現在、簡単なアンケートを募集しています。詳細は後書きにて。
☆★★☆
「―以上が、私が助かった理由とその時に起こった出来事の真相です」
霧島が全てを語り終えた直後。部屋の中は、しばしの間沈黙と静寂に支配されていた。その中で、不知火はいつものポーカーフェイスを崩さずに泰然としており、一方の愛宕はと言うと、俯いたまま微動だにしないかに見えた。
「さて。これで貴女方は、立派な大罪人です。当事者と第三者の証言がある以上、言い逃れは出来ませんよ。余罪もたっぷりありそうですし」
「ふふっ・・・・・・」
「・・・・・・?」
「くふふふふ・・・・・・」
不意に、彼女の肩が揺れる。不知火がその様子に目を細めた直後。彼女は声を上げて笑い出した。
「あっはっはっはっ!! それがどうかした? 証人がいて、証拠もある? そんなの、
リンガだかブインだったかしら、司令官が艦娘に襲われたのは? それと比べれば可愛いものよ!!」
「ええ、そうね。私とした事が思わず焦っちゃったわ」
彼女を見て落ち着きを取り戻したのか、陸奥も続く。
「人間相手なら確かに問題になるけど、艦娘。それも同格同士なら演習と報告すれば、怪しまれる事はあっても疑われる事は無し。文字と数字は嘘を吐かないから助かるわ」
「そして私達を一カ所に集めたのは、愚策だったな」
「良いんですか? 昨日の今日でさらに二人も艦娘が消えれば、流石の上条提督も訝しむと思うのですが・・・・・・」
日向が軍刀を握り直すのを見て、静かにそう告げるハチ。
「刷り込み、と言うのをお前は知っているか? 生まれた直後のひな鳥が、最初に見た動く物体を親と思い込むと言う、アレだ」
それに対し彼女は、まるで能面の様な表情で話し始める。最も、これまでを『万媚』とするならば、今は『橋姫』とも言えるそれだが。
「彼にとってはな、私達、特に愛宕は家族も同然だ。当然だろう、本当の新米時代から苦楽を共にしてきたのだからな」
「ええ。日向ちゃんの言う通り、ツーと言われればカーと答えられるくらい、信頼されてるの。だから私の言う事は、みーんな信じてくれる」
そこに愛宕が、明らかに悪意に充ち満ちた笑顔で続く。
「だから心配は要らないの。だって私が白と答えれば、例え真っ黒けでもあの子は白と思うんだもの。可笑しいったらありゃしないわ! でも・・・・・・」
「『そういう所が、堪らなく愛しい(んだ)(んです)(のよ)』」
「だから、死んじゃって♪」
そして極めて楽しげな、だが無慈悲な言葉が飛んだその時だった。
「やれやれ、ですね」
呆れ果てた様に、彼女は懐から取り出したピストルを発砲した。しかも、丁度日向が軍刀を振り上げ、愛宕もピストルを出した瞬間を完璧に狙って。
甲高い銃声と共に、不知火の放った鉛弾が日向の太ももを貫き、愛宕の放った方は彼女の頬を掠める。幾ら艦娘が無敵に近くても、艤装を付けていない状態では、多少腕っ節が強くて頑丈な点を除けば、生身の人間と殆ど変わらないがために、撃たれた側は傷口を押さえてうずくまり、他の三人は不知火が『撃ってきた』事実を前に、思わず次の手を止めてしまう。
「な、何!? 何なの今のは?!」
そしてその銃声を聞きつけて、ドアを開いて部屋へと飛び込んで来た睦実。
彼の視界に入ったのは、刀を抜いた日向と、互いにピストルを向ける不知火と愛宕。
「上条司令、いきなり彼女達が不知火さんを殺そうとしてきました。正当防衛のために、発砲してしまった事を謝罪します」
「愛宕、これは・・・・・・一体どういうこと・・・・・・?」
それを見やるやいなや、不知火に目配せしたハチは表情一つ変えず、淡々と告げた。
一体何が起きているのか、自身の頭脳では処理出来ずに、睦実は信頼する秘書艦に問いただす。
「違うわ・・・・・・これは違うわ! 私は、殺せとまでは言っていないわ!! これは、日向ちゃんが勝手にやった事よ!!」
「なっ、貴様!?」
「コテンパンにしてやれとしか、私は指示してない!! それを向こうが勝手に拡大解釈したのよ! 瑞穂ちゃんも何か言って!! こんなの、私の所為じゃないって!!」
だが彼女はあろう事か、自分自身の事を棚に上げて罪を日向に擦り付けようとし、加えて瑞穂には自身を庇うように言ってきたのだ。
「いい加減にしてください・・・・・・」
