面食らっていた。
「木を隠すには森の中。艦娘の事を調べるのなら、艦娘に任せるのが適任であると大尉は判断されましたので」
「なるほどな。アイツが『蝮の高峰』と呼ばれている理由がわかった気がする・・・・・・」
「まあこのやり方は、蝮と言うより寄生蜂の様にも思えますけどね」
そう言って、少し戯けた感じで答えるハチ。ともあれこの二人が頼みの綱であることは徹心も理解している。彼はひとまず、二人が預かってきた春斗からの情報を受け取りと、ある程度の打ち合わせを済ませてその場は解散とした。
―――――――
そして翌日。不知火とハチは、昨日できなかった泊地の案内を隠れ蓑に、早速行動を開始していた。開始していたのだが・・・・・・
「最近まで脅威となる艦隊がいなかったのか、緩みきってるわね・・・・・・」
「ヤー。辺境の拠点だから、そこはしょうが無いでしょ」
「すみません、お見苦しい限りで・・・・・・」
泊地に勤務する兵や下士官達に聞き込みをした所、返ってきた答えを類別すると大体は知らないと答えるか、どうでも良い下世話な情報が出てくると言う有様。これには二人はあきれ果てており、同行している瑞穂は申し訳なさそうにしていた。
「それにこう言うのは、簡単にボロが出ては面白くありませんから」
「・・・・・・良い趣味していますね」
「おい」
ハチの軽口に不知火が閉口しかけた時だった。曲がり角を曲がったところで、話しかけてくる艦娘が。長月だ。
「確か貴女は、東郷大佐の・・・・・・」
「長月だ」
「では、長月さん。不知火に何かご用でしょうか?」
「大した用事では無いさ」
単刀直入に淡々と、不知火はその目つきを緩めること無く問う。それに対して、長月は真剣な面持ちで答える。
「愛宕のことを嗅ぎ回っているのだろう? なら、私にも手伝わせて欲しい」
「・・・・・・今ひとつ信用なりませんね。確か貴女、パラオへ飛ばされた理由は着服容疑だった筈ですし」
その答えを、ハチは疑っていた。長月はパラオに懲罰転属された艦娘であることと、その理由まで査察部は掴んではいたのだから。
だがここで、長月は切り札を切ってきた。
「それについてだ。あの事件、私は濡れ衣を着せられた。それを含めて諸々押し付けてきたのは・・・・・・愛宕だ」
「!?」
「何ですって・・・・・・?」
瑞穂の顔に驚きの色が浮かび、不知火の目が更に細くなる。もしそれが事実だとすれば、菊花紋章を賜っている上級の艦娘が起こした、特大の軍規違反だ。それも、悪意のある。
「タダでとは言わない。私が知っている、奴の情報。それで手を打とう」
「・・・・・・良いでしょう」
「不知火さん!?」
しばしの間思案を巡らせた末、彼女はそれを是とした。訝しむハチを制し、不知火は続ける。
「あの一件、個人的にはまだ調べる余地があると思っていました。ですが、これは思わぬ魚が釣れたみたいですね」
「話がわかる奴で助かる。できる限りは、協力しよう」
「・・・・・・わかりました。情報は正直、ありがたいですからね」
不知火の話を聞いて、結局ハチも手を組むことに賛意を示した。ここに、共通の目標を持った協力関係が成立したのである。
早速四人は情報を整理するため、足早にその場を立ち去っていった。
一連の遣り取りを、遠くから見ていた影に気付くこと無く・・・・・・。