『これが自分と同じ、菊花紋章を賜った艦娘なのか』。瑞穂の中に、失意の念が深みを増して入り込んでくる。もはや情が介在する余地は、存在しなかった。
「貴女の所為で無いと言うのなら、どうしてあの場に貴女が居たのですか・・・・・・? 貴女の所為で無いと言うのなら、どうして日向さん達を止めようとしなかったのですか?」
今まで貯め込んでいたものを全て吐き出すように続ける彼女の声は、感情の色が濃くなっていく。
「どうして貴女は、そんな事を考えついたんですか!! どうして貴女は、そんなことが出来るんですか!!!」
「瑞穂ちゃん・・・・・・!!」
「どうして最後まで、信じさせてくれなかったんですか・・・・・・ッ!」
怒りの声に徐々に嗚咽が混じり始め、瑞穂は最後にはその場に泣き崩れた。その涙は落胆なのか、それとも諦観のそれなのか。とにかく彼女にとってはあまりにもショックが強すぎたのだ。
「・・・・・・さて、ここまで事が大きくなったのですから。後は解りますね?」
それを見て、不知火は愛宕達に淡々と告げる。
「選択肢は二つに一つです。罪を認めて自首するか、それとも否認して更なる罪科を背負い込むか。どのみち上条司令の経歴には傷が付きますが」
「っ、貴女・・・・・・提督を盾にするつもり!?」
そしてその言に反応し、詰め寄ろうとする陸奥。
「世の中にはこう言う言葉もあるんですよ。『部下の不貞は上司の責任』。ましてや貴女方は、それぞれが戦隊旗艦どころか、艦隊総旗艦を務めても可笑しくない艦。肩に掛かる責任は、私のような
それに、もうすぐ第四十四戦隊の任務も終わります。途中で大湊と横須賀に寄港するので、それで貴女達を本土まで連行します。良いですね」
それを不知火は一蹴し、彼女の両手に黒光りする輪―手錠を掛ける。それはもはや、意思では無く手順の確認だった。
「ぐっ・・・・・・この・・・・・・犬ころ風情が!! 首輪とご主人様が無ければ何も出来ないの!?」
「犬で結構。連合艦隊の名誉を守れるのなら、犬以下の死に様でも本望です」
愛宕が言った事は、陸奥達他の三人全員が口にせずとも思っている事。だがこの罵声も、目の前に居る彼女には届かない。
後に残されたのは、鉛よりも重い空気だけだった・・・・・・。
――――――
「これで、良かったのだろうか・・・・・・」
「何がだ?」
単冠湾からの帰り道。目の前に居る古参の部下の言葉に静かに耳を傾けている中で、時折苦い表情が一瞬だけ出てきているようにも思える。彼はそう感受していた。
この時長月は、一方で後悔もしていた。
「もしかしたら私も、心のどこかではアイツを憎みきれなかったんじゃ無いか。そう思う時がある」
『どうして最後まで、信じさせてくれなかったんですか・・・・・・ッ!』
瑞穂が放ったあの台詞。それが長月の過去―濡れ衣を着せられた事―を思い起こさせていたからだ。
その彼女だが、やはり無罪放免という訳にはいかず、愛宕達と共に本土へ連れて行かれる事が決まっている。脅されていたとは言え、味方を殺そうとした事は立派な軍規違反である。
『可能な限り、弁護はします。ですが、元通りになるのは難しいでしょう』
不知火がそう言っていたのが、せめてもの救いだろうか。
「それに関しては、自分は第三者だ。とやかく言う事は無い。ただ・・・・・・」
「ただ、なんだ?」
椅子から立ち上がり、船室の窓の外を見ながら徹心は言った。
「いずれ彼女達は、それ以上に取り返しの付かないところまで沈んでいったかも知れない。それだけは、言えると思う」
「早いか遅いか、か・・・・・・。今はそう思っておこうか。報告は以上だ、失礼するよ」
「ああ」
そう言って長月は、司令官室を後にした。永きに渡って影を落としてきた過去に、一応の決着を着けて。
――――――
船と言う物は言ってしまえば海の上を移動する建造物である。それは軍艦であっても変わりは無いのだが、一つだけ。民間の船とは違うものがあった。
カツン、カツンと金属の床を叩く硬質な音が、狭い空間に響き渡る。
第四十四戦隊の母艦、護衛艦“鞍馬”の艦内の最下層を歩くのは、任務を終えて便乗している不知火だった。
「・・・・・・!?」
不意に、何かをひっくり返したような、けたたましい音が谺する。
何事かと思って不知火が駆けつけてみると、並んでいる扉の一つが開け放たれているでは無いか。脱走者が出そうなのか、彼女は即座に警戒態勢を取り、懐のピストルを何時でも撃てるようにする。
そして、開けられた扉の影から中をのぞき込んだ。
「落ち着いてください!! 摩耶さん、落ち着いて!!」
「っるせぇっ!! 離しやがれってんだッ!! 紋章に泥を塗りやがってぇっ!!」
短めな茶髪の艦娘―摩耶が拘束衣で包まれた女に馬乗りになり、それをハチが何とか引きはがそうと格闘している。その摩耶の様子だが、明らかに激昂していた。
「何なんですか、騒々しい」
「ああ、不知火さん丁度良いところに! 手を貸してください!」
そう助けを求められたため、不知火はハチに助太刀する形で摩耶を引き剥がしにかかる。程なくして、二人がかりで外へと引っ張り出し、即座に見張りに立っていた兵士が扉を閉めて施錠した。
「まったく。何があったのか、容易に想像が付きますね・・・・・・」
「パラオ一の武闘派だと聞いていましたけど、まさかこれほどとは驚きですよ」
ハチ曰く、愛宕との面会を摩耶が求めて来たため案内したところ、いきなり殴りかかったという。
丁度二人の目線の辺りに空けられたのぞき窓から覗いて見ると、拘束衣の女―愛宕の顔には殴られた様な後が幾つも着いていた。
「摩耶さん。殴ったところで、彼女のやった事は消えません。ここは不知火に任せてはもらえませんか?」
「けどよぉ・・・・・・」
「ご安心を。少なくとも暴力には訴えませんので」
「―――! ――――!!」
未だに収まりが付かないのか、不満を口にする摩耶を説き伏せ、不知火は再び扉を開いた。
中に入ると、早速愛宕が何か言いたそうな目で彼女を見てくるが、生憎とその口には猿轡を噛ませられている。言葉を発する事は出来ず、ただ呻き声を上げるだけだ。
「さて、愛宕さん。返事はしてもしなくても結構です」
摩耶がまた殴りかからないよう注意しながら、不知火はいつものように淡々と告げる。
「ここに、貴女方の悪事の証拠が全て詰まっています。もちろん、単冠湾だけでなく、これまでの所属先でやってきた所行全ての」
そう言って彼女は、手に持っていた茶封筒を相手にちらつかせる。
「消すつもりでも無駄ですよ。一件当たり、百枚単位で写しを取ってありますし、既に一部は郵送済みです。本土に着けば、楽しい楽しい尋問の時間が待っていますので、それまで船旅をごゆるりと」
愛宕は答えない。いや、答えられない。見張りや、食事の差し入れをする兵士達を誘惑させないために、あらゆる手段で戒められているために。
だが彼女の目は、全てを物語っていた。血を分けたも同然の、姉妹艦から受けた所行と、自らを捕縛した相手からの、実質的な死刑宣告。それによって、困惑と絶望に染まりきっていたからだ。
こうして、静かに繰り広げられた悪事は白日の下に晒され、単冠湾泊地はひとまずの平穏を取り戻す事が出来た。
面会を終え、摩耶達と分かれた不知火は一人。自室で手帳を書いている。
「やりきれないものですね・・・・・・」
将兵の規律を正し、軍として健全な組織を保つ為に査察部は存在している。
憲兵隊に担ぎ込まれる前に、事態を最小限度に抑えるのが主な手段だが、艦娘の軍規違反は、ともすれば姉妹艦同士の絆を粉砕しかねない劇薬だ。
彼女自身、それによって謗りを受けた事は、十指では数え切れないほど経験してきている。
「どうせ地獄に行くのなら、居心地の良い地獄へ行きたいですね・・・・・・」
そう言って彼女は、独りごちる。その声は、波だけが聞いていた。
毎度ながら、拙作『名無しの英雄』をお読み頂きまして、ありがとうございます。作者のレイキャシールです。
唐突ですが、皆様にアンケートへのご協力をお願いしたく、この場を借りて告知させて頂きます。
現在、第五章のプロット制作に取りかかっている所ですが、その間。つまり、第四章のそれに関しては、まだ大まかにしか決まっていません。なので、皆様からのご意見を参考に、第四章を組み立てて行こうかと思っております。
詳細は活動報告に書いてありますので、もしよろしければ私のユーザーページからアクセスしてください。
また、これ以外にもご意見、ご要望などございましたら、メッセージを送って頂けると幸いです。